ダンジョンのコンサルタント【完】

流水斎

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フィールドワーク編

ホムンクルス防衛隊の配備

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 エルフを起こすのは実験設備より後回しになった。
俺達の実力ならば何度か試せば解除できるレベルだったが、魔法の効果を拡大する魔法陣を設置し、余剰魔力を使用した方が確実だからだ。ゲスな言い方をするならば自然な形で恩を売れるし、一度に解除できない理由にもなるから都合が良い。

そういった理由でホムンクルス用の設備他を設置していく。
メンテナンス用のタンクに医療用ベッド、そして居室と倉庫を兼ねたエリア。転送先の魔法陣をホムンクルスの迎撃エリアに設置し、かわりに傭兵契約していたモンスター達の一部と円満に契約解除していく。後は森から村へ向かうエリアに、監視と強制転移の魔法陣を用意しておけば良いだろう。

「先輩先輩! 転送先の魔法陣をクロスボウの弾倉に出来ないっすか?」
「……無茶苦茶を言うなフィリッパ。そういうのは専門の研究所でやれ」
 エレオノーラが連れて来たフィリッパはアカデミーの後輩らしい。
ここで『らしい』と限定するのは俺のコミュニティには居なかったからだ。俺は即応性に欠けるので儀式魔法の講座には顔を出していたが、付与魔法には顔を出して居なかったからだ。何せアイテム作成は手持ちの資金を投じて色々と開発する世界なので、移民である俺には敷居が高かったのである。

ともあれ物おじしないタイプにはある意味で好感が持てる。
何しろ要望がストレートで『出来る』『出来ない』をハッキリと告げることが可能だからだ。何というかこういうのは『もうちょっと何とかならん?』とか『騙し騙し誤魔化してやってくれ』なんて言われる方が困るからだ。四六時中付き合うと元気過ぎて困るが、偶に顔を合わせる程度ならば問題あるまい。

「無理っすか~。連射が出来ると思ったんすけどねぇ」
「引っ張って固定して狙う形式上無理だろ。筋力強化したホムンクルスならその辺の人間より速かったろ? それで我慢しとけ」
 クロスボウは巻き上げ機を使うか、足を使って弓を引く。
そうやって弾性の強い板バネや魔物の弦を引いて打ち出すから強力だし、直進するので命中率も高い。これを筋力強化したホムンクルスなら腕だけで簡単に引けるし、精神が安定して居る分だけ命中性も高いのだ。

そしてここがダンジョンの中であり、タワーディフェンスという戦略術の存在がこいつらをとても有用にしてくれる。

「計算より少し魔力に余裕があるから、強制転移の魔法陣を起動させるわね。森から抜けた時に発動する場所よ」
「はーい! みんなー準備してー先輩に良い所見せるんだよ~」
「……」
 筋力を強化したずんぐりむっくりのホムンクルスが配置に着く。
前衛にも使うので大柄にすることで共用化する訳だが、大楯を構えている以外は殆どドワーフだ。尋ねなければ延々と何もしゃべらない所も良く似ている。そして後衛担当がクロスボウを構え、数体が一緒になって同じ方向を向く。その場所に転送先にある魔法陣が起動する予定であった。

そして適当に間を空け、エレオノーラが森に居た狼たちを強制召喚。
本来は町を防衛するための物で、村の周囲にある森程度なら結構な範囲をカバーしてくれる。この間に森の手入れを行った事もあり、獣が居そうな場所は限られているので、そこに絞れば特定も余裕だった。

「キター! 射撃開始! 前衛は近寄らせるなっすよ!」
「……」
 獣たちは突如呼び寄せられたことに驚き、殆どの個体が狂乱する。
自分達に危害を与えるモノとして襲い掛かり始め……防衛側の指揮官が未熟な証左か、勇気のない何体かを取り逃がすのを許してしまいそうだ。逃げた個体は後で追うとして、ひとまずは向かって来る個体の戦闘を見るとしよう。

最初の一斉射撃であっけないほどに獣たちが動きを止める。
掠っただけの狼がうずくまるのはともかく、胴体に直撃した猪が即死するのは流石の威力と言うべきだろう。ただ、最初から逃げを打った鹿に関してはそのまま逃げられてしまいそうだ。まあ今回は待ち構えている以上に、こっちから強制召喚したからな。実際に不意の戦闘になったらここまで楽ではない筈だ。人数だってばらけてるだろうしな。

「ありゃりゃ……一匹逃げられちゃいました……残念っす」
 初めての実践と言うか、練習戦闘は妥当な結果に終わった。
攻撃して来た獣たちは一射で多くが傷つき、前衛が大楯で止めている間に引き絞った何射目かで全滅させている。ダンジョンの中では決まった場所で迎撃する為、相手の移動速度次第では必殺必中の恐ろしい武装と言えた。慌てることのないホムンクルスならば、多くの場合では平均的な成果を上げるため、ダンジョンディフェンスには向いているだろう。

「感想戦だが指揮は流石に経験不足かな。まあこれは繰り返せばいい」
「今回は実験用に結構広い範囲で集めたから仕方ないわよ。本当なら一種類の獣だろうし、パターンを見つけて同じ対応をすれば行けたと思うわよ。もっとも、鹿はあまり倒す必要はないし、想定して居てもそのまま逃げちゃいそうだけど」
「面目ないっす」
 俺は問題点を絞り、エレオノーラはやり方をフォローした。
当たり前だがただの研究者に実戦で指揮をしろといっても無茶だ。悔しそうなところを見ると予習としてホムンクルス同士で戦闘くらいはしてみたのだろう。だが通り一辺倒の戦い方しかしないホムンクルス同士ではロクな経験を出来たとも思えない。ここは現場での努力が問われるところだ。

まあこれもダンジョンディフェンスを繰り返せば何とでもなる。
同じことの繰り返しであり、そのパターンの差でしかないのだから、覚えることは少ししかないと言えた。魔法を使う上位種のゴブリンや、オーガなどの強固な個体に出逢わなければ防衛戦に関しては問題ないだろう。

「ひとまず待機所で使う心算で考えている作戦を試す期間を設ける」
「他にも別動隊を指揮して挟み撃ちをしたりくらいはやってもいいな」
「だが外に待機させて村を守るのはまた今度でいい」
「万が一にもお前さんに危険があったら意味がない。次に斥候のオークを呼んだ時にでも山狩りをするつもりで計画だけ立てておいてくれ」
 まずはダンジョン内でフィリッパが考えている事を一通り試すことにする。
戦いに慣れる練習時間も居るし、得た経験をフィードバックしてホムンクルスの能力やフォーメーションを考察する時間も必要だろう。その辺を終えて、イメージ通りの行動が出来るようになってから外回りをさせることになる。ホムンクルスは簡単な支持を覚えさせられるが、少なくとも最初はフィリッパの支持が必要だ。その上で村人の被害を抑える作戦を編み出さなければならない。

そしてオークのブーを同行させることで安全を確保。
仮にゴブリンの狙撃手か何かが隠れていてもあいつが居れば安全だ。そして将来に天然のダンジョンへ攻め入る事を考えれば、ブーと一緒に作戦を練る経験はあった方が良いのは間違いがない。

「はいっす! オークの人と仲良くできるかは不安っすけど頑張るっす」
「お前さんが頑張るのは鍛錬と作戦を練る方だよ。まあ今のところは実験を続けてればいいさ。それはそれとしてっと……」
 フィリッパに関してはまだまだ経過観察中だ。
実験したいと言われた事が全部終わってないし、イメージと違っている部分もあるだろう。それこそ今の量産型めいたホムンクルスは死亡しても再生産せず、新型でもっと強い奴を作ると言ったとしても不思議では無かったからだ。

ともあれ彼女に関する考察はここまで、もう一つの要件に踏み込むことにした。

「エレオノーラ。今の余剰魔力で可能なのか?」
「問題無いわよ。ただエルフの術者との実力差に余裕を見て、解除の力を強化した方が良いなら待った方が無難だけどね」
 もう一つの問題であるエルフの生き残りを起こす作業に取り組む。
仮死の呪文と違って休眠の呪文は術者同士の能力差で勝たねばならないので、魔力を拡大するために魔法陣と余剰魔力を使う事になるのだ。ダンジョンに拠点を構える研究者が多いのは、こう言った時に必要なだけ魔力を動員できることが多い。普段は儀式魔法で何かを作成するための魔力と設備を、実験の為に流用出来るのだから。

ここでエレオノーラの言を受けてスケジュールを練り直す。

「なら確実に可能と判るまでは待とうか。その間にフィリッパがレポートを書いて作戦を練り直しておいて、もし途中で解除が上手く行ったら任意武装の転送実験を行う」
「私も異論はないわ。どうせ暫くはこの子に付き合うだけだもの」
「自分もそれで問題ないっすよ! 先輩たちには感謝しかないっす!」
 魔力消費の効率よいところまで強化して解除、ダメなら全力稼働。
そんな感じで段階的にスケジュールを組み、それまでは皆の立ち位置で適当に時間を過ごす。女性陣はダンジョンの組み換え計算と実験のフィードバックに奔走し、俺はブーを呼ぶ手配やら村人との共同演習の手配を行う事にする。村人の方も安全の為に乗り気ではあるが、畑仕事もあるので直ぐに協力してくれとかは無理だからだ。

こうしてひとまず新しい入居者に関しての調整を終えた。
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