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二章:旅立ちの夏

30.G1馬

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 クロネ達を引き取り、街道に沿って草原を走り、競走馬専門の牧場へと到着する。

 軍馬の多い牧場と同じように、知らない親戚のおじさんと会った時の様な反応をされ、この領地の牧場だったらどこも同じような反応をされるのだろうな。と、気がついて顔が引きつった。

 ちょっとした洗礼を乗り越えつつも、僕の見学を許して貰えたのでシルヴァン様に連れられて牧場を見ていく。

 そこでふと……いつもとは逆だなって、気づいてなんだか新鮮だと笑ってしまった。

「どうした?」
「いえ、さっきは気づかなかったけど、いつもとは逆だな。と、思ったんです。いつもは、僕が案内してますから」
「そういえば、そうだな」

 僕の言葉にシルヴァン様も今気付いたと言うような表情をした。

「それでは、気合いを入れて案内しようか」
「お願いします!」

 楽しそうなシルヴァン様に僕も嬉しくなってその後を歩く。

「ここが種牡馬の放牧場だ」
「おおー」

 シルヴァン様に案内された先に、いくつも区画分けされた放牧場が広がる。

 そこには放牧場ごとに一匹一匹種牡馬が放牧されていた。

「うちの牧場より、放牧場が広くて良いですね!」

 うちにも何匹か種牡馬がいるけど、ここまで厚待遇ってほどではない。

 放牧場は、牧草が青々としているし、悠々と走っても問題がないくらい広い放牧場は僕が羨ましくなるくらいだった。

「放牧場だけではないぞ。馬房も特別製だ」

 そう言って笑ったシルヴァン様が僕を案内したのは、種牡馬達の為の厩舎。

 そこは、他の厩舎よりしっかりした作りで、馬房の一つ一つが広く、敷き藁も地面にたっぷりと敷かれていた。

「うわぁ……さすがって感じですね!」

 言葉がでないってこう言う事なんだろうなぁ。と、思いながら、シルヴァン様へと尋ねる。

「ここの子達は、レースで活躍した子達なんですよね?」
「ああ、G1も勝った馬もいる。もう十年近く前になるがな」
「会ってみたいです!」

 せっかくだから、すごい馬に会いたいとお願いしたら、シルヴァン様が一つの馬房へと案内してくれる。

 そこには、黒鹿毛の綺麗な馬体の馬がいた。

「この馬だ。名前はヴァロワヴォレ。私と共にG1三勝した名馬だ」
「えっ!?シルヴァン様と一緒に!?」

 騎手をしていたとは聞いていたけど、G1を勝っていたとは聞いたことがなかった。

「シルヴァン様がG1勝った事あるって初めて聞きましたよ!」
「言ったことがなかったか?」
「聞いてません!」

 二年以上の付き合いになるのに、そんなにすごい騎手だったって知らなかったのはなんだか悔しい。

「そうだったか……一応、こいつ以外でも何勝かしている」

 苦笑しながらなんて事はないみたいに言うシルヴァン様。

「めちゃくちゃすごいじゃないですか!」
「ははっ、ありがとう」

 教えて貰えてなかった不満はあれど、そのすごさに目を輝かせる僕にシルヴァン様は穏やかに笑いながら僕の頭を撫でた。

「厩舎街の自宅に、騎手時代に勝ったレースのトロフィーがある。着いたら見せてあげよう」
「本当ですか!?やった!」
「もちろん……っと、お前の事も忘れてないよ」

 喜ぶ僕にシルヴァン様は笑いかけながら、構えと小さく嘶いたヴァロワヴォレの鼻筋を撫でる。

「せっかく、こいつも紹介したことだし……どんなレースを一緒に勝ったか。話してあげよう」

 そう言って、シルヴァン様はヴァロワヴォレと一緒に走ったレースに着いて語ってくれた。
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