牛人転生:オッパイもむだけのレベル上げです。

薄 氷渡

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2章 後編

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 俺の父グランに頼んで、巨乳女子の肖像画を描いてもらうことにした。
 もし、あまりにもド下手だと紙の無駄になってしまう可能性もある。そのときは、必要経費だと思って諦めよう。

「なんだ、顔と胸を描くだけでいいのか。そんなのは得意中の得意だったぞ。エッチ・スケッチ・パイタッチってな」

 それは難しいと言われるかと思ったら、逆だった。やはりホル族だから、オッパイが十八番なのだろう。
 あと、グランの口から出た意味不明な呪文については、気にせずスルーすることにした。

「誰か、モデルが居た方がいいかな? ちょっとサヒラを呼んでくるよ」

 これから朝の搾乳時間だけど、サヒラの番を後回しにしてもらってダイニングに連れてきた。
 テーブル前から椅子を引いて、メイド服姿の彼女に腰掛けてもらう。
 正面や横顔より、やや斜めアングルの方がいいかもしれない。
 サイドからの方が胸の膨らみは強調されるが、完全に真横の視点だとオッパイ2個がよく見えないためだ。

「私の絵を描くのですか? ちょっと照れますね」

「この辺りの頭から、ヘソの上ぐらいまでの構図で。そんなに本格的じゃなくていいから、軽く描いてみてよ」

 サヒラの体の位置に手を指し示しながら、描写範囲の要望をグランに伝えた。
 そんなに綺麗な絵は描けないだろうと、高を括っていた。グランが下手なら下手で、その絵を持って別の絵師を探せばいい。
 これより、もっと上手く描ける人はいませんかと聞いて回るだけだ。

「絵は久しぶりだ。まあ一丁やってみるか」

「はて、さて。どんな画風なのかな」

「あんまり期待するなよ。とりあえず1枚だけなら10分かからず出来るだろう」

「ん? 10分?」

「乳体描写:パイグラフィ!」

 ギュワァァァ。グランの右手から黄色い光りがほとばしった。
 魔法かよ。鉛筆を持つグランの右腕がミシンのような動きをしている。
 ハイスピードで紙の上を左右カクカクと移動しながら、みるみる描かれていく。

 筆の使い方が、地球の常識とは違う。
 普通は先に顔の輪郭とかボディラインを引いて、後から内部の細かいところに塗っていくものだと思っていた。

 グランの描き方は、紙の上部から機織りのように横に点や線を入れつつ、少しずつ鉛筆が下に向かっている。

「ありえん。こんなの人間の描き方じゃない」

 しばらくすると、イラストが出来上がった。まるで、モノクロ写真を印刷したかのような完璧な絵だ。

「こんなもんでどうだ? あ、服を着たままの姿を描いちまったな。やっぱヌードの方が良かったか?」

 ヌード絵画なら、俺が個人で観賞用に欲しいが。
 杏仁豆腐の販促用ポスターに裸婦像画なんて、ちょっと問題があるだろう。

「いや、服は着ていていいんだ。父さん、メチャクチャ上手いじゃないか」

 サヒラにも見せると、しきりに感心していた。

「さすが旦那様です。こんな綺麗に描いていただいて、ありがとうございます」

「昔は暇だったから、たくさん描いてたんだ。ただ最近は紙を買う金がなくてな」

 たしかに、家計に余裕がなくて紙の無駄遣いはできない。
 それにしてもグランに、こんな隠れた才能があるとは知らなかったな。

「というか、さっきのは魔法でしょ。どうやって覚えたの?」

「子供の頃、毎日メスのオッパイを観察してスケッチしていたからな。知らないうちに、手描きでやってたことを魔法で高速化できるようになったんだ。原理は魔法を使わない手動と特に変わらない。10年くらい掛けてメスを千人も描けば、魔法を覚えられるんじゃねえのか?」

 うん、俺には無理だな。紙だって高いし、年に百枚も練習する暇はない。
 それに、すごい魔法ではあるがモンスターとの戦闘では何の役にも立たない。
 自分で描く必要はないので、今後はグランに頼めばいいだろう。

「1日に何枚くらい描ける?」

「何枚って言われても、限界は分からんが。喉乾くし疲れっから、多くても1日3枚くらいしか描く気はないぞ」

「そうか。まあいいや、ありがとう。そんじゃ、この絵はもらっていくよ」

 俺は、サヒラの肖像画の余白に文字を書き入れた。
『ミルクゼリー新発売』
 何か良いキャッチコピーでも思い浮かべばいいのだけど。特に何も考えてなかったので、適当に記入しておいた。
 まあ、宣伝フレーズは違うアイディアが出たら後日に書き足してもいいだろう。

 絵と一緒に、杏仁豆腐のビン2本を抱えてパイラマ街道に出発する。

 制作系の任務は、出来上がっただけで仕事が終わるわけではない。納品までして、やっと完了になる。家に帰るまでが遠足と同じ理論だ。

 普段、外に出掛けるときは護身用のバットをいつも持ち歩いている。今日はビン2本を持つので両手が不自由になる。
 そこで、バットはタスキで縛って肩から掛け、背中にホールドした。

 1本で四百エノム相当の品を運んでいるので、慎重に歩き続けた。
 行商人の馬車が見えてきた。ゆっくり慌てずにボーデンの元へと近づく。
 転んでビンを落として割ったりしたら目も当てられないからな。

「どうも、こんにちは」

「おはようございます。毎日、朝から出勤とはカイホ君も精が出ますな」

「あの、昨日に言ってた杏仁……、ミルクゼリーですけど。2本作って持ってきました。本当に買い取ってくれますか?」

 俺は2本の杏仁豆腐をボーデンに手渡した。

「ビンいっぱいに、たっぷりと入ってますね。一応、鑑定させてもらいます。パイサーチ!」

 ギュイィィィン。
 ボーデンは掌からミルクビンに向かって青い光りを走らせた。
 魔法を使う時、キーンとした音が聞こえることがあるが単なる耳鳴りのようなものらしい。魔力の流れに共鳴して鼓膜に響くそうだが、事前に唾でも飲み込んでいれば多少は緩和される。
 それにしても行商人に商品を鑑定されている間は、いつも緊張してしまうな。

「俺も調べたんですけど、昨日のミルクゼリーと同じはずです」

「ふむ。今日の分も品質B、賞味期限Bプラスですね。密封したまま冷やして保管すれば1週間くらい品質が保てるかもしれません。輸送時間を除いて、5日間は店で出せると思います。最初のうちは私の方も実験的な販売になりますので、とりあえず1本四百エノムで買い取りましょう」

「はい、お願いします。あとスライムを倒して取ってきたゼラチンも2個持って来ました。これも一緒に買い取ってください」

 ズボンのポケットの中からゼラチンを取り出し、ボーデンに差し出した。
 杏仁豆腐の材料としては1日に1個のゼラチンがあれば間に合う。余った分は、どんどん換金しておくことにした。

「合計で九百エノムです。はい、どうぞ」

 ボーデンから銀貨9枚を受け取った。

「ありがとうございます」

「毎度です」

 俺1人で、1日に九百の収入か。この村の子供としては、悪くない稼ぎだろう。
 ただ、朝から晩まで8時間以上は働いている。時給でなく日給でコレだからな。

「あと、絵を持ってきたんです。そのミルクゼリーの宣伝に使えるかと思って。ポスターとして、店の片隅にでも張ってもらったらどうでしょうかね?」

 今朝、グランに描いてもらった絵は、筒状に丸めて紐で縛ってある。
 それを腰にぶら下げ持って来た。紐をほどき紙を広げ、絵をボーデンに見せる。

「おお、素晴らしい。これはサヒラさんの肖像画ですな。これを描いた画家は何という名前ですか?」

「んっと、プロの画家じゃないと思うんですが。グランに描いてもらいました」

「え? グランさんって、カイホ君のお父さんの?」

「恥ずかしながら、まあそうです」

「意外です。あのグランさんが描いた絵だなんて。にわかには信じられません」

 さすがのボーデンも驚いたようだ。
 普段のグランに対する印象からは、この絵は上手すぎて想像つかないだろう。

「ですよね。俺も、ビックリしました」

「しかしながら、絵自体は見事な物です。これを使えば良い宣伝になるでしょう。私がお預かりして行ってよいのですか?」

「はい。用途はボーデンさんにお任せします」

「ところで、ここに『ミルクゼリー新発売』と書いてありますね」

 新発売では安直すぎて、ダメ出しをくらってしまうのだろうか。
 夜露死苦(ヨロシク)とか、出理舎酢(デリシャス)にしておけばよかったか。

「それは俺が書いたんです。他に何か良い宣伝文句があれば、もっと目立つように大きい文字で入れてもいいと思うんですけど」

「そうですねぇ……。こんなのはどうでしょうか?」

 ボーデンはバッグから鉛筆を取り出すと、絵の余白に文字を書き入れていった。

『私の搾りたてミルクで作りました。どうぞ召し上がれ』

「いいですね。こっちの方が、なんだか食指が動きます」

 ただ、サヒラのミルクを原料に製造したわけではないんだよな。
 絵のモデルはFカップだ。だけど、実際の杏仁豆腐はDカップ女性から搾乳したミルクで出来ている。偽装表示で怒られないかが問題だ。
 いずれ順調に売れ出したら、そのうちサヒラのミルクも使えばいいだろう。
 あとの販売については、プロの行商人がどうにかするはずだ。

「これからもミルクゼリーの調理は続けようと思いますので、また明日もよろしくお願いします。では、出勤途中なので行ってきます」

「はい、いってらっしゃい」

 無事に初回の納品を終えた。このあと、またガラス吹きの灼熱地獄バイトだ。
 昨日のガラス工房でのビン制作に始まり、今日に杏仁豆腐を納品して1ターンが終わった。

 ……
 ……
 そんな調子で休みなく、ここ9日間を働き続けた。

 途中、土曜日だけは変則的なスケジュールを組んだ。
 朝一番に訪ねて来たブルッサとフックに合流し、3人で西の林に移動する。
 スニャックをサーチ&袋叩きして3匹を狩り、蛇皮を採取した。
 どういうわけかパイサーチの射程が伸びており、蛇の探索が楽になっていた。
 ほんの1~2メートルだけ射程外にいた蛇を、今までは探知できずに逃していたことが多かったみたいだ。
 今回の土曜は、2時間もかからず3匹を片付けることができた。

 それが済むと、俺は1人でガラス工房へと向かう。
 朝の狩りを短時間で切り上げ、午前中からガラス吹きを開始している。
 おかげで何とか日没前までに、1日20本のビンを仕上げることができた。

 九百エノム☓9日間=八千百エノム。これが、俺が個人で稼いだ分だ。
 木刀を売ったお金は、小麦粉代に使ってしまった。パンを作ってロチパ三姉妹に食べさせているので、少し経費もかかっている。
 木刀と小麦粉を±ゼロくらいで計算している。

  約八千エノムに加えて、半年前からの蛇狩りで溜め込んできた二万エノムを合わせると二万八千になる。
 あとは、家の方でグランがミルクを売って千四百エノムの日収を得ている。
 そこから1日に四百エノムずつ使わずに取っておき、10日で四千エノムは貯めてある。そのうち二千エノムは今月分の納税にあてるが、あと二千エノムは残る。
 どうにか、合計で三万エノムの支払いができそうだ。

 期限にギリギリ間に合った。今日、これから俺とグランの2人で納税窓口に行くことにした。
 銀貨100枚と金貨2枚を巾着袋に入れてある。
 金貨は、以前にボーデンに頼んで両替してもらった物だ。一万エノム通貨を一度は見たいと思って、銀貨100枚を貯めるごとに金貨1枚と交換していたのだ。

 三万エノムを包んだ袋ごと空のミルク樽に入れた。落としたり破れたりしないように念のためだ。大金を持って歩くのは緊張するな。
 はた目には、ミルクの納品に出掛けているように見えるかもしれない。
 金持ちの風格は微塵もないので、たぶん強盗に襲われることもないだろう。

「父さん、税金ってどこに払いに行くの?」

「教会だ」

「教会? 村の役場とか、村長の家じゃないの?」

「この村では、教会が兼業で色々な役割を果たしているんだ。自警団、消防団、村民陪審、孤児院とかな」

 どうやら、教会1つの建物で複数の行政機関的な機能を持っているらしい。
 税務署、警察、裁判所、結婚式場、公民館、福祉施設などが一緒になっているようなものだろう。
 教会とは言っているが宗教色は薄く、もっぱら世俗的なものらしい。

「そんじゃ、出かけようか」

「ああ、ハンキングテンダー教会に向かって出発だ」

 サンダルを履いて玄関から出ると、なぜか家の前にブルッサが居た。

「カイボスさん、おはようございます」

「あれ? おはよう。今日は蛇狩りの日じゃないはずだけど」

「2~3日以内に木刀1本は作っておくって、昨日に言ってたじゃないの。今日になったから受け取りに来たのよ」

 そうだった。ここ最近、ブルッサから木刀・木刀とうるさく言われていたのだ。
 忙しくてなかなか制作時間が取れなかったが、昨夜に1本がやっと完成した。
 まさか、こんな時間から取り立てに来るとは思わなかった。
 俺は納期が3日後だと考えていたが、念のため早めに仕上げておいて助かった。
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