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二章:ジャンという少年

17.長姉

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 重くなった買い物カゴを持って、帰り道を歩いていたら前から見知った顔が歩いてくる。

「あらジャンじゃない」
「エマ姉ちゃん」

 どうやらエマ姉ちゃんも買い物に行く途中らしく、縄で編まれた鞄を持っていた。

「見ないうちに成長したかと思ってたんだけど……相変わらず小さいわね」
「一昨日も会ったじゃん……そんなにすぐには成長しないよ」

 お嫁に行ったとは言え、小さな村。こうやって村に出れば、顔を合わせる事も多かった。

「あら、男の子は数日会わないだけで成長するものよ。あなたが小さいの」
「うぐ……」

 容赦のない言葉に思わず呻く。これだからエマ姉ちゃんは苦手なんだ。

 小さい小さいと言われるが、同年代の子がいないから実際にはわからない。

 それでも、大人なエマ姉ちゃんの肩くらいにはあると思うし、馬に乗れる程度には身長があるから小さくないと思いたい。……毎回苦労はしてるけど。

「まあ、元気そうだからいいわ。それより……最近どう?シルヴァン様来たりした?」
「まだ競馬シーズンだから来るわけないよ……と言うか、旦那さん居るんだから、もう懲りてよ……」

 シルヴァン様の事を目を輝かせながら聞いてくるエマ姉ちゃんにげんなりと肩を落とす。

「旦那とシルヴァン様は別なのよ!あの人も悪くはないけど、シルヴァン様ってかっこいいじゃない?そりゃ、こっぴどく父さんに怒られたけど、観賞するくらいは許して欲しいわ」
「いや、ダメだって……」

 シルヴァン様に嫌われていて、父さんにもあれだけ叱られたのに、懲りないバイタリティーはいったいどこから来るのだろう……。たくましい姉だけど、本当に懲りてほしい。

 まあ、そんな人だから突然嫁がされても、旦那さんとやっていけてるし、どこでも生きていけそうな人だと思うんだけど。

「はぁ……あの美貌をもう一度見たいと言うのに現実は非情よねぇ……」

 エマ姉ちゃんが暴走してなければ今も見れてたよ。と、思いながらもその事は心に閉まっておいた。

「……エマ姉ちゃん、僕子馬達の世話あるから帰るね」
「あらそう……もうちょっと話したかったんだけど、仕方ないわね。父さん……は、他の牧場に言ってるんだっけ……母さん達によろしくねー」

 このままだと長話に付き合わされそうなので仕事があると言えば、目をぱちくりと瞬かせ、エマ姉ちゃんは気にしたこともないようにひらりと手を振って僕の横を通り抜けていく。

 ……本当に姉というのは厄介な存在である。
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