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    俺は、高校時代の恩師に相談し、夜間高校に編入させてもらうことになった。
   これは、春名の提案だった。
   「別に、レイちゃんが、学校の先生になってもええんやろ?」
   そう言って、春名は、躊躇している俺の背中を押してくれた。
   叔父も、俺が働きながら、勉強を続けることを喜んでくれた。
   「お前は、なんでも、一人で抱え込もうとして、自分のことを疎かにしすぎる。私も、心配してたんだよ」
   叔父は、言った。
  「これも、春名先生の影響かな?」
   俺と春名は、ほぼ、同棲状態だった。晴が、俺の様子を心配してしまうぐらい、俺は、春名に夢中だった。
   生まれて初めての恋だった。
   「でも、その人、変態なんでしょ?ほんとに、大丈夫なの?」
   晴に言われて、俺は、笑って言った。
  「たぶん、大丈夫、だ」
   「なら、いいけど」
    晴は、最近、人気男優ランキングの一位に輝いたらしい。
   新作の監督は、沢村がしているらしい。
  なんでも、奴は、晴にセーラー服を着せて撮影したらしい。
   彼もまた、真性の変態だ。
    こうして、俺たち兄弟は、二人、別々の道を歩み出したわけだった。
   俺たちは、一卵性の双子だった。
   本当なら、一人の人間として生まれてくる筈だった俺たちが、こうして、分かたれたのは、きっと、運命だったのだろう。
   そして、この世界にたった二人ぼっちだと思っていた俺たちが、それぞれの愛する人に出会い、異なる人生へと踏み出していくことになった。
   これもまた、運命だったのだ。
   俺たちは、本当の意味で、お互いの人生へと旅立っていく。
   だが、いつでも、振り返れば、お互いがいるんだ。
   俺たちは、たとえ、別々の人生を選んだとしても、永遠に、兄弟であることに変わりはない。
   俺たちは、家族だ。
   二人きりだった家族が、少し、増えただけだった。
   そう、俺は、思うことにしている。
   いい日ばかりじゃないだろうけど、いつだって、俺たちには、お互いがいるんだ。
   もう一人の自分自身が。
   そして、愛する人たちも、いる。
   俺たちは、一人じゃない。
  いつだって、きっと、笑っていられる。
  俺たちなら。
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