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二章:ジャンという少年

14.三兄と次姉

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 洗って洗って、やっぱり最後の子はカピカピになって……全力で磨き上げたら、ちょっと早いけど昼ごはんの時間になる。

「あー……終わった終わった。もう腹ペコペコ……マル兄、飯行っていい?」
「俺じゃなくて兄貴に聞いてきてー。まあ、いいと思うけど」

 ジャック兄ちゃんの言葉に、マルセル兄ちゃんが適当に返す。まあ、今の管理者はダミアン兄ちゃんだからそう返すのもわかるけどね。

「りょーかい。行こうぜ、ジャン」
「うん」

 マルセル兄ちゃんは、馬を馬房に戻してくると言うので、ジャック兄ちゃんとダミアン兄ちゃんのいる厩舎に向かう。

「兄貴ー!飯食ってきていいー?」
「ん?終わったのか?ならいいぞ」
「よっしゃ!」

 ダミアン兄ちゃんから許可を貰えて、ちょっと早めに昼ごはんを食べれるとわかったジャック兄ちゃんが喜ぶ。


「昼飯昼飯~!」

 ご機嫌で僕の先を歩くジャック兄ちゃん。成長期真っ只中。常にお腹を空かせている気がする。

 まあ、父さん含め、肉体労働の男家族はみんなよく食べるんだけどね。僕も姉ちゃん達よりは食べるし。

 ご機嫌なジャック兄ちゃんの後をついて家に入れば、食欲をくすぐる匂いが漂ってきた。

「かーちゃん、飯なにー!」
「鶏肉と野菜のスープよー……って、泥だらけじゃない!?汚れ落としてから後ろから入ってきなさい!ジャンもよ!」

 ジャック兄ちゃんの言葉に僕らを見た母さんが悲鳴をあげる。そこまで泥だらけではないと思うんだけど、母さん的にはダメだったらしい。

 仕方なくジャック兄ちゃんと家の裏へと周り、シャツを脱いでから裏手にある井戸から水を組んで頭から被る。

「っううううう!」
「冷てーーーーー!」

 暖かくなってきたとはいえ、深くから汲み上げる井戸水が冷たくて二人して震える。

 夏真っ盛りだったら気持ちいいんだけど、まだまだ井戸水を被るのは寒かった。

「なに、馬鹿なことしてるのー?お風呂使えばいいのにー」

 そんな僕らに声をかけてきたのは、洗濯物を取り込んでいたアニー姉ちゃん。

「わかってねぇなアニー。冷たいからいいんだよ」
「風邪引くわよ。いや、馬鹿だから引かないのかしら?」
「なんだとー!」

 年子なジャック兄ちゃんとアニー姉ちゃんは、なんと言うか常に喧嘩している気がする。どっちも気が強いから、引かないんだよなぁ。

「アニー姉ちゃん。タオル貰っていい?」
「ん?ああ、いいわよ。風邪引く前にさっさと拭いちゃいなさい。あんたもこんな馬鹿の真似しなくていいんだからね」
「アニー!」

 話を反らして、止めさせようと思ったんだけど、さらに油を注ぐはめになってしまった……。

 タオルは投げて貰えたので、もう二人の事は放って置くことにしよう。

 騒がしくなるすぐ上の二人の喧騒を聞きつつ、濡れたシャツを洗い物用のカゴに放り込み、髪を拭きながら家の中に入るのだった。
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