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8 新しい街と新しい仲間

8ー9 許嫁ですか?

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 8ー9 許嫁ですか?

 その週は、俺は、不機嫌だった。
 もちろん週末にもそれは、変わらなくって。
 ミミアスと口もきかない俺にマスターは、心配そうに訊ねた。
 「大丈夫か?薫」
 「大丈夫に決まってるだろうが!」
 俺は、声を荒げた。
 「さっさと転移しろよ!」
 マスターは、何か言いたげな表情を浮かべたが、呪文を唱え始める。
 俺たちは、瞬き一つする間に異世界にいた。
 一週間ぶりの俺の部屋だ。
 少し誇りっぽい匂いがする。
 まったくこの部屋で俺は、暮らしたことなどなかったが、俺にとっては、まさしくここが居心地のいい自分の家だ。
 俺は、拠点を次の街へと移してもこの店は、残すつもりだった。
 ばん、と部屋のドアが開くとルゥが顔を見せた。
 「おかえりなさいませ、ご主人様」
 顔を煌めかせているルゥを見るとなぜかささくれだっていた気持ちが落ちついてきた。 
 だが、のんびりはしていられない。
 俺は、すぐに家を出てレナード商会へと出発した。
 レナード商会では、ルーナが俺を待ち構えていた。
 ルーナは、俺にしばらく貸本屋を預けることになる人物を紹介してくれた。
  それは、レナード商会の職員の若者でルドルフというちゃらそうな金髪の兄ちゃんだった。
 少し不安になっていた俺にルーナが告げた。
 「こう見えてもルドルフは、王都で1番大きな商会の三男で優秀な人物です」
 「なんでそんな人がこんな田舎の商会に?」
 俺がきくとルドルフは、恥ずかしげに頬を染めた。
 「実は、私とルーナは、幼少より親同士の決めた許嫁同士なんです」
 マジですか?
 ルドルフの言葉をきいたルーナが慌てて打ち消そうとした。
 「ほんとにただの口約束ですし。最近までほとんど忘れられていたことなんですよ!」
 そうなんだ。
 俺は、素直に頷いた。
 が、ルーナは、止まらない。
 「もし、お気に召さなければ今すぐに婚約破棄しても構いません!」
 はい?
 なぜか必死な様子のルーナに俺が少し引いてるとルドルフが口を挟んできた。
 「婚約破棄はちょっと勘弁してもらえませんか」
 ルドルフは、ルーナに向き合って真剣な表情で告げた。
 「私は、あなたと結婚したい」
 「わた、私は、それが嫌なんです!」
 ルーナがきっぱりと言い放った。
 「私は、身も心もすでにカオル様に捧げていますから!」
 ええっ?
 俺が驚いているとルーナが俺の方へと迫ってきた。
 「なんなら今すぐに結婚してもかまいません!」
 マジですか?
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