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第9章 スタンピード

9ー6 愛しただけなのに

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 9ー6 愛しただけなのに

 ルイーズは、この前の長期休暇で養親のもとへと戻ったとき、一人の貴族と出会ったのだという。
 これは、本人からの話ではなく、騎士団の調べでわかったことだ。
 その貴族が誰だったのかはわからない。
 だが、お忍びで領地にやってきていたというその人物と恋に堕ちたルイーズは、おそらくその人物に騙されて隷属の魔法をかけられたのだと思われた。
 「あなたは、誰と出会ったの?ルイーズ」
 わたしが訊ねるとルイーズが唇を噛んだ。
 答えられないのだろう。
 なおもわたしが問いかけようとしているとルイーズの脇で彼女の警備をしている騎士がわたしに告げた。
 「もう、行きなさい。これ以上は、認められない」
 わたしは、騎士に頷くと、最後にそっとルイーズに小さな皮の袋を手渡した。
 その中には、金貨が何枚かとわたしが手に入れられたいくつかの宝石が入っていた。
 これが、少しは彼女のためになればいい。
 わたしは、そのままルイーズに背をむけると立ち去ろうとした。
 「何がいけなかったっていうの?」
 ルイーズが涙混じりに呟いた。
 「あたしは・・あたしは、ただ、愛しただけなのに」
 ルイーズの嗚咽を聞きながらわたしは、そこから歩み去った。
 
 「ルイーズが会っていた相手は、おそらくランタスタ伯爵だろうと思われる」
 ルシーディア様がわたしに話された。
 わたしは、生徒会の部屋に呼び出されていた。
 「ランタスタ伯爵?」
 わたしが問うとエラード様が説明してくれた。
 「マルセロ・ランタスタ伯爵は、希代の放蕩者だよ。おそらく金に困ったランタスタ伯爵が何者かに命じられてルイーズに近づいたんだろうね」
 「その人は、今、どこに?」
 わたしは、エラード様に訊ねた。
 もしかしたら、その人ならルイーズのことを弁護してくれるかも。
 だけど。
 セシリア様が言いにくそうに話した。
 「マルセロ・ランタスタ伯爵は、行方不明で見つからないのよ」
 行方不明?
 わたしが問いたげにセシリア様を見つめると彼女は、困ったようにため息をついた。
 「今、近衛が彼のことを探しているのだけれど。たぶん、無事には見つからないでしょうね」
 
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