ダンジョンのコンサルタント【完】

流水斎

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中層攻略編

次回までのつなぎ

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 撤収作業は終えたが、前回と違ってそれで終わりではない。
盗賊騒ぎの黒幕は不明だし、下層の支配者種族の件もある。ここでホームまで戻ってまた今度……でも良いのだが、ここで色々と手を打っておく方が良いだろう。

「確認だけしとくが、このダンジョンの精製魔力を図っとくぞ?」
「……? まあいいけど、何に使うのよ」
 エレオノーラの一族が管理している部分の魔力を計測。
どの程度の流動魔力があるのか、使った魔力がどの程度を再生産するのかをここで図っておく。その数値を幾つか資料として用意した上で、中層周辺で図った魔力を資料の脇に並べておいた。

このまま全て統合したらどの程度の魔力になるかの計算だ。
当然上層から中層までのリンクを行い、各地の循環器を回して魔力を精製する。魔力は拡散するし、循環器の無い場所に向かう事もあるので一概には合計数時には成らない方が多い。だがその事をちゃんと計算しているのか、ぬか喜びさせるかで結構違う。

「こいつが上層の魔力で……これが中層のな。んで合計するとこういう感じになる予想だ。そっから何を設置したらどうなるかは、自分で想像つくだろ?」
「保有魔力は大分散っちゃうけど再生産分が大きいわね。早い内に施設拡張したいわ」
 俺達はコンサルとダンジョンマスターなので、数値を見れば想像がつく。
今現在どのくらいの魔力があるかを示し、再統合でどの程度になるか。そうなると保有魔力は減るが、使った分だけ再生産される魔力がどの程度……と計算ができるのだ。そしてそれが今の数値であり、管理用の魔法陣やモンスターを配置すれば、どこまで拡大できるかも想像がつく。

後はそれを他の人間にも想像できるように、他のダンジョンの資料も添えれば良い。そうすればこのダンジョンを中層まで拡大したことでどれほどの利益を得たか、そしてスムーズに魔法陣を設置すればどの程度の利益が見込めるかを周知できるのである。

「実際に誰が設置するかは別にして、添えときたいのは拡張の予測だな。単純数値の拡大版、戦力の拡張版、後は売り上げの良い素材に振り切った時の予測ってとこか?」
「売り物の方は止めてよ。アレって他に転用し難い割りに人気だから」
 簡単な未来予想図に、収益拡張案を添えておく。
これで速やかな計画を練り易いし、エレオノーラや俺の功績も判り易くなる。少なくとも実績からエレオノーラを次期当主に指名しない理由は無いし、彼女が雇うと言えば俺に計画が任されるだろう。

以前から言っている事だが、なぜ今こんなことをするのか?
もちろん盗賊を雇った黒幕を排除ないし、勢力下におく為だ。ここで利益が上がったことを宣言で切れば、そいつがまた同じ事件を起こす意味がなくなる。ついでに別の派閥が叩き潰し、利益を欲しがるだろうから動けなくなるのだ。よほど才能ある有名な子弟が居ない限り、エレオノーラの意向を無視して婿には推薦も出来まい。

「うろ覚えもあるからザっとだが、戻り次第に正式な数値も送るよ。それと今回の功績があれば、追い込めるだろ?」
「無くても大丈夫だとは思うけど……まあ言い掛かりをつける理由は消えるわね」
 交渉はタイミングであり、誰が言い出したかだ。
エレオノーラの立場が脆弱過ぎると、その根拠を認めずに自分がバックアップしたから成功したとか言い出す奴も出てきかねない。今なら大丈夫だとは思うが、盗賊なんか送りつけてくる相手である。落ち目の親族どうして手を組んで、利益の為に強引な手段に出ることもあるだろう。

その場合に際し、資料があれば事前に手を打てる。
個別に話を持ち掛け根回しをして、利益の再分配の件で分断することも、味方につけることも出来るだろう。ここでの活躍自体は色々な派閥の兵士が見ている為、そんな事は無かったとは言えないのだから。

「これで心配の半分は消えたな。後は下層の問題対処だ」
「極論を言うと下層から手勢を率いて登って来ても構わねえ」
「戦力が分散すれば、今回みたいに各個撃破すればいいからな」
「だからここで気を付けておくべきは、せっかくの目撃者が消されないかどうかだ。集団で行動させて上層を見回ったり、中層に顔を出す程度にさせておく。姿隠しの呪文があったら、最悪の事態になりかねねえ」
 別に直属ではない兵士が死んでも、表面上の被害はない。
だがエレオノーラが顔見知りになった奴が死んで気にしない訳はないし、それと同時に、色々な派閥の連中が入り混じっていることが重要なのだ。最初に敵対派閥の奴が死に、盗賊を送りつけた奴の派閥を中心に生き残ったら面倒なことになる。同じことを狙って、中層に行かせたり、焦っている場合は下層の偵察に行きかねないしな。

だから余計な事はさせずに、上層の巡回に留めたいわけだ。

「それだとあの子たちは、どうして中層に置いて来たっすか?」
「あいつらはゴブリンに兎の部屋を奪回させない為だ。あそこがなければゴブリンが予測以上の速度では増えない。単独のホムンクルスはただのモンスターだからな」
 戦闘を終えた後、拠点を守っていたホムンクルスに幾つか命令を出した。
その一つが兎が居た場所にゴブリンを侵入させるな、来たら追い払え。もちろん攻撃したら迎撃しろというものだ。やってる事がその辺のモンスターと変わりなく、兎の部屋を拠点にしているくらいである。兎の肉を餌にしていると見えなくもないし、それほど不自然ではないだろう。命令が命令だから、兎は殺さないからな。

こうすることでそれとなくゴブリンが戻って来るのを封じておく。
もちろん数が多いのでいつかは戻って来るだろうが、数体のホムンクルスをうろつかせている事もあり、早々に再占拠は出来ないだろう。もし出来るとしたら下層の連中が攻めて来た時だろうから、倒されてしまうがそこは仕方がない。

「一番良いのはさっさと次の準備や、降りないにしても魔法陣設置の為にまた来る事だろうけどな。おそらくは今のダンジョン込みでフル稼働せ生産することになるぜ」
「それは魅力的っすね! せんぱ~い」
「はいはい。できるだけその方向性で話をまとめるわよ」
 こうして俺たちは中層までの攻略を終えた。
余裕があればダンジョンの経営を行い、その余剰魔力で戦力をまた集めることになるだろう。
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