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第6章 タイタノス

6ー8 竜の声

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 6ー8 竜の声

 わたしがラティマ先生の愛器とともに舞台にあがるとみないっせいに拍手をしてくれた。
 すごい熱気が伝わってくる。
 わたしは、頬が熱くなり胸が高鳴るのを感じていた。
 『心のままに』
 わたしは、ラティマ先生の言葉を心の中で繰り返しながら目を閉じた。
 ラティマ先生の使い込んだティンパロは、癖があって少し音が速い。
 だから。
 ちょっとゆっくり。
 わたしは、静かな湖を思い浮かべていた。
 小さな波紋が広がっていくように。
 わたしは、イメージのままに演奏した。
 音は、拡がっていき青い空へと響いて。
 どこかで竜の鳴き声が聞こえた。
 うん?
 その声は、歌っていた。
 遠い故郷の歌。
 竜の国の歌。
 あっという間に時はすぎて。
 わたしが演奏を終えるとその場は、しんと水を打ったように静まり返っていて。
 わたしが不安になってラティマ先生の方をみた時、地鳴りのような歓声があがった。
 ラティマ先生がにっこりと微笑んだ。
 わたしたちが終点の街である港町ランティアに到着して陸竜の背から降りたとき、どこからか声が聞こえてわたしは、振り返った。
 『ありがとう』

 「それは、陸竜の声に違いないわ」
 ランティアの街の宿屋に入ってからわたしが話すのをきいてマオが言った。
 「きっとフレイの声が聞こえたのよ」
 「陸竜の声が?」
 わたしが半信半疑できくと、ライナスが口を開いた。
 「それは、ありうるかもしれないよ、カイラ」
 ライナスは、話した。
 「一流の竜騎士なら竜と会話できるっていうもんな」
 竜騎士。
 それは、この世界の騎士の頂点を極めた者たちのことだ。
 彼らは、竜を駆って天空を自由自在に飛び、たった一人の主のために剣を振るう。
 全ての騎士たちの憧れ。
 「もしかしたらカイラは、竜騎士になれるのかも」
 レイナがぼそっと呟いた。
 マオが頷く。
 「なれるわよ!だってカイラにはあたしがいるから!」
 「確かにね、マオ」
 わたしは、子猫サイズのマオを抱き締めた。
 「あなたは、わたしのシルベリオだもの」
 シルベリオというのは、伝説の勇者である竜騎士の竜の名前だ。
 神話の中にでてくるその勇者は、竜と共に邪神と戦った。
 「まかせて!あたし、カイラのためなら邪神とだって戦うわ!」
 マオがえっへんと胸を張った。
 
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