ダンジョンのコンサルタント【完】

流水斎

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中層攻略編

ひとまずの終わりに

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 ようやく俺たちは山場を越えた。
最初の山場と違って撤退するという選択肢もあったし、戦力を高め連携した分だけ良くなっていると思いたい。

それはそれとして、ダンジョンの中層を支配するだけだ。
魔力が最も濃密なのは最下層なので、中層と上層を合わせてようやく匹敵するか贔屓目も入れてその少し上に過ぎないだろう。何しろ魔力と言う物は拡散する性質があるのだ、古い時代から存在し、最速の方が濃密なのは間違いがない。

「大丈夫だとは思うが暫く固めていてくれ」
「此処にマーカーでリンクを入れ替えたら隠蔽してまた移動する」
「適度に戦って追い出していく形になるが、ここからは隠れてる奴が怖い」
「せっかく場所を確保して隠蔽したのに、下の支配者に報告されましたとか、俺たちの誰かが暗殺されましたじゃ笑い話にしかならないからな。逆に言えば今隠して置けば次も最初は大丈夫だ」
 俺は簡易的な儀式呪文でマーカーを設置する。
そして拠点に設置した循環用のリンクと入れ替え、魔法陣をこの場に刻んだ。そして食料の保存庫でやったように、ブーが隠蔽すればひとまず終了だ。後は同じ様に、何か所かに刻めばそれで今回の用事は終りである。

しかし、場合によっては下層にも挑む。
下層の連中が潜んで居て、管理権を奪われたら何にもならない。それこそ今の所の契約では中層までを奪い返したら俺は用済みだが、だからといって今後を考えない訳でもないのだ。自分の担当が終わればそれで良しとか言う気にはなれない。

「次も俺が担当するかは別にして、置いていた戦力が消えましたとか言われたら立つ瀬がないからな。放置ならこのまま何年でも、挑むなら安心して下層に挑めるようにはしときたい」
「そこは信用してるけど……下層に関しては長老次第ね」
 俺の言葉にエレオノーラが言葉を濁した。
上層と中層に下層一つで匹敵するとして、攻略する利益はあるだろう。しかし下層に住んでいる支配者は強大である可能性がある上、そいつらを排除するとダンジョンが崩壊するような危険性がある。だから再攻略という手段があまり好かれない訳だが。

それと天然のダンジョンは魔力の利益率が高いので、中層までを確保するだけでもこれまで以上の収入につながるのだ。行政が立ち入る危険性も無くなった事だし、下手な事をして台無しになるよりはと日和見する者も出て来るだろう。この事は親族会議でも揉めるだろうし、その事を押し通す権限は新当主になったとしてもエレノーラには持てないだろう。

「まあそこはいいさ。続けたいと思えば、そいつらにも信用されるような企画を出すだけの事だ。ともあれ方針としちゃあ、下層の連中に可能な限り気付かれずに行く」
「判ったわ。まあ、他のメンバーもそこには文句言わないでしょ」
「まあな」
 と言う訳で俺たちは攻略を続けた。
ブーが隠蔽した所で移動し、次々にポイントを落としていく。遺跡である下層と違ってあくまで洞穴なので、枝分かれする道を進む程度の差でしかないが。

それでも曲がり角には気を付けつつ、見通せない場所に魔法陣を刻む。これは監視の目を逃れるためであり、同時に魔力が拡散し難い場所だからだ。

「頭目格である上位種を結構倒したが大丈夫なのか?」
「まさかジャンさんからその手の心配をされるとは思いませんでしたよ。いや、褒めてるんですよ? ひとまず構わないでしょうよ。何せ連中は多産なので幾らでも生れて来るし、次の世代が育つまでに妙なモンスターが暴れなければいい」
 こういうとなんだが、ジャンのイメージは暴れん坊だ。
それなのに倒したゴブリンの心配をするとは奇妙な気分である。まあ自分の一族が危ういからこそ、ゴブリンが滅亡しかかっているのではないかと想像してしまうのだろうが。

しかし、気持ちはわかるがゴブリンが全滅か……海岸で津波が起きるとかこの辺で地震でも起きない限りは無いな。それだけ繁殖力が旺盛な種族だし。

「ともあれ次の場所で終わりだ」
「それが終わり次第に拠点に戻る」
「一日待って変化が無ければ撤収だな」
「数人でチームを作って上層の拠点に移動し、物資を輸送しつつ兵士たちに合図する。上層くらいは定期的に往復できるようにしておかないとな」
 正直な話、ダンジョンの攻略は本業ではない。
俺はコンサルだし、エレオノーラはダンジョンマスターだ。末永くこのダンジョンの管理を維持し続けて、安定的に魔力を確保するのが目的である。いつでも中層に潜れるようにしつつ、外でモンスターの報告があれば、上層に引き込んで討伐することが最低限の目標になるだろう。

今やって居る再攻略は、それを成し遂げるための第一歩なのだから。

「撤収はどういう手順で行くの?」
「リシャールとフーを中層拠点に置いて警備。ブーとジャンを連れエレオノーラが先に戻る。何かあるとしたらこっちだが、警戒が必要なのはむしろ外だからな」
 中間拠点は撤収予定なので警戒はあまり必要ない。
むしろゴブリンの暴走を警戒し、一番強いフーを残す。その上で次期当主であるエレオノーラが成果を示しに行くのだ。もちろん暗殺が怖いので、ブー達が必要になる。フィリッパがこっちに残るのは、単純にホムンクルスに与える命令の為だな。

そうこうする間に全ての魔法陣を刻み終えた。
循環器のリンクが上層と中層を一体化させ、後でエレオノーラの一門が使っている場所とリンクさせればひとまず終了だ。

「どうだ? 感触は」
「かなりの力を感じるわ。私が管理してる場所には及ばないけど、家で管理している所も含めれば良い勝負ができそうよ」
 あくまで多くのゴブリンを倒したばかりで、そこまで景気は良くはない。
しかし、それでも管理を良くするための仕掛けやら、こちらに忠実なモンスターを配備したわけではない。ホムンクルスだって戦力としては頼りになるが、魔力の循環を助けるような能力は無いしな。余剰魔力の多い種族を配備して、ようやく本当の意味で良い収入となるだろう。

「よし。なら撤収だな。それが終わったらエレオノーラの一族次第だが、リシャールとフィリッパにもダンジョン管理の事を教えることにするよ。森や自分のダンジョンを持ったら、覚えて置いて損はない」
「そうね。私も暇を見つけて教えてあげるわ」
「お願いします!」
「うーん。自分は初期設定だけでいいっすかねえ」
 なんて事を言いながら、俺達は分かれて撤収作業に入った。
その後に待ち構えた暗殺者など用意されていることもなく、俺達は無事に辿り着き、当初の目的を無事に果たしたのである。
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