魔王に転生したら、イケメンたちから溺愛されてます

トモモト ヨシユキ

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8 最強の魔王って、誰のことですか?

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    イグドールに抱かれた俺は、気がつくと大理石のような石で造られた豪勢な広間の中央にいた。
    「ええっ?」
    さっきまで、俺たちは、真っ暗な廃屋の中にいた筈なのに。
    仄かな明かりに照らされたその広間は、ルファスのダンジョンにあった玉座の間に似ていた。
   イグドールは、無言で俺を抱いたまま歩き出した。
   「おかえりなさいませ、魔王様」
    同じような顔をした金髪の美男子たちがどこからともなく現れてイグドールに対して礼をとった。
   イグドールは、ただ頷くと、俺を抱いて奥へと向かった。
   長いピカピカに磨きあげられた廊下の先に、両開きの扉があった。
    俺を抱いたイグドールが近づくと、付き従っている美青年たちがすばやく扉を開いた。
   「湯を使う」
    イグドールがそれだけ言うと、俺をバスルームへと連れていった。
   バスルームは、広くて、清潔で、お湯の匂いがしていた。10畳ほどの部屋の中央に大きな円形の風呂があって、中は、ジェットバスみたいにブクブクと泡立っていた。
    イグドールは、俺をそっとシャワーの下へと下ろした。
   俺は、暖かな床の上に降り立つと、イグドールの方を見上げた。
   彼は、やっぱり無言で、俺の体を洗い始めた。
   「じ、自分で洗えるよ」
     俺は言ったが、イグドールは、無視するかのように俺を泡だらけにすると、シャワーで洗い流し、再び、抱き上げるとお湯の中へと導いた。
    お湯は、少し熱かったけど、心地よかった。
   俺は、イグドールの視線から逃れられて、ホッと吐息を漏らしていた。
       だが、イグドールは、俺が湯に浸かっている横で服を脱ぎ出すと、風呂の中へと入ってきた。
    「ルファス、来い」
     はい?
   俺は、イグドールに呼ばれたが離れたまま、彼のことを窺っていた。
   「来いと言っている」
    イグドールは、俺の腕を掴むと無理矢理俺を引き寄せた。
   俺は、風呂の中でイグドールの膝の上に抱き上げられていた。
    ええっ?
   俺がどぎまぎしているとイグドールは、俺の耳元で囁いた。
   「この美しい肉体を、あんな下賤の者たちに触れさせるとは、許しがたい」
   「んぅっ!」
    俺は、ぞくぞくして、思わずびくん、と体を跳ねさせた。イグドールの手が、指が、俺の体を確かめるかのように這っていく。
   「どこにも傷はついていないな?」
    「あっ!・・だ、大丈夫、だから・・」
    俺がイグドールの手を拒絶すると、彼は、俺の首元を舌先でペロリと舐めた。
   「ひぅっ!」
  「本当に、つれない奴だな。お前という奴は」
    イグドールが俺の中心へと触れてきたので、俺は、両手でそこをガードした。すると、イグドールは、俺の両手を捕らえてにやりと笑った。
   「なんだ?その初々しさは。お前らしくもないが、なかなか、面白い」
    お、俺らしいって、何?
   俺は、頭がぐらぐらしていた。
   このままじゃ、俺、ヤバいって!
   俺は、必死に訴えた。
   「お、俺、本当に、ルファスじゃないんです。俺は、異世界から来た竹内  ハジメ、です。ルファスと体が入れ替わっているんです。信じてください!」
    「何を言っている?」
    イグドールは、俺の胸の頂をぴん、と指先で弾いた。
   「あぅっ!」
    「お前は、欲望の魔王 ルファスだろうが。他の何者でもない」
    イグドールは、俺の耳朶を甘く噛んだ。
   「いづれ来る戦いの刻に最弱の魔王であるお前を守る者は、私の他にいないのだからな。せいぜい、私の機嫌を取っておくことだ」
     「・・戦いの刻?」
    「そうだ。我ら、10人の兄弟がただ1つの王の座を争って戦うその時に備えて、私は、お前をこの懐へと入れておくために迎えに行ったのだ。感謝することだな、ルファス」
    えっと・・
   俺は、熱くゆだってくる頭で懸命に考えていた。
   要するに、戦いになれば助けてやるから言うことをきけってことかな?
    なんだ。
   俺は、くすっと笑ってしまった。
   ルファスだって俺と同じじゃないか。
   侑真がいないとダメだった俺と同じ。
   「何がおかしい?」
    「ルファスは」
    俺は、言った。
    「あなたがいないとダメなんだ?」
    「そんなわけがあるか!」
    えっ?
   湯気の向こう側に俺の本体が見えるよな気がして、俺は、目を擦った。
   そんなこと、あるわけが。
  そうなって欲しいからって、幻を見てるのかな?
   俺は、もう一度、自分の姿を凝視した。
  「兄上、私は、言ったはずです。もう、あなたとは寝ないって」
    はい?
    俺は、だんだんと意識が遠退いていくのを感じていた。
   この人たち、確か、兄弟じゃなかったっけ?
   「お前は、誰だ?」
    イグドールが聞いたとき、俺は、目の前が暗くなった。

        俺は、上空からみんなのことを見ていた。
   「ルファス!しっかりしろ!」
    イグドールが風呂の中で溺れかけているルファスの体を抱き上げて風呂場の床の上に横たわらせる。
    俺の本体は、そんな2人を黙って見守っている。
   あっ!
   と思ったら、眼鏡が曇ってる!
   「ルファス!」
    イグドールがルファスの頬をピシャピシャと叩く音が聞こえる。
   ああ。
   心配そうで、必死な、イグドールの姿を見て、俺は、思っていた。
   この人は、ルファスのことが本当に好きなんだ。
   「そう。妄執の魔王は、欲望の魔王のことを愛している」
   えっ?
   俺は、空中で後ろを振り向いた。
  そこは、見知らぬ場所だった。
  白い空間の中に、白い玉座が浮かんでいた。
   その玉座には、白髪の少年が腰かけていた。
   誰?
   「私は、この世界の光と対をなす闇の神  グラディナード」
   闇の神?
  「邪神とも呼ばれている」
   ええっ?
   俺は、少年をまじまじと見つめてしまった。
   もしかして、魔王たちのお父さん?
   「そうだ」
   少年は、冷たい、凍えるような青い瞳を俺に向けていた。
   「そして、お前を召喚した者、でもある」
   マジで?
   ということは、この人が俺とルファスの魂を入れ換えたのか?
    「そうだ。私がお前たちを入れ換えたのだ」
   なんで、そんなことを?
   俺がきくと、グラディナードは、にぃっと笑った。
   「この世界の均衡を保つためには、より強い魔王が必要だったからだ」
   はい?
   俺は、まったく意味が理解できなかった。
   どういうこと?
   「この世界  アルシャザードは、光の神  ラギと闇の神である、私、グラディナードによって保たれている。だが、このところ、人間たちの光を望む願いが強すぎて光と闇のバランスが崩れかけているのだ。その上、人間たちが、勇者など召喚してしまった。このままでは、バランスが保てず、世界は、崩壊してしまう。だから、私は、より強い魔王を創ろうとしたのだ」
    はい?
   俺は、まだ、よくわからなくて、小首を傾げた。
   なんで、より強い魔王が必要だからって、俺とルファスを入れ換えたんだ?
   「つまり、だ。ルファスの肉体とお前の精神を持つ魔王は、最強なのだよ」
   最強?
  「そうだ」
   グラディナードは、にやっと笑った。
   「というわけで、君は、10人目の魔王としてルファスに代わって戦いの刻に参加するように。ちなみに、君に拒否権はない」
       そんな!
   俺は、抗議した。
   無茶苦茶だ!
   俺は、涙目になっていた。
   俺、もとの体に戻れないのかな?
   「ああ?」
   グラディナードは、しれっとして言った。
   「もう、もとの体には戻れないな。これは、異世界からの召喚のエネルギーを利用して、私が行ったことだ。異世界とのエネルギーの差を利用して、ルファスの魂を弾き出して、そこに君の魂を入れたんだ。これをもう一度行うには、もう一度、同じ異世界からの召喚をする必要かある。だから、絶対に無理なんだよ」
   ということは?
   俺は、恐る恐るきいた。
   グラディナードは、屈託のない笑みを浮かべた。
   「君は、もう、もとの世界に戻ることはできないし、もとの体に戻ることもできない」
   マジか!
   愕然とする俺に、グラディナードは、にこやかに言った。
   「じゃあ、がんばって、生き残ってね。私は、君の勝利を祈ってるよ、ハジメ」
   
    「んっ・・」
    「気がついたか?ハジメ」
     心配そうに覗き込んでいる侑真の顔が見えて、俺は、ホッとしていた。
   なんだ。
  俺は、安心していた。
    やっぱり、全部、夢だったんじゃないか。異世界召喚も、何もかも、夢だったんだ。
   「んなわけが、あるか」
    侑真の後ろからひょこっと俺が顔を出した。
   「ぎやあぁあぁあっ!」
    ベッドの上に起き上がって、俺は、荒い呼吸を繰り返した。
   夢じゃない!
   俺、このままじゃ、魔王同士の戦いに参加しなくちゃいけないの?
   俺は、頭を振った。
   無理、だ。
   俺には、無理!
   しかも、もう、もとの体には戻れないって?
   どうすれば、いいんだよ!
   俺は、俺の体に入ったルファスの方を見た。
   ルファスは、ニヤリと笑っていた。
   「なんか、知らんが」
   俺たちを離れて見ていたらしいイグドールが俺にきいた。
   「戦いの刻まで、あと1ヶ月だ。その間に、お前は、どちらかを選ぶことになる」
   「どちらか?」
    「私のもとで一生、私の性奴として生きるか、それとも」
    イグドールは、言った。
   「戦うか、だ」
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