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十五章 授業の準備には、授業時間の三倍かかると人は言う
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加藤は寝不足の月曜を迎えた。
彼は特異的な脳の使い方をするために、脳性疲労もハンパない。
例えて言うなら、脳内のマルチスクリーンに、いつも複数のウィンドウが開いていて、それらすべての処理を、同時に行っているようなものだ。
なお、加藤の「特異的」というのは、ニアリーイコールで、「変態」の意味も持つ。
加藤は音竹をめぐる諸事情と、そこここに散らばる、きな臭さの解決策を考えながら、週明けに行う、『命の大切さについて学ぶ』という授業の組み立てを、一晩考えていた。
よって、ほとんど寝ないまま、朝を迎えたのだ。
出勤すると、ちらりと加藤の顔を見た白根澤が、すぐに蒸しタオルを作って加藤に投げた。
「ああ、あっちっち!」
「熱くても、我慢して顔拭いて、しゃっきりしなさい!」
適当に顔を拭いた加藤だが、鏡を見ると、確かに目の下の隈が薄くなっていた。
白根澤のプロの技と言える。だてに超長く、養護教諭を勤めているわけではない。
「せいちゃん、授業準備出来た? 明日よね」
加藤は頷きながら小声でつぶやいた。
「クソつまんない指導案だがな」
どのくらいつまらないか。
まず、授業の事前準備を行うのだが、指導案にはこう書いてある。
「命の大切さを知るために、生徒が産まれた時の写真とメッセージを、保護者から預かる」
それが悪いとは言わない。
ただ、何らかの事情のため、出生時に写真を撮っていない、撮ることが叶わなかった親子がいるかもしれないことを、なぜ想定しないのだろうか。
幸い、この葛城学園は、経済的に困窮している家庭はほぼない。
だが、複雑な家庭状況が、ないわけでもない。
授業のエンディングには、取り込んだ写真とメッセージをスクリーンに映しだし、生徒に人気のあるいずれかの曲を流し、生徒も教員も一緒に感動するのだという。
感動?
出来るのか?
この内容で、命の大切さを、実感できるのだろうか?
思春期の男子だぞ!
加藤はぶつぶつ言いながら、写真とメッセージを確認していく。
あるところで、彼の手は止まる。
そして加藤は、指導案をカスタマイズした。
翌日の三時間目。
加藤は資料を揃えて、教室に向かう。
担当クラスは、一年二組。
音竹のいるクラスである。
その頃、校長以下、管理職の教員が、校門の前に雁首揃えて、畏まっていた。
一台の、ごく普通の乗用車が入校する。
車のドアが開き、一人の男性が現れた瞬間、一同は顔が膝に付くくらい、深々とお辞儀をした。
「お待ちしておりました!」
男性は、これまた普通のスーツに、使い古したカバンを持ち、頭を軽く下げる。
「お忙しいところ、突然の依頼、受けていただき恐縮です。早速、授業を拝見したいのですが」
教頭が、来校者のカバンを持って、校内へ案内する。
雁首の一人、主幹教諭が、小声で校長に訊く。
「あの方が文科省の……」
「そうだ。わずか三十台で私学行政課の課長になった、『文科省の妖刀』、加藤憲章だ」
確かに、シュッとした顔つきは、いかにも頭が良さそうだ。
主幹教諭の新島は、その顔貌と眼差しから、『妖刀ムラマサ』をイメージした。
それよりも、校長、なんて言ったっけ? 文科省から来た人の名前。
加藤なんだっけ
加藤憲なんとか
加藤?
教頭が恐る恐る、一年二組の教室まで、加藤課長を案内する。
「ええと、今日の授業は、養護教諭が行っておりまして、その、授業に慣れていないというか……」
加藤課長の目が鋭くなる。
「構わないですよ。平素の学校の様子を、我々は知る必要がある」
すると、養護教諭が授業を展開している教室内が、どっと沸いた。
彼は特異的な脳の使い方をするために、脳性疲労もハンパない。
例えて言うなら、脳内のマルチスクリーンに、いつも複数のウィンドウが開いていて、それらすべての処理を、同時に行っているようなものだ。
なお、加藤の「特異的」というのは、ニアリーイコールで、「変態」の意味も持つ。
加藤は音竹をめぐる諸事情と、そこここに散らばる、きな臭さの解決策を考えながら、週明けに行う、『命の大切さについて学ぶ』という授業の組み立てを、一晩考えていた。
よって、ほとんど寝ないまま、朝を迎えたのだ。
出勤すると、ちらりと加藤の顔を見た白根澤が、すぐに蒸しタオルを作って加藤に投げた。
「ああ、あっちっち!」
「熱くても、我慢して顔拭いて、しゃっきりしなさい!」
適当に顔を拭いた加藤だが、鏡を見ると、確かに目の下の隈が薄くなっていた。
白根澤のプロの技と言える。だてに超長く、養護教諭を勤めているわけではない。
「せいちゃん、授業準備出来た? 明日よね」
加藤は頷きながら小声でつぶやいた。
「クソつまんない指導案だがな」
どのくらいつまらないか。
まず、授業の事前準備を行うのだが、指導案にはこう書いてある。
「命の大切さを知るために、生徒が産まれた時の写真とメッセージを、保護者から預かる」
それが悪いとは言わない。
ただ、何らかの事情のため、出生時に写真を撮っていない、撮ることが叶わなかった親子がいるかもしれないことを、なぜ想定しないのだろうか。
幸い、この葛城学園は、経済的に困窮している家庭はほぼない。
だが、複雑な家庭状況が、ないわけでもない。
授業のエンディングには、取り込んだ写真とメッセージをスクリーンに映しだし、生徒に人気のあるいずれかの曲を流し、生徒も教員も一緒に感動するのだという。
感動?
出来るのか?
この内容で、命の大切さを、実感できるのだろうか?
思春期の男子だぞ!
加藤はぶつぶつ言いながら、写真とメッセージを確認していく。
あるところで、彼の手は止まる。
そして加藤は、指導案をカスタマイズした。
翌日の三時間目。
加藤は資料を揃えて、教室に向かう。
担当クラスは、一年二組。
音竹のいるクラスである。
その頃、校長以下、管理職の教員が、校門の前に雁首揃えて、畏まっていた。
一台の、ごく普通の乗用車が入校する。
車のドアが開き、一人の男性が現れた瞬間、一同は顔が膝に付くくらい、深々とお辞儀をした。
「お待ちしておりました!」
男性は、これまた普通のスーツに、使い古したカバンを持ち、頭を軽く下げる。
「お忙しいところ、突然の依頼、受けていただき恐縮です。早速、授業を拝見したいのですが」
教頭が、来校者のカバンを持って、校内へ案内する。
雁首の一人、主幹教諭が、小声で校長に訊く。
「あの方が文科省の……」
「そうだ。わずか三十台で私学行政課の課長になった、『文科省の妖刀』、加藤憲章だ」
確かに、シュッとした顔つきは、いかにも頭が良さそうだ。
主幹教諭の新島は、その顔貌と眼差しから、『妖刀ムラマサ』をイメージした。
それよりも、校長、なんて言ったっけ? 文科省から来た人の名前。
加藤なんだっけ
加藤憲なんとか
加藤?
教頭が恐る恐る、一年二組の教室まで、加藤課長を案内する。
「ええと、今日の授業は、養護教諭が行っておりまして、その、授業に慣れていないというか……」
加藤課長の目が鋭くなる。
「構わないですよ。平素の学校の様子を、我々は知る必要がある」
すると、養護教諭が授業を展開している教室内が、どっと沸いた。
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