ダンジョンのコンサルタント【完】

流水斎

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上層までのモラトリアム

ホムンクルスの生産計画

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 エレオノーラからは予定通りなので安心してくれとのみ連絡があった。
符丁の類を使っていない事から、予定通り『意味がない所でモメている』『だから直ぐには戻れない』と言う感じの心情を見て取れる。当主決定でハイ終了と言うならば、戻ってくるなり呼びつけるなりするだろう。

と言う訳でこちらは適当に今までの行動を継続することにした。
新型のホムンクルスの設計と生産なんて簡単には終わらないから、今までの延長でやるべきことをやる感じだ。

「リシャールは森外の安全圏まで旧式の量産型を移動させてくれ」
「マリはそこまで四つ足に指示して苗木を運ぶんだ」
「そこからは旧型に指示して穴を掘る作業だが、絶対に近寄るなよ」
「大丈夫な筈だが万一と言う事もある。ついでに言うと、問題ない事を示す仕事でもあるから、何処まで安心なのか試すとかは止めてくれよ」
 生産されたばかりのホムンクルスの調教がてらに仕事をしよう。
量産型は旧い強化型で、知性もそこそこにあるが指揮官型ほど賢くはない。なので基本的な命令を繰り返して覚えさせ、どんな指示を基本として与えれれば良いかを繰り返す必要がある。そしてある程度の期間を経て、問題ないと判れば出荷する感じだな。

何度かこの工程を繰り返す訳だが、他者に貸し出すことで作業量を増やす。具体的に言うと、今みたいにエルフへ貸し出す料金と引き替えに、仕事を減らす感じだな。ジャンにも同じ理屈で安く貸し出すことになっていた。

「一つの命令を馬鹿みたいに杓子定規で受け取る。もしゴブリンや猪が出たら、自分達を守れみたいにいうか、ゴブリンを追い払えとか具体的な命令を出すんだ」
「はい!」
「……はい」
 リシャールは素直に答えるが、エルフの少女は不満げだった。
どうして自分が人間の指示を聞かなきゃならないのかという思いと、同時に、自分たちでは無理な仕事をこなすためにはホムンクルスを借りなきゃ駄目だと言う重いが交錯しているのだろう。

まあここで自分たちの非力さを自覚せずに嫌味を言うよりは、不承不承ながら指示を聞いてくれる方が助かりはする。

「……質問なんだけど、邪魔者を排除しろと命令したら?」
「少し前に命令した事を邪魔する奴を排除しようとするし、その過程でうっかり殺すこともあるかもな。ちなみに俺が気を付けろと言ったのもそこだ、お前さんらが死ぬ可能性はあるし、近くに居ない俺は死なないけれど何も知らされずに困ることになる」
 マリがふと気が付いたという風に尋ねて来た。
多感な少女の心なんぞ分からんが、純粋な好奇心であろうと、俺らダンジョン関係者を嫌っているという過程だろうと、どっちでも良い様な答え方をしておく。この場合は『植樹の為に土を掘れ』という命令から、『土を掘る為の邪魔者を排除しろ』という具合に派生するぞと説明した。

言葉通り穴を掘るのに邪魔したらウッカリ死ぬこともあるし、邪魔しなければ死ぬこともない。他人が割り込んだ時も同様に死なせてしまう可能性があると注意する感じだな。

「ちなみにウッカリ者のフィリッパが様子を見に来ることもあるが、その時は安心して良いぞ。製造者を殺さないようにできてるからな。もちろん現場を見に来ないエレオノーラが気まぐれを起こした場合もだ」
「なるほど」
 当たり前だが生産者認定すると殺せないような基礎条項が居れてある。
じゃないとエレオノーラが渡したホムンクルスでエレオノーラに反乱するとか出来ちまうからな。もっとも命令は馬鹿みたいに杓子定規だから、二人が変化の魔法で姿を変えたりすると基礎条項には当てはまらなくなるし、手下とも言える俺を殺すことは可能ではある。

とはいえ俺のスタンスは協力者であって当時者ではない。
エルフたちが勘違いして森を焼いた黒幕はエレオノーラだと思ったとしても、俺をワザワザ殺さないだろう。もし作戦として提案したと考えるかどうかは別にして、その時は隠れて弓矢なり毒殺を使うはずだ。

「ホムンクルスたちを使うコツは、事前に計画を立てて命令する事だ」
「植樹であれば何処にどの程度の穴を掘り、土を持って行くのか?」
「連れて行くとしてどの道を通り、余った土は何処へ再利用すべきか」
「途中でゴブリンや猪に襲われた場合は、どう対処すべきか考えておく。その時にどう命令すべきか先に考えておけば、まず問題は起きない。やはりその場で思いついた命令を実行し、迂闊にのぞき込んだりすると危険になる感じかな。そういう時は、命令を撤回して別の事をさせて待機でも置け。護衛に徹城でも良いが、その時は勝手についてくるからな」
 きっと大丈夫だろうと命令し、上手く行かないから確認してみると……。
馬鹿馬鹿しい話、命令者がホムンクルスの用事を妨げて殺されてしまう訳だ。そして護衛しろと言うのは、自分について来いと言う命令よりも良い命令に思える。だがこの命令を杓子定規にやった結果、入り込まれたくない場所に入って森を荒らしたり、樹ならまだしも種とか平気で踏みつけるから注意が必要だったりする。

ともあれ、こうした命令の段取りなどもこれまでの経験で得たものだ。色々と経験が蓄積されて行くたびに少しずつ良くなっていくだろう。

「これでひとまずエレオノーラへ最初に従った奴らに渡す分は用意できるかな。要らなきゃ売れば良いし、問題は二つ先のグループからか」
「そうっすね。次の仕込みから入れ替えるっすから」
 設計にも研究にも時間が掛かる以上、それまでは定型で。
少し前に詠唱型を提案し、そこから今仕上げている量産型を一回目とすれば、二回目はまだ設計中だったので今と同じ形式で、出来上がるのは三回目になる。そこから四回目に掛けて別の呪文を試すことで、この形式が有用なのかを確かめることになるだろう。

最初の呪文型が生産される頃にはエレオノーラの去就もハッキリするはずだ。それまでに必要数のホムンクルスを揃えて、配備に回したいところだな。ダンジョンの下層に挑むかどうかを決めるとしたら、その辺りになるだろう。

「それで、だ。専門家として出来栄えの予想は?」
「んー。攻撃呪文を扱うなら呪文1つに絞るべきっすかね。その上で、まっさらな新しい型で試すべきっす。今のところは指揮官型の新しい方なら、呪文を覚えさせる余力があると判ってるだけっすからね。あと、探知を延々と使う場合は、威力を犠牲にして魔力を優先っすね」
 要するに、このままだと箸にも棒にも掛からない物が出来上がる。
探知呪文二つ、出来れば付与魔法込みで設計している。明らかに期待していることがオーバースペックなので、現状で出来る限り良さそうな処から始めてるだけだ。強力な攻撃呪文を使うならば威力重視で設計し、探知呪文をかけ続けるならば保有魔力優先にするべきだと提案を受けた。

「まあその辺は第一号に魔法を使わせてからだな。空飛ぶ魔物がやたらに居る場所とか、剣で切れんような魔物が居ない限り、攻撃呪文型にあまり需要は無いだろうよ」
「なら設計するとしたら、探知二種で魔力保有型っすか」
 ちなみにこの形式の完成形を思いついたのは、ずっと後になる。
後にエレオノーラが戻って来た時に、彼女も交えて相談したところ、『そんなのウイザード・アイの他に、幻覚魔法で見せれるようにすれば良いじゃない』と新しい意見が出て来たのだ。考えてみると言われた通りで、探知系二種にこだわった俺のミスとも言える。この辺りは研究者ではないからか、あるいは三人揃う事で見解の違う意見が出たからと言うべきだろうか?

どの道、遠くのモノを見ることの出来る偵察型が完成したのは下層に挑んだ後の事である。何故ならば、エレオノーラが一時的に戻って来た時に、新たな厄介事が持ち込まれたからだ。
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