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第6章 タイタノス

6ー10 ようこそ!

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 6ー10 ようこそ!

 わたしたちが入り口のゲートの辺りを歩いていると見知らぬ男の人がラティマ先生に声をかけてきた。
 「ミアス・ラティマ様でしょうか?」
 その男の人の額には、二本のねじれた赤い角がはえていた。
 男の人は、わたしたちに優雅に礼をとった。
 「お待ちしておりました。私は、この度の祭りの奏者の方々をご案内することになっているアギタス・レイギストと申します。どうぞ、よろしく」
 耳に心地よいその人の声にわたしは、聞き惚れていた。
 低い響きのいい声だ。
 ラティマ先生は、アギタスさんに礼をとるとにっこりと微笑んだ。
 「世界的に有名な歌唄いであるレイギスト様にお会いできるなんて光栄ですわ」
 「そんなたいしたものではありませんよ」
 アギタスさんは、謙遜して見せた。
 わたしたちは、アギタスさんの案内でタイタノスの街をめぐる水路に浮かぶ小舟に乗り込んだ。
 「このタイタノスでは、主な移動方法は、このブランカと呼ばれる小舟が使われます」
 アギタスさんが話してくれた。
 わたしたちが小舟でしばらく進むと船頭さんは、水路の脇の船着き場へと小舟をつけた。
 「ここがみなさんの滞在中の宿になる『ハク・ドリトス』です」
 アギタスさんは、先に船を降りるとわたしたちに手を貸してくれた。
 アギタスさんの手のひらにはヒレがあった。
 驚いているわたしにアギタスさんは、にっこりと微笑んだ。
 「セイレーンに会うのは初めてですか?」
 頷いたわたしにアギタスさんは、少し悲しげな表情を浮かべた。
 「セイレーンの生き残りは、今では珍しいですからね。特に、あなたがたにとっては、ね」
 うん?
 わたしは、ラティマ先生の方をちらっと伺った。
 ラティマ先生が複雑そうな顔をしている。
 アギタスさんは、船頭さんにわたしたちの荷物を宿へと運ぶように指示を出すとわたしたちをつれて宿の中へと入っていった。
 その『ハク・ドリトス』は、赤いレンガの建物の多いタイタノスの街では珍しく白い壁色の宿屋だった。
 「ここは、わたしの一族の経営する宿屋です。みなさん、ゆっくりと過ごしていただけたら嬉しいです」
 アギタスさんは、わたしたちを建物の最上階にあるすごく立派な真っ白な部屋へと通すと部屋の窓を開け放った。
 「わぁっ!すごい!」
 レイナが歓声をあげて窓へと駆け寄った。
 そこからは、街が一望できた。
 真っ赤なレンガの街の所々に白い建物が見える。
 街の中にはいくつもの水路が流れていて水音が涼しげだ。
 「みなさん、浮遊都市タイタノスにようこそ」
 アギタスさんが微笑んだ。
 
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