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2 変な感じがする。
しおりを挟む子供達が園庭で運動して、お部屋でご本を読み、お弁当を食べたあとは、お昼寝の時間だ。
これが恐ろしく大変な時間である。
3歳児のクラスのお昼寝タイム。
総勢30人。
俺が副担任をしているクラスと、隣のクラスの子供達とで、合同でのお昼寝タイムだ。保育士は俺を含めて4人しかいない。
寝たくないってゴネる子や、おしっこ!って慌てて訴えてくる子、電池が切れたように唐突にお友達のお布団で眠ってしまう子、さみしくなって泣き出してしまう子、それにつられて泣いちゃう子…。
そういった子達のお相手をしていると、いつの間にかみんな寝静まっているのが日常だ。
大変だけど、子供達の寝顔は最高に可愛い。
ふふふ、本当に天使だなぁ。
さあ、俺はひと仕事しようかな。
保育士の仕事は山のようにあるのだ。同じ室内だけど、端っこの、イスを置いてある明かりの下まで行く。
今は来週の花祭りの準備で、飾りつける紙のお花やなんかを、たくさん作っているところだ。俺、こういう工作も好きなんだよね。
『先生…ごめん』
そこへ、声を押し殺したマルくんがやってきた。
『どうしたの?マルくん』
マルくんは、お父さんがイタリア人でお母さんは日本人だ。海外にずっといたから、日本に引っ越すにあたり、環境に慣れるため、うちの保育園に入園してきた子で、他の子供達より一歳年上だ。
子供の一年はでかい。
俺の拘りのひとつに、子供達の名前を呼ぶときに、安易に略したり、愛称にしたりしないというのがあるんだけど。
本人の希望を会話の中で探り、多様性のこの時代だからね、くんなのかちゃんなのか、さんなのか。なんて呼べばいいか、一緒に考えてもらっている。
ほら、名前ってやっぱり大切なものでしょ?
そんな中、マルくんはマルコって素敵なお名前なんだけど、『僕は、先生にマルくんって呼んでほしい』って教えてくれた。とてもしっかりしている。
余談だけど、俺にとって初めてのプロポーズをしてくれたのもマルくんだ。
『瞬先生、僕が大人になったら結婚してください』
って、それはそれは世の中の男子共に聞かせてやりたいほど、男らしい立派なプロポーズだった。
『マルくんが大人になって、先生とまだ結婚したいって思ってくれていたら謹んでお受けします』
そう答えると、マルくんはまるで花火が空高く上がりバーンて弾けて、大輪の花を咲かせるような素敵な笑顔を見せてくれた。
そんなマルくんが、このお昼寝の時間にどうしたんだろう。
『変な感じがする。ちょっと煙くさい』
マルくんは、鋭い。
俺は、マルくんの頭を撫でて、
『ありがとうマルくん。ちょっと見てくるね』
立ち上がりながら言うと、うん。とマルくんが頷く。俺自身も、すんすんと鼻で匂いを嗅いでみる。確かに煙くさい。なんだ?
その時、階下から悲鳴があがった。
『きゃーっ!!!』
『うわぁーーー!!!』
ここは3階だ。
今日、2階の子供達は遠足だから、誰もいないはずだから、1階で何かあったのだろうか…。
『マルくん大丈夫だから、ここに座って待ってて』
もう一度、マルくんの頭を撫でて、微笑む。
マルくんの顔は不安で引きつったままだったけど、頷いてくれた。
教室を出ようとしたとき、
『瞬先生!気をつけてっ!!』
切羽詰まった声でマルくんが言う。俺は不安を取り除くように、にっこり笑って頷く。
他の保育士の先生にも声をかけて部屋を出た。
そして…
部屋を開けて階段に向かい、下を覗いた俺は、驚愕する。
『ぎやーっ火が!火がっ!!』
1階の先生達が、パニックになっている。
しかも、火の手が2階まで上がってこようとしていた。
『落ち着いてっ!子供達と非常口の方へっ!』
俺は力の限り叫んだ。
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