ダンジョンのコンサルタント

流水斎

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ダンジョン攻略編

逆転の為に

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 拠点まで残り僅かと言う所で魔法による支援を始めた。
態勢を立て直すのに殴り合いながらでは難しいからである。俺はジャンやホムンクルスたちが戦って居た向こうに移動速度を下げるスロウの呪文を唱え、エレオノーラは側道を含めた戦場の一部に毒の霧を発生させるポイズン・フィールドの呪文を唱える。

これで味方が戻って来れるだろう。相手はゴブリンであり囲まれないだけで十分だ。
流石に軽傷で済むとは言わないが、重症に陥らなければポーションで何とでもなる。後はいかに士気を盛り上げて、徒労で折れそうな心と向き合うかである。何しろ周辺のゴブリンを蹴散らしたら、もう一回やってくれとばかりに敵が増えたのだ。しかも強さは向こうの方が上と言うオチである。

「……考えように寄ったらチャンスかもな」
「確かに勢いはあるが、本来なら狭い中層で戦わなきゃならなかったんだ」
「あのまま、まとまった敵と戦っても勝てなかっただろう」
「だが、ここで分散した敵と個別に戦うならば、それほど大した相手じゃない。面倒くさいのが難点だが、もう一度繰り返すとしようか。中層に辿り着けば本来よりも楽に戦えるはずだ」
 単純にゴブリンが脅威から逃げただけならば、これで問題はない。
中層で守っていたであろう敵が、上層全体に広がってのならば、むしろ遥かに簡単な戦いができるだろう。混乱し負傷している今が一番困っているのであって、立て直しさえすれば何とでもなると告げておいた。

ただ、そんな甘い状態ではない可能性がある。
ゴブリンはオールド・キメラから逃げ出し狂乱したのだと思われる。だが、普通に両者がいつも通りの生活をしていて遭遇するだろうか? むしろゴブリンが想定よりも増えており、巣を分けてキメラの寝床に踏み入ってしまった可能性の方が高いだろう。しかしそんな事を言ってもショックを受けて戦えなくなるだけなので、花も実もある嘘が必要な状況だと言えた。

「本当なの? 本当に良い状況なわけ?」
「勿論だとも。もし監視している奴らが居るなら、数を減らしてやったのは見えてる筈さ。それもお前さんの一族が管理している上層でな。経営的には危険が減って、回収できる魔力が増えて万々歳だろ?」
 俺達が踏み入って起きた事件ではない。
つまり、どのみちいつかは起きた出来事だ。それを考えるならば、対処できない状況になるよりも今の方が遥かに良いと言えた。食料はあるしポーションもあるし、なんだったらこの上層の管理権を一時的に奪い、その魔力で逆転する事も出来るのだ。まあそれをやったら文句を言われるのでやらないが。

今現在のポイントは、人間以外はみなホムンクルスだということだ。
彼らは疲労を覚えないし、心が折れて戦いたくないなどとは決して言わない。負傷しようが戦い続けるし、流石に骨折や重傷ならば戦力としては下がるが、それでもポーションで傷を塞げば誤魔化しながら戦えるのである。むしろ四名しかいない人間の士気を保つ方が難しいのだから仕方がない。何しろ俺らは戦闘の専門家じゃないしな。

「それに最初に言ったろ? 不測の事態そのものは想定してるってよ。上層の連中が手を組むことを考えてたわけだが、それが中層の連中になっただけだ。想定外なのは相手もあるがタイミングが前後したことくらいさ」
「そこは良い。だが、どうやって逆転する気だ?」
 ここでジャンが割って入った。ありがたいことに既に思考を切り替えている。
戦いに際して夢中になるだけなのか、それとも自分だけのこだわりがあるのか分からないが、こういう作戦会議の時だけは不思議と物分かりが良い。出来るだけお付き合いしたくない相手だが、手を組まざるを得ないならば、思考パターンをい分析すべきだろうか? 説得が通じるならば楽なのだから。

それはそれとして勝つための手段は確かに必要だよな。

「回復は当然するがペース配分と目標を選ぶ」
「ブーが賦活を出来るんで、あいつが薬飲んで他人を回復する役だ」
「エレオノーラはポイズン・フィールドを維持しつつ、必要なら他の魔法を」
「ジャンさんは暫くは剣技を控えめにして、頭目格を探してください。指揮してるというほど賢くはないが、頭目の前だと連中は迂闊には逃げません。後ろからヤバイ奴が来なくなったとか、俺らを倒す方が早いとか言われても困りますからね」
 こう言っては何だが、士気が重要なのは向こうもである。
ゴブリンは直ぐに逃げ出す弱腰の連中だし、今は逃げ出す意味も含めて狂乱してるだけだ。その内に落ち着いて側道からトンズラここうという連中が出てもおかしくはない。いや、ここまでにあった側道から既に逃げており、だからこそ族長や戦士長のような頭目格が押さえつけている可能性はあった。逃げる奴を後ろから切りつけ突撃させるくらいの知能はあるだろう。

なのでまずは気力と魔力を回復させつつ、全力戦闘の準備を行う。
戦ってるので完全に回復するなど無理だが、魔法や剣技を繰り出す余裕を取り戻さねばならない。後はソレを倒すべき相手にぶつけるだけだ。そして狙うのは雑魚なはずがなく、ゴブリンの集落を維持している奴だろう。

「確認するが、先ほど後ろに向かって突撃するために使った魔法はまだ使えるか?」
「……逃げる時に? スロウならまだ使えますよ。俺は指揮官役と儀式魔法役ですから援護というほど呪文を使ってませんしね」
 ジャンは言い方にこだわっているが逃げは逃げだ。
回復薬はブーを通して他の連中に回したいので俺は回復する気はないが、もう一回くらいならば問題ない。場合によっては、余分な魔力で呪文の到達距離を拡大し奥の方に放てるだけの余裕はあった。

「ならば良い。切り込んだら援護に来る奴を止めてくれ。流石に倒すには専念する必要があるだろう」
「了解。今回はこっちが支持に従いますよ。正しい判断だと思います」
 ジャンは初めて見せた時の連続攻撃を用いる気だろう。
壁になっている敵を蹴散らすか、それとも頭目格へ何度も斬りつけ油断している間に倒す気かも知れない。スロウの魔法は倒せるわけでもないし、強い奴には効きにくいので、雑魚に援護させないのは有益だろう。

こうして逆転の為に作戦を練りつつ行動に移するのであった。
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