ダンジョンのコンサルタント【完】

流水斎

文字の大きさ
4 / 84
机上のコンサル編

三つの素案

しおりを挟む

 俺は葉巻用のシガレット・カッターを手渡しつつメモ用紙を用意した。
考える為の時間稼ぎというのもあるが、ここらで一服して頭をスッキリさせようという合図だ。もし煙草は十分だから紅茶の方が良いと言われたら、その分だけ時間が稼げるので良いとしよう。

そして一服点けたところでメモ用紙の冒頭に三つの点を判り易く打った。

「現状で思いつくプランは三つ。その上で、それぞれ強化案を付けることは可能だ」
「一つ目は最高率を目指す。キャリアを積み重ねつつ手元のリソースを増やす」
「二つ目は可能な幅を重視するプラン。出来る事を増やして手札を揃えていく」
「この二つはどちらも育てたダンジョンを売り払い、天然ダンジョンを任せても良いと思える様な……。それだけの実績を目指していく、と言う意味では同じ傾向だな」
 エレオノーラが考えているであろう、妥当で手堅いプランがこっち側だ。
出来ることは限られているので詰めれる所を詰めて、不要な部分を切り捨てつつ良くしていくという、ド本命で面白みも無く悪い意味で言えば素人でも思いつくプランである。ただ王道というものは成功した例が多いからこその王道である。ひとまず推す本命としては、こういった物を提案しておくべきだろう。

このどちらかが採用された場合、後は現地の状況と情勢に合わせるだけだ。
失敗は少ないが旨味も少なく、面白みに欠ける代わりに妥当な結果が出せるのは間違いがない。もしエレオノーラが口にしてない状況に。『何年までに優秀な成績を残せ』『国内でも有数なダンジョンマスターに成れ』と言われいない限りは、こちらを採用すべきだろう。俺も面白みが無かろうとなんだろうと、プロとしてはひとまずこちらを推して現地に見合っているかを確認に行くだろう。

「三つ目は? どうせロクでもないプランだから後回しにしたのでしょうけど」
「正解。仲間を募って積極的に行く。再管理じゃなくて再踏破を狙うって路線だ。その為にもダンジョンは売らずに『譲る』方向で行くことになるな」
 先ほどのプランは誰でも思いつく案であり、現状の延長線上にしかない。
ならば相談所に訪れる必要は薄い訳で、エレオノーラとしても自分の考察が正しかったのだと保証して欲しいわけでもないだろう。魔法設備の再設置計画に頷かせたいだけならば、既に話は終わっている。そうではないからこそ、三つ目のプランを尋ねたという訳だ。

先に説明しておくが、再管理と再踏破では意味が異なる。
再管理はできるだけダンジョンの構造やら生態系に傷つけずに進軍し、設備を設置しながら徐々に管理できる改装を増やしていくということだ。天然物のダンジョン取得の他に、同じ大陸にある他国のダンジョンを乗っ取る時にも行われる。これに対して必要ならばモンスターを殲滅させ、薄い壁くらいは破壊しながら行ける所まで力づくで制圧してしまうのが踏破になる。もちろんそうなるとダンジョンとしてのメリットが消える可能性もあるので、諸刃の剣でもあるが。

「再踏破? 人のだと思って無茶苦茶言うわね。それはそれとして譲るというのは?」
「市場に出すなり委託されてる行政を経由すると買い手から見ても高くつくだろう? 特定の目的がある奴にこっちから売り込むのさ。金じゃなくて戦力の持ち込みでも良い。後はダンジョンを譲り渡す前や、天然ダンジョンに移ってからも研究面で手を組んでも良いな。研究職は金より知見を得る機会を重視するからな」
 当然ながらエレオノーラは難色を示した。それでも続きを促すのは切羽詰まって居るんだろう。それこそ縁戚のある名家からダンジョンを譲れと言われて居たり、婚姻政策で婿を送り込んで来るというくらいは普通にあり得る。そうなった場合、一族たちも国に取り上げられるよりは良いかと首を盾に振りかねないからだ。

買い手に直接交渉に出ると高く売れるがトラブルの元だから普通は避ける。
だがあえてこちらを選択し、その中でも訳アリの連中をピックアップすることになる。急ぎで手ごろなダンジョンが欲しい奴や、近場の奴なら単純に高く売れる相手かもしれない。しかし、それでは戦力の足しには成らないのだ。

「もちろん踏破じゃなくて管理できるならソレでも良いさ」
「しかし前者の方が呼び集めた奴も安心できる」
「壊して良いならド派手な事が出来るし、得られるデータも多いからな」
「その上で無事に収められるなら無理に壊すなと言い聞かせられる奴を選べばいいさ。そういう条件なら頷く連中の一人や二人は心当たりがあるだろ?」
 新型のゴーレムで実戦経験が欲しいだとか、新戦術を試したい奴も居る。
そこまでアレな性格でなくとも、ダンジョンの一角で研究をさせてくれって奴は幾らでもいるもんだ。それこそ市場で購入したらレアだから高価になる素材でも、ダンジョンで一から育てれば易い素材も結構あるものだ。そういうのを使いたい研究者を呼んで、共同研究で色々開発するだけでも有名に成れはするけどな。

「心当たりねえ。丁度、私たちの旧知にも一人居るわね」
「国軍に早くから誘われたスペシャリストに覚えがあるわ」
「あの馬鹿! 幹部の席どころか牢獄の中に座ってるですって?」
「あんなのが首席をに居座り続けたおかげで、私は万年二位だったんだけど? まさかあんなのを呼んで経過観察処分にしたら良いとか言わないわよね!?」
 地雷を踏んでしまったようだが俺達はアカデミー出身だ。
魔法教育で効率の良い所までは進んでいるし、そのままドクターコースに行った奴もいる。俺は士業だしエレオノーラはダンジョンマスターだが、それぞれの伝手もあるし、思い当たる連中は結構いるはずだ。その中から返事だけは良く返す奴はともかく、説得は必要だが有能な奴をピックアップしたり、さらにその伝手を辿るというのも良いだろう。

と言う訳で先ほど述べた二案とはまったく別の案を用意した。
エレオノーラの方で三つの提案を持ち帰り、状況に合わせて現実的な路線で攻めるのではないかと思う。現実的には第二案を元に、俺らの知り合いで協力してくれそうな研究職を呼んでくるという感じだな。今あるダンジョンで生産可能な素材を用意して、そいつを元に研究したい奴を据えるって訳だ。

「落ち着け。お前さんがこの辺で飯でも食ってる間に専門用語や資料を用意する」
「それ見ながら選べって事ね? 了解。一族の中でも話が通じるのや、友達に声を掛けてみるわ」
 ひとまず流れを決めてから詰めて行こうということになった。
こちらも特にすることがないわけではなく、現地の情報を集めたり、思い当たる人員の中で手隙の者が居るかを確認しておくつもりであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...