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第9章 スタンピード

9ー2 戦い

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 9ー2 戦い

 「これは・・」
 ルシーディア様が立ち上がって遠くの空を見上げた。
 上空が暗くなるほどに鳥たちが逃げ惑う姿が見える。
 「もしかして、スタンピード、か?」
 「そんなまさか!」
 セシリア様が立ち上がって魔道師の持つ杖をかまえた。
 「私たちがダンジョン演習をしている期間にそんなことが起こるわけがないでしょう?」
 ここは、サリタニア王立魔法学園内にあるダンジョンだ。
 常に学園の管理下に置かれているこのダンジョンで予期せぬ事態が起こりうる筈は、なかった。
 「だけど!」
 わたしは、叫んだ。
 「実際に今!こうして何かが起きてるんです!みんな、逃げてください!」
 周囲にいた他のパーティの人々が慌てて逃げ出すのをわたしは、横目に見ていた。
 でも。
 セシリア様がにっと笑った。
 「かわいい後輩を置いて逃げるわけにはいかないでしょ!」
 「そうだね」
 エラード様が剣を抜いてかまえる。
 「もし、ほんとにスタンピードならもう、逃げられないかもしれないな」
 レイナとライナスが息を飲むのがわかった。
 「君たちは、ここから脱出して学園にこのことを伝えてくれないか、レイナ、ライナス」
 ルシーディア様が二人に告げた。
 「私たちは、ここでできるだけ食い止めてみせる。だから、早く行って!」
 「で、でもっ!」
 躊躇している二人にルシーディア様が声をあらげた。
 「行くんだ!早く!」
 レイナとライナスが駆け出すのを確認してからルシーディア様が叫んだ。
 「来るぞ!みな、死ぬな!」
 「わかってます!ルシーディア様!」
 エラード様がそう答えたとき、遠くから魔物の大群の影が押し寄せてくるのが見えた。
 先頭の魔物を見てルシーディア様がにっと笑った。
 「みな、武運を祈る!」
 わたしたちは、みな、頷いた。
 まず、わたしとエラード様が飛び出す。
 エラード様が牙をむいて飛びかかってくるマッドボアを切り伏せる。
 その脇からわたしは、構えたオニタリスの剣を横に薙いだ。
 剣から発せられた炎の刃が辺りを焼き払う。
 瞬間にわたしたちの方へと迫っていた魔物の一団が燃え尽きる。
 エラード様が感嘆の声を漏らした。
 「すさまじい威力だな!カイラ」
 「次が来ます!」
 わたしが叫ぶとエラード様が口許に微笑みを浮かべた。
 「君が味方なら負ける気がしないな!」
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