ダンジョンのコンサルタント【完】

流水斎

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机上のコンサル編

方針の重要性

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 ダンジョンの運営には色々あるが、一口に言って根幹となるのは二つしかない。
『外から招き入れ』、『中で倒す』という身も蓋もない戦闘行為だ。しかもこちらは優位地形に待ち受けているが、用意した戦力には細やかな支持が出来ない事が多いので、まさにタワーディフェンスであると言えるだろう。

町の防衛用だと招き入れるのはモンスターで倒すのは行政側か自分の傭兵たち。
たまに盗賊団も混じるが人型モンスターという分類に入れて問題ないだろう。それらが入ってくることによって魔力が流入し、倒されることで更に蓄積されていく。その結果を何に使うのかが方針にあたり、町の防衛用だと魔法設備そのものに充てるパターンが多くなる。派生形となるが、知的なモンスターと傭兵契約するための魔法陣も設備の一つになるだろう。

「方針……方針ねえ。これって言った方が良いのかしら」
「単純に今までよりアップデートするだけってのがうちの事務所からしても楽ではあるな。だけど、それじゃあ初級の連中を上位互換しただけになるぞ。貴族のボンボン達がやってるように独自性の全くないので良ければ構わんがね」
 初級のダンジョンマスターは可能なことをがむしゃらにやるだけだ。
それを中級になって見直し、より良い設備に更新し、あるいは設備の場所を入れ変えて最適化するだけでもマシになるのは確かだ。エレオノーラみたいに細かい所まで契約に口を出し、普段は使ってないダンジョンの隅々まで見直して利用すれば猶更だろう。

ただ、それでは何処にでもあるダンジョンの派生形に過ぎない。
貴族のボンボンの中でも地頭が良いとか伝統の長いところは、最初からコンサルや腕利きダンジョンマスターの助言ありきでやっている。その連中と比べられて、一から苦労したエレオノーラのダンジョンが勝るとも思えない。余程の事が無ければ程ほどの評価に収まることになるだろう。

「例えば俺がまとめて来た、ペガサス牧場みたいな真似は絶対に無理だ」
「特殊な設備があるなしに関わらず、ストレスを与えずに育てにゃならん」
「その上で、ペガサスを守る為にもダンジョンを運営するためにも、それぞれやるべきことがあるからな。こんな事を後から付けていくのは無理ってもんだ」
 判り易く言うと、前回の契約では『独自性のある牧場型』だった。
ペガサスに落ち着いたのは、他の牧場型ダンジョンに真似をされ難い生物という前提で、俺がクラウディア出身で見知っていたという点に尽きる。現地との親和性も山岳地帯で地元で重宝されるという意味でも方向性はバッチリだ。その上で増え易く大型の蜥蜴にするか、それともロマンはあるが苦労するペガサスとの二択で可能かどうかを少しずつ詰めていった結果になるだろう。

想像できる奴は想像できるだろうが、この件ではスペースの活用問題だ。
広ければ良いという訳ではなく、ペガサスを倒せずとも危険な生物が居ればそれだけでストレスになる。半分放し飼いにして育てるとして安全な閉鎖区画を用意し、このダンジョンの中は安全で、世話をしてくれる人の元に戻れば快適だと思わせる必要があった訳だ。そんな都合の良い部屋割りを後から行えとか絶対に無理だろう。

「……そうじゃなくて、私の目的の延長上には今のダンジョンは無いのよ」
「最終目的は一族で管理していた天然のダンジョンを再管理する事だもの」
「うちの敷地の中というか、そのダンジョンを囲ったわけだけど……」
「ほら、天然のダンジョンって貴重で質も危険も段違いじゃない? このままだと国に取り上げられちゃうのよね。その前に管理可能区画を増やすか、私の将来的にいつか、全部管理できるだけの能力があると見せなきゃならないの」
 こいつは驚いた。このご時世に天然のダンジョンとは!
判り難いのでその能力を簡単に説明するとだが、地形は殆ど変えられず位置は当然変更不可。このために迷宮みたいな構造にしたり、俺がやったようなペガサス牧場みたいな特殊な改装は不可能。その代りに魔力の集まりとか、独自の世界とも言える魔物の生態系や、そこで採れる特殊な素材の集まりも大きく違うというものだ。貴重で質も危険も段違いと言うエレオノーラの言葉に偽りはなく、管理できていないならば国が取り上げるというのも当然だろう。

なお、今の流行りはダンジョン・ビルドが簡単になった影響で、地下に穴を掘るか塔のような高い建物を建てるかというパターンが多い。天然物に近い能力を得ようと洞穴などを利用した場所もあるが、研究棟と変わらない程度の成果しか得られないと聞く。意図的に近い事をやるのは非常に難しいので、代用の効かないレア物というわけだな。

「……国に納めるアガリと、魔物が出てこないって言う保証が重要なんだけっか?」
「そうよ。今は上層を中心に魔力を抜いて、出入りする魔物を管理しているところ」
 作ったダンジョンと違って天然物は基本的に地下洞穴か樹海など秘境の類だ。
上層ということは相当に外延部までしか管理できていないという事だろう。限界まで一族の戦力を投入すればおそらくもう少し行ける筈だが、何時までも戦力を張り付けて置けるわけでもなく、また一族の中でも思惑は様々だろうから現在の形に落ち着いた物と思われる。

大丈夫な状態なんだろうとは思うが、国や地方行政側としては心配なんだろうな。
エレオノーラの一族の土地とはいえ、管理し易いように周辺へ屋敷を立てて居るという程度だろう。もしモンスターの大発生が起きてしまえば大変だし、危険になる事を理解して放置して居たという責任を問われることになるのだ。何かの偶然が無ければそんな事態にはまず陥らないが、それでも中層くらいを抑えることが可能だったら、万が一すら起き得ないのだから。

(さて。好きにしろと言うのは易いが、専門家としてはどう言うべきかね?)
 お客の全員が話を聞いてくれるとは限らないが、それでも提案をすべきだ。
その状況に合わせ建設的で妥当なプランを用意するのがコンサルだからだ。意欲的で冒険的な話も出せなくはないが、それはあくまで客が望んでから探していくことになる。ペガサス牧場の件だって、間に仮定が幾つも挟まっていた。その上で『だったらこういうのはどうです?』と伐り出した選択肢の一つだったのだから。

定番なのはとりあえず三つ並べて真ん中が一番妥当と言うやつだ。
だだあまりにもショボイ内容だと日和ったと思われ、後から担当者や酷い場合は事務所自体を変更されかねないので注意が必要ではある。依頼人が一風変わったことを求めて居たり、彼女が口に出している事と似たような事を提案するのは良くないだろう。何かしら自分とは違う解決策を求めているのだから。
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