人違いです。

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青空の下にて

12.

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 昂る感情を持て余しながら、騎士団長と王様の後ろをついて階段を降りていく。敬礼をして出迎えた騎士たちからの「お前も来んのかい」的な視線が刺さった。
 舞台に降り立ちぐるりと周囲を見渡す。階段自体が観覧席のようになっているので、かなりの人が自由に座り、俺たちの動向を観察している。騎士以外にも、話を聞き付けたらしい貴族達も。
 

「今日はレーネちゃんがアンタ達に指導をつけてくれることになったから心して取り組んでちょうだい。王サマに恥をかかせるんじゃないわよ」
「「「はっ!!!」」」


 返事だけは一丁前。俺をジロジロと眺め、見下してくる彼らにイラッとするが、これからこいつらの矜恃をズタボロにするので今くらいは許しておいてやる。どうせと馬鹿にしてるんだろうが残念、うちの国では近衛が戦力の9割を担っている。……自慢にならないなこれは。

 さて、とは言われたものの、どうしたものか。俺たち第3部隊の訓練は、『幻影結晶』を使っての完全なる対戦形式。
 ちなみに幻影結晶とは、結晶に手を触れれば、結晶が持つ仮想世界の中に入る事が出来る便利な魔具のことである。結晶内では怪我をしようが死のうが元の世界に戻るだけなので、訓練や拷問に非常に便利なのである。結晶の大きさによって仮想世界の広さも変わる為、訓練用や闘技大会には大きなものが、拷問には小さなものが使われることが多い。ーー総じて物凄く高価なので、余程の金持ち大国でないと訓練用には使わないが。

 いつもの訓練でも使っていないようだし、流石に今回は使わないだろうか。ちらりと階段に座るツヴァイ騎士団長を見上げると、寒気がする程艶やかな笑みが返された。


「……『幻影結晶』とか、あったりします?」
「想像以上にね。いいわよ。そういうのアタシ大好き。ちょっとそこのアンタ!持ってきなさい!中くらいのでいいわ」


 彼とは気が合いそうだ。呼びつけられた小隊長らしき騎士は、『幻影結晶』の名に大げさに目を剥いた後、慌てて何処かへ駆けて行った。そして、中くらい『幻影結晶』を抱えてゆっくり戻ってくる。壊したら破産どころでは無いため、若干涙目になっているのは気の所為では無いはずだ。
 どさりと俺の横へと置かれた『幻影結晶』。用を終えて通り過ぎようとした小隊長に会釈する。


「……陛下に股開いて擦り寄ったんだろ?後で俺たちも相手してくれよ、淫乱近衛騎士サマ。フィオーレ王にもそうやって取り入ったのか?」


 ボソリと挑発するように囁き、通り過ぎていく男。しかし俺はこんな安い挑発に乗ったりしない。まぁでも騎士の矜恃にかけて此奴だけは『幻影結晶』の中で殺す。いや別に挑発に乗ってるとかではなく、近衛騎士団とフィオーレ王国を馬鹿にされたからだけど。別に股開いたとか淫乱とか全然怒ってないけど。殺す。とりあえず殺す。
 と言うか、通り過ぎざまに颯爽と一言言って行きたかったのかもしれないけれど、言葉が長すぎて立ち止まっちゃってたから。全然格好良くないから。死ねば?
 全く(表面上は)反応しない俺に男は悔しそうに顔を歪めている。

 俺は『幻影結晶』に軽く触れ、不具合がないかどうか確かめる。万が一故障でもしていようものなら仮想空間にうまく接続できず亜空間に迷い込んでしまったり身体がになって出てきたりするらしい。先程の騎士なら持ってきかねない。
 触れた手から流れてくる魔力から命令式を詠みこむ。突っ立っている騎士たちが不思議そうに首を傾げているが、特に声を上げることはしないあたり、非歓迎的なのは先程の男とその取り巻きくらいか。その様子を見ていたツヴァイ騎士団長が興味深そうに身を乗り出した。


「んふふ、も出来るのね。有能な子は嫌いじゃないわ」
「どうも」


 特に仕掛けや不備は見当たらなかったので、結晶を起動する。ヴン、と音が鳴り、結晶の効果範囲が赤く明滅する。に参加する者は入るように目配せすると、先程のクソ男を含む、新参のおよそ半分ほど――20人ほどが中に入った。意外と多い。

『仮想空間へと転送します。範囲内から出ないでください。――3秒前。2秒前。1秒前』

 機械的な案内の声と共に、先程までの円形訓練所から荒廃した更地へと景色が姿を変える。中には初めて『幻影結晶』を体験した人もいるらしい。おおっという興奮の声がいくつか上がった。
 周囲を見渡す。結晶が作る仮想世界は、此方が設定しない限りはランダムに創造されるのだが――思いのほか
場所でよかった。


「どうしたらいいですか?」
『任せるわよ。アナタ第3部隊隊長流で』


 知らず口角が上がる。ざり、と地面を踏みしめ、少々の殺意を込める。すると敏感にそれを感じ取ったらしい騎士たちが此方を向いた。空間内に響いた上司の声に、先程のクソ野郎達が顔を顰める。余程従いたくないのだろう。ぶはははざまぁみろ。


「お任せいただいたので今回は俺たちの訓練方法で行かせてもらいますね。訓練と言ってもそんな大したことはしませんけど……この荒野内で鬼ごっこ兼殺し合いをします。ヘイデル騎士団の皆さんは逃げてください。俺は鬼。殺しに行きますので耐えてください。死んだら負け。自動的に元の空間に戻りますので、」
「は、はぁ⁉たかが訓練でそこまで……一対一で負けるのが怖いのか?媚打ってのし上がったならそうだろうなぁ!」


 クソ野郎が俺に詰め寄ってくると、汚い唾を飛ばしながらびぃびぃ喚きだす。「殺し合い」という言葉に戸惑っていた騎士たちも、気持ちは同じなのだろう。不安げにおろおろしていた。
 それにしても、驚くほどの三下ぶりに笑いすら出てこない。俺は自分よりも幾分背の高い男を見上げる。


「俺たち第3部隊の訓練方法は全員死ぬまで仮想空間内で殺し合うだけなので」
「なッッーー」
「規則を決めます。複数人での協力はあり。魔法の使用はあり。手加減はなし。以上。逃げて下さい。10秒後に追いかけます。10。9。――」


 返事も聞かずにカウントを始めた俺の声を聴いて、慌てて散り散りに逃げ出す彼ら。5秒まで俺の前にいた男も、俺が剣を鞘から抜くと、流石に慌てたのか小走りで逃げていった。


「3。2。1――行きます」


 殲滅開始。


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