ちったいメイドさんの異世界奮闘記〜最高の片思いだけどご主人様に尽くしたい!〜

トモモト ヨシユキ

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1 嵐の夜に

1ー6 メイド

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 1ー6 メイド

 レイノルズ伯爵夫妻は、わたしをとっても大切にしてくれた。
 夫妻には、わたしと同い年の一人息子のアンドリューがいたが、みな、わたしを末の娘のように扱ってくれた。
 わたしは、こんな風に安心して毎日を暮らせることがなんだか、不思議な気持ちで。
 ただ、この頃、時々、亡くなった今生の母であるアンリエッタのことを思い出すようになった。
 幼い頃、どんな風に彼女がわたしを愛してくれていたか。
 慈しんでくれていたか。
 その記憶は、わたしの凍てついた心を徐々に溶かしてくれた。
 レイノルズ伯爵家の人々によって危険なところを救い出されたわたしは、傷ついた体も心も癒されていった。
 伯爵家で暮らすようになって半年ほどが過ぎた頃、レイノルズ伯爵夫妻からわたしに養女にならないか、というお誘いがあった。
 わたしは。
 明るくて優しいレイノルズ伯爵も実の母のようにわたしを包み込んでくれる伯爵夫人も好きだった。
 けれど。
 わたしは、伯爵家の娘になることを拒んだ。
 レイノルズ伯爵夫妻は、傷ついたような表情を浮かべていたが、わたしは、頭を振った。
 「しかし、うちの子にならないならどうやって暮らしていくつもりだね?」
 レイノルズ伯爵に問われてわたしは、答えた。
 「わたしは……メイドになろうと思います」
 「ええっ?」
 伯爵夫妻は、驚きを隠さなかった。
 「メイド、だって?」
 うん。
 レイノルズ伯爵夫妻が驚くのも無理はない。
 わたしは、メイドになるには少し若すぎる。
 というか、どこの誰が齢6歳の女の子を使用人として雇ってくれるというのか?
 「メイドになるにしても、とりあえずうちの子になってしっかりと教育を受けてから、その、王宮ででも勤めればよいのではなくて?」
 伯爵夫人が優しい笑みを浮かべる。
 「そんな、急がなくてもいいんじゃないかしら?」
 「いえ」
 わたしは、きっぱりと返事をする。
 「わたしを、今、必要としている方がおられるのです」
 「今、君を必要としている人?」
 伯爵が首を傾げる。
 「それは、どこの誰なんだい?」
 「それは」
 わたしは、応じた。
 「ラディアトール侯爵様です」
 「ラディアトール侯爵、だって?」
 レイノルズ伯爵夫妻は、顔を見合わせた。
 「いったいどうしてまた、彼のメイドになろうだなんて思ったんだね?カヅキ」
 ラディアトール侯爵は、わたしが住んでいたフランディール子爵家の謎の隣人だ。
 侯爵でありながらろくに手入れもされていない木々が生い茂る庭の奥に隠された古いお屋敷に1人で住んでいるという人物だった。
 前に何度かアニーが噂していたのをわたしも聞いたことがあった。
 なんでも当主は、魔法に秀でており王国の魔法師団の長を勤めているんだとか。
 長とは名ばかりでほぼほぼ貴族の集まる場所に姿を現すこともない。
 それでもその圧倒的な魔力量と魔法知識から『氷の侯爵』と呼ばれているんだとか。
 
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