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3章 前編
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乗車を断られる可能性も考えてはいた。
ところが、ボーデンは快く承諾してくれた。
「ふむ。まあ、構いませんよ。馬車にスペースはあるので、子供1人くらい乗っても全く問題はありません」
「乗車賃とかって必要ですか?」
あとから金を請求されたら困るので念のため確認で聞いてみた。
仮に有料だとしても、たぶん初乗り五百エノムくらいとかだろう。
「いえ、そんなのは結構です。大事なお得意様ですからね」
「そうですか、ありがとうございます」
こんな善良な商人に巡り会えて、本当に幸運だ。
アコギでボッタクリだったら、骨の髄まで搾り取られていたかもしれない。
むしろデソン先生とかの方が、よっぽど商人みたいだ。
「ただ、私がリバーシブに帰還すると夕方になってしまいます。バスチャー村に戻るのは翌朝になります。必然的に町で一晩を明かすことになりますが……」
「そうですね。町に宿屋とかあるんですか?」
もし、宿代が一泊五千エノムとか必要ならば、非常に財布が厳しくなる。
「リバーシブの町にも、高級旅館から簡易宿場までピンからキリでありますけど。まあカイホ君なら、一晩くらい私のアパートに泊まっていっても構わないですよ」
「いいんですか!? どうもすいませんね」
最悪、野宿することも覚悟していた。こんなに世話をしてもらえるなんて。
何から何まで、本当にありがたい申し出だった。
「いえいえ。それで、どうして急に町に行きたくなったんです?」
「えっと、俺もそのうちダンジョンに行こうかと思って。そんでデソン先生に聞いたら、ダンジョンに入るには入場資格が必要だからって。とりあえず冒険者ギルドで登録してみようかなと」
「ははぁ、なるほど。とうとうカイホ君も冒険者になる日が来ましたか。ご両親が承諾しているなら、それも結構だと思います」
「まだ家族には言ってないけど、うちの親はたぶん大丈夫だと思います。そんで、このことはブルッサには内緒にしておいてもらっていいですか?」
「どうしてです? あっ……。そうですね、ブルッサさんには言わない方がいいでしょう。町に行ったらオッパイ・パブも案内しましょうか?」
あっ、って何だよ。おそらく察した方向がズレていると思う。
「いや、そういうことじゃないです。とりあえず俺だけ先に偵察したいだけなんで。ブルッサも付いてきたら、話がややこしくなりそうじゃないですか」
「分かっていますよ。ブルッサさんにもフック君にも誰にも言いません。オスなら当然のことです」
「ちょっと違う気がするけど、まあいいです。とりあえず今日は金があまりなくなっちゃたんで。町に行ってお土産が買えるくらい、もう少し貯め直したら決行するつもりです。それまで、また頑張って稼がないと」
「1時間、飲み放題・揉み放題で一万エノムからの店がありますよ」
何だ、その店は? 揉み放題というのは非常に気になる。
だけど、俺は日収二千エノムの身分だ。怪しい店で散財するつもりはない。
「いやいやいや、違いますって。そんな店に行くつもりはありません。ダンジョンに行くための準備だけです」
「ふふ。では、下山する日になったら改めて申し付けください。私も自分の部屋の掃除をしておかないと」
「散らかっているんですか?」
「最近、仕事で疲れて帰って寝るだけの日も多くて。洗濯物も溜まってましてな」
行商人といえども、男なら溜まっていても仕方ないな。
「では、そういうことで。また後日お願いします。今日はこれにて失礼します」
「はい、毎度どうもでした」
これで町まで移動する足についても話がついた。
そもそも町が何処にあるのかも分からんし、俺1人で徒歩は無理だろう。
ここまで漕ぎ着けるのに、随分と長い日数がかかったなぁ。RPGのゲームとかなら、オープニングから5分もしないうちに冒険に出発しているのに。
村を出て町に行くだけのイベントが、こんなに大変だとは思いもしなかった。
今の気分は、修学旅行の1週間前みたいな精神状態になった。
……。
「ただいマンボー」
夕方前には、自宅に帰って来れた。
ダイニングではグランとハルナにアキホが椅子に座ってくつろいでいた。
「おうカイホ、帰ってきたか」
「おかえりなさい」
「お兄ちゃん、何か拾ってきたの?」
俺は左脇に円盤を抱えていたが、一瞬でアキホに目をつけられたようだ。
「ああ、ちょっとした玩具を買ってきたんだ。アキホと一緒に遊ぼうと思ってな」
「何して遊ぶのー?」
「カイ君、それ玩具なの?」
アキホだけでなくハルナにも、見たことの無い物体だったのだろう。気になって興味津々のようだ。
グランだけは別の玩具と勘違いしたみたいに、おかしなことを言い出した。
「もしかして、茸の模型でも買ってきたのか? まだアキホは子供だから、太いのはダメだぞ」
「茸なんて買わねえよ。ブーメラン・ナベシキってのを買ったんだけど」
「ああ、フライング・ソーサーか。懐かしいな」
「父さん、やったことあるの?」
「もう10年以上も前のことだ。一時期、みんな毎日アホみたいに投げまくっていたんだ。河原でやってたら、川に落ちて流れちまったけどな。失くしたから、あれ以来もう見てもいない」
ふむ。グランまで経験があるとは、かなりの一大ブームだったようだな。
川の近くで投げるのは危険そうだから、よしておいた方がいいだろう。
「そうなんだ。まあいいや、アキホ。外でちょっと投げてみようか」
俺はアキホを連れて家の外に出る。ついでにハルナも見物に付いてきた。
「お兄ちゃん。それ、お尻に挟むの?」
「いや、挟んじゃダメだよ。ちょっと離れてて。そっちに投げるから」
2人から10メートルほどの距離をとり、軽くヒュッと投げつける。
「わー。飛んでるー」
「ハルナ行ったぞ。キャッチして」
「きゃっ」
円盤はハルナの肩にペチっと当たり、地面に落ちた。
「さっきみたいに投げるんだ。アキホやってみた」
「わかったー。えいっ」
アキホが円盤を投げると、明後日の方向に飛んで行った。
「そっちじゃないぞ、こっちだ。拾ってきて、もう1回投げてみな」
「えいさっー」「とぉっー」「ふがー」
アキホが何度か投げているうちに、俺の守備範囲に飛んできた。
華麗にビシっとキャッチし、妹に向かって投げ返す。
「いいぞー、上手じゃないか。その調子だ」
「わーい。キャハハ」
こんなことを10分ほど続けていたら、息が切れてきた。
「はぁはぁ、ぜえぜえ」
円盤は、俺の正面には飛んでこない。テニスのラリーで、ひたすら左右に揺さぶられている状態だ。東に南に、西に北へと、ひたすら走り回され続けている。
どうして、俺の居る位置とは逆方向ばかりに投げ飛ばすんだ?
ボール拾いの犬じゃないだぞ。
「おもしろーい。お兄ちゃん早く取ってきてー」
「くそぉ。待て待て、タイム。選手交代だ」
俺は歩いて2人に近づき、円盤をハルナに手渡した。
「今度は、お姉ちゃんが投げればいいの?」
「ああ、俺は夕飯の支度もしないといけないし。悪いけど後は2人で遊んでてくれ。じゃ、アキホ。お兄ちゃんは疲れたから、また明日な」
「えー!? うん、分かった。お姉ちゃんと遊んでるー」
こんな過酷な玩具だとは想像もできなかったな。どうせ買うなら、やっぱ茸の木彫の方にしておけば良かったかもしれん。
まあ仕方ない。アキホのコントロールが上達すれば、もう少し楽になるだろう。
家に入るとグランが1人でお茶をすすっていた。
そうだ、ついでだから町に行く件について話しておくか。
「どうだ、上手くキャッチできたか?」
「いや、アキホが変な方向ばかりに投げるから円盤拾いで疲れたよ」
「わはは、そうか」
「そんで、ちょっと父さんに話しがあるだけど」
「ヒプストの的役なら、お断りだぞ」
「ん? 何スト?」
「ヒップ・ストライクだ。先攻と後攻に分かれ、1対1でやるターン制バトルの競技がある。受け側が四つん這いになって構えてな、攻め側が50メートル離れた地点から円盤を投げるんだ。ケツに命中すると1ポイントが入る」
なんじゃそりゃ。一体どこの誰が、そんなアホな競技を考えたのだろうか。
「そんなのやらねえよ。くだらない競技に参加するつもりはないし。そうじゃなくて、俺そのうち町に行ってみようと思うんだ。ボーデンさんに頼んだら馬車に乗せてくれるって言ってくれたから。来週あたり予定してるんだけど、いいかな?」
「別にかまわんぞ。行けば社会勉強にもなるだろうし。ただ、金はあるのか?」
貯金は半分近く失った。クソ親父のせいで俺が一万八千エノムも出したのに。
金はあるのか、とは何事だ。
「金は、もう少し貯めるつもりだけど。何か町に入るだけで費用とか掛かるの?」
「そうだなぁ。1時間で一万エノムくらいだったかな。あの店は」
町に行く=オッパイ・パブなのか。ここの村人にとって、それが町の全てかよ。
「そんな店は行かねえよ」
「なんだ違うのか。そんなら夜はボーデンの部屋にでも泊めてもらえばいい。何も飲み食いしなければ、特に金も使わないだろ」
「町を見てくるだけなら別に金はいらないのか。ボーデンさんも泊めてくれるみたいなんだ。そんじゃ家の方が問題なければ、一晩だけ俺は留守にするから」
「あっ……。カイホが家に居ないんじゃ、夕飯はどうなるんだ?」
家の夕飯は懸念材料だった。家族全員の胃袋が、俺の手に依存しきっている。
料理する人がいなくなると、ナマ草をかじる食生活に陥るのが目に見えている。
「うーん。午後2時頃に作り置きしとけばいいかな。それか、1日だけならハルナに料理してもらおうか。簡単なレシピを教えておいて、覚えてもらうから」
「そうだな。他のみんなにもレシピを教えてやってくれ。お前が急にポックリ逝ったりしたら、家族みんな困っちまうし」
俺だって、そう簡単に死んだりしたくはない。
天涯孤独だったら、いつダンジョンに行ってもかまわないのだけど。
残される家族のことを思って、ブルッサからの誘いを断り続けていたのだ。
「そんなことには、なりたくないけど。まあ、レシピの件は何とかしておくよ」
「頼んだぞ。父さんはメシさえ食わせてもらえれば、いつでもカイホが好きなとき町に行って構わんから」
「OK。とりあえず、話はそれだけだから」
結局、自分の食事の心配だけかい。しょうもないクソ親父だな。
それでも、俺が町に行くことについて無意味に反対されるよりはいいだろう。
父親のグランが許可すれば、母親のモーリアも特に文句はないはずだ。
さてと、お待ちかねの夕飯の支度にとりかかるとするか。
ところが、ボーデンは快く承諾してくれた。
「ふむ。まあ、構いませんよ。馬車にスペースはあるので、子供1人くらい乗っても全く問題はありません」
「乗車賃とかって必要ですか?」
あとから金を請求されたら困るので念のため確認で聞いてみた。
仮に有料だとしても、たぶん初乗り五百エノムくらいとかだろう。
「いえ、そんなのは結構です。大事なお得意様ですからね」
「そうですか、ありがとうございます」
こんな善良な商人に巡り会えて、本当に幸運だ。
アコギでボッタクリだったら、骨の髄まで搾り取られていたかもしれない。
むしろデソン先生とかの方が、よっぽど商人みたいだ。
「ただ、私がリバーシブに帰還すると夕方になってしまいます。バスチャー村に戻るのは翌朝になります。必然的に町で一晩を明かすことになりますが……」
「そうですね。町に宿屋とかあるんですか?」
もし、宿代が一泊五千エノムとか必要ならば、非常に財布が厳しくなる。
「リバーシブの町にも、高級旅館から簡易宿場までピンからキリでありますけど。まあカイホ君なら、一晩くらい私のアパートに泊まっていっても構わないですよ」
「いいんですか!? どうもすいませんね」
最悪、野宿することも覚悟していた。こんなに世話をしてもらえるなんて。
何から何まで、本当にありがたい申し出だった。
「いえいえ。それで、どうして急に町に行きたくなったんです?」
「えっと、俺もそのうちダンジョンに行こうかと思って。そんでデソン先生に聞いたら、ダンジョンに入るには入場資格が必要だからって。とりあえず冒険者ギルドで登録してみようかなと」
「ははぁ、なるほど。とうとうカイホ君も冒険者になる日が来ましたか。ご両親が承諾しているなら、それも結構だと思います」
「まだ家族には言ってないけど、うちの親はたぶん大丈夫だと思います。そんで、このことはブルッサには内緒にしておいてもらっていいですか?」
「どうしてです? あっ……。そうですね、ブルッサさんには言わない方がいいでしょう。町に行ったらオッパイ・パブも案内しましょうか?」
あっ、って何だよ。おそらく察した方向がズレていると思う。
「いや、そういうことじゃないです。とりあえず俺だけ先に偵察したいだけなんで。ブルッサも付いてきたら、話がややこしくなりそうじゃないですか」
「分かっていますよ。ブルッサさんにもフック君にも誰にも言いません。オスなら当然のことです」
「ちょっと違う気がするけど、まあいいです。とりあえず今日は金があまりなくなっちゃたんで。町に行ってお土産が買えるくらい、もう少し貯め直したら決行するつもりです。それまで、また頑張って稼がないと」
「1時間、飲み放題・揉み放題で一万エノムからの店がありますよ」
何だ、その店は? 揉み放題というのは非常に気になる。
だけど、俺は日収二千エノムの身分だ。怪しい店で散財するつもりはない。
「いやいやいや、違いますって。そんな店に行くつもりはありません。ダンジョンに行くための準備だけです」
「ふふ。では、下山する日になったら改めて申し付けください。私も自分の部屋の掃除をしておかないと」
「散らかっているんですか?」
「最近、仕事で疲れて帰って寝るだけの日も多くて。洗濯物も溜まってましてな」
行商人といえども、男なら溜まっていても仕方ないな。
「では、そういうことで。また後日お願いします。今日はこれにて失礼します」
「はい、毎度どうもでした」
これで町まで移動する足についても話がついた。
そもそも町が何処にあるのかも分からんし、俺1人で徒歩は無理だろう。
ここまで漕ぎ着けるのに、随分と長い日数がかかったなぁ。RPGのゲームとかなら、オープニングから5分もしないうちに冒険に出発しているのに。
村を出て町に行くだけのイベントが、こんなに大変だとは思いもしなかった。
今の気分は、修学旅行の1週間前みたいな精神状態になった。
……。
「ただいマンボー」
夕方前には、自宅に帰って来れた。
ダイニングではグランとハルナにアキホが椅子に座ってくつろいでいた。
「おうカイホ、帰ってきたか」
「おかえりなさい」
「お兄ちゃん、何か拾ってきたの?」
俺は左脇に円盤を抱えていたが、一瞬でアキホに目をつけられたようだ。
「ああ、ちょっとした玩具を買ってきたんだ。アキホと一緒に遊ぼうと思ってな」
「何して遊ぶのー?」
「カイ君、それ玩具なの?」
アキホだけでなくハルナにも、見たことの無い物体だったのだろう。気になって興味津々のようだ。
グランだけは別の玩具と勘違いしたみたいに、おかしなことを言い出した。
「もしかして、茸の模型でも買ってきたのか? まだアキホは子供だから、太いのはダメだぞ」
「茸なんて買わねえよ。ブーメラン・ナベシキってのを買ったんだけど」
「ああ、フライング・ソーサーか。懐かしいな」
「父さん、やったことあるの?」
「もう10年以上も前のことだ。一時期、みんな毎日アホみたいに投げまくっていたんだ。河原でやってたら、川に落ちて流れちまったけどな。失くしたから、あれ以来もう見てもいない」
ふむ。グランまで経験があるとは、かなりの一大ブームだったようだな。
川の近くで投げるのは危険そうだから、よしておいた方がいいだろう。
「そうなんだ。まあいいや、アキホ。外でちょっと投げてみようか」
俺はアキホを連れて家の外に出る。ついでにハルナも見物に付いてきた。
「お兄ちゃん。それ、お尻に挟むの?」
「いや、挟んじゃダメだよ。ちょっと離れてて。そっちに投げるから」
2人から10メートルほどの距離をとり、軽くヒュッと投げつける。
「わー。飛んでるー」
「ハルナ行ったぞ。キャッチして」
「きゃっ」
円盤はハルナの肩にペチっと当たり、地面に落ちた。
「さっきみたいに投げるんだ。アキホやってみた」
「わかったー。えいっ」
アキホが円盤を投げると、明後日の方向に飛んで行った。
「そっちじゃないぞ、こっちだ。拾ってきて、もう1回投げてみな」
「えいさっー」「とぉっー」「ふがー」
アキホが何度か投げているうちに、俺の守備範囲に飛んできた。
華麗にビシっとキャッチし、妹に向かって投げ返す。
「いいぞー、上手じゃないか。その調子だ」
「わーい。キャハハ」
こんなことを10分ほど続けていたら、息が切れてきた。
「はぁはぁ、ぜえぜえ」
円盤は、俺の正面には飛んでこない。テニスのラリーで、ひたすら左右に揺さぶられている状態だ。東に南に、西に北へと、ひたすら走り回され続けている。
どうして、俺の居る位置とは逆方向ばかりに投げ飛ばすんだ?
ボール拾いの犬じゃないだぞ。
「おもしろーい。お兄ちゃん早く取ってきてー」
「くそぉ。待て待て、タイム。選手交代だ」
俺は歩いて2人に近づき、円盤をハルナに手渡した。
「今度は、お姉ちゃんが投げればいいの?」
「ああ、俺は夕飯の支度もしないといけないし。悪いけど後は2人で遊んでてくれ。じゃ、アキホ。お兄ちゃんは疲れたから、また明日な」
「えー!? うん、分かった。お姉ちゃんと遊んでるー」
こんな過酷な玩具だとは想像もできなかったな。どうせ買うなら、やっぱ茸の木彫の方にしておけば良かったかもしれん。
まあ仕方ない。アキホのコントロールが上達すれば、もう少し楽になるだろう。
家に入るとグランが1人でお茶をすすっていた。
そうだ、ついでだから町に行く件について話しておくか。
「どうだ、上手くキャッチできたか?」
「いや、アキホが変な方向ばかりに投げるから円盤拾いで疲れたよ」
「わはは、そうか」
「そんで、ちょっと父さんに話しがあるだけど」
「ヒプストの的役なら、お断りだぞ」
「ん? 何スト?」
「ヒップ・ストライクだ。先攻と後攻に分かれ、1対1でやるターン制バトルの競技がある。受け側が四つん這いになって構えてな、攻め側が50メートル離れた地点から円盤を投げるんだ。ケツに命中すると1ポイントが入る」
なんじゃそりゃ。一体どこの誰が、そんなアホな競技を考えたのだろうか。
「そんなのやらねえよ。くだらない競技に参加するつもりはないし。そうじゃなくて、俺そのうち町に行ってみようと思うんだ。ボーデンさんに頼んだら馬車に乗せてくれるって言ってくれたから。来週あたり予定してるんだけど、いいかな?」
「別にかまわんぞ。行けば社会勉強にもなるだろうし。ただ、金はあるのか?」
貯金は半分近く失った。クソ親父のせいで俺が一万八千エノムも出したのに。
金はあるのか、とは何事だ。
「金は、もう少し貯めるつもりだけど。何か町に入るだけで費用とか掛かるの?」
「そうだなぁ。1時間で一万エノムくらいだったかな。あの店は」
町に行く=オッパイ・パブなのか。ここの村人にとって、それが町の全てかよ。
「そんな店は行かねえよ」
「なんだ違うのか。そんなら夜はボーデンの部屋にでも泊めてもらえばいい。何も飲み食いしなければ、特に金も使わないだろ」
「町を見てくるだけなら別に金はいらないのか。ボーデンさんも泊めてくれるみたいなんだ。そんじゃ家の方が問題なければ、一晩だけ俺は留守にするから」
「あっ……。カイホが家に居ないんじゃ、夕飯はどうなるんだ?」
家の夕飯は懸念材料だった。家族全員の胃袋が、俺の手に依存しきっている。
料理する人がいなくなると、ナマ草をかじる食生活に陥るのが目に見えている。
「うーん。午後2時頃に作り置きしとけばいいかな。それか、1日だけならハルナに料理してもらおうか。簡単なレシピを教えておいて、覚えてもらうから」
「そうだな。他のみんなにもレシピを教えてやってくれ。お前が急にポックリ逝ったりしたら、家族みんな困っちまうし」
俺だって、そう簡単に死んだりしたくはない。
天涯孤独だったら、いつダンジョンに行ってもかまわないのだけど。
残される家族のことを思って、ブルッサからの誘いを断り続けていたのだ。
「そんなことには、なりたくないけど。まあ、レシピの件は何とかしておくよ」
「頼んだぞ。父さんはメシさえ食わせてもらえれば、いつでもカイホが好きなとき町に行って構わんから」
「OK。とりあえず、話はそれだけだから」
結局、自分の食事の心配だけかい。しょうもないクソ親父だな。
それでも、俺が町に行くことについて無意味に反対されるよりはいいだろう。
父親のグランが許可すれば、母親のモーリアも特に文句はないはずだ。
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