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5 幸せの意味は

5ー4 あなたの妻になりたい。

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   「すみませんでした・・」
    ストレージから戻したアーシェが僕に頭を下げた。
   「あいつの仕打ちに・・思わず・・」
    「ああ」
    僕は、頷いた。
    「仕方ないさ」
    ああ。
    だけど。
   僕は、すでに奴に目をつけられてしまった。
   「奴にお前のこと気づかれてしまったな」
    部屋に戻ってきたナツキ兄さんが僕にそっと言った。
   僕は、頷いた。
  ナツキ兄さんがアリーに言った。
   「ユヅキを王都に帰そう」
   「はい。すぐに手配を」
   「待って!」
    僕は、2人に言った。
   「今帰れば、ますます怪しまれる。帰るのは、実験が終わってから、だ」
   「しかし」
   渋るナツキ兄さんに僕は、にこっと微笑んだ。
   「大丈夫だよ。兄さん」
   大丈夫。
   たぶん、まだ、大丈夫、だ。
   僕は、ぎゅっと拳を握りしめた。
   今は、まだ、ひけない。
   もっと。
  もっと、王と対抗する力を手にしなくては。
   僕には、守るべきものがたくさんあるんだ。
   夜遅くにフランシスがやってきた。
  「大丈夫か?ユヅキ」
   「フランシス?」
    僕は、驚いていたけど、にっこりと微笑みを浮かべた。
   「来てくれるとは、思わなかった」
   「ああ。いつの間にか、会場から姿を消していたから、心配して来たんだぞ。体調でも悪いのか?」
   フランシスが聞いたので、僕は、答えた。
  「大丈夫。僕は、大丈夫だよ。君は?こんな時間に、こんなところに来て大丈夫なの?」
    「ああ」
   フランシスは、頷いた。
   「あなたたちのことに気を配るのが、私の仕事のうちだからな」
    フランシスと僕は、2人、部屋の外のベランダに出て話をした。
夜風に吹かれていると、少し、心が静まってきた。
   「君の兄さん・・アウデミス王は、何の力を持っているんだ?」
   僕は、きいた。
  「あの禍々しい力・・あれは、まるで・・」
   「ああ」
   フランシスは、僕の口許に指でふさいだ。
   「言ってはいけない。それは、ここでは、タブーだ」
   「しかし・・」
   僕らは、しばらく黙り込んだ。
  フランシスがやがて、口を開いた。
   「婚約・・したんだって?」
   「うん」
   僕は、肯定した。   
   「ちょっと訳ありでね」
   「・・いいな・・オルガたちが羨ましい」
   フランシスが星空を仰いでふっと寂しげに微笑した。
   「私も・・いつか、あなたの・・その・・」
   フランシスが真っ赤になって言った。
   「あなたの・・つ、妻にしてくれるか?」
   
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