シュヴァール国競馬伝~平民生まれの少年騎手は、貴族社会の競馬界で旋風を巻き起こす~

華世良せら

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二章:ジャンという少年

21.夕食

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 ミルク缶を片付けて、先に家に戻る。汚れてはないと思うけど、また叱られたら嫌なので、裏口から入って、着替えてからリビングへと抜けた。

「母さん、晩ごはんなーに?」
「兎肉と馬のミルクシチューよ」

 今日の晩ごはんを聞けば、いつものメニューが返ってくる。

 晩ごはんは、子馬達が飲みきれずに残ったミルクを使うのがほとんど。晩ごはんでも使いきれなかった分は、チーズにしたりする事も多かった。

「マルセル兄ちゃん達は?」
「もう寝ちゃったわ。アニーは、部屋で縫い物でもしてるんじゃない?」
「ふーん」

 どうやら、昼間牧草刈りに励んでいたマルセル兄ちゃん達は眠ってしまったようだ。

 それだけ疲れてるんだなぁ。なんて思いながら、僕は席へ着いた。

「はい、どうぞ」
「ありがとう」

 僕の前にお皿に入ったシチューが置かれる。湯気の立つそれは、定番のメニューだが、僕にとっては母さんの味とも言えるものだった。

 テーブルの中央に置かれたパンを手に取り、シチューと一緒に食べる。

 あっさりとしながらもまろやかなシチューは美味しく、一つ、二つと、パンが消えていく。

「ただいま。お袋、飯くれ」
「はいはい」

 僕がシチューを半分食べた頃、餌やりを終え、厩舎の戸締まりまでしてきたのだろうダミアン兄ちゃんが帰ってきた。

 母さんとのやり取りを眺めていた僕の正面にダミアン兄ちゃんが座り、シチューが来る前にパンを食べ始める。

 しばらく無言が続いていたのだけど、ダミアン兄ちゃんがポツリと話し出す。

「……そろそろ王都での競馬シーズンが終わる頃だな」
「うん」

 ダミアン兄ちゃんの言葉に、僕はシチューを飲み込みながら頷いた。

「お前、本当にシルヴァン様に着いていくのか?」
「そのつもり」

 この牧場の馬達の事は気になるけど、どうしてもシルヴァン様のところで働きたいと言う思いは強い。

 シルヴァン様が連れていってくれるなら、行かないという選択肢はなかった。

「……そうか。お前がいたら、うちの牧場も安泰なんだがな」
「……ごめんね?」

 ため息を吐くダミアン兄ちゃんに謝れば、首を横に振られる。

「ああ、いや……謝らなくていい。お前も十二だ。自立したいってなら引き止めるもんでもないしな」
「私的には、もう少し家にいてほしかったけどねぇ……」

 僕達の会話を聞いていた母さんが、ダミアン兄ちゃんのシチューをテーブルに置きながら、そう会話に入ってくる。

「シルヴァン様が良いお貴族様だってのはわかるけど、まだ十二なんだからあと、二年くらい待ってもらえば良いじゃないか」
「そこまで甘える訳にはいかないよ。それに……今年行けば、リラの520が……ヴァロワラファールが競走馬として走ってるところを見れるかもしれないんだ!」

 シルヴァン様の所に行ったあの子は、もう四歳。古馬での成績も順調だから、早くて今年……おそらく来年には引退して種牡馬になる可能性もある。

 一戦でも多く、たとえレースで走っている姿が見えなくても、あの子の側に居たかった。

「本当に馬が好きねぇ……」
「ホントに。お前が跡取りだったら、俺も好きな仕事できたんだけどなぁ」

 僕の言葉に母さんとダミアン兄ちゃんがため息を吐く。

 そこまで言われるほどじゃないと思うんだけど……自分じゃよく分からないや。

 二人の様子に首を傾げながら、お皿に残った僅かなシチューをパンで拭い、口へと放り込んだ。
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