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第2話 オークション
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ラウリの目の前では今、舞台上で司会と着飾った奴隷が立ち、客席側では多くの人々が札を上げその奴隷の値を競い合っていた。
舞台袖から眺めてるラウリの隣には、着飾った少し幼さの残した女性がその様子を一緒に眺めていた。その女性の首元には何色かの色に見える紋様がみえた。
「ラウリ様、奴隷の仲買人が予定通りお見えになっております」
「ああ、わかった。今から向かう」
現在所有している奴隷の調査は終わり、体が自由になる時期、基本的に四半期に1回この首都に寄るのだが、当家には半年に一回顔を出し、質の良い奴隷を連れてくる者が居る。
「ラウリ様!! お久しぶりでございます!!」
「相変わらずでかい声だ。久しぶりだね、レナルド」
「このくらい大きな声でないと、全ての馬車まで届きませんので。うるさいようでしたら努めますが」
「努める程度でしょ? 昔から聞いてるけど、一度も成功してないじゃないか」
「そうでありましたか?」
とぼけながら豪快に笑うレナルドと呼ばれた男性。彼は、行商人兼奴隷の仲買人をしており、各地、ベースはこのスピネル国だが、西は隣のロバライト国、東は隣のコランダム国と3カ国跨いでおり、行商の傍ら奴隷を買い付けに行く、もしくは天涯孤独になり、自分一人で生活できなくなってしまった者を拾いに行く事を商売としている男だ。昔は村を襲って無理矢理と言う事が往々にしてあったそうだが、現在は戦争を100年以上も行なっていない程の平和な状態である。その為、無闇に村を襲っても足取りが見つかりやすく、商人などの行き来もかなり豊富なため、訓練だけで暇している騎士団が簡単に出てきてしまう。その為、数が確保するのが難しいと思うのだが、意外と人口が増えればそれに比例して問題が増え、その分奴隷となる人も増えているので、奴隷商の絶対量がさほど増えてない状況、無理に襲う必要も無くなってしまったという背景もある。
このレナルドは、代々アールトネン家に降ろしている仲買人であり、ラウリが生まれる前からこの商隊の主をしている。先代も大きな声で豪快な人だったそうだが、良い物を手に入れるが商才があまりなく、他の商会で買い叩かれることが多かったそうだ。そこでラウリの父であるコスティが適切価格で購入することをした事により他の商会も真似せざるを得ない例を作った為、恩義によりこの首都に来てから一番初めに顔を出し、良い物を選んでもらうという形になり、それが引き継がれていた。
もちろん当家で良い者と思った奴隷に関してはそれ以上の金額を支払うこともある。その為、単純に値切ると言う事はしなかった。
だが、当家を最後の方にしてくる仲買人に関しては公平に値切ることをする。それは、仲買人が余ったものを少しでも高く買って欲しいと懇願していると言う事に他ならないからだ。
レナルドは毎回50人ほど連れてくるため、選ぶのも一苦労となってしまうのだが、満面の笑みで奴隷を連れてくるため、少々思うところもあるが、その期待に答えないわけにも行かないと思ってしまう。
奴隷が一つの馬車毎に1列に並ぶ。大体8人くらいになる。一人ひとり丁寧に椅子に座らせ簡単な面接をしていく。容姿、立ち姿、仕草、肌の傷。椅子に座るまでにこれまでを確認する。座ってからは好きなものや嫌いなもの等や気になった事を簡単に。それ以外には名前、声と訛り、思想等を簡単に聞いていく。
道中で話を聞いているのか、もしくは普通に知っていたのか、アールトネン奴隷商は比較的優良奴隷商と言う事がわかって主張する奴隷もいる。それを確認するために仕草、待機している様子、会話等を混ぜているのだ。容姿一本で買い取れる者も居るが、そうそうその様な者は居ない。容姿が良くても性格が販売に適さない場合は直営の娼館へと向かわせることになるので、結局はここで買い取る事になる。その為、糠喜びされることもあるのだが、それは貴方の評価だという事だを知らしめるしか無い。
その場で引きぬくのではなく一度馬車に戻す形を取っているが、既に8人ほど当商会に、4人ほど娼館にと考えている。残り馬車二つという所で、ふと目に入る者が居た。
容姿は上物とは言えそうだ。だが、特上と言うようなものでもない。体つきもそこまで特筆すべきものでもない。ただ、仕草が気になるというか、なんとなく目が離せないというか。ともかく理由もわからず目で追ってしまう女性が居た。
足の悪い男性が馬車から降りる時に手を貸したり、他の者へと目をかけたり、声をかけたり、その様子だけで性格は悪いものではないのだろう。同じ馬車に乗っていた者も今更声をかけられたと言う感じではなく、普段からこの様に接していると言う事がわかった。
だが、それだけで気になるというのもおかしいと思う。過去に同じようなものがおり、奴隷から開放奴隷となり、商家に嫁いだ者もいた。
実際話してみても、何が引きつけられているのかまったくわからず、だが、ここで手放してしまうのも惜しいと思い、購入することにし、館内へ移送中にそれは起こった。
「コラリー姉ちゃん?」
「ソニヤ?!」
他の卸から売れなくて困っていると言う少女の話を聞いた。
売られた経緯は子供が産めなくなったと言う理由からだそうだが、詳細を聞くと、自分の父親に日常的に嫌々ながら犯され、ついには妊娠してしまったそうだ。だが、そこで父親が産ませることを拒否し、日常的なことが犯すことから暴力へと変わっていった。その暴力が激しくなっていった辺りでコラリーは流産し、医者からもう将来子供を生むことが出来ないと診断されたことがあったそうだ。労働力として確保しておくより、同じ所に居ることの気分の悪さと言う理由で実の親から売られることになった。
見栄えは悪くないのだが、それだけ乱暴されて過ごし、人を恨み続けた幼少期な為、大人に対する性格や目付き等が非常に危ういものになっていた。だが、同郷の子供たちの間では姉と慕われ、面倒見の良い性格だったというのもあったので、女使用人の人数を増やす予定だった一人にこのコラリーと言う少女を買い取ることにした。
売られた時は成人前であったが、奴隷商や卸をたらい回しにされている間に年齢だけは成人となってしまっていた。
当家の女使用人長に引きあわせ、人間と扱う代わりに厳しい躾をしたのだが、どうやら水が合ったのか、以前の生活より良かっただけなのか、やせ細っていた体が未だ細身ではあるが健康的な肉付きになり、精神的にも落ち着き、今では一人前の女使用人として働いている。
そんなコラリーが先ほどの気になっていた女性から姉と呼ばれていた。
購入した13人を牢に近い形の部屋に連れていき、一部屋3~4人入れる。部屋は過去に過ごしていた奴隷たちの残していったもの等が多くあり、一般的な牢屋とは到底思えないようなものだった。さらに、その部屋は奴隷たち全員で掃除をさせることをさせているので、汚い、臭い等場末の奴隷商の様なイメージはまったく無かった。
一人一つ布団があり、石や土の床ではなく、アールトネン商会の館の一部を使い牢としているので、元々は貴族が住まう部屋であった為、木製の暖かな床だった。
この様な奴隷の扱いの差も、最低落札価格の差になってきており、奴隷の死亡率は購入後も含めて場末の奴隷商と比べて非常に低かった。
だが、同じような高級奴隷商から購入するも、暴力が日常的に行われ、奴隷が死亡するケースはある。購入後まではこちらで口を出すわけにも行かず、それを求めて購入する者もいるのだ。
父であるコスティはそれを理解しているがために、奴隷を物として扱うのだろう。ラウリもその様な教育を施されている。
アールトネン奴隷商に購入された奴隷たちは一般的な奴隷のイメージとは違い、屋敷の敷地内であれば、仕事をすることが出来た。庭の草むしりや、薪割り、水汲みを始め、知識を持っているもの等はその知識を利用し、本を書き写したり、食品やその他日用品等の仕入れ時に計算や価格調整等も手伝うこともあった。料理が出来るものは料理長の下に付き、毎食の作業を行うこともあった。
しかし、基本は奴隷である為、正規の賃金を支払われることは無い。本来の賃金の5分の1程度以下になることもある。そして、週に1度当家の女使用人の同行する形で何人か外出許可が出る。そこで買い物をするのは自由にすることが出来た。何もしないで飼い殺しにし、販売時期まで待つと言う事をするのは非常に精神的に病んでいく。なにかやれることがあると言う事は、健全な精神と、健康な肉体を作っていく事に非常に有効だという事が先祖の経験でわかっていたので、このアールトネン奴隷商会は行なっている。
他の商会も真似ているところはあるだろうが、基本奴隷の反乱を恐れているため、アールトネン奴隷商会とは奴隷の質が違っていた。
無制限にやりたいことをさせるわけではないし、外出許可もその者の本質を見極め、普段の行い等も含めた上で決定する。オークションを終え、購入されるまで一度も敷地外に出れなかった奴隷も居るので、完全なる自由ではないのだが、お目付け役が居るとは言え、外を歩けるというのは精神的に開放されることが多い。それを希望に仕事をさせていくのだ。
先に購入された奴隷の内、娼館行きを決定し、既に娼館に移動してしまった奴隷以外で、他の仲買人から追加で購入した追加7名を含めた16人が集まった所で、再度全員にこれからオークションを通して売られていくまで、何をするべきか、どの様な扱いをされるか、売る時に良い待遇で、良い嫁ぎ先に選んでもらう為に何をするべきかを講習するために広めの一室に集められた。
来週行われるオークションには送り出すことはせず、次のオークションまでまだ販売しないことを伝え、それまでに体調を整えたり、敷地内での仕事をすることが出来ると言う制限された自由を得られるという事を伝える。
追加で購入された奴隷たちからはこの商会が普通の待遇ではないと言う事がわかり、声が上がる。既に初めの9人は仕事をしているものも居るので、そちらからは声が上がることはなかったが、改めて聞くことにより、なにかしようという意志は感じることが出来た。
説明が中盤を過ぎた辺りで女使用人から声がかかる。
「ラウリ様、先日逃げ出した奴隷2名ですが、確保して下さった方がいらっしゃっています」
「わかった。ここに連れてきてくれ」
「承知いたしました」
説明を途中で止めて待つことにした。
奴隷たちの間で少しざわつきが起きる。この好条件の中逃げ出すものが居るのかという声や、奴隷なんだから逃げて当たり前だと言う声もちらほら聞こえる。
数分待った辺りで奴隷2名ジェーンと呼ばれた妖艶さが少し隠れて見える女性と、マイリと呼ばれた少し幼い女性。そして、捕獲者2名が部屋に入ってきた。
一人は捕まえたことを誇り、手柄を自慢するかのような表情をした男性と、この状況に怯え、借りてきた猫の様におとなしくなっている男性だった。
怯えた男性は逃げ出した少し幼い女性の奴隷を連れてきた事に、礼金として大金貨4枚を渡す。一般的な労働者が汗水たらしてまともに働いても簡単に手に入らない位の金額が控えていた女使用人より手渡される。
連れてきただけでこれだけの金額という様な表情をするので、素直に頷いて手に置いた金貨を握らせる。怯えた表情はそのままなのだが。
その理由もわからなくもない。大金貨4枚あれば、少なくとも半年、人によっては一年以上は何も仕事をしなくても生活できると言う金額なのだ。驚きとその他の怯えた表情というのも一般的には納得できることだ。
続いて、女性の奴隷を連れてきたもう一人の男はニヤニヤしながら礼金を受け取る。しかし、女使用人が渡したのは先ほどの怯えた男性の半額だった。
「なんだよ!! こいつより少ないのはなんでだよ!!」
金貨が見えるように手のひらに置いて渡しているので、枚数の差ははっきりとわかった。その為、この男は礼金が少ないことを抗議の声を上げた。
「理由が知りたいのか?」
「ああ! なんでこいつより少ないのかはっきりと教えろよ!!」
怒り心頭で、貴族に対する言葉遣いではなく、普段からの言葉遣いに戻ってしまっている。ラウリはまだ貴族の称号を得ていないのだが、家の格付けとしては遥かに高い位置に居るのは間違いない。だが、それだけ男性は怒っているとういことなのだろう。
「服を脱いで」
ラウリはその言葉を伝えた。怒っている男性にではなく、男性の連れてきた女奴隷のジェーンに対してだ。
ジェーンは逃げ出した罰が与えられるのかと怯えながら恐るおそるワンピース型の服を脱ぎ、胸や下腹部を保護するための下着さえ取り払った一糸まとわぬ姿になる。肌の張りはもちろん、体の凹凸がはっきりとした綺麗な体だ。思わず見とれてしまうような体形のため、同室に居た奴隷たちは男女問わず、感嘆の声が漏れ出る。
怯えと羞恥心が混ざった表情の女奴隷をそのまま立たせ、ラウリは体の各所を観察していく。顔、首、肩、腕、そして胸、腹部、下腹部、腿、足……。腕を取り、脇腹等も見ていく。
全てが観察し終えた後で、背筋を伸ばし、首だけを向け男性に問う為に口を開こうとした瞬間、男から言葉が発せられた。
「何もしてねぇよ!!」
少し震えている男の叫び声が聞こえた。その言葉を聞いてから再度ゆっくりとラウリは言葉を発する。
「何もしてない?」
「ああ、その痣は最初から出来ていたんだよ!!」
その言葉表す通りに、ジェーンの綺麗な体の所々に青や赤、紫色の痣が浮き上がっていた。
自分は決してこの痣をつけた犯人ではないと自己弁護を続ける男性。ラウリは冷静にその言葉を聞き、そして質問をした。
「この痣は貴方がつけたものではないと?」
「そうだよ!! 俺が捕まえた時には既についていたんだよ!」
その言葉を聞いてから、ラウリはジェーンに指示をした。
「足を肩幅に」
指示の意味がわからず、2度目の言葉を聞き、ようやく足を肩幅に開いたジェーンに対して、ラウリは近づいてすぐ股に手を伸ばし、指を差し込んだ。
「やっ!?」
ジェーンは軽い悲鳴を上げ、恥ずかしさ、異物感からか、体をよじるが、この状況で逃げるという行動を取っても意味がないことを理解しているのか、為すがままにさせた。
少しの間下腹部を指でこね回す。ジェーンが恥ずかしさからか、それとも別のことなのか、顔が赤くなり始めた辺りで指を抜く。
「これはなんだろうな」
ラウリは指に付いたその液体、白い色が混ざった液体を眺めながら言葉を発した。
「さ……さぁ……? 指を突っ込まれて気持ちよかったんじゃねーのか?」
男の声は少し怖じけたような声色になっているが、表情は努めて変わらないようにしていた。
「僕はこの業界に長く居るわけでもないし、長く生きているわけでもない。だが、その手の経験はかなり豊富なものだと思っている。その僕が、これは色や匂いから判断するに、男性から出された精液だと判断するのだが、お前はどう思う?」
この質問をされると、男性は震える声になった上、冷や汗まで浮かび上がってきた。
「俺のじゃないっすよ。俺の所に来るまでに誰かにやられたんじゃないっすか?」
「ほう、これは出されてからまだ1時間以内だと思うのだがな」
「俺はやってないっすよ!!」
ラウリは男の弁明を聞かずにジェーンに向かい質問をする。
「ここに来る前、この男に犯されたな?」
「はい……、昨夜も……何度も強要されました……」
「嘘だ!! こいつは嘘を付いている!! おい!! 奴隷なんかの言うことを信じるのかよ!?」
「そうか? だが、昨日夕刻、お前の家から女性の悲鳴が聞こえたという証言を得ている」
「は?!」
「普段から女性の出入りのない一人暮らしのお前の家に、女性とともに入っていった後、大きな悲鳴が聞こえたとな。そして、その後から幾度かくぐもった声で小さな悲鳴が続いていたともな」
「そんなの知らねえよ!!」
「まだ知らないふりをするのか」
「本当に知らねえって言ってるだろうが!!」
「いい加減にしろ!! お前は当商会の大事な商品を穢したことは既にわかっているんだよ!! 誰も見てないと思っているだろうがな、近隣の住人にも確認を取ったし、第一、商会の手のものが直接お前のしてる行為を確認している」
「見られてる……だと?!」
「そうだ、家に入ってすぐ襲いかかった事も、血が出たものだから初物だと喜んでいたこともな。だが、その女奴隷は初物じゃない。ただ単にお前が下手なだけだったんだよ」
「え……?」
「まあ、それは置いておこう。オークション前の大事な商品に手をつけてくれたことに対して請求しなければならない。手付料と慰謝料、治療費めて大金貨にして50枚だ、しっかりと払ってくれよ」
「なっ!! 女一人、しかも一日買っただけでそんな金額になるわけないだろう!!」
「商品を傷物にしたんだ。安いもんだろうよ。しかも、アールトネン奴隷商はな、侯爵様にだって手付はさせてないんだ。この世界はな、信用で成り立ってる商売なんだよ。お前はこの商会の看板に泥を塗ったんだ。このくらい安いもんさ。お前の両親、そして、お前の勤めてる商会にも話を通してある。しっかりと働いて稼いでくれよ?」
男はうなだれたまま別室へ連れて行かれる。金額のことなのか、手をつけてしまったことに対してなのか、それとも下手なことを知られてしまったのかわからないが、力無く歩いて行った。別室にはアールトネン奴隷商と懇意としている貸付商会を既に呼んであり、これから男と商談する予定になっている。彼にどの様な未来が訪れるのかは彼とその貸付商会次第になるのだが、一時期の短絡的な過ちが全てを台無しにする。彼も、彼の周りも良い教訓になったのではないかと思う。もちろん、ここに居る新たな奴隷たちにも言えることだが。
新しい奴隷が入った所で逃げ出した奴隷と連れてきた住民、そして手を出した住民の処置を見せることが出来たのは非常に良いことだろう。奴隷も逃げ出そうとすることも無いだろうし、外でどの様な扱いになっているのかもわかっただろうから。
門には次々と馬車が到着し、貴族や商家の者が降り、門をくぐり館に向かい歩いてくる。
中には一般の住民と思われるものも居るが、その全てが最低限の着飾った状態であった。
貴族の婦人等は、ドレスを着用していた。体形によって、体のラインをはっきりと見せるドレスから、飾りを多くして体型見えないようにするドレスまで。
流行り廃りがあると思われるが、現状半々位の割合だろう。体のラインをはっきりと見せるドレスは飾りは最小限にし、生地や肌を見せるためのデザインを重視し、飾りは胸元にワンポイントの宝石と言う形がほとんどだ。
体型を見えないようにするドレスは、レースや鳥の羽、さらには段をつけたフレアスカート等、ふわふわした物を多く飾り付け、布地にかけた金額が多いのと、埋もれてしまうためあまり宝石は付けないと言う形が多かった。
体形に関してはふくよかな方も、細身の方もデザインは両方着ているので、稀に見栄えの悪い方も居るが、基本体型維持を美徳として居るため、体質的に不可能な者や、負傷して体型を維持できないような者以外あまり見栄えの良くない者はほぼ居なかった。
男性側は奇抜な格好をするのではなく、パッと見地味な形が多い。暗めの色調で、黒、茶、紺等の色彩が多い。だが、その裏地にはかなりのこだわりを持っていた。黄色や赤、青、水色や橙色等、色々な花の色を再現した色を裏地にしており、寒くない館内では、わざとボタンを外し、さり気なくその色をアピールすると言うのが今の流行りであった。
それ以外にも、ボタンには細かい彫り物をしており、それだけでも一品芸術と思えそうな模様や、型の縁取り部分にベース地より少しだけ明るい色でラインを入れ、形の強調等、一見地味だが、さりげない見栄えの良さという事を行なっていた。
一般庶民は、そこまで飾り付けることが出来ず、一日だけ貸服屋から借りたり、手持ちの一番良い物で来ることも多かった。商家の者は貴族に準じた物を着てくるのだが、貴族に遠慮してか、貴族の平均より若干落ち着いた物を選んでいた。
館の入り口の扉は開け放れており、アールトネン家への入館は自由になっている。入り口の豪華な両開きの扉をくぐると両脇にすぐ目に入るものがある。二人の奴隷だ。
今回オークションにかけられる予定の奴隷が両脇に目立つ様にスペースを与えられ、来館者に愛想を振りまいている。
入り口に立っているという事だけあって、見栄えの良い奴隷で、今回は片方が健康的な肉体美を持つ男性の性奴、もう片方は凹凸がしっかりとした貴族の令嬢と見間違えるかのような女奴隷だった。男性の方は自身の肉体を見てもらうために、下着1枚で立っており、その体の魅力を十分に見てもらうために色々なポーズを取っていた。
女性の方は、特に何すること無く、そのまま立っており、来場者に笑顔で手を振り、着飾った自分の魅力を見てもらうために時折訴えるかのような視線を向けていた。
アールトネン奴隷商のオークション前に、奴隷達のアピール時間がこの様にアールトネンの屋敷を利用して行われている。奴隷一人ひとり、ある程度のスペースを与えられ、今まで稼いだ金額を用いて着飾り、アピールしていく。アピールの内容が良ければその分買い取られる確率も高くなるし、高い地位の者に買い取られる可能性が高い。ただ、高い地位の者が良い性格をしているかどうかは別だが、アールトネン家への配慮と言う事で、高い地位に居る者ほど、奴隷の酷い扱いをすることは少なかった。
もちろん、奴隷と言う事なので、アールトネン家では酷い扱いをされようが、性奴では無い者を性奴にしようが本来何も文句を言うことが出来ない。だが、その様な噂は貴族間で簡単に広がってしまい、その噂は奴隷商へと伝わる。体調を整え、見栄えを良くし、綺麗な状態にしてからオークションにかけるため、それまでの費用がまったくの無駄になる。実際はその費用を踏まえて最低金額を設定するのだが、その様な扱いをするのであれば、場末の隷属魔法を使えず、刺青で行ってる奴隷商でやってほしいと言う意識が全体にあるのだ。
ただ、その考え方はこの国だけであるので、他の国ではもっと酷い扱いを受けている奴隷達は多いとのことだ。他の国から買い取られた奴隷がアールトネン奴隷商で引き取られた後、ここで生涯を終えたいと言われるくらい、酷い扱いの所もある。現在の料理長等は料理の腕を見込まれて他の国で奴隷として買い取られたらしいが、結局苛立ちを発散するためだけの発散奴隷であった。あまり、痛がり方が面白くないという理由で売られ、当家に買い取られた後上記の事を父であるコスティに伝え、そして試験を受け、認められた上で努力し、現在は料理長にまで登り詰めた。
奴隷の印は残念ながら刺青でされており、消すことが出来ないため、それを上書きするような形で隷属魔法で当家の使用人と言う表現をしている。
近隣の住民には奴隷ではない事がわかっているが、市場に初めて来る行商人等には未だに酷い扱いを受けてしまうと言っていた。
そして、アールトネン奴隷商としての奴隷達の評価を伝えるために、奴隷の表現スペースに一枚の紙を置いておく。
それには奴隷の名前、出身地、性別、身長体重の他、売られた経緯や特技の他、性交渉の有無、ある場合においてはそれにおける評価、そして、性格や購入者への向き不向きが書かれていた。
入り口に居て愛想を振りまいている男性性奴は、性交渉の評価はとても良く、過去の経験人数もかなりの人数となっていた。だが、自発的に行った性交渉ではなく、一度この奴隷を購入した者が貴族の会合で無差別に貸し出しており、そこでの経験人数だと言う事だった。
売られた経緯はその家の事業が失敗し、少しでも金策する為に売られたと言う事だった。
性奴目的なので、本来禁止されている肌への接触は奴隷側から許可を得た時にすることが出来る。触る場所に関しては奴隷に一任しており、貴族の婦人達はこぞって下腹部の膨らんだ部分を触れていた。
もう一人の女性奴隷だが、こちらは性奴では無く、労働奴隷であった。
売られた経緯は農村生まれの彼女の親は、不作のため税を支払うことが出来ず、彼女に許可を得て売られることに。
農家の娘としては色々なことができるが、特別と呼べるような特技があるわけでもなく、売られた時は弟達に食べ物を多く渡しており、やせ細った状態であった。ラウリがこの娘を買うと仲買人に伝えた時、驚きの声と共に、反対の声が上がったが、磨けば光るし、素材も本来良い者だと予想し、購入に踏み切った。
彼女の体を戻すために実に1年もの時間が必要になったが、性格もよく、色々なことを率先して手伝っていた為、当家の使用人達からの評価も高く、ドレス以外の物は女使用人達から貸し与えられたり、化粧なども施された。その為、入り口の目立つ位置に置かれることになったのだ。
この二人の奴隷を通り抜け、ホールの奥に向かうと、受付とクロークがあり、オークション終了後まで預かることができた。今は初夏な為、ほとんど預けるものは無かったが、日焼け防止のストールや帽子等は多く預けられ、暇をしているという事は無かった。
ホールの奥、T字路を右に進み、一つ目の部屋から5つ目の部屋までが今回のオークションで販売される奴隷達の表現スペースになっている。
掃除が得意な者や、剣術が得意な者、女性の性奴を望む者や、やせ細ったままだが、農業研究をしていた者。多くの一芸に突出していたり、平均が高い者、性格の良い者、性格は悪いが、見栄えがとても良い者等全部で20人見ることが出来た。
料理が得意な者は、その料理を一口サイズで振る舞い、舌鼓を打たせていた。知識を誇る者は、専門分野の知識を大きな紙に書き上げ、質問を受け次第返答すると言う形を取っていた。
その様な会場をラウリは一人の女性を連れ、案内していた。
「ラウリ様、私なんかがこんな綺麗な服を着て、そしてお供をしてよろしいのでしょうか?」
「ああ、それは気にしないでくれ。いつも一人で会場を歩いていると色々と言われるからね」
その女性は先日、仲買人のレナルドから買った一人、ソニヤと呼ばれた女奴隷だ。ドレスを纏い、化粧をし、髪も結い上げている。おかげでそこそこの見栄えだった者が、貴族の令嬢と錯覚するくらいにまでなっていた。立ち振舞はラウリに恥をかかせない様にと短期間で女使用人達から躾され、急いで身につけたものなので、少々荒っぽい点もある。元々農村出身の成人したばかりの女性に貴族の振る舞いを求めるのは酷だろうが、この大きな舞台で、しかも、他の奴隷商に比べはるかに待遇の良い場所の当主の子息に恥をかかせるわけにもいかないので、ソニヤ自身も必死になって学んだことである。装飾品や化粧に関しては、まだ短い期間だがコラリーを始めとする女使用人達に気に入られ、おもちゃと言えば聞こえは悪いが、貴族の前に立っても恥ずかしくない様にされていた。
おかげで細かい立ち振舞はしっかり見られていれば間違えている所も多いが、多数の人が居る中、そこまで細かく見る人はほとんど居なかったんおで、その立ち振舞が間違えていると気づいた人でも、その首元の奴隷紋を見ると、まだ覚えたてかと勝手に納得し、大きな問題に発展することは無かった。
「ラウリ様、お久しぶりでございます」
「おお、ケルヴィネン家のアルピ様でございますね。本日はお越しいただきまして、誠にありがとうございます」
黒地に内側が水色の服を着込んだ色白の若い青年がラウリのことを呼び止め、挨拶をする。
「今回もお伺いに参りました。いつものように大盛況でございますね」
「ありがとうございます。これも皆様のおかげでございます。本日はアルピ様はどういった奴隷をご所望で?」
「一人、女性の奴隷をと思いまして」
「そうでしたか。今年は見栄えの良いものから、頭の良い物まで取り揃えております。残念ながら床上手な者は今回は居ないのですが、もしご入用でしたら娼館の方からお譲りいたしますが?」
「いやいや、そういう要件では無いのですよ。ご存知の通り、私は3番目になります。独り立ちし、年齢も19となり、そろそろ身を固めたいと思いまして」
「そうでしたか。それでは、入り口の者を筆頭に、数名今回ご案内できると思います」
「ええ、彼女は素晴らしいですね。少しだけ話しましたが、頭の回転も早いようです。ですが、私の稼ぎでは高嶺の花となりそうです」
貴族の長男や長女、次男や次女等は縁組が組まれることが多いので、三男や三女等は領地を分割して分け与えられることは滅多に無く、大抵が自立して生活をせざるを得ない状況になる。一般的には今まで学んだことを使い、役人や商人等の道に向かうことが多いが、中には衛兵になるものも居る。女性であれば、婿入りすることが一番楽なのだが、学者として生計を立てたり、中には店を出すものも居る。そういった貴族社会から外に出たものは基本自由恋愛となるので、婚姻に関しては自分で見つけなければならない。
自分で見つけられるものは勝手に自分で見つけに行くのだが、親が貴族と言う事で、庶民たち周りから無理矢理などと思われ、良い目で見られない場合もある。親の手前、駆け落ちするわけにもいかず、引き下がり、他を見つけるという事も少なくない。そこで、周りに気を使わず、しかも自分が求める人を探し出すことが出来るという奴隷から選ぶというのも現在では増えてきている。
購入した奴隷を婚約者に選び、奴隷から開放された時に結婚をするという、婚約奴隷と言う形がこれだ。この形を取りたい場合はやはり隷属魔法を使える奴隷商から購入する事がほとんどである。その理由は単純に、首につく奴隷紋だ。ラウリ等の奴隷商では魔法で付けるために、魔法を解除した時は何も跡が残らないのだ。その為、婚約奴隷という事が周りにわかっていても、目立つことがなく、時間が経てばその人の人柄によっては忘れ去られてしまうことだろう。
その為、複数の男性客や、複数の女性客だけで来館すると言う事もしばしばある。
だが、元奴隷と言う事で、傍若無人な振る舞いをしたり、貴族に嫁いだ時等に多いのだが、使い込み等をした場合、再度奴隷に落とされることもある。この場合はその都市の執務官や衛兵長、親族の長の承認が必要になるのだが、よほど酷いことをしなければそう簡単に落ちることはない。だが、権力や金を持った元奴隷と言うのは豹変することもある。その為、この様な措置が取られている。
この様な再度落ちた奴隷の場合は、売られた経緯の詳細を公開される為、かなり買い叩かれる場合が多い。その為、大抵は場末の奴隷商が買い取り、売ることになる。
とある男性の場合、婿入りし、男爵位まで取得したのだが、使用人を手篭めにしたり、領民を面白半分に殺したりという暴挙を行なっていた為、再度奴隷階級に落とされることに。買われた先で去勢され、荷物持ち等の商家の下男として他のものより薄給で働くことになった。
女性の例で言えば、伯爵に嫁ぐことになった者がいた。だが、資産を自分の好きな服や宝石、賭け事に使い込み、更には隠れて借金をこしらえることがあり、再度奴隷階級に落とされることに。美貌以外何も持ち合わせていない者だった為、どこも買い手が付かず、最終的には安い娼館に買い取られることに。働いた半分の金額を使い込んだ返済に当てることになった事もあった。
だが、これは一部の特例だけであり、特にアールトネン奴隷商からは一例も出していない。その為、婚約奴隷目的で訪れる者は少なくなかった。
再度落ちた奴隷に関してはラウリも一例だけ関わったことがある。
若き伯爵の婦人となった女奴隷だったが、結婚を機に見栄えの良い男性奴隷を買い集めて、自分の神輿を持たせるという事を行なっていた。しかも、外だけでなく、館内全てに置いてである。社交界の時でもそれを行なっており、多数の迷惑をかけていた。たまたま、この伯爵は、他の伯爵家より地位の高い家であったため、同位の者でもそう簡単に注意することが出来なかったのである。それ以上の位の高い者である侯爵家が出席する社交界には一度も出席することが無かったため、増長はより進んでいった。
社交界では、とある男爵家の婦人を地位を利用して執拗にいじめることをしていた。周りからもやりすぎだと噂をされる事があり、その増長を抑えるために侯爵家が対外的には秘密にして社交界に出向いた時、何処から聞いたのか、その会は欠席すると言う始末。
若き伯爵にその事を伝えるのだが、年上の女性と言う事であまり強く言えないらしく、増長を止められる者は居なかった。
だが、3年後、突然その若き伯爵から再度奴隷落ちを宣言される。
当たり前のように反発し、見栄えの良い男性奴隷をけしかけるが、その男性奴隷も良い扱いをされておらず、その場で逆に取り押さえられることになった。
そこで、若き伯爵が購入元の奴隷商に話を通しに行ったが、買うことを拒否されてしまい、当家のアールトネン奴隷商を紹介された時、ラウリが関わったのだ。
女奴隷の評価は普段から何もしておらず、運動もしていないため、性交渉に関しては全くの無能者の烙印を押さざるを得なかった。
男性奴隷も、コレクションとして購入してただけの様で、特に何もしていなかったとも後から聞かされた。
本来半年は精神安定のために出品せずにおいておくのだが、この様な奴隷を長い期間持つ事は難しいので、話題の人と言う事で近々に行われるオークションに出品することに。
そのオークションでは、こちらのつけた大金貨2枚と言う最低価格で落札された。
購入者は、執拗にいじめられた男爵家だと言う事も、物事の道理と言ったところなのだろうか。
後日、その女奴隷を初めに販売し、再度奴隷落ちした時に、購入を拒否した奴隷商に出向いた時、その当主から面白い話が聞けた。
初めに購入した時、見栄えは良いが性格が悪かったため、オークションで売れなかったと言う実績を作り、鼻っ柱を折るつもりだったそうだ。
ここのオークションは、突拍子もない者も扱うので、初期価格で誰も挙手がなかった場合、損益分岐点より少し黒字位を限界点とする下げるオークションを行うことがある所だ。
その女奴隷が決めた金額で売れずに、下がり続けて更に売れなかった場合、彼女のブライドはズタズタになるだろう。この様なシナリオを考えていたそうだ。
だが、最高額に成るであろうかなり高めの初期価格で買い手がついてしまった。これが、この後の悲劇につながる事になった。
この話の締めとして、若き伯爵はどの様なことになったのかと伺うと、新しい女性と結婚したという事だった。
市井の娘であった為、よほどあの女奴隷で懲りたのだと思われていたそうだ。
だが、この話を聞いた時、ふと頭に過ぎった。女奴隷との結婚前に市井の娘と知り合っており、政略結婚せざるを得ない伯爵と言う地位で市井の娘と結婚は不可能だろう。そこで、見栄えだけは良い者を選び、無理矢理結婚し、その女が酷かった場合離婚をする。そして、周りからは大人しい者の方に行くのも仕方がないと思わせたかったのではないかと。
元手がほとんどかからず、話題性もあり、少しだが儲けさせてもらった立場の為、これ以上蒸し返すことはしない。だが、この案件はかなり黒いものがあったように思えた。
「おお、ラウリ。今日は覗かせてもらいに来たよ」
「カテーラ男爵、それに男爵婦人、ようこそお越しくださいました」
先日、夜の仕事をしたカテーラ男爵と男爵婦人の二人だった。二人共貴族という事に恥をかかないようにかなり着飾って来ていた。男爵の方の裏地はダリアの様な赤色というか橙色というか、明るめの色に染色された物を利用し、表地が漆黒なので、そのギャップがはっきりとし、とても鮮やかだった。
婦人の方は体のラインをはっきりと引き立てるような青いスリムドレスで首元に大きな宝石をワンポイントとして飾っていた。胸元は首元まで閉じているタイプではあったのだが、ノースリーブであり、大きな胸がより強調されるようになっていた。
「お、誰だね、この娘は」
「はい、先日買い取らせて頂いた、ソニヤと言う奴隷です」
男爵はラウリの斜め後ろで静かに佇んでいる女性を見つけるとラウリにその女性のことを質問した。もちろん、首元の模様を理解してのことだ。
「ほぅ。ラウリのお気に入りと言う事か」
「いえ、戯れにございます」
外用の笑顔で、控えめに答えを伝える。
「そうかい。もう試したのか?」
「いえ、未開通なので、私は何も」
「そうなのか。そう言えば、未開通の者とは一度もしたこと無いのではないのか? 私は気にしないのだが、そういうのが好みという者もいるそうだし、一度体験しておいては?」
未開通の者をラウリが側に置いておくというのが非常に驚いたことらしく、男爵は思わずソニヤのことを眺めてしまう。だが、男爵婦人がその男爵の仕草に気づいたのか、軽く肘で小突く。
「そうかもしれませんが、そこまで体が空くことがありませんので」
ラウリの未開通と一度もしたことがないと言うのは本当のことである。初めての手ほどきは娼婦から。奴隷商の仕事としては開通済みの者のみ相手にすると言う約束事があるからだ。しかし、ラウリにはその未開通の者と行為をすることに何ら魅力を感じていない。ほとんどが仕事であり、たまに体が空いている日でも、行うのは娼館の女達からせがまれて行為をすることが多いというのもあった。
「それもそうだな。いや、すまなかった」
「いえ、今度折を見つけて試してみます」
「ラウリが初めてになる娘は幸せなのか不幸なのか。さて、今日は楽しませてもらうよ」
「はい。ごゆっくりお楽しみ下さい」
ラウリの言葉を聞くと、男爵と男爵婦人は手をふりつつ懸命に表現している奴隷達の方へと歩いて行った。
奴隷たちの自分を表現する時間が終わり、館の隣にあるホールに舞台を移す。
ここは、基本アールトネン奴隷商のオークションを行うために造られたものではあるが、現在では、楽団や劇団等の登竜門までは行かないのだが、ここの舞台に立てる事を夢見る者が少なくない場所になっている。
その様になった理由が一つ。一人の奴隷が楽器を以って自分を表現し、たまたま来ていた楽団長がその奴隷を金銭に糸目をつけずに購入した。
その時はそこまで素晴らしい演奏だったと言えなかったのだが、半年後に行われた国主催のコンサートでその楽団が演奏した時、重要なソロパートをその奴隷が行い、素晴らしい演奏という事で国から特別報奨金が渡されたと言う逸話があった。
それ以来、ここに立って演奏すると大成すると言う噂が広がり、表現という形で同じ劇団側も夢見るようになったと言う事だ。
この舞台は少し高めに作られてあり、客席も1,000人は入れないが大きめに造られている。貴族とは言え、個人の所有物でこれだけの規模を持つ事はほぼあり得ないことだ。
そんなホールの舞台を使い、オークションが行われる。
客席はほとんど埋まっており、このオークションの注目度が図られる。貴族間の付き合いと言う事で来館する者も少なくはないが、余裕がある貴族であれば、その様なときにでも大枚を叩いて購入していく事もある。貴族だけでなく、商人や一般の住民の中でも多少裕福な方や、今まで貯めにためた金額で良い奴隷を買いに来た者も見受けられる。
その様な注目されているオークションだが、今回は20名のみの販売となる。多い時は50人ほどになることもあるのだが、あまり多すぎるとこのオークションの価値が下がり、更に良い者を揃えてという形に見られないこともある。他には食事の用意するのが大変な事や、健康や体調維持の為に使用人を増やさなければならない状態になり、使用人の質の低下、食事の質の低下、最終的には奴隷の質の低下へとおちていく可能性を考慮し、現在は20名前後に落ち着いている。
舞台の上では進行役が二人、会場を盛り上げるために口頭に寄る説明を漫談のような形式で行なっている。
毎回同じ演目であるため、飽きている人もいるが、逆に合いの手を入れるような者も増えてきており、継続して同じ事を行うのもありなのかと思っていた。
内容は簡単に言えば、舞台の上に登ってきてはいけない。オークション参加するには開始の鐘が鳴らされた以降に挙手と、指で金額を提示すること。最低入札価格は指一本による大金貨1枚から。5本開いていたら5枚、全ての指を握って挙手すれば10枚と言う形だ。
他のオークションでは4枚で大金貨1枚分となる金貨を含めて両手で表現をすることがある。片手で20まで数えることが出来るので、それを利用した方法だ。もちろんそれ以上の価格になれば、このオークションでも両手を利用する。
大金貨4枚あれば一般的に半年は何もしないで生活できる事を考えれば、最低入札価格がとても高いことがわかる。だが、この奴隷商はそれだけの品質と、信頼、そしてそれだけの奴隷に対する努力を怠ったことはない。それ以外にも、その奴隷の能力を見抜くと言う事も。
先の演奏した奴隷の件であるが、これは他の商会が卸売りから買うこと無く、これ以降はこの奴隷が男性であった為、場末の奴隷商しか行き先が無いと言う限られた境遇での購入だった。
当家で販売した最低額は大金貨1枚である。その為、一般の住民も買えないわけではない。だが、毎回その様なものが居るわけでもなく、握りしめた財布をそのまま一度も開けること無く帰宅するという者も多かった。
基本的にいたずらに値段を釣り上げる行為が確認できた者に関しては購入権を剥奪した上でその同額を支払わせることになっている。
実際その線引きは難しいところであるが、当家主催のオークションを意図的に破壊しようと言う事になるので、このオークションを楽しみにしてきている貴族達がその様な行為があった場合、価格を釣り上げた者は簡単に他の貴族たちから釣り上げられてしまう。もし、それが貴族だった場合は高い地位にあるものであってもしばらくは良い目で見られることはない。ひどく荒らした場合は自分の仕事に影響が出てしまう場合もあった。その為、基本は自制し、明らかにおかしい時のみ剥奪と言う形を取っていた。
舞台の上では一人目の奴隷が紹介される。
簡単な自己紹介や自分の特技、特徴等を口頭や実演を以って表現する。
館内での表現時間とは違い、ここでしか表現できない者も居る。武器の扱いに長けた者や、踊りで長けた者であれば、表現の相手を付けることもある。館内で表現が完結してしまう者、例えば料理上手等は既に舞台上での表現時間はとても短い。
ここまでで精一杯の表現をしないと、金額が低くなることもある。買い取られる先は、完全に運でしか無いのだが、高い金額になればなるほど、相手が貴族や豪商になる事が多いため、自分の命を預けるに値する可能性が高くなる。
実際、安い金額で、一般の住民に買い取られて不都合無く生涯を過ごしたという者もいるが、確率的に言って一般住民の方が苦労することが多い。
その為、精一杯自分を表現し、高く買い取ってもらうためにこの時間を用意している。
表現が終わり、進行役の二人に合図をし、最低価格を伝えてからオークションスタートの鐘が鳴る。
次々に声と同時に挙手し、金額を表現していく。
人数が多いため、初めは収集が付かないくらい色々な所から声が上がるが、完全同時の挙手であっても残念ながら進行役のさじ加減とならざるを得ない。
次第に人々の声や挙手が減り始め、一つに収束していく。
落札が確定し、会場は拍手でその落札者を舞台上に迎える。この後売買契約へと移行するのだが、万が一このオークションで他の奴隷も購入予定だと言う場合は舞台上からそのまま席に戻ることになる。
大抵は一人を買うだけで精一杯になるので、このまま奴隷と共に舞台裏へと進み、契約書を交わすことになる。
全ての奴隷の発表が終わり、20人すべて買取先が決まった。
先日の快楽に溺れやすい女奴隷も、少年奴隷も、自分勝手に振る舞う男性性奴希望の奴隷も売れ残ることはなかった。
女奴隷は貴族の三男が購入した。王城内での執務官らしく、貴族階級ではないが、結婚出来れば玉の輿扱いと思えるだろう。
少年奴隷は未婚の女性男爵が買っていった。優秀な女性なのだが、男性への好みが少々こだわりがあるようで、同じような少年がもう一人居るとのことだ。少年の絡み合いを見るのか、それとも奉仕させるのか。それに関してはわからないが、ともかくそれらを見込んでの購入だろう。
男性性奴希望の奴隷は希望通りの相手に購入されたわけではなかった。やはり、こちらの評価が悪かったため、あまり良い金額での落札ではなかったが、貴族の女性が購入者と言う事で最悪という形ではないだろう。だが、この貴族の女性は見栄えの良い男性だけをはべらせる事が好みと言う事を公言している者なので、先日学んだことが生かせるのかは全く別なのだが。
「次は私もここに立つんですね。良い人に買って頂ければいいのですが」
オークションが終わり、全ての来場者がホールから退出した後の舞台に立ち、ソニヤがそうつぶやく。
既に運命を受け入れているのか、諦めなのか、悲壮感は全くない。だが、奴隷と言う立場である。希望ある未来が約束されているわけではないのだ。
運が良ければ婚約奴隷に。普通で労働奴隷。悪ければ性奴。もっとひどければ発散奴隷に。単純に分けるだけで4通りになる。
今でこそ居なくなったと言われている快楽殺人主義者に購入され、死の過程を楽しむ者や、医術目的に解剖されると言う事もあり得た。
最悪な方面はほぼアールトネン奴隷商に来ることはないが、ゼロとは言いがたかった。
その様な事を知っているラウリは思わず声に出してしまう。
「僕がお前を買ってやる!!」
思わず大きな声になってしまった事に、ラウリ自身が驚いていたが、言った言葉に対して後悔は無い。真剣な眼差しでソニヤの事を見る。
「ラウリ様が、私を?!」
ソニヤは驚きながらラウリに振り向きながら声を出す。奴隷商であれば、奴隷の扱いは一人の人間としてではなく、一つの消耗しやすい商品として扱わなければならない。ラウリ自身も当然その様な教育をされ、その様に振舞ってきているはずだ。そんなラウリから出た言葉だとは到底思えなかったのだろう。心底驚き、大きな声が出てしまった事に慌てて口を塞ぐように遮る。
「そう、ソニヤを僕が買う! オークション前で奴隷が売られることは、本来行なってない。でも、例外がないわけではない!」
2度も買うという宣言をした。ラウリもその言葉を反芻し、自らの体にも教えこむかのように言葉にした。
「もったいないお言葉です。私ごときに無駄遣いなさらずとも」
ソニヤにとって、打算的な考え方をすれば優良物件であろう。だが、実際その様な打算的な考え方は全く持っていなかった。それに、ラウリ自身も短い時間生活を共にし、打算的な考えを持ってしまう事無いと疑っていなかった。その為、この様な言葉が出てしまったのだろう。
「無駄遣いだとは思ってない! お前は僕の奴隷に……、いや、それ以上の者になってほしい!」
ラウリに取って何処までの者になって欲しいのか、頭の中にビジョンは無かっただろう。これに関しては完全に勢いで口にしてしまったと言う所だ。だが、そのくらいの決意だと言う事を知ってほしいというところだろう。
実際、最高位であれば婚約奴隷だろう。だが、貴族、しかも将来爵位を継ぐ位置に居る者であれば、政略結婚を考えなければならないだろう。だが、先に妾が居た状態というのは非常に対面の悪いことになる。それを考えれば、ラウリのビジョンは将来的にと言う事も無意識に含まれてしまっていたのかもしれない。
「ありがとうございます。それでは、期待して待っていますね」
それがわかっていたのか、わかっていないのか、ラウリの言葉が本気だという事だけは理解し、嬉しそうに笑いながら返事をする。だが、成人扱いされる16歳となっているが、まだ16年しか生きていないのだ。その事が何処まで重要なことなのか、わかっていなかった。
「うん。任せて」
ラウリもまだ成人直前。勢いに任せて宣言したが、どんなに重要なことなのかも理解していなかった。だが、この気持ちだけは本当だと、心から出た感情だと理解していた。
「旦那様」
「おお、お前か」
「お耳に入れたいことが御座います」
「なんだ?」
「ラウリ様が、例の女奴隷を買うと宣言したそうです」
「ラウリが……。わかった、下がって良い」
「はい。それでは失礼致します」
舞台袖から眺めてるラウリの隣には、着飾った少し幼さの残した女性がその様子を一緒に眺めていた。その女性の首元には何色かの色に見える紋様がみえた。
「ラウリ様、奴隷の仲買人が予定通りお見えになっております」
「ああ、わかった。今から向かう」
現在所有している奴隷の調査は終わり、体が自由になる時期、基本的に四半期に1回この首都に寄るのだが、当家には半年に一回顔を出し、質の良い奴隷を連れてくる者が居る。
「ラウリ様!! お久しぶりでございます!!」
「相変わらずでかい声だ。久しぶりだね、レナルド」
「このくらい大きな声でないと、全ての馬車まで届きませんので。うるさいようでしたら努めますが」
「努める程度でしょ? 昔から聞いてるけど、一度も成功してないじゃないか」
「そうでありましたか?」
とぼけながら豪快に笑うレナルドと呼ばれた男性。彼は、行商人兼奴隷の仲買人をしており、各地、ベースはこのスピネル国だが、西は隣のロバライト国、東は隣のコランダム国と3カ国跨いでおり、行商の傍ら奴隷を買い付けに行く、もしくは天涯孤独になり、自分一人で生活できなくなってしまった者を拾いに行く事を商売としている男だ。昔は村を襲って無理矢理と言う事が往々にしてあったそうだが、現在は戦争を100年以上も行なっていない程の平和な状態である。その為、無闇に村を襲っても足取りが見つかりやすく、商人などの行き来もかなり豊富なため、訓練だけで暇している騎士団が簡単に出てきてしまう。その為、数が確保するのが難しいと思うのだが、意外と人口が増えればそれに比例して問題が増え、その分奴隷となる人も増えているので、奴隷商の絶対量がさほど増えてない状況、無理に襲う必要も無くなってしまったという背景もある。
このレナルドは、代々アールトネン家に降ろしている仲買人であり、ラウリが生まれる前からこの商隊の主をしている。先代も大きな声で豪快な人だったそうだが、良い物を手に入れるが商才があまりなく、他の商会で買い叩かれることが多かったそうだ。そこでラウリの父であるコスティが適切価格で購入することをした事により他の商会も真似せざるを得ない例を作った為、恩義によりこの首都に来てから一番初めに顔を出し、良い物を選んでもらうという形になり、それが引き継がれていた。
もちろん当家で良い者と思った奴隷に関してはそれ以上の金額を支払うこともある。その為、単純に値切ると言う事はしなかった。
だが、当家を最後の方にしてくる仲買人に関しては公平に値切ることをする。それは、仲買人が余ったものを少しでも高く買って欲しいと懇願していると言う事に他ならないからだ。
レナルドは毎回50人ほど連れてくるため、選ぶのも一苦労となってしまうのだが、満面の笑みで奴隷を連れてくるため、少々思うところもあるが、その期待に答えないわけにも行かないと思ってしまう。
奴隷が一つの馬車毎に1列に並ぶ。大体8人くらいになる。一人ひとり丁寧に椅子に座らせ簡単な面接をしていく。容姿、立ち姿、仕草、肌の傷。椅子に座るまでにこれまでを確認する。座ってからは好きなものや嫌いなもの等や気になった事を簡単に。それ以外には名前、声と訛り、思想等を簡単に聞いていく。
道中で話を聞いているのか、もしくは普通に知っていたのか、アールトネン奴隷商は比較的優良奴隷商と言う事がわかって主張する奴隷もいる。それを確認するために仕草、待機している様子、会話等を混ぜているのだ。容姿一本で買い取れる者も居るが、そうそうその様な者は居ない。容姿が良くても性格が販売に適さない場合は直営の娼館へと向かわせることになるので、結局はここで買い取る事になる。その為、糠喜びされることもあるのだが、それは貴方の評価だという事だを知らしめるしか無い。
その場で引きぬくのではなく一度馬車に戻す形を取っているが、既に8人ほど当商会に、4人ほど娼館にと考えている。残り馬車二つという所で、ふと目に入る者が居た。
容姿は上物とは言えそうだ。だが、特上と言うようなものでもない。体つきもそこまで特筆すべきものでもない。ただ、仕草が気になるというか、なんとなく目が離せないというか。ともかく理由もわからず目で追ってしまう女性が居た。
足の悪い男性が馬車から降りる時に手を貸したり、他の者へと目をかけたり、声をかけたり、その様子だけで性格は悪いものではないのだろう。同じ馬車に乗っていた者も今更声をかけられたと言う感じではなく、普段からこの様に接していると言う事がわかった。
だが、それだけで気になるというのもおかしいと思う。過去に同じようなものがおり、奴隷から開放奴隷となり、商家に嫁いだ者もいた。
実際話してみても、何が引きつけられているのかまったくわからず、だが、ここで手放してしまうのも惜しいと思い、購入することにし、館内へ移送中にそれは起こった。
「コラリー姉ちゃん?」
「ソニヤ?!」
他の卸から売れなくて困っていると言う少女の話を聞いた。
売られた経緯は子供が産めなくなったと言う理由からだそうだが、詳細を聞くと、自分の父親に日常的に嫌々ながら犯され、ついには妊娠してしまったそうだ。だが、そこで父親が産ませることを拒否し、日常的なことが犯すことから暴力へと変わっていった。その暴力が激しくなっていった辺りでコラリーは流産し、医者からもう将来子供を生むことが出来ないと診断されたことがあったそうだ。労働力として確保しておくより、同じ所に居ることの気分の悪さと言う理由で実の親から売られることになった。
見栄えは悪くないのだが、それだけ乱暴されて過ごし、人を恨み続けた幼少期な為、大人に対する性格や目付き等が非常に危ういものになっていた。だが、同郷の子供たちの間では姉と慕われ、面倒見の良い性格だったというのもあったので、女使用人の人数を増やす予定だった一人にこのコラリーと言う少女を買い取ることにした。
売られた時は成人前であったが、奴隷商や卸をたらい回しにされている間に年齢だけは成人となってしまっていた。
当家の女使用人長に引きあわせ、人間と扱う代わりに厳しい躾をしたのだが、どうやら水が合ったのか、以前の生活より良かっただけなのか、やせ細っていた体が未だ細身ではあるが健康的な肉付きになり、精神的にも落ち着き、今では一人前の女使用人として働いている。
そんなコラリーが先ほどの気になっていた女性から姉と呼ばれていた。
購入した13人を牢に近い形の部屋に連れていき、一部屋3~4人入れる。部屋は過去に過ごしていた奴隷たちの残していったもの等が多くあり、一般的な牢屋とは到底思えないようなものだった。さらに、その部屋は奴隷たち全員で掃除をさせることをさせているので、汚い、臭い等場末の奴隷商の様なイメージはまったく無かった。
一人一つ布団があり、石や土の床ではなく、アールトネン商会の館の一部を使い牢としているので、元々は貴族が住まう部屋であった為、木製の暖かな床だった。
この様な奴隷の扱いの差も、最低落札価格の差になってきており、奴隷の死亡率は購入後も含めて場末の奴隷商と比べて非常に低かった。
だが、同じような高級奴隷商から購入するも、暴力が日常的に行われ、奴隷が死亡するケースはある。購入後まではこちらで口を出すわけにも行かず、それを求めて購入する者もいるのだ。
父であるコスティはそれを理解しているがために、奴隷を物として扱うのだろう。ラウリもその様な教育を施されている。
アールトネン奴隷商に購入された奴隷たちは一般的な奴隷のイメージとは違い、屋敷の敷地内であれば、仕事をすることが出来た。庭の草むしりや、薪割り、水汲みを始め、知識を持っているもの等はその知識を利用し、本を書き写したり、食品やその他日用品等の仕入れ時に計算や価格調整等も手伝うこともあった。料理が出来るものは料理長の下に付き、毎食の作業を行うこともあった。
しかし、基本は奴隷である為、正規の賃金を支払われることは無い。本来の賃金の5分の1程度以下になることもある。そして、週に1度当家の女使用人の同行する形で何人か外出許可が出る。そこで買い物をするのは自由にすることが出来た。何もしないで飼い殺しにし、販売時期まで待つと言う事をするのは非常に精神的に病んでいく。なにかやれることがあると言う事は、健全な精神と、健康な肉体を作っていく事に非常に有効だという事が先祖の経験でわかっていたので、このアールトネン奴隷商会は行なっている。
他の商会も真似ているところはあるだろうが、基本奴隷の反乱を恐れているため、アールトネン奴隷商会とは奴隷の質が違っていた。
無制限にやりたいことをさせるわけではないし、外出許可もその者の本質を見極め、普段の行い等も含めた上で決定する。オークションを終え、購入されるまで一度も敷地外に出れなかった奴隷も居るので、完全なる自由ではないのだが、お目付け役が居るとは言え、外を歩けるというのは精神的に開放されることが多い。それを希望に仕事をさせていくのだ。
先に購入された奴隷の内、娼館行きを決定し、既に娼館に移動してしまった奴隷以外で、他の仲買人から追加で購入した追加7名を含めた16人が集まった所で、再度全員にこれからオークションを通して売られていくまで、何をするべきか、どの様な扱いをされるか、売る時に良い待遇で、良い嫁ぎ先に選んでもらう為に何をするべきかを講習するために広めの一室に集められた。
来週行われるオークションには送り出すことはせず、次のオークションまでまだ販売しないことを伝え、それまでに体調を整えたり、敷地内での仕事をすることが出来ると言う制限された自由を得られるという事を伝える。
追加で購入された奴隷たちからはこの商会が普通の待遇ではないと言う事がわかり、声が上がる。既に初めの9人は仕事をしているものも居るので、そちらからは声が上がることはなかったが、改めて聞くことにより、なにかしようという意志は感じることが出来た。
説明が中盤を過ぎた辺りで女使用人から声がかかる。
「ラウリ様、先日逃げ出した奴隷2名ですが、確保して下さった方がいらっしゃっています」
「わかった。ここに連れてきてくれ」
「承知いたしました」
説明を途中で止めて待つことにした。
奴隷たちの間で少しざわつきが起きる。この好条件の中逃げ出すものが居るのかという声や、奴隷なんだから逃げて当たり前だと言う声もちらほら聞こえる。
数分待った辺りで奴隷2名ジェーンと呼ばれた妖艶さが少し隠れて見える女性と、マイリと呼ばれた少し幼い女性。そして、捕獲者2名が部屋に入ってきた。
一人は捕まえたことを誇り、手柄を自慢するかのような表情をした男性と、この状況に怯え、借りてきた猫の様におとなしくなっている男性だった。
怯えた男性は逃げ出した少し幼い女性の奴隷を連れてきた事に、礼金として大金貨4枚を渡す。一般的な労働者が汗水たらしてまともに働いても簡単に手に入らない位の金額が控えていた女使用人より手渡される。
連れてきただけでこれだけの金額という様な表情をするので、素直に頷いて手に置いた金貨を握らせる。怯えた表情はそのままなのだが。
その理由もわからなくもない。大金貨4枚あれば、少なくとも半年、人によっては一年以上は何も仕事をしなくても生活できると言う金額なのだ。驚きとその他の怯えた表情というのも一般的には納得できることだ。
続いて、女性の奴隷を連れてきたもう一人の男はニヤニヤしながら礼金を受け取る。しかし、女使用人が渡したのは先ほどの怯えた男性の半額だった。
「なんだよ!! こいつより少ないのはなんでだよ!!」
金貨が見えるように手のひらに置いて渡しているので、枚数の差ははっきりとわかった。その為、この男は礼金が少ないことを抗議の声を上げた。
「理由が知りたいのか?」
「ああ! なんでこいつより少ないのかはっきりと教えろよ!!」
怒り心頭で、貴族に対する言葉遣いではなく、普段からの言葉遣いに戻ってしまっている。ラウリはまだ貴族の称号を得ていないのだが、家の格付けとしては遥かに高い位置に居るのは間違いない。だが、それだけ男性は怒っているとういことなのだろう。
「服を脱いで」
ラウリはその言葉を伝えた。怒っている男性にではなく、男性の連れてきた女奴隷のジェーンに対してだ。
ジェーンは逃げ出した罰が与えられるのかと怯えながら恐るおそるワンピース型の服を脱ぎ、胸や下腹部を保護するための下着さえ取り払った一糸まとわぬ姿になる。肌の張りはもちろん、体の凹凸がはっきりとした綺麗な体だ。思わず見とれてしまうような体形のため、同室に居た奴隷たちは男女問わず、感嘆の声が漏れ出る。
怯えと羞恥心が混ざった表情の女奴隷をそのまま立たせ、ラウリは体の各所を観察していく。顔、首、肩、腕、そして胸、腹部、下腹部、腿、足……。腕を取り、脇腹等も見ていく。
全てが観察し終えた後で、背筋を伸ばし、首だけを向け男性に問う為に口を開こうとした瞬間、男から言葉が発せられた。
「何もしてねぇよ!!」
少し震えている男の叫び声が聞こえた。その言葉を聞いてから再度ゆっくりとラウリは言葉を発する。
「何もしてない?」
「ああ、その痣は最初から出来ていたんだよ!!」
その言葉表す通りに、ジェーンの綺麗な体の所々に青や赤、紫色の痣が浮き上がっていた。
自分は決してこの痣をつけた犯人ではないと自己弁護を続ける男性。ラウリは冷静にその言葉を聞き、そして質問をした。
「この痣は貴方がつけたものではないと?」
「そうだよ!! 俺が捕まえた時には既についていたんだよ!」
その言葉を聞いてから、ラウリはジェーンに指示をした。
「足を肩幅に」
指示の意味がわからず、2度目の言葉を聞き、ようやく足を肩幅に開いたジェーンに対して、ラウリは近づいてすぐ股に手を伸ばし、指を差し込んだ。
「やっ!?」
ジェーンは軽い悲鳴を上げ、恥ずかしさ、異物感からか、体をよじるが、この状況で逃げるという行動を取っても意味がないことを理解しているのか、為すがままにさせた。
少しの間下腹部を指でこね回す。ジェーンが恥ずかしさからか、それとも別のことなのか、顔が赤くなり始めた辺りで指を抜く。
「これはなんだろうな」
ラウリは指に付いたその液体、白い色が混ざった液体を眺めながら言葉を発した。
「さ……さぁ……? 指を突っ込まれて気持ちよかったんじゃねーのか?」
男の声は少し怖じけたような声色になっているが、表情は努めて変わらないようにしていた。
「僕はこの業界に長く居るわけでもないし、長く生きているわけでもない。だが、その手の経験はかなり豊富なものだと思っている。その僕が、これは色や匂いから判断するに、男性から出された精液だと判断するのだが、お前はどう思う?」
この質問をされると、男性は震える声になった上、冷や汗まで浮かび上がってきた。
「俺のじゃないっすよ。俺の所に来るまでに誰かにやられたんじゃないっすか?」
「ほう、これは出されてからまだ1時間以内だと思うのだがな」
「俺はやってないっすよ!!」
ラウリは男の弁明を聞かずにジェーンに向かい質問をする。
「ここに来る前、この男に犯されたな?」
「はい……、昨夜も……何度も強要されました……」
「嘘だ!! こいつは嘘を付いている!! おい!! 奴隷なんかの言うことを信じるのかよ!?」
「そうか? だが、昨日夕刻、お前の家から女性の悲鳴が聞こえたという証言を得ている」
「は?!」
「普段から女性の出入りのない一人暮らしのお前の家に、女性とともに入っていった後、大きな悲鳴が聞こえたとな。そして、その後から幾度かくぐもった声で小さな悲鳴が続いていたともな」
「そんなの知らねえよ!!」
「まだ知らないふりをするのか」
「本当に知らねえって言ってるだろうが!!」
「いい加減にしろ!! お前は当商会の大事な商品を穢したことは既にわかっているんだよ!! 誰も見てないと思っているだろうがな、近隣の住人にも確認を取ったし、第一、商会の手のものが直接お前のしてる行為を確認している」
「見られてる……だと?!」
「そうだ、家に入ってすぐ襲いかかった事も、血が出たものだから初物だと喜んでいたこともな。だが、その女奴隷は初物じゃない。ただ単にお前が下手なだけだったんだよ」
「え……?」
「まあ、それは置いておこう。オークション前の大事な商品に手をつけてくれたことに対して請求しなければならない。手付料と慰謝料、治療費めて大金貨にして50枚だ、しっかりと払ってくれよ」
「なっ!! 女一人、しかも一日買っただけでそんな金額になるわけないだろう!!」
「商品を傷物にしたんだ。安いもんだろうよ。しかも、アールトネン奴隷商はな、侯爵様にだって手付はさせてないんだ。この世界はな、信用で成り立ってる商売なんだよ。お前はこの商会の看板に泥を塗ったんだ。このくらい安いもんさ。お前の両親、そして、お前の勤めてる商会にも話を通してある。しっかりと働いて稼いでくれよ?」
男はうなだれたまま別室へ連れて行かれる。金額のことなのか、手をつけてしまったことに対してなのか、それとも下手なことを知られてしまったのかわからないが、力無く歩いて行った。別室にはアールトネン奴隷商と懇意としている貸付商会を既に呼んであり、これから男と商談する予定になっている。彼にどの様な未来が訪れるのかは彼とその貸付商会次第になるのだが、一時期の短絡的な過ちが全てを台無しにする。彼も、彼の周りも良い教訓になったのではないかと思う。もちろん、ここに居る新たな奴隷たちにも言えることだが。
新しい奴隷が入った所で逃げ出した奴隷と連れてきた住民、そして手を出した住民の処置を見せることが出来たのは非常に良いことだろう。奴隷も逃げ出そうとすることも無いだろうし、外でどの様な扱いになっているのかもわかっただろうから。
門には次々と馬車が到着し、貴族や商家の者が降り、門をくぐり館に向かい歩いてくる。
中には一般の住民と思われるものも居るが、その全てが最低限の着飾った状態であった。
貴族の婦人等は、ドレスを着用していた。体形によって、体のラインをはっきりと見せるドレスから、飾りを多くして体型見えないようにするドレスまで。
流行り廃りがあると思われるが、現状半々位の割合だろう。体のラインをはっきりと見せるドレスは飾りは最小限にし、生地や肌を見せるためのデザインを重視し、飾りは胸元にワンポイントの宝石と言う形がほとんどだ。
体型を見えないようにするドレスは、レースや鳥の羽、さらには段をつけたフレアスカート等、ふわふわした物を多く飾り付け、布地にかけた金額が多いのと、埋もれてしまうためあまり宝石は付けないと言う形が多かった。
体形に関してはふくよかな方も、細身の方もデザインは両方着ているので、稀に見栄えの悪い方も居るが、基本体型維持を美徳として居るため、体質的に不可能な者や、負傷して体型を維持できないような者以外あまり見栄えの良くない者はほぼ居なかった。
男性側は奇抜な格好をするのではなく、パッと見地味な形が多い。暗めの色調で、黒、茶、紺等の色彩が多い。だが、その裏地にはかなりのこだわりを持っていた。黄色や赤、青、水色や橙色等、色々な花の色を再現した色を裏地にしており、寒くない館内では、わざとボタンを外し、さり気なくその色をアピールすると言うのが今の流行りであった。
それ以外にも、ボタンには細かい彫り物をしており、それだけでも一品芸術と思えそうな模様や、型の縁取り部分にベース地より少しだけ明るい色でラインを入れ、形の強調等、一見地味だが、さりげない見栄えの良さという事を行なっていた。
一般庶民は、そこまで飾り付けることが出来ず、一日だけ貸服屋から借りたり、手持ちの一番良い物で来ることも多かった。商家の者は貴族に準じた物を着てくるのだが、貴族に遠慮してか、貴族の平均より若干落ち着いた物を選んでいた。
館の入り口の扉は開け放れており、アールトネン家への入館は自由になっている。入り口の豪華な両開きの扉をくぐると両脇にすぐ目に入るものがある。二人の奴隷だ。
今回オークションにかけられる予定の奴隷が両脇に目立つ様にスペースを与えられ、来館者に愛想を振りまいている。
入り口に立っているという事だけあって、見栄えの良い奴隷で、今回は片方が健康的な肉体美を持つ男性の性奴、もう片方は凹凸がしっかりとした貴族の令嬢と見間違えるかのような女奴隷だった。男性の方は自身の肉体を見てもらうために、下着1枚で立っており、その体の魅力を十分に見てもらうために色々なポーズを取っていた。
女性の方は、特に何すること無く、そのまま立っており、来場者に笑顔で手を振り、着飾った自分の魅力を見てもらうために時折訴えるかのような視線を向けていた。
アールトネン奴隷商のオークション前に、奴隷達のアピール時間がこの様にアールトネンの屋敷を利用して行われている。奴隷一人ひとり、ある程度のスペースを与えられ、今まで稼いだ金額を用いて着飾り、アピールしていく。アピールの内容が良ければその分買い取られる確率も高くなるし、高い地位の者に買い取られる可能性が高い。ただ、高い地位の者が良い性格をしているかどうかは別だが、アールトネン家への配慮と言う事で、高い地位に居る者ほど、奴隷の酷い扱いをすることは少なかった。
もちろん、奴隷と言う事なので、アールトネン家では酷い扱いをされようが、性奴では無い者を性奴にしようが本来何も文句を言うことが出来ない。だが、その様な噂は貴族間で簡単に広がってしまい、その噂は奴隷商へと伝わる。体調を整え、見栄えを良くし、綺麗な状態にしてからオークションにかけるため、それまでの費用がまったくの無駄になる。実際はその費用を踏まえて最低金額を設定するのだが、その様な扱いをするのであれば、場末の隷属魔法を使えず、刺青で行ってる奴隷商でやってほしいと言う意識が全体にあるのだ。
ただ、その考え方はこの国だけであるので、他の国ではもっと酷い扱いを受けている奴隷達は多いとのことだ。他の国から買い取られた奴隷がアールトネン奴隷商で引き取られた後、ここで生涯を終えたいと言われるくらい、酷い扱いの所もある。現在の料理長等は料理の腕を見込まれて他の国で奴隷として買い取られたらしいが、結局苛立ちを発散するためだけの発散奴隷であった。あまり、痛がり方が面白くないという理由で売られ、当家に買い取られた後上記の事を父であるコスティに伝え、そして試験を受け、認められた上で努力し、現在は料理長にまで登り詰めた。
奴隷の印は残念ながら刺青でされており、消すことが出来ないため、それを上書きするような形で隷属魔法で当家の使用人と言う表現をしている。
近隣の住民には奴隷ではない事がわかっているが、市場に初めて来る行商人等には未だに酷い扱いを受けてしまうと言っていた。
そして、アールトネン奴隷商としての奴隷達の評価を伝えるために、奴隷の表現スペースに一枚の紙を置いておく。
それには奴隷の名前、出身地、性別、身長体重の他、売られた経緯や特技の他、性交渉の有無、ある場合においてはそれにおける評価、そして、性格や購入者への向き不向きが書かれていた。
入り口に居て愛想を振りまいている男性性奴は、性交渉の評価はとても良く、過去の経験人数もかなりの人数となっていた。だが、自発的に行った性交渉ではなく、一度この奴隷を購入した者が貴族の会合で無差別に貸し出しており、そこでの経験人数だと言う事だった。
売られた経緯はその家の事業が失敗し、少しでも金策する為に売られたと言う事だった。
性奴目的なので、本来禁止されている肌への接触は奴隷側から許可を得た時にすることが出来る。触る場所に関しては奴隷に一任しており、貴族の婦人達はこぞって下腹部の膨らんだ部分を触れていた。
もう一人の女性奴隷だが、こちらは性奴では無く、労働奴隷であった。
売られた経緯は農村生まれの彼女の親は、不作のため税を支払うことが出来ず、彼女に許可を得て売られることに。
農家の娘としては色々なことができるが、特別と呼べるような特技があるわけでもなく、売られた時は弟達に食べ物を多く渡しており、やせ細った状態であった。ラウリがこの娘を買うと仲買人に伝えた時、驚きの声と共に、反対の声が上がったが、磨けば光るし、素材も本来良い者だと予想し、購入に踏み切った。
彼女の体を戻すために実に1年もの時間が必要になったが、性格もよく、色々なことを率先して手伝っていた為、当家の使用人達からの評価も高く、ドレス以外の物は女使用人達から貸し与えられたり、化粧なども施された。その為、入り口の目立つ位置に置かれることになったのだ。
この二人の奴隷を通り抜け、ホールの奥に向かうと、受付とクロークがあり、オークション終了後まで預かることができた。今は初夏な為、ほとんど預けるものは無かったが、日焼け防止のストールや帽子等は多く預けられ、暇をしているという事は無かった。
ホールの奥、T字路を右に進み、一つ目の部屋から5つ目の部屋までが今回のオークションで販売される奴隷達の表現スペースになっている。
掃除が得意な者や、剣術が得意な者、女性の性奴を望む者や、やせ細ったままだが、農業研究をしていた者。多くの一芸に突出していたり、平均が高い者、性格の良い者、性格は悪いが、見栄えがとても良い者等全部で20人見ることが出来た。
料理が得意な者は、その料理を一口サイズで振る舞い、舌鼓を打たせていた。知識を誇る者は、専門分野の知識を大きな紙に書き上げ、質問を受け次第返答すると言う形を取っていた。
その様な会場をラウリは一人の女性を連れ、案内していた。
「ラウリ様、私なんかがこんな綺麗な服を着て、そしてお供をしてよろしいのでしょうか?」
「ああ、それは気にしないでくれ。いつも一人で会場を歩いていると色々と言われるからね」
その女性は先日、仲買人のレナルドから買った一人、ソニヤと呼ばれた女奴隷だ。ドレスを纏い、化粧をし、髪も結い上げている。おかげでそこそこの見栄えだった者が、貴族の令嬢と錯覚するくらいにまでなっていた。立ち振舞はラウリに恥をかかせない様にと短期間で女使用人達から躾され、急いで身につけたものなので、少々荒っぽい点もある。元々農村出身の成人したばかりの女性に貴族の振る舞いを求めるのは酷だろうが、この大きな舞台で、しかも、他の奴隷商に比べはるかに待遇の良い場所の当主の子息に恥をかかせるわけにもいかないので、ソニヤ自身も必死になって学んだことである。装飾品や化粧に関しては、まだ短い期間だがコラリーを始めとする女使用人達に気に入られ、おもちゃと言えば聞こえは悪いが、貴族の前に立っても恥ずかしくない様にされていた。
おかげで細かい立ち振舞はしっかり見られていれば間違えている所も多いが、多数の人が居る中、そこまで細かく見る人はほとんど居なかったんおで、その立ち振舞が間違えていると気づいた人でも、その首元の奴隷紋を見ると、まだ覚えたてかと勝手に納得し、大きな問題に発展することは無かった。
「ラウリ様、お久しぶりでございます」
「おお、ケルヴィネン家のアルピ様でございますね。本日はお越しいただきまして、誠にありがとうございます」
黒地に内側が水色の服を着込んだ色白の若い青年がラウリのことを呼び止め、挨拶をする。
「今回もお伺いに参りました。いつものように大盛況でございますね」
「ありがとうございます。これも皆様のおかげでございます。本日はアルピ様はどういった奴隷をご所望で?」
「一人、女性の奴隷をと思いまして」
「そうでしたか。今年は見栄えの良いものから、頭の良い物まで取り揃えております。残念ながら床上手な者は今回は居ないのですが、もしご入用でしたら娼館の方からお譲りいたしますが?」
「いやいや、そういう要件では無いのですよ。ご存知の通り、私は3番目になります。独り立ちし、年齢も19となり、そろそろ身を固めたいと思いまして」
「そうでしたか。それでは、入り口の者を筆頭に、数名今回ご案内できると思います」
「ええ、彼女は素晴らしいですね。少しだけ話しましたが、頭の回転も早いようです。ですが、私の稼ぎでは高嶺の花となりそうです」
貴族の長男や長女、次男や次女等は縁組が組まれることが多いので、三男や三女等は領地を分割して分け与えられることは滅多に無く、大抵が自立して生活をせざるを得ない状況になる。一般的には今まで学んだことを使い、役人や商人等の道に向かうことが多いが、中には衛兵になるものも居る。女性であれば、婿入りすることが一番楽なのだが、学者として生計を立てたり、中には店を出すものも居る。そういった貴族社会から外に出たものは基本自由恋愛となるので、婚姻に関しては自分で見つけなければならない。
自分で見つけられるものは勝手に自分で見つけに行くのだが、親が貴族と言う事で、庶民たち周りから無理矢理などと思われ、良い目で見られない場合もある。親の手前、駆け落ちするわけにもいかず、引き下がり、他を見つけるという事も少なくない。そこで、周りに気を使わず、しかも自分が求める人を探し出すことが出来るという奴隷から選ぶというのも現在では増えてきている。
購入した奴隷を婚約者に選び、奴隷から開放された時に結婚をするという、婚約奴隷と言う形がこれだ。この形を取りたい場合はやはり隷属魔法を使える奴隷商から購入する事がほとんどである。その理由は単純に、首につく奴隷紋だ。ラウリ等の奴隷商では魔法で付けるために、魔法を解除した時は何も跡が残らないのだ。その為、婚約奴隷という事が周りにわかっていても、目立つことがなく、時間が経てばその人の人柄によっては忘れ去られてしまうことだろう。
その為、複数の男性客や、複数の女性客だけで来館すると言う事もしばしばある。
だが、元奴隷と言う事で、傍若無人な振る舞いをしたり、貴族に嫁いだ時等に多いのだが、使い込み等をした場合、再度奴隷に落とされることもある。この場合はその都市の執務官や衛兵長、親族の長の承認が必要になるのだが、よほど酷いことをしなければそう簡単に落ちることはない。だが、権力や金を持った元奴隷と言うのは豹変することもある。その為、この様な措置が取られている。
この様な再度落ちた奴隷の場合は、売られた経緯の詳細を公開される為、かなり買い叩かれる場合が多い。その為、大抵は場末の奴隷商が買い取り、売ることになる。
とある男性の場合、婿入りし、男爵位まで取得したのだが、使用人を手篭めにしたり、領民を面白半分に殺したりという暴挙を行なっていた為、再度奴隷階級に落とされることに。買われた先で去勢され、荷物持ち等の商家の下男として他のものより薄給で働くことになった。
女性の例で言えば、伯爵に嫁ぐことになった者がいた。だが、資産を自分の好きな服や宝石、賭け事に使い込み、更には隠れて借金をこしらえることがあり、再度奴隷階級に落とされることに。美貌以外何も持ち合わせていない者だった為、どこも買い手が付かず、最終的には安い娼館に買い取られることに。働いた半分の金額を使い込んだ返済に当てることになった事もあった。
だが、これは一部の特例だけであり、特にアールトネン奴隷商からは一例も出していない。その為、婚約奴隷目的で訪れる者は少なくなかった。
再度落ちた奴隷に関してはラウリも一例だけ関わったことがある。
若き伯爵の婦人となった女奴隷だったが、結婚を機に見栄えの良い男性奴隷を買い集めて、自分の神輿を持たせるという事を行なっていた。しかも、外だけでなく、館内全てに置いてである。社交界の時でもそれを行なっており、多数の迷惑をかけていた。たまたま、この伯爵は、他の伯爵家より地位の高い家であったため、同位の者でもそう簡単に注意することが出来なかったのである。それ以上の位の高い者である侯爵家が出席する社交界には一度も出席することが無かったため、増長はより進んでいった。
社交界では、とある男爵家の婦人を地位を利用して執拗にいじめることをしていた。周りからもやりすぎだと噂をされる事があり、その増長を抑えるために侯爵家が対外的には秘密にして社交界に出向いた時、何処から聞いたのか、その会は欠席すると言う始末。
若き伯爵にその事を伝えるのだが、年上の女性と言う事であまり強く言えないらしく、増長を止められる者は居なかった。
だが、3年後、突然その若き伯爵から再度奴隷落ちを宣言される。
当たり前のように反発し、見栄えの良い男性奴隷をけしかけるが、その男性奴隷も良い扱いをされておらず、その場で逆に取り押さえられることになった。
そこで、若き伯爵が購入元の奴隷商に話を通しに行ったが、買うことを拒否されてしまい、当家のアールトネン奴隷商を紹介された時、ラウリが関わったのだ。
女奴隷の評価は普段から何もしておらず、運動もしていないため、性交渉に関しては全くの無能者の烙印を押さざるを得なかった。
男性奴隷も、コレクションとして購入してただけの様で、特に何もしていなかったとも後から聞かされた。
本来半年は精神安定のために出品せずにおいておくのだが、この様な奴隷を長い期間持つ事は難しいので、話題の人と言う事で近々に行われるオークションに出品することに。
そのオークションでは、こちらのつけた大金貨2枚と言う最低価格で落札された。
購入者は、執拗にいじめられた男爵家だと言う事も、物事の道理と言ったところなのだろうか。
後日、その女奴隷を初めに販売し、再度奴隷落ちした時に、購入を拒否した奴隷商に出向いた時、その当主から面白い話が聞けた。
初めに購入した時、見栄えは良いが性格が悪かったため、オークションで売れなかったと言う実績を作り、鼻っ柱を折るつもりだったそうだ。
ここのオークションは、突拍子もない者も扱うので、初期価格で誰も挙手がなかった場合、損益分岐点より少し黒字位を限界点とする下げるオークションを行うことがある所だ。
その女奴隷が決めた金額で売れずに、下がり続けて更に売れなかった場合、彼女のブライドはズタズタになるだろう。この様なシナリオを考えていたそうだ。
だが、最高額に成るであろうかなり高めの初期価格で買い手がついてしまった。これが、この後の悲劇につながる事になった。
この話の締めとして、若き伯爵はどの様なことになったのかと伺うと、新しい女性と結婚したという事だった。
市井の娘であった為、よほどあの女奴隷で懲りたのだと思われていたそうだ。
だが、この話を聞いた時、ふと頭に過ぎった。女奴隷との結婚前に市井の娘と知り合っており、政略結婚せざるを得ない伯爵と言う地位で市井の娘と結婚は不可能だろう。そこで、見栄えだけは良い者を選び、無理矢理結婚し、その女が酷かった場合離婚をする。そして、周りからは大人しい者の方に行くのも仕方がないと思わせたかったのではないかと。
元手がほとんどかからず、話題性もあり、少しだが儲けさせてもらった立場の為、これ以上蒸し返すことはしない。だが、この案件はかなり黒いものがあったように思えた。
「おお、ラウリ。今日は覗かせてもらいに来たよ」
「カテーラ男爵、それに男爵婦人、ようこそお越しくださいました」
先日、夜の仕事をしたカテーラ男爵と男爵婦人の二人だった。二人共貴族という事に恥をかかないようにかなり着飾って来ていた。男爵の方の裏地はダリアの様な赤色というか橙色というか、明るめの色に染色された物を利用し、表地が漆黒なので、そのギャップがはっきりとし、とても鮮やかだった。
婦人の方は体のラインをはっきりと引き立てるような青いスリムドレスで首元に大きな宝石をワンポイントとして飾っていた。胸元は首元まで閉じているタイプではあったのだが、ノースリーブであり、大きな胸がより強調されるようになっていた。
「お、誰だね、この娘は」
「はい、先日買い取らせて頂いた、ソニヤと言う奴隷です」
男爵はラウリの斜め後ろで静かに佇んでいる女性を見つけるとラウリにその女性のことを質問した。もちろん、首元の模様を理解してのことだ。
「ほぅ。ラウリのお気に入りと言う事か」
「いえ、戯れにございます」
外用の笑顔で、控えめに答えを伝える。
「そうかい。もう試したのか?」
「いえ、未開通なので、私は何も」
「そうなのか。そう言えば、未開通の者とは一度もしたこと無いのではないのか? 私は気にしないのだが、そういうのが好みという者もいるそうだし、一度体験しておいては?」
未開通の者をラウリが側に置いておくというのが非常に驚いたことらしく、男爵は思わずソニヤのことを眺めてしまう。だが、男爵婦人がその男爵の仕草に気づいたのか、軽く肘で小突く。
「そうかもしれませんが、そこまで体が空くことがありませんので」
ラウリの未開通と一度もしたことがないと言うのは本当のことである。初めての手ほどきは娼婦から。奴隷商の仕事としては開通済みの者のみ相手にすると言う約束事があるからだ。しかし、ラウリにはその未開通の者と行為をすることに何ら魅力を感じていない。ほとんどが仕事であり、たまに体が空いている日でも、行うのは娼館の女達からせがまれて行為をすることが多いというのもあった。
「それもそうだな。いや、すまなかった」
「いえ、今度折を見つけて試してみます」
「ラウリが初めてになる娘は幸せなのか不幸なのか。さて、今日は楽しませてもらうよ」
「はい。ごゆっくりお楽しみ下さい」
ラウリの言葉を聞くと、男爵と男爵婦人は手をふりつつ懸命に表現している奴隷達の方へと歩いて行った。
奴隷たちの自分を表現する時間が終わり、館の隣にあるホールに舞台を移す。
ここは、基本アールトネン奴隷商のオークションを行うために造られたものではあるが、現在では、楽団や劇団等の登竜門までは行かないのだが、ここの舞台に立てる事を夢見る者が少なくない場所になっている。
その様になった理由が一つ。一人の奴隷が楽器を以って自分を表現し、たまたま来ていた楽団長がその奴隷を金銭に糸目をつけずに購入した。
その時はそこまで素晴らしい演奏だったと言えなかったのだが、半年後に行われた国主催のコンサートでその楽団が演奏した時、重要なソロパートをその奴隷が行い、素晴らしい演奏という事で国から特別報奨金が渡されたと言う逸話があった。
それ以来、ここに立って演奏すると大成すると言う噂が広がり、表現という形で同じ劇団側も夢見るようになったと言う事だ。
この舞台は少し高めに作られてあり、客席も1,000人は入れないが大きめに造られている。貴族とは言え、個人の所有物でこれだけの規模を持つ事はほぼあり得ないことだ。
そんなホールの舞台を使い、オークションが行われる。
客席はほとんど埋まっており、このオークションの注目度が図られる。貴族間の付き合いと言う事で来館する者も少なくはないが、余裕がある貴族であれば、その様なときにでも大枚を叩いて購入していく事もある。貴族だけでなく、商人や一般の住民の中でも多少裕福な方や、今まで貯めにためた金額で良い奴隷を買いに来た者も見受けられる。
その様な注目されているオークションだが、今回は20名のみの販売となる。多い時は50人ほどになることもあるのだが、あまり多すぎるとこのオークションの価値が下がり、更に良い者を揃えてという形に見られないこともある。他には食事の用意するのが大変な事や、健康や体調維持の為に使用人を増やさなければならない状態になり、使用人の質の低下、食事の質の低下、最終的には奴隷の質の低下へとおちていく可能性を考慮し、現在は20名前後に落ち着いている。
舞台の上では進行役が二人、会場を盛り上げるために口頭に寄る説明を漫談のような形式で行なっている。
毎回同じ演目であるため、飽きている人もいるが、逆に合いの手を入れるような者も増えてきており、継続して同じ事を行うのもありなのかと思っていた。
内容は簡単に言えば、舞台の上に登ってきてはいけない。オークション参加するには開始の鐘が鳴らされた以降に挙手と、指で金額を提示すること。最低入札価格は指一本による大金貨1枚から。5本開いていたら5枚、全ての指を握って挙手すれば10枚と言う形だ。
他のオークションでは4枚で大金貨1枚分となる金貨を含めて両手で表現をすることがある。片手で20まで数えることが出来るので、それを利用した方法だ。もちろんそれ以上の価格になれば、このオークションでも両手を利用する。
大金貨4枚あれば一般的に半年は何もしないで生活できる事を考えれば、最低入札価格がとても高いことがわかる。だが、この奴隷商はそれだけの品質と、信頼、そしてそれだけの奴隷に対する努力を怠ったことはない。それ以外にも、その奴隷の能力を見抜くと言う事も。
先の演奏した奴隷の件であるが、これは他の商会が卸売りから買うこと無く、これ以降はこの奴隷が男性であった為、場末の奴隷商しか行き先が無いと言う限られた境遇での購入だった。
当家で販売した最低額は大金貨1枚である。その為、一般の住民も買えないわけではない。だが、毎回その様なものが居るわけでもなく、握りしめた財布をそのまま一度も開けること無く帰宅するという者も多かった。
基本的にいたずらに値段を釣り上げる行為が確認できた者に関しては購入権を剥奪した上でその同額を支払わせることになっている。
実際その線引きは難しいところであるが、当家主催のオークションを意図的に破壊しようと言う事になるので、このオークションを楽しみにしてきている貴族達がその様な行為があった場合、価格を釣り上げた者は簡単に他の貴族たちから釣り上げられてしまう。もし、それが貴族だった場合は高い地位にあるものであってもしばらくは良い目で見られることはない。ひどく荒らした場合は自分の仕事に影響が出てしまう場合もあった。その為、基本は自制し、明らかにおかしい時のみ剥奪と言う形を取っていた。
舞台の上では一人目の奴隷が紹介される。
簡単な自己紹介や自分の特技、特徴等を口頭や実演を以って表現する。
館内での表現時間とは違い、ここでしか表現できない者も居る。武器の扱いに長けた者や、踊りで長けた者であれば、表現の相手を付けることもある。館内で表現が完結してしまう者、例えば料理上手等は既に舞台上での表現時間はとても短い。
ここまでで精一杯の表現をしないと、金額が低くなることもある。買い取られる先は、完全に運でしか無いのだが、高い金額になればなるほど、相手が貴族や豪商になる事が多いため、自分の命を預けるに値する可能性が高くなる。
実際、安い金額で、一般の住民に買い取られて不都合無く生涯を過ごしたという者もいるが、確率的に言って一般住民の方が苦労することが多い。
その為、精一杯自分を表現し、高く買い取ってもらうためにこの時間を用意している。
表現が終わり、進行役の二人に合図をし、最低価格を伝えてからオークションスタートの鐘が鳴る。
次々に声と同時に挙手し、金額を表現していく。
人数が多いため、初めは収集が付かないくらい色々な所から声が上がるが、完全同時の挙手であっても残念ながら進行役のさじ加減とならざるを得ない。
次第に人々の声や挙手が減り始め、一つに収束していく。
落札が確定し、会場は拍手でその落札者を舞台上に迎える。この後売買契約へと移行するのだが、万が一このオークションで他の奴隷も購入予定だと言う場合は舞台上からそのまま席に戻ることになる。
大抵は一人を買うだけで精一杯になるので、このまま奴隷と共に舞台裏へと進み、契約書を交わすことになる。
全ての奴隷の発表が終わり、20人すべて買取先が決まった。
先日の快楽に溺れやすい女奴隷も、少年奴隷も、自分勝手に振る舞う男性性奴希望の奴隷も売れ残ることはなかった。
女奴隷は貴族の三男が購入した。王城内での執務官らしく、貴族階級ではないが、結婚出来れば玉の輿扱いと思えるだろう。
少年奴隷は未婚の女性男爵が買っていった。優秀な女性なのだが、男性への好みが少々こだわりがあるようで、同じような少年がもう一人居るとのことだ。少年の絡み合いを見るのか、それとも奉仕させるのか。それに関してはわからないが、ともかくそれらを見込んでの購入だろう。
男性性奴希望の奴隷は希望通りの相手に購入されたわけではなかった。やはり、こちらの評価が悪かったため、あまり良い金額での落札ではなかったが、貴族の女性が購入者と言う事で最悪という形ではないだろう。だが、この貴族の女性は見栄えの良い男性だけをはべらせる事が好みと言う事を公言している者なので、先日学んだことが生かせるのかは全く別なのだが。
「次は私もここに立つんですね。良い人に買って頂ければいいのですが」
オークションが終わり、全ての来場者がホールから退出した後の舞台に立ち、ソニヤがそうつぶやく。
既に運命を受け入れているのか、諦めなのか、悲壮感は全くない。だが、奴隷と言う立場である。希望ある未来が約束されているわけではないのだ。
運が良ければ婚約奴隷に。普通で労働奴隷。悪ければ性奴。もっとひどければ発散奴隷に。単純に分けるだけで4通りになる。
今でこそ居なくなったと言われている快楽殺人主義者に購入され、死の過程を楽しむ者や、医術目的に解剖されると言う事もあり得た。
最悪な方面はほぼアールトネン奴隷商に来ることはないが、ゼロとは言いがたかった。
その様な事を知っているラウリは思わず声に出してしまう。
「僕がお前を買ってやる!!」
思わず大きな声になってしまった事に、ラウリ自身が驚いていたが、言った言葉に対して後悔は無い。真剣な眼差しでソニヤの事を見る。
「ラウリ様が、私を?!」
ソニヤは驚きながらラウリに振り向きながら声を出す。奴隷商であれば、奴隷の扱いは一人の人間としてではなく、一つの消耗しやすい商品として扱わなければならない。ラウリ自身も当然その様な教育をされ、その様に振舞ってきているはずだ。そんなラウリから出た言葉だとは到底思えなかったのだろう。心底驚き、大きな声が出てしまった事に慌てて口を塞ぐように遮る。
「そう、ソニヤを僕が買う! オークション前で奴隷が売られることは、本来行なってない。でも、例外がないわけではない!」
2度も買うという宣言をした。ラウリもその言葉を反芻し、自らの体にも教えこむかのように言葉にした。
「もったいないお言葉です。私ごときに無駄遣いなさらずとも」
ソニヤにとって、打算的な考え方をすれば優良物件であろう。だが、実際その様な打算的な考え方は全く持っていなかった。それに、ラウリ自身も短い時間生活を共にし、打算的な考えを持ってしまう事無いと疑っていなかった。その為、この様な言葉が出てしまったのだろう。
「無駄遣いだとは思ってない! お前は僕の奴隷に……、いや、それ以上の者になってほしい!」
ラウリに取って何処までの者になって欲しいのか、頭の中にビジョンは無かっただろう。これに関しては完全に勢いで口にしてしまったと言う所だ。だが、そのくらいの決意だと言う事を知ってほしいというところだろう。
実際、最高位であれば婚約奴隷だろう。だが、貴族、しかも将来爵位を継ぐ位置に居る者であれば、政略結婚を考えなければならないだろう。だが、先に妾が居た状態というのは非常に対面の悪いことになる。それを考えれば、ラウリのビジョンは将来的にと言う事も無意識に含まれてしまっていたのかもしれない。
「ありがとうございます。それでは、期待して待っていますね」
それがわかっていたのか、わかっていないのか、ラウリの言葉が本気だという事だけは理解し、嬉しそうに笑いながら返事をする。だが、成人扱いされる16歳となっているが、まだ16年しか生きていないのだ。その事が何処まで重要なことなのか、わかっていなかった。
「うん。任せて」
ラウリもまだ成人直前。勢いに任せて宣言したが、どんなに重要なことなのかも理解していなかった。だが、この気持ちだけは本当だと、心から出た感情だと理解していた。
「旦那様」
「おお、お前か」
「お耳に入れたいことが御座います」
「なんだ?」
「ラウリ様が、例の女奴隷を買うと宣言したそうです」
「ラウリが……。わかった、下がって良い」
「はい。それでは失礼致します」
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全4話書き上げ済み。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
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