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10 ケーキと同盟の甘い関係?
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俺とヴィスコンティは、転送の魔法を使って国の最果てにあるとある街へと来ていた。
グランの街。
かつては、街道沿いの街として栄えていたのだが、数年前に魔物の襲撃にあい、一度は、滅びかけたような貧しい街だ。
毎年、子供を売らなくては、皆が生き残っていけないような街だった。
俺たちは、そこの街を訪れると街の長の家に向かった。
グランの長は、うらびれた初老の男だった。
「俺は、欲望の魔王 ルファス、だ」
俺は、グランの長にできるだけ偉そうに言った。
「この街は、今日、たった今から、俺の支配下に入る」
初老の長は、慌てる様子もなく、ただ、疲れはてた様に溜め息をついた。俺は、かまわずに続けた。
「この街を、これから俺のダンジョンのある地へと移す。少し、揺れるかもしれないが、心配することはない」
「はぁ・・」
俺は、覇気のないグランの長の前で目を閉じて、この街のことをスキャンした。
半径10㎞ぐらいの円を思い浮かべると。俺は、集中して、念じた。
この街を、切り取り、ルファスのダンジョンのある場所へと移動させる。
ぐらり、と足元が揺れ、長が悲鳴をあげて、しゃがみこむ。
ヴィスコンティが、無防備になっている俺の体を支えてくれた。
その揺れは、数十分の間続いた。
そして。
揺れがおさまると、街は、『魔王の杜』ダンジョンの入り口に移動していた。
「な、何が、起きているんだ?」
グランの長が呟くように言ったのをきいて、俺は、答えてやった。
「言った筈だ。これから、この街は、俺の支配下に入る、と。お前は、街の連中に説明してやるように。わかったか?」
俺たちの目の前で、街にオークの兵たちがなだれ込んで来る。
「お、おしまいだ」
グランの長がへたり込んで、絶望して呟いた。
「この街は、もう、終わりだ」
それから一週間後。
街は、すっかり生まれ変わっていた。
『魔王の杜』ダンジョンへと通じるメインストリートには、何軒もの商店やカフェ、レストラン、宿屋が建ち並び、街のあちらこちらには、俺が創造した異世界の花々が咲き乱れていた。
通りの中心辺りにある、俺が開いたポーション屋で働くことになった町娘サラちゃん、15才は、言った。
「最初、魔王様の支配下に入ったときいたときは、みんな、もうダメだって思ったけど、皆さん、いい方ばかりで。あたしたちの街が苦しんでるのに見て見ぬふりをしてた国王様たちより、魔王様たちの方がずっと、いいです」
サラちゃんは、そばかすの浮いた頬を少し赤く染めて微笑んだ。
「今は、みんな、目的を持って、夢中で働いてます。すべて、魔王様のおかげです。ありがとうございます」
俺は、威厳を保つために、なんでもないという顔をして言った。
「そうか、今後も、その調子で励むがいい」
さらに一週間後。
俺たちは、近くの街までの乗り合い魔導車の運行を始めた。
最初は、このダンジョンの街となったグランの特産品であるレース編みの衣料品とか、街で新しく生産を始めた異世界の野菜や果物、花などやら、俺が夜なべして造ったポーションとかを持って行商に出てもらった。
行商に行かせた街の人々の護衛は、イオルグと侑真に頼んだ。
近隣の街では、ここの商品は、どれも目当たらしくて、品もよかったので、どれもこれも高値で売れたから、街は、一気に潤っていった。
それにともない、乗り合い魔導車にのって街を訪れる人々もチラホラと現れた。
最初の訪問者たちは、各ギルドの使者たちだった。
俺たちは、彼らを街をあげてもてなした。
幾つかの商談などもまとまったりして、なかなか、いい結果をもたらしてくれたし、俺たちも、訪問者たちも、みな、満足できる結果を残して、彼らは、それぞれの街へと帰っていった。
こうして、2週間が過ぎる頃には、グランの街と『魔王の杜』ダンジョンは、『癒し』を与える夢の街として人々に知られていった。
3週間目が過ぎる頃。
俺は、スライムをテイムして、『知恵の実』を与えてみた。
『知恵の実』というのは、俺が、ダンジョンの最深部に作った研究室で試しに育てている果物で、食べたものの知能や身体能力を高める力を持つものだ。
これを与えられたスライムは、進化して言語を話すようになった。
俺は、ヴィスコンティや侑真たちと一緒に森や草原に行って、いろんな生き物をテイムしては、『知恵の実』を与えてみた。
結果、賢くって、可愛らしい使い魔たちがどんどん増えていった。
そういった連中をダンジョンへと連れ帰り、俺は、ダンジョンの2層目にサファリパークを作ることにした。
「ポチ、いいか?お前は、このフロアのリーダーだ。みんなをまとめていってくれ」
「わかりました、ハジメ」
ポチがわぅっと一声、鳴いた。
「ここは、私にお任せください」
ダンジョンの2層目のサファリパークは、魔導車で移動しながら自然の状態で暮らす魔物たちを観察したり、モフモフと触れ合ったりできるようになっていた。
すべての魔物は、俺がテイムして『知恵の実』を与えた子達だった。
ルファスとポチに、ここは、任せてみたが、なかなか、ちゃんと管理できている様子で、俺は、少し、安心していた。
4週目が過ぎる頃には、街は、物見だかい冒険者や、旅人たちで溢れるようになっていた。
それは、ヴィスコンティのおかげでもあった。
実は、かつて、王国の騎士団の一員っだったというヴィスコンティが騎士団時代の友人たちに手紙を書いたらしいのだが、その結果、王国の騎士団のみなさんが偵察を兼ねて、保養目的でこの街を訪れたのだ。
彼らは、ヴィスコンティと旧交を深めたり、温泉で休養したり、古傷を癒すマッサージやらポーションやらを試したりして、短い逗留ながらも楽しんで帰っていった。
その口コミの宣伝効果はでかかった。
一気に、街を訪れる人々は、増えていった。
それにともない新しい住人たちも増えていった。
そういった移住者たちは、貴重な労働力であり、人材であった。
ダンジョンの前には、市場ができていた。
ダンジョン土産の温泉まんじゅうやら、クッキーの詰め合わせやらが売られ、面白い言葉の書かれたTシャツやら、木刀やらも商品として並んでいた。
また、肩凝りや、腰痛にきくポーションやらを売る屋台も出ていた。
こういったものは、やはり、俺が夜なべして作ったもので品質は、間違いなかった。
俺は、創造の力で街を取り囲むように巨大な壁を創り、そこにオークの兵を配置した。
最初、人々は、オークの兵に驚いていたが、だんだんとそれは、受け入れられていき、この街は、魔物と人間が共に住む街として知られていった。
国の内外から獣人たちが移り住んで来るようになった。
この街の象徴ともいえるアイドルグループ『ビスマルク』のメンバーである女の子たちの何人かは、こういった獣人たちから選ばれていた。
『ビスマルク』は、ビザークのデザインしたゴスロリ衣装で身を固めた24人の美少女たちのグループだった。
彼女らの歌や躍りは、人気を呼び、一部の冒険者たちの間では、戦乙女とも呼ばれるようになっていた。
というのは、メンバーに選ばれるには、外見がかわいいだけでは、だめだったからだった。
彼女らは、戦乙女の名の通り、非常に戦闘能力も高かったのだ。
ビザークいわく、
「真の乙女は、愛する者のために戦えなくてはならない」
のだそうだ。
こうして、1ヶ月が過ぎていった。
戦いの刻が始まろうとしていた。
俺は、その日の早朝に、みんなを集めて話した。
「みんな、この1ヶ月の間、よくがんばってくれた。心から礼を言う。ありがとう」
「いや、なかなか面白かった」
イオルグが笑った。
「俺たちの懐も潤ってるしな。だけど、これが、なんの役にたつのかは、わからねぇけどな」
「本当に」
ビザークも言った。
「こんなことが戦いの上で、なんの役にたつというのか、まったく、わからん」
「俺たちの戦いは、俺たちのやり方で戦うんだ」
俺は、みんなに話した。
「俺たちは、確かに、他の魔王たちにかなわないかもしれないけど、それは、やつらの方法で戦うときのことだ。俺たちの方法で戦えば俺たちだって勝ち目はある」
「俺たちの方法って、なんだよ?」
イオルグがきくので、俺は、にやっと笑った。
「忘れたのか?俺は、ルファスは、欲望の魔王であり、俺は、どんな望みも叶える力を持ってるんだぞ」
こうして、俺たちの戦いの刻が始まろうとしていた。
その場を解散して、ホッと息をついている俺を見つめて、ヴィスコンティがふっと微笑んだ。
「どうしたの?ヴィスコンティ」
「いえ」
ヴィスコンティが俺に言った。
「本当なら、あなたは、どの魔王より強い力を持っているのに、こんな手の込んだことをするのは、あなたは、本当は、誰とも戦いたくないからじゃないかと思って」
うん。
俺は、じっとヴィスコンティのことを見つめた。
やっぱり、こいつには、隠せないか。
俺が、この世界に来たときからずっと、側にいてくれてるんだもんな。
「俺は、光とか闇とか、そういうのわからないんだけど、やっぱり兄弟で戦うってのは、いただけないと思うんだよ」
俺は、ヴィスコンティを上目使いに見上げて言った。
「やっぱり、みんなが幸せになって欲しいんだ」
「あなたは、優しい魔王ですね」
ヴィスコンティが微笑みを浮かべた。
「どんな最後が訪れるのであれ、私は、あなたとご一緒します。だから、安心して、あなたの戦いを戦ってください、ハジメ」
その日。
街の門を最初に潜ったのは、妄執の魔王 イグドールだった。
俺は、イグドールを出迎えた。
「ようこそ、『魔王の杜』ダンジョンへ」
「驚いたな。わずか1ヶ月でこんな街を作り上げるとは」
イグドールが言ったので、俺は、ニッコリと微笑みを浮かべた。
当然だ。
この1ヶ月、俺は、俺たちは、必死でやった。
なぜなら、俺の力を示さなくては、他の魔王たち、というか、イグドールの餌食にされるからだ。
俺は、一生をダンジョンに閉じ込められて、こいつにあんなことやらこんなことやらされて生きていくのは、嫌だ!
だから、頑張ったんだよ!
早朝の街は、まだ、あまり人出もなかった。
俺とイグドールは、黙って歩き始めた。
ダンジョンまでは、少し、距離があったけど、俺は、イグドールにこの街を見せつけるためにわざわざ徒歩で進んだ。
イグドールは、無言だったが、あきらかに、この街に興味を持った様子だった。
やがて、ダンジョンの入り口へと到着すると、俺は、イグドールをダンジョンの最深部にある俺の部屋へと招いた。
ソファに座って向き合った 俺たちに、すぅっとヴィスコンティがお茶のカップを差し出した。
白い陶磁器のカップに入ったお茶を見て、イグドールは、言った。
「美しい茶器だな。これは、この街のものか?」
「これは、俺が創りました。俺の故郷のものをもしたものです」
ヴィスコンティは、俺たちに茶菓子をすすめた。
黒い円形の小さな飾りのないケーキだった。
イグドールがフォークでそのケーキを割ると、中からトロリとした黒いものが流れだし、甘い香りが漂った。
「なんだ?この食べ物は?」
「異世界の食べ物で、フォンダンショコラといいます。中に入っているものは、チョコレートという甘い食べ物を溶かしたものです。これは、少し、甘さ控えめにしてあります。イグドールさんの口にあえばいいのですが」
「ふん」
フォンダンショコラを一口食べたイグドールの動きが一瞬、止まった。
えっ?
その場の空気が一気にはりつめる。
俺は、心臓が壊れそうなぐらい、どきどきしていた。
こういうの嫌いじゃないよね?
ルファスからイグドールの好きな食べ物のことは、きいていた。
イグドールは、こう見えてけっこう、スウィーツ男子なのだった。
「うまい!」
イグドールは、ケーキをあっという間に平らげた。
「これも、お前が作ったのか?ハジメ」
「はい」
俺は、頷いた。
うん。
嘘は、言ってないよね。
俺は、ニッコリと微笑んだ。
創造の力で出したものだから、俺が作ったといってもいい筈。
「やはり、私の考えは、間違ってはいない」
イグドールは、俺の手をとって言った。
「お前こそ、俺の嫁となるべき者だ」
はい?
俺は、イグドールに手を握られて硬直していた。
俺たち、こんなことしている場合じゃないんじゃないの?
「えっと・・すみません、イグドールさん」
俺は、躊躇いながら言った。
「俺は、異世界から来た者ですから、この世界の常識にはうとくって。その、男同士で、ていうのは、まだ、ちょっと、その、受け入れられないんです」
「そうか。別に、かまわん。私は、お前の心が決まるまでいくらでも待つ」
イグドールは、俺を射るような目で見つめた。
「同盟を結ぼうじゃないか、ルファス、いや、ハジメ」
「同盟?」
「ああ」
イグドールが頷いた。
「この戦いの刻を乗り越えるために、我々は、共闘するのだ」
うん。
俺は、イグドールに握られた手を握り返した。
「いいでしょう。イグドールさん。我々は、同盟を結び、共に戦いましょう」
グランの街。
かつては、街道沿いの街として栄えていたのだが、数年前に魔物の襲撃にあい、一度は、滅びかけたような貧しい街だ。
毎年、子供を売らなくては、皆が生き残っていけないような街だった。
俺たちは、そこの街を訪れると街の長の家に向かった。
グランの長は、うらびれた初老の男だった。
「俺は、欲望の魔王 ルファス、だ」
俺は、グランの長にできるだけ偉そうに言った。
「この街は、今日、たった今から、俺の支配下に入る」
初老の長は、慌てる様子もなく、ただ、疲れはてた様に溜め息をついた。俺は、かまわずに続けた。
「この街を、これから俺のダンジョンのある地へと移す。少し、揺れるかもしれないが、心配することはない」
「はぁ・・」
俺は、覇気のないグランの長の前で目を閉じて、この街のことをスキャンした。
半径10㎞ぐらいの円を思い浮かべると。俺は、集中して、念じた。
この街を、切り取り、ルファスのダンジョンのある場所へと移動させる。
ぐらり、と足元が揺れ、長が悲鳴をあげて、しゃがみこむ。
ヴィスコンティが、無防備になっている俺の体を支えてくれた。
その揺れは、数十分の間続いた。
そして。
揺れがおさまると、街は、『魔王の杜』ダンジョンの入り口に移動していた。
「な、何が、起きているんだ?」
グランの長が呟くように言ったのをきいて、俺は、答えてやった。
「言った筈だ。これから、この街は、俺の支配下に入る、と。お前は、街の連中に説明してやるように。わかったか?」
俺たちの目の前で、街にオークの兵たちがなだれ込んで来る。
「お、おしまいだ」
グランの長がへたり込んで、絶望して呟いた。
「この街は、もう、終わりだ」
それから一週間後。
街は、すっかり生まれ変わっていた。
『魔王の杜』ダンジョンへと通じるメインストリートには、何軒もの商店やカフェ、レストラン、宿屋が建ち並び、街のあちらこちらには、俺が創造した異世界の花々が咲き乱れていた。
通りの中心辺りにある、俺が開いたポーション屋で働くことになった町娘サラちゃん、15才は、言った。
「最初、魔王様の支配下に入ったときいたときは、みんな、もうダメだって思ったけど、皆さん、いい方ばかりで。あたしたちの街が苦しんでるのに見て見ぬふりをしてた国王様たちより、魔王様たちの方がずっと、いいです」
サラちゃんは、そばかすの浮いた頬を少し赤く染めて微笑んだ。
「今は、みんな、目的を持って、夢中で働いてます。すべて、魔王様のおかげです。ありがとうございます」
俺は、威厳を保つために、なんでもないという顔をして言った。
「そうか、今後も、その調子で励むがいい」
さらに一週間後。
俺たちは、近くの街までの乗り合い魔導車の運行を始めた。
最初は、このダンジョンの街となったグランの特産品であるレース編みの衣料品とか、街で新しく生産を始めた異世界の野菜や果物、花などやら、俺が夜なべして造ったポーションとかを持って行商に出てもらった。
行商に行かせた街の人々の護衛は、イオルグと侑真に頼んだ。
近隣の街では、ここの商品は、どれも目当たらしくて、品もよかったので、どれもこれも高値で売れたから、街は、一気に潤っていった。
それにともない、乗り合い魔導車にのって街を訪れる人々もチラホラと現れた。
最初の訪問者たちは、各ギルドの使者たちだった。
俺たちは、彼らを街をあげてもてなした。
幾つかの商談などもまとまったりして、なかなか、いい結果をもたらしてくれたし、俺たちも、訪問者たちも、みな、満足できる結果を残して、彼らは、それぞれの街へと帰っていった。
こうして、2週間が過ぎる頃には、グランの街と『魔王の杜』ダンジョンは、『癒し』を与える夢の街として人々に知られていった。
3週間目が過ぎる頃。
俺は、スライムをテイムして、『知恵の実』を与えてみた。
『知恵の実』というのは、俺が、ダンジョンの最深部に作った研究室で試しに育てている果物で、食べたものの知能や身体能力を高める力を持つものだ。
これを与えられたスライムは、進化して言語を話すようになった。
俺は、ヴィスコンティや侑真たちと一緒に森や草原に行って、いろんな生き物をテイムしては、『知恵の実』を与えてみた。
結果、賢くって、可愛らしい使い魔たちがどんどん増えていった。
そういった連中をダンジョンへと連れ帰り、俺は、ダンジョンの2層目にサファリパークを作ることにした。
「ポチ、いいか?お前は、このフロアのリーダーだ。みんなをまとめていってくれ」
「わかりました、ハジメ」
ポチがわぅっと一声、鳴いた。
「ここは、私にお任せください」
ダンジョンの2層目のサファリパークは、魔導車で移動しながら自然の状態で暮らす魔物たちを観察したり、モフモフと触れ合ったりできるようになっていた。
すべての魔物は、俺がテイムして『知恵の実』を与えた子達だった。
ルファスとポチに、ここは、任せてみたが、なかなか、ちゃんと管理できている様子で、俺は、少し、安心していた。
4週目が過ぎる頃には、街は、物見だかい冒険者や、旅人たちで溢れるようになっていた。
それは、ヴィスコンティのおかげでもあった。
実は、かつて、王国の騎士団の一員っだったというヴィスコンティが騎士団時代の友人たちに手紙を書いたらしいのだが、その結果、王国の騎士団のみなさんが偵察を兼ねて、保養目的でこの街を訪れたのだ。
彼らは、ヴィスコンティと旧交を深めたり、温泉で休養したり、古傷を癒すマッサージやらポーションやらを試したりして、短い逗留ながらも楽しんで帰っていった。
その口コミの宣伝効果はでかかった。
一気に、街を訪れる人々は、増えていった。
それにともない新しい住人たちも増えていった。
そういった移住者たちは、貴重な労働力であり、人材であった。
ダンジョンの前には、市場ができていた。
ダンジョン土産の温泉まんじゅうやら、クッキーの詰め合わせやらが売られ、面白い言葉の書かれたTシャツやら、木刀やらも商品として並んでいた。
また、肩凝りや、腰痛にきくポーションやらを売る屋台も出ていた。
こういったものは、やはり、俺が夜なべして作ったもので品質は、間違いなかった。
俺は、創造の力で街を取り囲むように巨大な壁を創り、そこにオークの兵を配置した。
最初、人々は、オークの兵に驚いていたが、だんだんとそれは、受け入れられていき、この街は、魔物と人間が共に住む街として知られていった。
国の内外から獣人たちが移り住んで来るようになった。
この街の象徴ともいえるアイドルグループ『ビスマルク』のメンバーである女の子たちの何人かは、こういった獣人たちから選ばれていた。
『ビスマルク』は、ビザークのデザインしたゴスロリ衣装で身を固めた24人の美少女たちのグループだった。
彼女らの歌や躍りは、人気を呼び、一部の冒険者たちの間では、戦乙女とも呼ばれるようになっていた。
というのは、メンバーに選ばれるには、外見がかわいいだけでは、だめだったからだった。
彼女らは、戦乙女の名の通り、非常に戦闘能力も高かったのだ。
ビザークいわく、
「真の乙女は、愛する者のために戦えなくてはならない」
のだそうだ。
こうして、1ヶ月が過ぎていった。
戦いの刻が始まろうとしていた。
俺は、その日の早朝に、みんなを集めて話した。
「みんな、この1ヶ月の間、よくがんばってくれた。心から礼を言う。ありがとう」
「いや、なかなか面白かった」
イオルグが笑った。
「俺たちの懐も潤ってるしな。だけど、これが、なんの役にたつのかは、わからねぇけどな」
「本当に」
ビザークも言った。
「こんなことが戦いの上で、なんの役にたつというのか、まったく、わからん」
「俺たちの戦いは、俺たちのやり方で戦うんだ」
俺は、みんなに話した。
「俺たちは、確かに、他の魔王たちにかなわないかもしれないけど、それは、やつらの方法で戦うときのことだ。俺たちの方法で戦えば俺たちだって勝ち目はある」
「俺たちの方法って、なんだよ?」
イオルグがきくので、俺は、にやっと笑った。
「忘れたのか?俺は、ルファスは、欲望の魔王であり、俺は、どんな望みも叶える力を持ってるんだぞ」
こうして、俺たちの戦いの刻が始まろうとしていた。
その場を解散して、ホッと息をついている俺を見つめて、ヴィスコンティがふっと微笑んだ。
「どうしたの?ヴィスコンティ」
「いえ」
ヴィスコンティが俺に言った。
「本当なら、あなたは、どの魔王より強い力を持っているのに、こんな手の込んだことをするのは、あなたは、本当は、誰とも戦いたくないからじゃないかと思って」
うん。
俺は、じっとヴィスコンティのことを見つめた。
やっぱり、こいつには、隠せないか。
俺が、この世界に来たときからずっと、側にいてくれてるんだもんな。
「俺は、光とか闇とか、そういうのわからないんだけど、やっぱり兄弟で戦うってのは、いただけないと思うんだよ」
俺は、ヴィスコンティを上目使いに見上げて言った。
「やっぱり、みんなが幸せになって欲しいんだ」
「あなたは、優しい魔王ですね」
ヴィスコンティが微笑みを浮かべた。
「どんな最後が訪れるのであれ、私は、あなたとご一緒します。だから、安心して、あなたの戦いを戦ってください、ハジメ」
その日。
街の門を最初に潜ったのは、妄執の魔王 イグドールだった。
俺は、イグドールを出迎えた。
「ようこそ、『魔王の杜』ダンジョンへ」
「驚いたな。わずか1ヶ月でこんな街を作り上げるとは」
イグドールが言ったので、俺は、ニッコリと微笑みを浮かべた。
当然だ。
この1ヶ月、俺は、俺たちは、必死でやった。
なぜなら、俺の力を示さなくては、他の魔王たち、というか、イグドールの餌食にされるからだ。
俺は、一生をダンジョンに閉じ込められて、こいつにあんなことやらこんなことやらされて生きていくのは、嫌だ!
だから、頑張ったんだよ!
早朝の街は、まだ、あまり人出もなかった。
俺とイグドールは、黙って歩き始めた。
ダンジョンまでは、少し、距離があったけど、俺は、イグドールにこの街を見せつけるためにわざわざ徒歩で進んだ。
イグドールは、無言だったが、あきらかに、この街に興味を持った様子だった。
やがて、ダンジョンの入り口へと到着すると、俺は、イグドールをダンジョンの最深部にある俺の部屋へと招いた。
ソファに座って向き合った 俺たちに、すぅっとヴィスコンティがお茶のカップを差し出した。
白い陶磁器のカップに入ったお茶を見て、イグドールは、言った。
「美しい茶器だな。これは、この街のものか?」
「これは、俺が創りました。俺の故郷のものをもしたものです」
ヴィスコンティは、俺たちに茶菓子をすすめた。
黒い円形の小さな飾りのないケーキだった。
イグドールがフォークでそのケーキを割ると、中からトロリとした黒いものが流れだし、甘い香りが漂った。
「なんだ?この食べ物は?」
「異世界の食べ物で、フォンダンショコラといいます。中に入っているものは、チョコレートという甘い食べ物を溶かしたものです。これは、少し、甘さ控えめにしてあります。イグドールさんの口にあえばいいのですが」
「ふん」
フォンダンショコラを一口食べたイグドールの動きが一瞬、止まった。
えっ?
その場の空気が一気にはりつめる。
俺は、心臓が壊れそうなぐらい、どきどきしていた。
こういうの嫌いじゃないよね?
ルファスからイグドールの好きな食べ物のことは、きいていた。
イグドールは、こう見えてけっこう、スウィーツ男子なのだった。
「うまい!」
イグドールは、ケーキをあっという間に平らげた。
「これも、お前が作ったのか?ハジメ」
「はい」
俺は、頷いた。
うん。
嘘は、言ってないよね。
俺は、ニッコリと微笑んだ。
創造の力で出したものだから、俺が作ったといってもいい筈。
「やはり、私の考えは、間違ってはいない」
イグドールは、俺の手をとって言った。
「お前こそ、俺の嫁となるべき者だ」
はい?
俺は、イグドールに手を握られて硬直していた。
俺たち、こんなことしている場合じゃないんじゃないの?
「えっと・・すみません、イグドールさん」
俺は、躊躇いながら言った。
「俺は、異世界から来た者ですから、この世界の常識にはうとくって。その、男同士で、ていうのは、まだ、ちょっと、その、受け入れられないんです」
「そうか。別に、かまわん。私は、お前の心が決まるまでいくらでも待つ」
イグドールは、俺を射るような目で見つめた。
「同盟を結ぼうじゃないか、ルファス、いや、ハジメ」
「同盟?」
「ああ」
イグドールが頷いた。
「この戦いの刻を乗り越えるために、我々は、共闘するのだ」
うん。
俺は、イグドールに握られた手を握り返した。
「いいでしょう。イグドールさん。我々は、同盟を結び、共に戦いましょう」
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もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
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