牛人転生:オッパイもむだけのレベル上げです。

薄 氷渡

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3章 中編

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 改良した試作品のミルクゼリーを2人の男が味見している。
 1分ほどモグモグしたあと、ボーデンが食べた感想を述べ始めた。

「こちらの蜂蜜ゼリーは美味しいですが、もう1つの少し濁った白いのは少し違和感が……。どうもミルクゼリーとは程遠い」

「いや、こっちのはミルクを色付け程度にしか入れてないんで。本当ならミルクたっぷりのゼリーを食べたいんです。でも、うちの村では搾乳したらそのまま商品として出荷してるじゃないですか。それで、家で自分達が食べるように作ったコピー食品がコレなんですよ」

「なるほど。それでテポモイの実を使ったのですな。すりつぶして水に溶かしたのでしょう。オリジナルのミルクゼリーが熟女のオッパイみたいな柔らかさだとすれば、テポモイゼリーは禁断の青い果実のような張りのあるオッパイです。舌でとろけることはありませんが、食べごたえは十分です」

 ポテトサラダみたいに、ややペースト状になっている芋をボーデンは簡単に識別していた。相変わらずの絶対味覚に感心した。
 だけど、青い果実のようなオッパイって何だよ?
 たしかにイモゼリーの方はデンプン質のせいで少し固くなっている。

「イモゼリーの方は一種の、まかないみたいな物です。商品になるのか分からないけど試しに持ってきたんです。蜂蜜ゼリーは蜂蜜を半分にすることで原価を抑えているので、通常の砂糖を使ったミルクゼリーと同じ値段でも納品できると思います。そんな感じなんですが、どうでしょう?」

「残念ですが、このテポモイゼリーは売れないと思います。デザートと言うよりは冷めたオカズみたいでして、イマイチ箸が進みません」

 むむむ、やはりそうか。ハッキリ不味いと言われたに等しいな。
 家庭で食べるための廉価料理を店で客に提供するなんて、どだい無理だったのだろう。冷めたオカズか……。いや、待てよ。

「あの、ちょっと試したいことを思いついたんです。このテポモイ、温め直してみます。加熱温乳:ヒートミール!」

 ギュワワワワー。
 俺はビンを右手で握りしめ、容器ごと中身を加熱した。
 しばらくすると、グツグツと湯だってきた。スライムのゼラチンは成分がミルクに近く、俺の魔法も通用している。ゼリーが溶けてドロドロになってきた。
 見た目だけならは、ほぼミルク・シチューのようだ。

「プリプリだったのが、スープみたいになりましたな。これをどうするのです?」

「そうです。スープとして飲んでもらえませんか? あと、できれば塩を加えた方がいいかもしれないです」

 俺がそう頼むと、店主が別の木のコップを用意してきた。シチューの入ったビンを傾けて、容器に注いでいく。
 塩も店の物を木箱ごとテーブルまで運んでもらった。ボーデンがスプーンで1杯ずつ味見をしながら、塩を少しずつ足して掻き混ぜている。

「なんということでしょう。甘みとトロみのある、変わったスープになりましたな。塩を5グラム足したら、ちょうどいい味です」

「さっきまで冷え冷えだったのに、急に熱々になるなんて魔法みたいだ。こんなに具がゴロゴロしてるスープは飲んだことが、いや食べたことがない」

 パブの店主は、料理の温度変化の方に驚愕していたようだ。
 魔法みたいというか、乳魔術を使ったんだけどなぁ。

「ボーデンさん、どうです? これなら売れますかね」

「そうですねぇ。蜂蜜の方は従来品と同じ値段でいいなら1日何本でも大歓迎です。テポモイスープの方は原価が低いはずですので、百エノム引きくらいでしょうか。それでよければ、様子見で1日5本くらい買取いたします」

「いや、毎日5本も作るのは、ちょっと厳しいです。家事もやってるし、材料集めにモンスターも倒してこないとだから。やれるだけやってみますが。テポモイの納品は保留で、もう少し改良を考えてみます」

 俺とボーデンが商談をしていると、いつの間にか店主が同じテーブルに座り酒を飲み始めていた。自分でグラスに焼酎を手酌してグビグビ煽っている。

「いやはや、この食べるミルクはまことに美味い。酒のツマミにもなる」

 お前、仕事中じゃないのか? バーテンダーが客と同席して飲んでてどうするんだよ。それに、杏仁豆腐はデザートだ。酒の肴のつもりで作ったわけじゃない。
 でも、まだテポモイの方は酒に合うかもしれない。
 この店の経営に多少の不安を覚えるが、まあ俺には関係ないことだ。

「では食事も済みましたことだし、そろそろ引き上げましょうか。マスターお勘定を。小麦麺は1皿五百エノムでしたよね」

「ボーデン、今日のお代は結構だ。ゼリーを2ビンも頂いたからね。残りは他のお客さんにも振る舞わせていただくよ」

「そうですか。それなら、等価交換ということで。どうも、ご馳走様でした」

「ペペロン……じゃなくて、赤辛ナス麺とても美味しかったです。では、また」

 最初、ボーデンが奢ってくれるという話だったはずだ。
 ところが、結局は飲食代金を払わなかった。まあ、今日は彼に世話になりっぱなしだ。これ以上、行商人に借りを作る必要もないだろう。
 店の外に出ると3人のオッッサン達が腹を出して路上で寝ていた。こいつら、まだ居たのか。気持ちよさそうにイビキをかいている。
 どうでもいいので、無視して通りすぎた。これからボーデンの家に帰宅するので後ろから付いて行く。

「あの食堂から、うちはすぐ近くです。歩いて何分もかかりません」

 クネクネと路地を曲がること2~3度、一軒の住宅前に到着した。

「ここですか? どこの家も同じような外観ですね。区別がつかないです」

「そうですねぇ。酔っぱらいが他人の家の玄関を叩いていることが、よくあるんです。シラフでも間違えやすいです」

 俺の実家の村みたいに、近所との家の間隔が100メートル以上も離れていれば周囲の風景が違うので間違えることはない。
 ただ、街の住宅街は田舎者から見ると迷路のようだった。
 ボーデンが玄関の鍵をガチャガチャと開け中へと入る。

「お邪魔します」

 サンダルを脱いで目の前の下駄箱に突っ込むと、そのまま上がらせてもらった。
 建物の間取り自体は、さっきの店とも違いはなかった。やはり、街でも設計費用を削減するため建築物は量産コピーしているのだろう。

「左の一番奥が、私の借りてる部屋です。台所やトイレは共同となっています」

 ふむ。そういう形態のアパートなのか。
 元は4LDKの一軒家なのだけど、1人1部屋ずつ賃貸しているようだ。下宿とか、ルームシェアリングというやつに近いかもしれない。
 玄関とは別に、各自の個室にもドアに鍵がついていた。ボーデンがまた、カチカチとドアを解錠した。気になって「家賃ナンボ?」と言いたくなったが、失礼になるかもしれないので我慢して聞かないでいることにする。

「角部屋ですねぇ。日当たりも良さそうだし、いいじゃないですか」

「普段はずっと外で仕事で、帰って来ても寝るだけです。狭い所ですが、どうぞ」

「意外と綺麗に片付いてますね。というか物がほとんどない。たしかに寝るだけみたいですね」

 もう夕飯も食べたし、家に入れてもらっても特にやることはない。テレビとか、ゲームだのがあるわけでもない。行商人は、明日も朝から仕事がある。
 普段なら俺には夜の仕事があるのだけど、出張中なので搾乳は出来ない。仕方ないから、すぐ就寝することになった。

「えっと、毛布は予備が別に1つあるのですが。敷布団は自分用しかありません。一緒に寝ますか?」

「いや、それはちょっと……。俺、寝相が悪いので無意識にキックやエルボーが出るかもしれないんで。毛布をお借り出来れば、それで十分です」

「どうもすいませんね」

「いえいえ、とんでもない。今日は1日、ありがとうございました。それじゃ寝ましょう。お疲れ様でした」

「はい、毎度です」

 おやすみの挨拶に「毎度」なんて言う人は初めて見たな。さすがは商人だ。
 それから俺は毛布を縦半分に折って、敷布団兼用的にくるまって眠りについた。

 ……。

 翌朝、目が覚めると反射的にガバっと飛び起きた。
 朝食の準備をしなければ、と思ったがココは自宅ではない。室内の反対側では、まだボーデンが熟睡しているようだった。

 部屋の外に出て台所に入ってみる。とりあえず、お湯でも沸かそうかとしたが、水ガメは空っぽだった。桶があったので、手に取り外に出てみる。
 家の周囲をグルグルと周って探索すると井戸は見つかった。住宅が8軒ごとに1区画になっており、中央に井戸が配備され共同利用する形態になっているようだ。

 例によって井戸には日時計がついている。まだ、時刻は午前7時になるかならないかくらいのようだ。顔を洗いポンプ井戸で水汲みをし、アパートへ戻る。
 町まで出てきたのに、村に居るときとやってることがあまり変わらないなぁ。

 必要な調理器具と食器などは揃っているので、勝手に使わせてもらうか。
 竈に火をつけ鍋で水を加熱する。フックから買ったパンのうち2個を持ってきていたが、食べるのを忘れていた。これを蒸して温め直す。
 昨日の午前中、ミルビー狩りの帰りに河原で少し採集してポケットに入れたままだったズズタマ草も茶葉として使用してみることにする。鍋のお湯で煮込んで抽出し、ビンに注いで移した。

 簡単な朝食の用意が出来たので、トレーに乗せて部屋へと戻る。まだボーデンは寝ているようだが、半分くらい意識が目覚めているかもしれない。
 俺がガタゴトと物音を立てたので、起こしてしまったのだろう。

「誰だっ? 泥棒か?」

「いや、俺ですけど。おはようございます」

「おっと失敬。うっかり刺客と間違えて、ナイフを投げそうになりました」

「やめてくださいよ。今、朝食を用意したんです。パン1個とお茶だけですが」

「おお、これはかたじけない。では、さっそく頂きます」

 ボーデンは布団から起き上がるとパンにムシャムシャとかぶりつき、ゴクゴクとお茶を飲み干した。

「いつもの、食べ飽きたパンかもしれないけど」

「ぬぬ。これはフック君が作ったパンみたいな味がします」

「いえ。そのまんま、フックが作った物です。昨日の残り物で申し訳ないですが」

「ああ、そうでしたか。しかし、再加熱してあると作り立てみたいで味も悪くないです。いつも、私は朝食抜きのこともあるので助かりました」

「いえいえ。それで、朝のスケジュールはどんな感じです」

「普段は、もう少しゆっくりしてから仕事に向かうのですが。まだ今日は時間もあるし、村に出発する前に馬のディーラーを見に行きましょうか」

 馬の販売店は町外れにあるらしい。先に厩舎に戻って行商の準備をする。
 そのあと、馬車でバスチャー村に向かう途中でディーラーに寄ることにするそうだ。村で販売する商品を車内に積み込む。
 それから、馬小屋からサンゴーを出してきて車体に繋いだ。
 そんなことをしていると、テクテクとホル族の2人が歩いて近づいて来た。
 デソン先生とレモネさんだ。

「君達、ずいぶん早いじゃないの。睡眠時間をたくさん確保しないとオッパイが大きくならないよ」

「俺は男だからいいじゃないですか。先生達も馬車に乗って村に帰るんですか?」

「当然じゃないか。まさかカイホ君は村に戻らないつもりなのかい?」

「帰りますよ。でも、その前に馬のディーラーを見てくるんです。どんなのが売ってるのかなって思って」

「ほお、それは結構なことだ。そうだ、レモネも一緒に行ったらどうだ? 昨日、ウマナミの話をしただろ。ディーラーに行けば、色んな種類の馬がいるからさ。よーく、比較して確認してみればいい」

「先生、私をからかうのは止めてください。でも馬屋さん見てみたいです」

「そんじゃさ、僕は軽くジョギングしてから走って村に帰るから。レモネはカイホ君と一緒に馬市場を見学してから行商人の馬車で戻ってくれ」

「はい、先生。分かりました」

 どうやらレモネさんも馬を見たいらしい。話の流れからするとデソン先生は1人で先に村へ帰還で、レモネさんは俺達に付いて来るようだ。

「じゃあ、どうするんです? レモネさんも3号馬車で一緒に?」

「まあ、そうなるな。2人くらい乗員が増えても問題ないはずだ。それにサンゴーを見てみなよ。昨日、君がヒールをかけたんだろ? ずいぶん体調が良さそうじゃないか。もし去勢されてなかったら大変なことになってただろう」

「ナニが大変なんですかね? というか、こいつら去勢済みだったんだ」

「そうだよ。馬車を引かせるのに気性の荒い馬は使えないからね。一部の種馬以外、オスは大半がボールカットされてるよ」

 どうやらサンゴーは、タマタマ摘出手術の処置済みらしい。サオ部分は残っているようだが、そんなモノを別に確認したいとも思わない。

「へぇ、そうだったんだ」

「それで、レモネが残念がっていてね。ウマナミを確認するのに、騸馬せんばだとイマイチだから。ディーラーに行かないと去勢前の馬のブツが拝めないというわけだ」

「もぉ、先生ったら。変なこと言わないでください」

「なるほど。馬は男のロマンだって言われたんですが。女の人も馬が好きなんじゃないですか?」

「そういうことだ。では君達は、馬の股間をじっくり見てくるといい。僕は、もう出掛けるよ」

 そのままデソン先生は走ってどこかに行ってしまった。レモネさんは顔を少し赤くしながら頬を膨らませて「プンプン」などと言っている。
 ボーデンの方も、仕入資金の出金や荷物の搬入など準備が終わったようだ。
 俺とレモネさんは3号馬車に乗り込んだ。ボーデンの操縦で馬を発進させる。

「ゴー、アヘッド!」

 ふしゅー。サンゴーは少し鼻息を吹いて、勢い良く歩き出す。

「なんか昨日は馬も疲れてそうだったけど、朝は元気がいいなぁ」

「生き物ですからねぇ。そのときどきで、体調も全然違いますよ。今日は私も含めて3人も乗せているのに、1人のときと変わらないくらいの速度が出ています」

 馬車がトコトコ走ること5分か10分そこら。前方の少し先に木の柵で囲まれた牧場のような施設が見えてきた。その内部で、放し飼いにされた数等の馬が草をモグモグしているようだ。

「あそこですか、馬の展示場は?」

「そうです。このディラーは小さい方で数はそんなに置いてありません。他に、もっと大きいディーラーもあるのですが。そっちは町の東外れで、こちら側からは反対で遠いですからね。今日はこちらに寄って行きます」

 牧場の前には看板も立っていた。

『激安馬市場:バッテン屋 販売・買取・オークション代行 ご相談ください』

 妙な店名だな。オークションとかまであるのか。

「あの、ボーデンさん。いらなくなった馬って売れるんですか?」

「はい。それに買い換えるときに下取りもしてもらえます。でも、高くても買値の半額以下になってしまいますがね。下手すると販売価格の5%とかです」

「まあ商売なら、そんなもんでしょうねぇ」

 牧場の前まで到着したのでサンゴーを停車させ、馬車から降り外に出る。
 どんな馬がいるのか見渡し、ざっと数えてみた。
 行商人が馬車に使っているのと同じタイプのケンタが3頭ほどいた。あとは道産子みたいな小さい馬が5頭くらいだろうか。
 ボーデンが柵を乗り越え中に入ったので、俺とレモネさんも一緒に付いて行く。

「あちらの小さいのがノロバです。大きい方はお分かりと思いますがケンタです」

「へぇ、あれがノロバって言うのか。可愛いな」

「ケンタ、すごい。大きいです」

 レモネさんは、牡馬のケツを凝視しながら瞳孔を大きくしていた。
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