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二章:ジャンという少年

20.夕方の世話

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 クロネの524のブラッシングをして、しばらくかまってあげた後、他の馬房の子達もブラッシングしていく。

 うちに居るのは、鹿毛や黒鹿毛の子がほとんどだけど、青鹿毛、青毛、栗毛、栃栗毛、芦毛等の子も何匹か居て、珍しい色だと重種馬や小型馬の子で白毛の子もいる。

 どの子も綺麗な毛色だから、ブラッシングして毛並みが整っていくのが凄く楽しかった。

「ジャン。そろそろ区切りの良いところで終われ」
「あ、はーい」

 ブラッシングに夢中になっていたら、ダミアン兄ちゃんが僕を呼びに来たので反射的に返事をする。そんなに時間が経ったのかな?と、馬房についている歓喜用の小さな窓を見上げれば、茜色を通り越して紫になり始めた空が見えた。

「あー……もうこんな時間か……」

 どうりでダミアン兄ちゃんが呼びに来るわけだ。まだまだ、ブラッシングしたいところだけど、今日できなかった子は明日時間があったらやってあげようと心に決めた。

「君までは終わらしていくから安心してね」

 動きの止まった僕を気にするように振り向いた子の首筋を撫で、ブラッシングを続ける。

 日が落ちきる前に、納得がいくまでブラッシングをしてからブラシを物置へと片づけて、作業部屋へと顔を出す。

「ダミアン兄ちゃん、終わったよー」
「わかった。俺もミルクやったら戸締りして戻るから、先戻ってろ」
「じゃあ、手伝う。餌やりもあるでしょ?皆お腹空いてるだろうし、二人で終わらせよう」
「そうか?なら頼んだ」

 ミルクを温めていたダミアン兄ちゃんに手伝いを申し出れば、二つ返事で言葉が返ってくる。

「これ、注いできてくれ。あと一つは温めておくけど、飼い葉取ってくるから残りは頼むぞ」
「うん」

 ダミアン兄ちゃんから温まったミルク缶を受け取って、馬房へと向かう。子馬達用のミルク桶にミルクを注ぎ、作業部屋と往復を繰りかえす。

 その間、ダミアン兄ちゃんも手押し車に詰んだ飼い葉桶を母馬のいる馬房に設置していたから、厩舎の通路は大忙しだった。

「ダミアン兄ちゃん、ミルクあげ終わったからミルク缶洗っておくねー」
「ああ、終わったら手伝いに行く」

 兄ちゃんは他の厩舎へも餌をあげに行かなきゃいけないからと、忙しそうに厩舎を出ていく。いつもは、こうじゃないんだけど……牧草狩りしていた皆がバテてしまったらしいので仕方がない。

 跡取りは、大変だなー。と、他人事のように思いながら、僕は空になったミルク缶を抱えて、作業場に戻るのだった。
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