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4章 前編
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家の玄関デッキ前で、ブルッサが名残惜しそうに二頭のノロバの背中を撫で回してから出発した。
「メエェェー」
仔馬のはずだが、不思議と怯えた羊のような鳴き声を上げているように聞こえる。
先生からは、ペットに馬を二頭も飼うなんて贅沢だねぇと言われた。
「ギアラとセンマイが大きく育つまで楽しみね」
「ニトロとジェットだ。一文字も合ってないじゃないか」
誰一人としてペットの名前を正確に呼ぼうとしないので、もう気にしないことにした。
その後も、ブルッサはルンルンとした足取りで歩いている。
今になって気づいたが、彼女はネグリジェ姿のまま外に出ていた。
石竹色と呼ばれる白に近いピンク色で、半袖ワンピースのスタイルだ。
ふんわりと柔らかい着心地で、たしかルームウェアの一種だったと思われる。
「おいおい、ブルッサ。そんな服装で帰るのか? ヒビキ姉さんに返さないと、まずいだろ」
「あら、大丈夫よ。5年くらい貸しておいてくださいって頼んだら、『まあ、それでも別にいいわ』って快く承諾してくれたの」
「5年って……。返さない気まんまんかよ!」
でも、うちの家族で着る人が誰もいなくて、箱にしまいっぱなしになっていた寝間着だ。
それなら、ブルッサに着てもらった方がいいだろうか。
巨乳の成人女性が装備するには胸囲がキツすぎるのかもしれない。
着丈はブルッサの肩から膝上ほどまであるが、幅は中学生くらいまでの体型の女子が着るような寸法になっている。
ブルッサは、かなりスリムなので丁度良い感じに身に纏っていた。
うちのサヒラやセニィだったら、間違いなく胸でつかえて、肩までしか通すことができないだろう。
というか、ネグリジェで外を出歩くものではないようにも思えた。
この村では地球の常識が通じないので、もしかしたら特にマナーが悪いという感覚もないのかもしれない。
ブルッサが元から着ていたメイド服は折り畳まれ、彼女の左手で小脇に抱えている。
「ブルッサ君。その服は生地が上質だから、もし新品で購入するとしたら三千エノムは下らないかもしれないよ」
「どうりで気心地が良いと思ったのよ。ずっと借りっぱなしじゃ悪いから、後でお金が貯まったら三百エノムくらい返すわね」
どんな計算をすれば、三千エノムの服を借りパクして1割返せば済むというのだ。
彼女が厚かましいのか、それとも俺が甘すぎるのか、どちらなのかは分からない。
それにしても、ネグリジェよりGカップ・ブラジャーの方が値段が高いことに驚いた。
ところで、ブルッサが俺の家に来た直後は、目眩がするとか言って体調が悪そうだったはずだ。
まるで仮病だったみたいに、すっかり回復したようだな。
むしろ、俺の方が頭が痛くなりそうだ。
「ブルッサ、あんまり無理するなよ。怪我をしたばかりなんだから」
「もう、すっかり良くなったみたい。今から、また狩りに行けそうなくらいよ」
「ダメだって。両足とも、けっこう深く咬まれてたじゃないか」
俺がブルッサの予後を心配していると、先生はチラリと彼女の足元に目をやっていた。
「カイホ君が、今日もブルッサ君に魔法で解毒したのかい?」
「そうなんです。今日も4回、血抜きしました」
2本の牙で両足がやられて、計4箇所の傷口から毒抜きをしている。
魔法で治療してはいるが、何らかのダメージが蓄積していてもおかしくはない。
「カボさんが、今日は私で4本もヌキヌキして新記録更新したのよ」
またブルッサが誤解を招きそうな表現をしている。
一体、どんな競技の記録だよ。
それを聞いたデソン先生が、若者は元気があっていいなとニタニタした。
「変な言い方をするのはやめてくれ」
「でも、それだと魔法の分だけなく、傷による出血も合わせて結構な量が出たんじゃないのかね。無理せず、明日も1日くらい安静にした方がいいだろう」
「それじゃ、明日のミルビー狩りは無しにしよう」
俺は先生からの勧告に素直に従い、ブルッサに対して休暇を宣言した。
「えー? そんなの酷いじゃない。明日になれば絶対に元気3倍くらいまで回復しているはずよ。私が行かないと、きっと蜂も悲しむわ」
どこの世界に、ハエみたいに叩き潰されるのを待っている蜂のモンスターが居るというのだ。
あいつらに、そんな被虐体質でもあるのだろうか。
彼女のボケに、そんなことを思ったがツッコミせずスルーした。
まあ、ブルッサのことだから一晩寝て起きるだけでHPが全快になっていてもおかしくはない。
でも、先生が休めと言っているのだ。
ドクターストップを振り切ってまで、彼女を狩りに連れ回すつもりはない。
「狩りの直後に、痛い痛いとか散々言ってたじゃないか。あれは嘘だったのか? 仲間を騙すような奴とはパーティを組めないぞ」
「う、嘘じゃないわよ。本当に胃が苦しかったの。でも、さっきスープを飲んだら、お腹がグルグルしたのも治まったわ」
どう考えても、足の怪我に胃は関係ない。
当然ながら俺の作ったスープに、痛みが飛んで消えるような怪しい成分も含まれてはいない。
「それ、いつもの単なる空腹じゃないか?」
「一部地域では、そう表現することもあるようね」
「あははは。ブルッサ君、屁理屈はいいから。明日は朝から夕方まで家で寝ていなさい。魔法で傷だけ塞がっても、失った血液までは戻らないんだ」
「先生はカボさんの味方なんですか? 私は毎日、狩りがしたいんです」
「あのねぇ、モンスターとの戦闘は遊びじゃないんだ。体調が悪いのに、それを隠して狩りに行ったとしよう。君1人の問題で済めばいいけど、パーティを組んでいると仲間の足を引っ張ってしまうこともあるんだよ。スニャック程度の雑魚なら、それでもどうにかなるかもしれない。でも、将来的には、ダンジョンに入るんだろ。もっと凶悪な敵を相手にするなら、常に万全の状態で臨むべきだ。何かミスがあって、他人を死なせることになったら最悪だよ」
デソン先生の話を聞いて、俺もブルッサも少し黙りこんでしまった。
なるほど。どうやら、今日のスニャック狩りのことだけを言っているわけではなかった。
先生は、戦闘の心構えを教えようとしてくれたようだ。
今回の狩りを思い返してみれば、被弾してしまったのは蛇を2匹も同時に相手にしたことに起因している。
そのあと、ブルッサが1対1で片方のターゲットを引き受けていた。
彼女の動きにキレがあったので、咬まれるはずはないと俺も油断していたのだ。
フックと俺が2人掛かりで、先にもう1匹の蛇を処理した。
そのときも、俺は呑気にビンで採血なんかしていた。
安全を考えれば、直ちにブルッサの方へ援護に向かうべきだったのだ。
蛇の牙は毒を考慮しなければ、咬まれても1センチ程度の傷で済み致命傷にはならなかった。
しかし、もしあれが熊とか虎など別のモンスターだったら話は変わってくる。
足を食いちぎられてゲームオーバーになっていたかもしれない。
本当に強い実力者ならば、勝負に勝ったあとも抜かり無く検討することを欠かさないそうだ。
もっと上手くやれたのではないかと、常に改善点を研究し続けている。
大して力もない俺なんかが、女の子を怪我させておいてアンラッキーだったなどと笑って済ませるなんてとんでもない話だ。
「ごめんな、ブルッサ。今日、咬まれる前に助けられなくて俺が悪かった」
「どうしてカボさんが謝るの? やられたのは、私がつまずいたせいよ」
「そうだね。よく分からないけどカイホ君が悪いに決まっているな。まあ、ちゃんと反省してくれればいいんだよ。今回は特別に許してやろう」
「あれ? 何か話の流れがおかしい。俺が原因みたいになっちゃってるし」
どうしてこうなった。
また先生のペテン話術にハメられてしまったか。
「うふふ。罰として明日、私の家まで何か食べ物を差し入れに来てください」
「なんでそうなるんだよ。まったく、しょうがないなぁ」
そんな話をしながら歩いていたら、ブルッサの家の付近まで足が進んでいた。
村の小道の十字路をブルッサは北へと帰る。俺と先生は教会に行くため、さらに西へと向かう。
「では、また明日。おやすみなさい」
「お大事にな」
「ブルッサ君。ちゃんと言いつけを守るんだよ」
「はーい」
ブルッサと別れ、それから5分もしないで教会前に到着した。
たしか、山賊被害に遭った件について事情聴取だったな。
俺は犯人側ではないのだけど、警察に出頭したみたいな気分で少し緊張してきた。
「さーて、カイホ君。自首する覚悟は出来ているかい?」
「いや、俺は何の犯罪もしてませんよ」
また先生が、レモネさんのブラジャーの件で俺をネタにして誂おうとしていた。
こういうときにギクギクすると、逆に余計な嫌疑をかけられてしまう。
やましいことは何もないのだから、毅然とした態度で挑むべきだろう。
「ははは、冗談だよ。ところで、今日は土曜日だから。もしかしたら、今も午後の礼拝をやっている最中かもしれない。それが終わるまで、つまらない説法を聞きながら少し待つとしよう」
「説法とやらが終わらないと、用事は済ませられないんですか?」
「そうだよ。警察業務も、ほとんど教会の関係者が担当しているからね。礼拝の日は、そっちが優先で他の仕事は後回しになる」
「ふーん、そうなんだ」
「とりあえず中に入ろうか」
俺は教会の玄関前に立つと、ドアの取っ手を掴んだ。
勢い良く扉をバーンと開け、中に突入した。
「こんちわー、お邪魔しまーす」
入口のすぐ近くカウンターの定位置に、いつものミディが立っていた。
彼女は人差し指1本を立て、口元に当てながら「シーっ」と言っている。
「ただいま牧師様の説法中ですので、お静かに」
小声で注意されてしまった。
礼拝堂は、手前から奥にかけて中央に幅1メートルほどの通行帯がある。
その左右に、木製の長椅子が8列並んでいる。
どの椅子にも2~3人ずつ、村人が座っていた。
全部で30人くらい集合しているかもしれない。
こんなに参加者が多いとは知らなかった。
皆が一斉に後ろを振り向いて、俺の方を「何だ?」という風に見ていた。
でも、すぐ前を向き直し教卓の方に顔を戻している。
空気の読めない痛い奴だと思われたかもしれない。
少し恥をかいてしまった。
デソン先生は一番後ろの左側の椅子の脇に近づき、既に座っている村人を奥に詰めてもらって空けたスペースに腰掛けた。
俺も真似して同じように、反対の右側の椅子に着席した。
教卓の奥側には偉そうな服装をしたオッサンが、何やらボソボソと講釈を垂れ流している。
微妙に見覚えのある人だと思ったが、たしか教会のウェルダー牧師は巫女ミディの父親だったはずだ。
他の信者達は、彼の話を熱心に聴き入っているようだ。
どれどれ、どんなありがたい説法をしているのやら。
「メエェェー」
仔馬のはずだが、不思議と怯えた羊のような鳴き声を上げているように聞こえる。
先生からは、ペットに馬を二頭も飼うなんて贅沢だねぇと言われた。
「ギアラとセンマイが大きく育つまで楽しみね」
「ニトロとジェットだ。一文字も合ってないじゃないか」
誰一人としてペットの名前を正確に呼ぼうとしないので、もう気にしないことにした。
その後も、ブルッサはルンルンとした足取りで歩いている。
今になって気づいたが、彼女はネグリジェ姿のまま外に出ていた。
石竹色と呼ばれる白に近いピンク色で、半袖ワンピースのスタイルだ。
ふんわりと柔らかい着心地で、たしかルームウェアの一種だったと思われる。
「おいおい、ブルッサ。そんな服装で帰るのか? ヒビキ姉さんに返さないと、まずいだろ」
「あら、大丈夫よ。5年くらい貸しておいてくださいって頼んだら、『まあ、それでも別にいいわ』って快く承諾してくれたの」
「5年って……。返さない気まんまんかよ!」
でも、うちの家族で着る人が誰もいなくて、箱にしまいっぱなしになっていた寝間着だ。
それなら、ブルッサに着てもらった方がいいだろうか。
巨乳の成人女性が装備するには胸囲がキツすぎるのかもしれない。
着丈はブルッサの肩から膝上ほどまであるが、幅は中学生くらいまでの体型の女子が着るような寸法になっている。
ブルッサは、かなりスリムなので丁度良い感じに身に纏っていた。
うちのサヒラやセニィだったら、間違いなく胸でつかえて、肩までしか通すことができないだろう。
というか、ネグリジェで外を出歩くものではないようにも思えた。
この村では地球の常識が通じないので、もしかしたら特にマナーが悪いという感覚もないのかもしれない。
ブルッサが元から着ていたメイド服は折り畳まれ、彼女の左手で小脇に抱えている。
「ブルッサ君。その服は生地が上質だから、もし新品で購入するとしたら三千エノムは下らないかもしれないよ」
「どうりで気心地が良いと思ったのよ。ずっと借りっぱなしじゃ悪いから、後でお金が貯まったら三百エノムくらい返すわね」
どんな計算をすれば、三千エノムの服を借りパクして1割返せば済むというのだ。
彼女が厚かましいのか、それとも俺が甘すぎるのか、どちらなのかは分からない。
それにしても、ネグリジェよりGカップ・ブラジャーの方が値段が高いことに驚いた。
ところで、ブルッサが俺の家に来た直後は、目眩がするとか言って体調が悪そうだったはずだ。
まるで仮病だったみたいに、すっかり回復したようだな。
むしろ、俺の方が頭が痛くなりそうだ。
「ブルッサ、あんまり無理するなよ。怪我をしたばかりなんだから」
「もう、すっかり良くなったみたい。今から、また狩りに行けそうなくらいよ」
「ダメだって。両足とも、けっこう深く咬まれてたじゃないか」
俺がブルッサの予後を心配していると、先生はチラリと彼女の足元に目をやっていた。
「カイホ君が、今日もブルッサ君に魔法で解毒したのかい?」
「そうなんです。今日も4回、血抜きしました」
2本の牙で両足がやられて、計4箇所の傷口から毒抜きをしている。
魔法で治療してはいるが、何らかのダメージが蓄積していてもおかしくはない。
「カボさんが、今日は私で4本もヌキヌキして新記録更新したのよ」
またブルッサが誤解を招きそうな表現をしている。
一体、どんな競技の記録だよ。
それを聞いたデソン先生が、若者は元気があっていいなとニタニタした。
「変な言い方をするのはやめてくれ」
「でも、それだと魔法の分だけなく、傷による出血も合わせて結構な量が出たんじゃないのかね。無理せず、明日も1日くらい安静にした方がいいだろう」
「それじゃ、明日のミルビー狩りは無しにしよう」
俺は先生からの勧告に素直に従い、ブルッサに対して休暇を宣言した。
「えー? そんなの酷いじゃない。明日になれば絶対に元気3倍くらいまで回復しているはずよ。私が行かないと、きっと蜂も悲しむわ」
どこの世界に、ハエみたいに叩き潰されるのを待っている蜂のモンスターが居るというのだ。
あいつらに、そんな被虐体質でもあるのだろうか。
彼女のボケに、そんなことを思ったがツッコミせずスルーした。
まあ、ブルッサのことだから一晩寝て起きるだけでHPが全快になっていてもおかしくはない。
でも、先生が休めと言っているのだ。
ドクターストップを振り切ってまで、彼女を狩りに連れ回すつもりはない。
「狩りの直後に、痛い痛いとか散々言ってたじゃないか。あれは嘘だったのか? 仲間を騙すような奴とはパーティを組めないぞ」
「う、嘘じゃないわよ。本当に胃が苦しかったの。でも、さっきスープを飲んだら、お腹がグルグルしたのも治まったわ」
どう考えても、足の怪我に胃は関係ない。
当然ながら俺の作ったスープに、痛みが飛んで消えるような怪しい成分も含まれてはいない。
「それ、いつもの単なる空腹じゃないか?」
「一部地域では、そう表現することもあるようね」
「あははは。ブルッサ君、屁理屈はいいから。明日は朝から夕方まで家で寝ていなさい。魔法で傷だけ塞がっても、失った血液までは戻らないんだ」
「先生はカボさんの味方なんですか? 私は毎日、狩りがしたいんです」
「あのねぇ、モンスターとの戦闘は遊びじゃないんだ。体調が悪いのに、それを隠して狩りに行ったとしよう。君1人の問題で済めばいいけど、パーティを組んでいると仲間の足を引っ張ってしまうこともあるんだよ。スニャック程度の雑魚なら、それでもどうにかなるかもしれない。でも、将来的には、ダンジョンに入るんだろ。もっと凶悪な敵を相手にするなら、常に万全の状態で臨むべきだ。何かミスがあって、他人を死なせることになったら最悪だよ」
デソン先生の話を聞いて、俺もブルッサも少し黙りこんでしまった。
なるほど。どうやら、今日のスニャック狩りのことだけを言っているわけではなかった。
先生は、戦闘の心構えを教えようとしてくれたようだ。
今回の狩りを思い返してみれば、被弾してしまったのは蛇を2匹も同時に相手にしたことに起因している。
そのあと、ブルッサが1対1で片方のターゲットを引き受けていた。
彼女の動きにキレがあったので、咬まれるはずはないと俺も油断していたのだ。
フックと俺が2人掛かりで、先にもう1匹の蛇を処理した。
そのときも、俺は呑気にビンで採血なんかしていた。
安全を考えれば、直ちにブルッサの方へ援護に向かうべきだったのだ。
蛇の牙は毒を考慮しなければ、咬まれても1センチ程度の傷で済み致命傷にはならなかった。
しかし、もしあれが熊とか虎など別のモンスターだったら話は変わってくる。
足を食いちぎられてゲームオーバーになっていたかもしれない。
本当に強い実力者ならば、勝負に勝ったあとも抜かり無く検討することを欠かさないそうだ。
もっと上手くやれたのではないかと、常に改善点を研究し続けている。
大して力もない俺なんかが、女の子を怪我させておいてアンラッキーだったなどと笑って済ませるなんてとんでもない話だ。
「ごめんな、ブルッサ。今日、咬まれる前に助けられなくて俺が悪かった」
「どうしてカボさんが謝るの? やられたのは、私がつまずいたせいよ」
「そうだね。よく分からないけどカイホ君が悪いに決まっているな。まあ、ちゃんと反省してくれればいいんだよ。今回は特別に許してやろう」
「あれ? 何か話の流れがおかしい。俺が原因みたいになっちゃってるし」
どうしてこうなった。
また先生のペテン話術にハメられてしまったか。
「うふふ。罰として明日、私の家まで何か食べ物を差し入れに来てください」
「なんでそうなるんだよ。まったく、しょうがないなぁ」
そんな話をしながら歩いていたら、ブルッサの家の付近まで足が進んでいた。
村の小道の十字路をブルッサは北へと帰る。俺と先生は教会に行くため、さらに西へと向かう。
「では、また明日。おやすみなさい」
「お大事にな」
「ブルッサ君。ちゃんと言いつけを守るんだよ」
「はーい」
ブルッサと別れ、それから5分もしないで教会前に到着した。
たしか、山賊被害に遭った件について事情聴取だったな。
俺は犯人側ではないのだけど、警察に出頭したみたいな気分で少し緊張してきた。
「さーて、カイホ君。自首する覚悟は出来ているかい?」
「いや、俺は何の犯罪もしてませんよ」
また先生が、レモネさんのブラジャーの件で俺をネタにして誂おうとしていた。
こういうときにギクギクすると、逆に余計な嫌疑をかけられてしまう。
やましいことは何もないのだから、毅然とした態度で挑むべきだろう。
「ははは、冗談だよ。ところで、今日は土曜日だから。もしかしたら、今も午後の礼拝をやっている最中かもしれない。それが終わるまで、つまらない説法を聞きながら少し待つとしよう」
「説法とやらが終わらないと、用事は済ませられないんですか?」
「そうだよ。警察業務も、ほとんど教会の関係者が担当しているからね。礼拝の日は、そっちが優先で他の仕事は後回しになる」
「ふーん、そうなんだ」
「とりあえず中に入ろうか」
俺は教会の玄関前に立つと、ドアの取っ手を掴んだ。
勢い良く扉をバーンと開け、中に突入した。
「こんちわー、お邪魔しまーす」
入口のすぐ近くカウンターの定位置に、いつものミディが立っていた。
彼女は人差し指1本を立て、口元に当てながら「シーっ」と言っている。
「ただいま牧師様の説法中ですので、お静かに」
小声で注意されてしまった。
礼拝堂は、手前から奥にかけて中央に幅1メートルほどの通行帯がある。
その左右に、木製の長椅子が8列並んでいる。
どの椅子にも2~3人ずつ、村人が座っていた。
全部で30人くらい集合しているかもしれない。
こんなに参加者が多いとは知らなかった。
皆が一斉に後ろを振り向いて、俺の方を「何だ?」という風に見ていた。
でも、すぐ前を向き直し教卓の方に顔を戻している。
空気の読めない痛い奴だと思われたかもしれない。
少し恥をかいてしまった。
デソン先生は一番後ろの左側の椅子の脇に近づき、既に座っている村人を奥に詰めてもらって空けたスペースに腰掛けた。
俺も真似して同じように、反対の右側の椅子に着席した。
教卓の奥側には偉そうな服装をしたオッサンが、何やらボソボソと講釈を垂れ流している。
微妙に見覚えのある人だと思ったが、たしか教会のウェルダー牧師は巫女ミディの父親だったはずだ。
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