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王宮の夜会・急の2

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  魔導士団長と副団長が、それぞれの魔力を練っている。
 後ろにいるミーヤには、二人の体が揺らめいて見える。
 それが魔力の流れだとは、ミーヤはまだ知らない。

 と、天井からするすると降りて来る、猿の様な顔をした黒い翼を持つものと、ミーヤは再び目が合う。
 懐の子ウサギが歯を剥く。

 ライルとフィーザの内に秘めた魔力が最大になった、その時である。
 庭園に続く窓ガラスが大きく膨らみ、一気に弾けた。

 会場内に霧が流れ込む。
 視るからに毒々しいドドメ色をしている。

「ミーヤ! 鼻と口を押さえろ!」

 振り向いてミーヤに指示するフィーザは見た。
 子ウサギがミーヤの顔を覆うように、ペッタリと貼り付いているのを。

 ミーヤは、緊迫感はあるものの、幸せだ。

 なんてモフモフ!
 柔らかい毛並み!
 息が苦しい……。
 けど、幸せ。

 ライルとフィーザは敵を察知する。
 霧に紛れて、足音が近付く。
 低い唸り声がする。

「殺すなよ」

 ライルが低い声を出す。

「どうしろと……」

「凍らせろ! お前の唯一絶対領域だ」
「はいはい」
「『はい』は一回」

 いきなり飛びかかってきた長い牙を持つ魔獣に、フィーザは氷柱の魔法をかける。
 猪に似ている。
 会場に、魔獣を内包する氷の柱がデ――ンとそびえ立つ。

「くそっ! まだ霧が消えないな」

 眉を寄せるライルに、フィーザは言う。

「魔力のある小型魔獣がいるみたいです。ソイツが結界破って、大型魔獣を呼んでるんじゃないですか?」
「そういうの、早く言えよ!」


 一方、国王と王妃の前に誘導された出席者たちは、国王の有難い御話を聞かされていた。

「魔獣は、剣で斬っただけではダメなのじゃ。生き返ってしまうからな」

「じゃあ、どうすれば……」

 ざわつく出席者たちに、王妃も諭す。

「でも皆さん。恐れないでくださいね。魔獣を滅ぼすためには魔術が必要なの。幸い我が国には、そのために精鋭を集めた、魔導士団があるのですから」

 国王と王妃の話を聞いた、レイラとロアナは、背中に汗が流れる。

「じゃ、じゃあ。間違って買ってしまった魔獣の毛皮って……」
「生き返るの!? 毛皮なのに」

 ゴーシェ伯爵邸には、来歴不明な毛皮が、あちこちに置いてある。
 なんか……。
 ヤバイ気がする!

 二人はコソコソ、出口に向かった。


 さて、精鋭らしいライルとフィーザは、小型の魔獣に手を焼いていた。
 すばしっこいし、宙に浮いている。
 なかなか魔法が当たらないのだ。

 小型魔獣に気を取られると、大型魔獣が現れる。
 さすがの精鋭たちも、魔力の放出が続き疲労の表情になる。

 そんな時である。
 ミーヤの顔に貼り付いたままの子ウサギが、ミーヤに囁いた。

『イヤリング! お前の耳のイヤリングを、猿顔に投げつけろ!』

 えええ?
 前が見えないけど……。
 あ、イヤリングは取れた。

『今だ! そのまま二時の方向に投げろ!』

 感覚だけを頼りに、ミーヤは斜め前方にイヤリングを投げた!
 ポコンという音がした。
 見事、イヤリングは小型魔獣に当たったようだ。

「キシャアアアアア!」

 耳障りな声を残し、小型魔獣は消滅した。
 同時に霧も引いていった。

 王妃のイヤリングが光る。
 『国と國民を守るのよ、あなたのイヤリングは』
 昔の友の声が、微かに聞こえた。

「ああ、ほら、精鋭魔導士さんたちの仕事が終わったようね」

 霧が消えたら、子ウサギもピョ――ンと離れた。
 顔中毛だらけになったミーヤのところに、フィーザが飛んで来る。

「大丈夫か?」
「はい」

 ライル団長は、床に落ちたイヤリングを拾って、ミーヤに渡す。

「スゲーな、おい。ミーヤ嬢、それは一体……」
「母の形見です」

 ライルは、イヤリングに込められた魔力の簡易鑑定をする。

 一種の魔道具。
 ただし退魔用。
 こんな小さな物に、魔を祓う力を持たせるなんて……。

 今の神殿の連中には出来ない技だ。
 出来るとしたら……。

 聖女……。

 ミーヤはフィーザに、イヤリングを付け直してもらっていた。

「あれ? 上手くつけられない」
「あの、思いきり、ネジ締めてくださいね」

 ミーヤもフィーザも、頬が赤かった。
 ミーヤの母のことは、後で聞こうかとライルは思った。



 同時刻。
 ミーヤの実家、ゴーシェ邸。


 調査に来た警吏官は証拠物品として、廊下のダッチなんとか熊と、それ以外の幾つかの毛皮を押収した。

「後日、王宮での尋問も予定されています。呼び出しに応じないと、捕縛されますのでご注意下さい」

 警吏官はゴーシェ邸を出ようとした。

「うおっ!」

  一人の警吏官が毛皮を落とす。

「おい、気をつけろよ。証拠品だぞ」
「いや、急に重くなって」
「バカ言うな」

 手を伸ばそうとした警吏官が悲鳴を上げる。

 紐で縛ってあった熊の毛皮がモコモコと動き、立方体になったと思ったら、いきなりガバっと立ち上がったのだ。


「「ぎゃあああ!!」」

「な、何事ですか!」

 ゴーシェ伯も見た。
 立ち上がった熊のような生き物が、邸のドアを突き破り、外へと駆けていったのを。

「た、タタリ……」


 丁度、ゴーシェ邸には、王宮から逃げ帰って来たレイラとロアナが到着したところだ。
 馬車から降りた夫人とその娘の前に、黒い何かが立ち塞がった。

「「え、なに?」」

 黒い体を持つモノは、箒のような掌を振り下ろす。
 その掌はロアナの頬を深く切り裂き、レイラの身体を石畳にぶつけた。

 レイラもロアナも、意識を失った。
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