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一章:出会い
2.男の仕事
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僕が平伏したまま沈黙が続き、頭を上げていいのかと悩んでいるところに声が降ってきた。
「いつまでも平伏してなくていい。こちら側においで」
落ち着いた感情の起伏の少ない声。だけど、なぜだか冷たいとは感じずに僕は立ち上がり、柵を潜って彼の側へと並んだ。
「あの馬の世話もしているというが、綺麗な毛並みだった。まだ幼いのに丁寧に世話をしているんだな」
「……世話をするのも、好きだから。ううん……馬が好きなのかも……」
父さんから言われた無礼な事をするんじゃないという言葉が頭に引っ掛かりながらも、どうしたらいいのかわからないまま答える。
「そうか」
頭の上に手が伸びてきて、叩かれると身を竦めたけど、叩かれる事は無く柔らかく頭を撫でられた。
「馬が好きで、馬に乗る才もある……平民である事が惜しいな」
残念そうにつぶやく彼に僕はその顔を見上げた。
「あの……?」
「ああ、気にしなくていい。独り言だ」
それだけ言って、彼は僕の頭から手をどけて、口の端を上げ笑みを浮かべる。
「それより、あの馬の事を聞かせてくれ」
「えっと……あの子は、他の子より体は小さいけど、凄く動きが軽くて……それと……」
話を変える様に訪ねてきた彼に、僕は悩みながらもあの子の良い所を話していく。拙い喋りだったと思うのだけど彼は、穏やかに僕の話を聞いてくれて嬉しかった。
6人兄弟の末っ子。両親は牧場の仕事で忙しく、兄弟達もすでに働いていたからこうやって話を聞いてくれる事は、ほとんどなかったからだ。
「えっと……それから」
「もう大丈夫。ありがとう」
何かもっと言わなきゃと思っていたところで彼に止められる。変な事を言ったかと思ったけど、左手で頭を撫でてくれたから怒らせたわけではないと安心した。
「君の馬が好きという言葉に偽りはないようだ。君の年齢を聞かせてもらえないか?」
「僕の歳?年明けに十になったよ」
「十か……今、連れ出すのは早いか」
彼の問いに答えれば、彼は考え込むように右手を口元に当て呟く。
「なんのこと?」
「……実は、私の厩舎で働く者を探していてな」
「厩舎?お兄さんも牧場やってるの?」
こんなに綺麗な人なのに牧場仕事は似合わないなぁ……と、思っていたら彼は笑った。
「はははっ、牧場ではない。私は調教師だ。競走馬のな」
「調教師……?競走馬……?」
父さんからうちの牧場で育てられた馬は全てが領主様の所有物だと言う事は聞いていたが、それらが何に使われるのかは知らなかった僕は首を傾げた。
「調教師っていうのは、君がしていた訓練を考えて、実行したり、させたりする仕事さ」
「父さんが、僕にどんな事を馬に教えておけって言うのと似てるね」
「ふむ……そういう所は似ているのかもしれないな。それ以外にも、競走馬として走れそうな馬を探したり、競走馬として調教した馬の走るレースを選んだりするんだが……」
僕の言葉に頷いた彼は、僕のわからない言葉を続けていたが、その表情はどこか楽しそうだった。
「っと、わかりにくかったな」
「ううん。お兄さん、楽しそうだった。わからない事も多かったけど、お兄さんが、馬の事好きってのはわかったよ」
長い銀髪と鋭い面影に薄紫の瞳。冷たい印象の人なのに、自分の仕事を話す横顔は仕事や馬に対しての熱量が僕にもわかるほどに熱く見えた。
「いつまでも平伏してなくていい。こちら側においで」
落ち着いた感情の起伏の少ない声。だけど、なぜだか冷たいとは感じずに僕は立ち上がり、柵を潜って彼の側へと並んだ。
「あの馬の世話もしているというが、綺麗な毛並みだった。まだ幼いのに丁寧に世話をしているんだな」
「……世話をするのも、好きだから。ううん……馬が好きなのかも……」
父さんから言われた無礼な事をするんじゃないという言葉が頭に引っ掛かりながらも、どうしたらいいのかわからないまま答える。
「そうか」
頭の上に手が伸びてきて、叩かれると身を竦めたけど、叩かれる事は無く柔らかく頭を撫でられた。
「馬が好きで、馬に乗る才もある……平民である事が惜しいな」
残念そうにつぶやく彼に僕はその顔を見上げた。
「あの……?」
「ああ、気にしなくていい。独り言だ」
それだけ言って、彼は僕の頭から手をどけて、口の端を上げ笑みを浮かべる。
「それより、あの馬の事を聞かせてくれ」
「えっと……あの子は、他の子より体は小さいけど、凄く動きが軽くて……それと……」
話を変える様に訪ねてきた彼に、僕は悩みながらもあの子の良い所を話していく。拙い喋りだったと思うのだけど彼は、穏やかに僕の話を聞いてくれて嬉しかった。
6人兄弟の末っ子。両親は牧場の仕事で忙しく、兄弟達もすでに働いていたからこうやって話を聞いてくれる事は、ほとんどなかったからだ。
「えっと……それから」
「もう大丈夫。ありがとう」
何かもっと言わなきゃと思っていたところで彼に止められる。変な事を言ったかと思ったけど、左手で頭を撫でてくれたから怒らせたわけではないと安心した。
「君の馬が好きという言葉に偽りはないようだ。君の年齢を聞かせてもらえないか?」
「僕の歳?年明けに十になったよ」
「十か……今、連れ出すのは早いか」
彼の問いに答えれば、彼は考え込むように右手を口元に当て呟く。
「なんのこと?」
「……実は、私の厩舎で働く者を探していてな」
「厩舎?お兄さんも牧場やってるの?」
こんなに綺麗な人なのに牧場仕事は似合わないなぁ……と、思っていたら彼は笑った。
「はははっ、牧場ではない。私は調教師だ。競走馬のな」
「調教師……?競走馬……?」
父さんからうちの牧場で育てられた馬は全てが領主様の所有物だと言う事は聞いていたが、それらが何に使われるのかは知らなかった僕は首を傾げた。
「調教師っていうのは、君がしていた訓練を考えて、実行したり、させたりする仕事さ」
「父さんが、僕にどんな事を馬に教えておけって言うのと似てるね」
「ふむ……そういう所は似ているのかもしれないな。それ以外にも、競走馬として走れそうな馬を探したり、競走馬として調教した馬の走るレースを選んだりするんだが……」
僕の言葉に頷いた彼は、僕のわからない言葉を続けていたが、その表情はどこか楽しそうだった。
「っと、わかりにくかったな」
「ううん。お兄さん、楽しそうだった。わからない事も多かったけど、お兄さんが、馬の事好きってのはわかったよ」
長い銀髪と鋭い面影に薄紫の瞳。冷たい印象の人なのに、自分の仕事を話す横顔は仕事や馬に対しての熱量が僕にもわかるほどに熱く見えた。
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