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二章:ジャンという少年

16.村へのお使い

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 ジャック兄ちゃんとアニー姉ちゃんが騒がしい昼ごはんを終え、一休みしたら子馬達に昼のミルクをあげようと思っていたところに母さんが食器を片付けながら僕に話しかけてきた。

「ねぇ、ジャン。村に行って夕食の買い物してきてほしいんだけど」
「え……僕、子馬達のミルクあげようかと……」
「俺がやっておくから行ってこい」

 どうにか断ろうと思ったのに、ダミアン兄ちゃんが横から口を挟んできた。子馬達の世話の方が良かったのに……。ここでも末っ子の立場は弱いのだ。

「わかった。なに買ってきたらいいの?」
「今、メモ書くから待ってちょうだい」
「はーい」

 母さんがメモを書くのを待ちながらぼんやりと窓の外を眺める。

 こういう日こそ、馬に乗って回りたい。乗馬の調教は仕事だけど、楽しいものは楽しいのだ。重種馬の放牧場は泥だらけだったけど、競走馬達の放牧場はもう少しマシだろうし……。

「ジャン、書けたわよー」
「はーい」

 乗馬に思いを馳せていたら、母さんが僕を呼んだので、メモと財布の入った買い物カゴを受け取って村に向かう。

 うちの牧場は、村からちょっと離れているから、店の並ぶ村の中心にたどり着くまで少し時間がかかる。でも、牧草地と小麦畑の続く畑道を歩くのは、嫌いじゃなかった。

「お、ジャン。今日もちいせぇな」
「あら、ジャンちゃん。お使い?頑張ってねぇ」

 すれ違う人達にそんな事を言われながら、適当に挨拶を交わしていく。

 牧場の末っ子だからか、いつまでも子供扱いされる。元々人数の少ない村だから、十二の僕もまだまだ数少ない子供なのだろう。

 うちの兄弟や従兄弟は裕福なこともあってすくすく育っているけど、村の子供達は育ちきらない事も多い。僕の年代は特にそうで、同い年どころか、前後の年の子供すらいなかった。

 だから、遊び相手はほとんど馬だったし、たまにジャック兄ちゃんとアニー姉ちゃんに遊ばれるばっかりだったから友達という存在がよく分からない。

 兄ちゃん達には、最低でも一人か二人はいるから、ちょっと羨ましいと思ったことはあるでも、馬がいたし、寂しくはなかった。

「おや、ジャンお使いかい」

 道をてくてくと歩いて、目的のお店にたどり着けば、お店のおかみさんが笑顔で迎えてくれる。

「うん、えっと……芋とニンジンと卵。あと、オススメのお肉があれば、それで」
「はいはい、ちょっと待っててね」

 店先にいたおかみさんが僕の頼んだ物を用意するのを待ち、並べられた品物を確認してからお金を払った。

「はい、ありがとう。いつもえらいわねぇ……その歳で字も読めて、計算もできるのはすごいわぁ」
「あはは……」

 ニコニコと誉めてくれるおかみさんに、愛想笑いを返す。うちの兄弟は最低限文字の読み書きや計算ができるけど、村の人達はそうじゃない。

 だから、毎回誉められるけど、僕はちょっと居心地が悪かった。こんなにも誉めてくれるのは、ジャック兄ちゃんとアニー姉ちゃんが天狗になっていたからだとダミアン兄ちゃん達から聞いているから、二人のせいだと思うことにしてる。おかみさんは何も悪くないのだ。
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