牛人転生:オッパイもむだけのレベル上げです。

薄 氷渡

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3章 中編

P86

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 まともな旅館は、料金が最低でも一泊三千~五千エノムはかかるらしい。
 一泊千五百エノムの安宿は、衛生面や安全面で問題を抱えているケースもあるそうだ。あそこに泊まると、どうなるのか気にはなる。
 後日、フックにでもオススメ宿屋として教えておき、偵察してもらうとするか。

 それ以上、ボロ宿場について話題にするのも気が引けた。
 また馬車に戻ると荷台に乗り込んで、俺はしばらくボーッとしていた。
 ボーデンは次の配達先を目指し、馬をパカパカと歩かせる。

「次は、どこの店に配達するんです?」

「ええっと、もう着きますが。あそこが冒険者ギルドです。登録とか手続きに時間がかかると思いますので、カイホ君は先に済ませて来てください。その間に、私は1人で配達業務を片付けてきます。終わったら迎えに来ますので、そのままギルド内で待っていてください」

「あ、はい。俺1人で冒険者ギルドとか入っても、受付してもらえるんですか?」

「1人でも大丈夫と思いますが。いいや、私も最初の受付だけ付き添いましょう」

 建物の前で馬を停止させ、ボーデンがヒョイっと中に入って行く。
 この建物はレンガ造りのようで、とても頑丈そうだ。エクステリア的にも、おしゃれな外装になっている。
 普通の民家より、かなり建設費用が高くかかっていそうだな。

『冒険者ギルド・リバーシブ西支部 人員大募集 多数の業務を絶賛仲介中』

 なんか軽い広告みたいな看板が掲示してある。
 少し不安になりながらも、思いきって踏み込んでみた。
 外観は立派だが、中の間取りは他の家と大差ないようだ。ここは玄関で靴を脱がずに土足で上がって構わないみたいだな。サンダルのままズカズカと奥まで進む。

 俺の家のダイニングに該当する部分が待合室になっているようだ。
 丸いテーブルが3セット置いてある。その1つに、3人の男達が座って何か話をしていた。パーディメンバー同士で作戦会議でもしているのだろうか。
 壁際には多数の張り紙がしてある。別の男が、それをしきりに眺めていた。
 1号室~3号室はドアが開いたままになっている。それぞれの部屋の入口横にはルームプレートが付いていた。

『1番窓口:業務受注』 『2番窓口:完了報告』 『3番窓口:登録・相談等』

「俺は、3番に行けばいいのかな?」

「そのようですね。入ってみましょう」

「ごめんください」

 部屋の中央にはカウンターが設置してある。手前には2個の椅子がある。銀行の窓口みたいな雰囲気だな。
 カウンターの奥に人の気配は見えない。無人だった。

「誰も居ませんね」

 すると隣の部屋から声が聞こえてきた。

「はーい。少々お待ちください」

 何秒か待っていると、部屋の奥の右側のドアが開いて1人の女性が入ってきた。
 1号~3号室は全て待合室から入れるが、それぞれの部屋同士も奥で横につながっているようだ。

「ども、こんにちわ」

「いらっしゃいませ。本日は、どのようなご用件でしょうか?」

 受付係らしき、その女性の姿を軽く眺めてみた。
 彼女は黄色のブラウスに、ブラウン色のベストみたいな袖なし上衣を着用した制服姿をしている。首には赤いスカーフを巻いていた。
 それに、どうも明らかにニンゲン種ではない。丸くて毛に覆われた耳が上の方についている。ホル族とも違うが、何らかの獣人の一種なのだろう。
 不思議なことに、右耳は黒毛で、左耳は白毛になっている。髪の毛もモコモコした感じのセミロングで、面白いことに黒と白の縦ストライプ模様をしている。
 俺は何を言えばいいのか考えてしまい5秒ほど固まっていると、ボーデンの方から話を切り出してくれた。

「えーと、私は行商人のボーデンと言います。それで、こちらの少年はホル族の魔術師なのですが。今日は彼の冒険者登録をお願いします。よろしいですか?」

「え? まあ、必要な条件を満たしていれば大丈夫ですが。では、いくつか書類に記入をしてください」

「身分証明書とか印鑑とか何も持ってないけど、かまわないですか?」

「そんなものは特に必要ないです」

「では後は、よろしくお願いします。私は自分の仕事をやらないといけないので、配達に行ってきます」

「はい。ボーデンさん、ありがとうございました。行ってらっしゃいませ」

 ボーデンは部屋を出ていく。
 残された俺と受付嬢がカウンターを挟んで向かい合う。「何だ、このガキは?」などと思われてなければよいのだけど。

「えっと、君が冒険者になるつもりなの? 文字の読み書きはできるのかな? 魔術師だとか言ってたけど本当なの?」

「一応、そうですけど。文字は俺の知っている言語なら読み書きできるはずです。もし外国語とか使ってるなら無理ですけど」

「これに書ける?」

 ボーデンが帰ったら受付嬢が急にタメ口になった。
 ぞんざいに1枚の用紙をカウンター上で、ヒュッと俺に突きつけきた。

『登録申込書』 
 ・名前[    ]・コードネーム[    ]
 ・種族[    ]・年齢    [    ]
 ・住所[    ]・バストサイズ[    ]
 ・特技[    ]・希望業務等 [    ]

 その書類には、そんなような項目の記入欄が並んでいる。
 原理は分からないが、異世界なのに普通に日本語が使われている。ナメック語とかだったら、お手上げだった。しかし、地球の言語と同じなら何も問題はない。

「鉛筆、これ借りますね。サササのサーっと」

 カウンターの脇には、紐付の筆記用具も備え付けられていた。
 それを使って、名前から順番に書いていく。
 自分の家の住所がよく分からなかったので、バスチャー村の北東3丁目と適当に入れておいた。種族は、たしか牛人種ホルスター族だったはずだ。

「へぇ。まだ子供なのに、上手な字を書くね。あと、手数料が千エノム必要だけど、持ってきてるのかな?」

 今日は三千エノムを持ってきていたが、デソン先生に二千エノムを徴収されてしまっている。残金がギリギリで、ここで支払いをすると文無しになってしまう。

「登録するだけなのに金がかかるんですか? 千エノムくらいなら払えますが」

「事務手続きにも経費がかかるからね。どうしても持ち合わせがなければ後で仕事をしてから天引きって形にもできるけど」

「いえ、それくらい今すぐ払いますよ」

「はい、千エノム。たしかに」

 俺は財布から銀貨10枚を取り出してテーブルの上に置いた。これで財布が空になってしまったが仕方ない。それから書類の記入を続けていく。
 よく見ると申込書の上半分が個人事項の記入欄で、下の方は契約書風の文言が記載されていた。なになに、……?


『冒険者ギルド(以下、甲という)は冒険者(以下、乙という)に日雇い労働等を紹介し、あるいは依頼主の元への派遣をする。
 甲は依頼主から請負代金を受領し、乙に業務を遂行させる。
 乙が任務を完了した後に、甲は請負代金の中から最低10%~最大50%の手数料を差し引いて、乙に対して任務報酬を支払う。』


 うわ……、ギルドって派遣会社だったのか。
 他に契約書の末尾には、違約金がウンタラカンタラ、契約解除がどうのこうの、などと書いてある。

「ちょっと聞きたいんですけど。手数料50%って高すぎじゃないですか?」

「それは、依頼の難易度とか報酬額によって違うから。二百エノムくらいの安い仕事だと、手数料で百エノムが引かれて50%になるの。だけど千エノム以上の仕事なら平均20%くらいだし、そんなに暴利じゃないよ。他に何か質問ある?」

 簡単な仕事だとギルドのピンハネが激しいのか。千エノムの仕事なら二百エノムを天引きされても八百エノムがもらえるようだな。

「手数料は、そういうことか。そんで、コードネームって何ですか? あと、俺は男だけどバストなんて書くんです?」

「あ、バストは任意だから別にオスは書かなくてもいいよ。コードネームっていうのは、本名とは別にギルド登録上の好きな呼称を付けられるの。事情があって、偽名で仕事をしている人とかもいるわけでしょ。暗殺業務とか引き受けたときに、パーティ内で本名を呼び合うわけにもいかないじゃない」

「このギルド、暗殺業務とかもあるんですか?」

「そんなのあるわけ無いよ。今のは単なる冗談。あとからコード変更もできるから、そんなに難しく考えずに気軽でいいよ」

「なんだぁ。あなた面白いこと言いますね。ハハハ」

 まあ一種のペンネームみたいなものだろう。急に言われても特に思いつかなかったので、とりあえずコードネームはカボスにしておいた。
 書ける部分は書き終わったので、書類を受付嬢に手渡した。

「ふぅん。カボスなんて、ふざけた名前にするんだ。ちなみにコードネームを変更するときは、名義書換手数料として一万エノムが必要になるからね。さて、特に不備はないので登録申請を受理します」

「えぇっーー!? ちょっと待ってくださいよ。そういうことは先に言ってもらいたいんですけど」

「さっき、他に質問ある? って言ったのに、聞かれてないし。何か問題でも?」

「いや、別にいいですけど」

 酷いトラップだな。カボスなんて自ら好んで名乗りたくはないが、まだマシな方だろう。オッパイ星人とかモミモミ仮面とか、変なネタに走らなくて良かった。

「では、このあと簡単な審査と筆記試験をするから。今後、私がカボスを担当させていただきます。モノクマ族のメリファンです。よろしくだニャン」

「はい、よろしくお願いします。ニャンって何ですか? 急に語尾が変ですよ」

「いいえ、ニャンでもありません。単なるミーの癖で、ときどき言ってしまうだけ。気にしないで」

 ニャンとか言っているが猫の獣人には見えない。モノクマと言うらしいが、熊系なのではないだろうか。牛人種以外の獣人を初めて見たかもしれない。やはり、外観はほとんど人間と大差ない。耳の形と生えている位置が少し違う程度のようだ。

「そんで、メリファンさんはモノクマ族っていうんですか。左右の耳が白黒で色が違うなんて。珍しいですね」

「うるさい、お前だって前髪だけ赤いニャン。牛人種の突然変態だニャ」

 俺の髪はスニャックの返り血を定期的に浴び続けているから、常に前半分が赤くなっているだけだ。

「それを言うなら突然変異じゃ? これは染色だし。まあいいです。それで筆記試験なんてやるんですか。俺、ダンジョンに入りたいだけなんですが」

「ダンジョンは3級冒険者にならないと入れないよ。今日は仮登録みたいなものだから、合格しても冒険者見習い止まりね」

「意外と面倒だなぁ。では、とりあえず筆記試験とやらを受けさせてください」

「はいはい。これが問題用紙ね。制限時間は30分。そこの待合室のテーブルで記入して、出来たら提出するニャン。ちなみにカンニングは禁止だから、答えを他人に聞いたりしたらダメだよ。自力で解いてね。占星術とか予知夢とか、自分の能力を駆使する分には構わないけど。合格ラインは100点満点中、70点くらいが目安だから。じゃ、頑張れニャン」

「占星術なんて使える人が受験したりするんですか? 魔法で答えが分かったら簡単に満点ですよね」

「以前、サイコロをコロコロ転がして解答してたアストロメイジならいたね。正解率は25%くらいだったかな」

「それ、魔法ちゃうで。まあいいや、テストやってきます」

 試験問題を渡され、部屋を退室した。
 ロビーのテーブルは空きがあったので、一番奥の椅子に座り筆記試験の攻略に取り掛かった。どうやら全部、四択のようだ。
 小学生レベルの常識問題みたいで、大して難しいようには思えない。
 占星術が使えなくても確率的に誰でも最低25点は取れるだろう。

 試験があるとは聞いていなくて、さっきは内心ビクついてしまったが杞憂に済みそうだ。ただ、この異世界の常識が地球と同じとは限らないのが最大の難点だ。

 問題を解き進めていく。ふんふん、なるほど……。
 んんっ?? なんじゃこりゃー!?

 全体的に、おかしな選択肢が混ざっている。問題によっては、俺が正解だと思うものが4つの中に含まれていない。簡単そうなのに、違う意味で少し難しいぞ。

 こんなふざけた試験で千エノムも徴収され、不合格にされたら洒落にならん。
 どれが引っ掛け問題なのか、選択肢にトラップがあるのか分からん。
 もう一度、1問目から慎重に見直しをしてみよう。
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