ダンジョンのコンサルタント

流水斎

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上層までのモラトリアム

ホムンクルスの設計

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 ジャンたちの要望を伝えにフィリッパの元へ。
直ぐに動く必要などないのだが、この女は目を離すと余計な事をしかねないので監視の意味もある。正式に売り渡されない限りは、あくまでダンジョンの持ち主はエレオノーラだからな。

大まかに開拓で必要そうな能力と、フィリッパが興味を持ちそうな研究内容を混ぜて持って行った。

「戦わせないからスピードは要らない。かといって大型過ぎると扱いに困るから、岩を退かせるだけのパワーと雑に扱っても良い程度の耐久性があれば良いそうだ」
「えー。そんなのランドリザードで良いじゃないっすか~」
「この辺りに棲んで居ればの話だな」
 ランドリザードというのは六本脚の大型蜥蜴である。
馬ほど足速くないが、牛かと思う程に力と疾走速度を持っていた。基本温厚なところも牛とさして変わらず、生息地帯である山岳方面ではこいつを騎馬代わりにしている騎士も居るくらいだ。鞍と簡易的な装甲があれば、山の中ですら戦えるのは魅力的だからな。

とはいえ住んでいる地域は離れているし、ワザワザ捕獲して一から育てたいわけでもない。生き物と言うのは何かと面倒で、気温で体調とか直ぐ変化するしな。育てるのにも場所が必要になる。

「最初から狙って調整できるのがホムンクルスのウリだろう?」
「そんなの行っても面倒なだけで面白味も何も無いじゃないっすか」
「受けてくれるなら今ある個体のバリエーション増やしてもいいぞ。売り物になるレベルという前提でだが、伝令タイプとか、作業用にタフネスでパワーがあるのとかな」
 フィリッパはあくまで研究して実現するまでが楽しいタイプだ。
製造したらちゃんと面倒は見るし本人なりに可愛がってるのだろうが……。残念なことに同じ物を同じレベルで作り続け、熟練していく過程にあまり興味がない。売り物を増やさないと利益で研究できないと判っているからマシだが、放っておくと好き勝手に趣味だけで作り続ける危険性があった。

しかしフィリッパも学習するというか、似たような事はあまり好きでは無い様だ。

「植樹作業用に同じようなのを頼まれたっすよ」
「でもあんまし面白くなさそうなんっすよね~」
「だいたい既に強化型で実現してますよね?」
「それのパワーだけ版とか何が面白いんだか。ちょっとくらい安くなったって、牛をたくさん買った方が安上がりじゃないっすか」
 まあフィリッパの言う事も分からなくもない。
単純に作業用を求めるならば、そんな物を作るよりも牛馬で済ませた方が良いのだ。しかし売り物としては幅があり、要望次第で用意できると意味がある。それこそ魔剣を作ってもらった爺さんとか、パワーだけあれば良いみたいだったしな。

しかし今回の一件は、フィリッパの行動を抑制しつつ、同じ方向で経験を積ませるというのもある。同じことを嫌がるこの女に、同じ方面なら他の形状やサイズでも作れるようにさせておくのは意味があるはずなのだから。

「それよりもどうっすか? こないだ言ってた呪文を使える個体。アレなんか面白そうっす。暗殺対策だったら、自分の代わりにダメージを受けてくれる呪文とか……」
「入れ替えの呪術だろうが。ホムンクルスを攻撃されたらお前が死ぬぞ」
 以前に自分で提案した事だし、研究自体は悪くない。
だがこの手の呪文は注意が必要だ。前にも検討したがウイザード・アイや音源探査だと、ホムンクルスの低い判断力に全てが掛かっちまうからな。やるなら色々と試験が必要だが、作ったばかりの新型は性能が微妙な割りに値段が張る。

その辺りを抑えつつ、こいつの興味をそそり、かつ後に後に有益そうな提案?

「能力は呪文が仕える程度で良い。出来れば知性が高いと助かる」
「コストを抑えつつ複数の呪文を使える個体だな。最低でも二つ」
「ひとまずは実験だから複数の探知系呪文にしてみよう」
「知能があれば判断力も多少は上がるし学習力もある。そいつで試して有益だと判ってから、徐々に高性能にしたり、攻撃呪文なり付与呪文を併用して覚えさせるんだ」
 今のところは洞穴ケイヴ対策なので姿隠しを考慮する。
しかし将来的に売り物にする場合、専用の個体を用意しても仕方がないだろう。なので知性を高めて反応を良くしつつ、複数の呪文を試す感じだ。

そう言いながら呪文リストを適当に作り、その中から幾つか入れて行こう。

「じゃあ昔の指揮個体をベースに呪文の能力を高めるって感じっすかね。覚えられるのが二つになるか三つになるかわかんないっすけど」
「ホムンクルスは初期能力次第で追加は出来んしな。二つだと思っとくか」
 有望なのは音源探知と熱探知の組み合わせ。
これを掛けた状態で何も無い位置に、音が発生して熱を感じれば怪しいという事だ。音源じゃなくて振動探知の方が良いかもしれんが、アレは何の振動なのか判断するのに人間でも迷うからな。もし仮に三つ目を覚えられるとしたら……だが……。

この二つの他に使う探知呪文? あるいは……。

「三つまでは可能性があるとしておこう。三つ目は感覚強化の付与呪文を。人間と違って強い感覚に痛みを覚えないから有益な筈だ」
「記憶力が足りないと使えないっすけど、それが三つ目でいいっすか?」
「構わねえ。音と熱を同時に感じることが重要だからな」
 暗殺対策なので近距離だけ判れば良い。
遠くまで見えたり聞けても、その両方が無いと意味が薄いのだ。その両方が組み合わさって、初めて姿隠し対策になるって寸法だ。

しかし……複数の呪文の組み合わせを前提にか……何か面白く成って来たな。フィリッパの事を笑えねえ。

「今はその順番と組み合わせで行こう。上手く行ったら別の組み合わせを試す。例えばウイザード・アイだって、別の呪文と組み合わせたら判断力が低くても行けるかもしれんしな。四つ足の事も忘れんなよ」
「了解っす! 面白くなってきたっすねえ!」
 こうしてホムンクルスの設計をしながらエレオノーラの当主就任を待ち続ける。上手く行けいきなり下層を攻略とは言わんが、成果を試したいところだな。
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