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第1章 奈落へ

1ー15 取り引き

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 1ー15 取り引き

 「専属騎士?」
 そう言われて俺は、チヒロがどこぞの国の王族であることを思い出した。
 確かに王族は、今のチヒロぐらいの年頃に自分の専属騎士を持つものだが今のチヒロにそんなものが必要か?
 「なんでまた?」
 「当然だろう。チヒロは、将来、シュタウト帝国の王となる者なのだからね」
 はい?
 俺は、蛇の言葉に唖然としていた。
 あのチヒロが帝国の王位につくだって?
 考えられない!
 あの、ほとんど浮浪児みたいなチヒロが?
 「百歩譲ってだな、チヒロに騎士が必要だとしてもなんで俺なんだ?」
 俺の問いに蛇は、答えた。
 「君ほどその任務に相応しい者はいないからさ」
 うん。
 確かに俺は、他国とはいえ伯爵家の嫡男だ。
 王の騎士に不足はないだろう。
 だが。
 「なぜ、俺が相応しいと思う?俺は、もうただの龍人にすぎない。 外の世界では、もう、なんの地位も権力もない」
 「いや。君は、そんなものなくたってチヒロの騎士となるのに相応しい」
 蛇が語った。
 「なぜなら、君は、強い。そして、この世の誰よりもチヒロを必要としている」
  まあ。
 俺は、頷いた。
 そう言われたら言い返せない。
 蛇は、俺に向かってにぃっと笑うように目を細める。
 「もちろん、ただでとはいわない。君には、チヒロを守るのに相応しい地位と財産を与えよう。そして」
 蛇が俺を見つめた。
 「何より君が望むものを」
 俺は、蛇から目が離せなかった。
 「そう。君にかけられた竜化の魔法の解呪を約束しよう」
 竜化の魔法の解呪
 俺は、息を飲んだ。
 確かにそれは、俺がもっとも望んでいるものだ。
 「いい加減なことを言うな!」
 俺は、立ち上がると蛇を睨み付けた。
 蛇は、にぃっと裂けた大きな口を開けて笑った。
 「本当のことだ。君にかけられた魔法を解いてあげよう」
 嘘、だ。
 俺の頭の中で警報がなっていた。
 こいつらに騙されてはいけない!
 マジックキャンセラーであるチヒロですら完全に解くことができないこの竜化の魔法を?
 こいつが解呪できるって?
 蛇は、俺に向かって甘く囁く。
 「できる。だが、そのためにはチヒロの成長を促す必要がある。マジックキャンセラーとしての力を育てなくてはいけないのだ」
 マジか。
 俺は、蛇に訊ねた。
 「育てるって、いったいどうやって?」
 「もちろん、学舎で学んでもらうのさ」
 チヒロを魔法学園に通わせるっていうのか?
 「いったい、どこの学園がチヒロを受け入れてくれるっていうんだ?」
 俺がきくと蛇がシュウシュウと笑った。
 「チヒロが学園に入学するんじゃない。学園に入学するのは、君、だ」
 なんですと?
 
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