ダンジョンのコンサルタント

流水斎

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厄介な事故現場

馬鹿は馬鹿役に

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 実際に作業してみるとやはり道が狭い。
最初に地形を確認した時もそうだが、フィリッパが設計したホムンクルスはずんぐりむっくりしているからだ。ドワーフみたいな体型に依存することで、耐久力と筋力を低コストで上澄みしているから仕方がない。ドワーフほど器用でもないし、移動経路を計算もしてくれないのが面倒に拍車をかけている。

なので最初に道を拡げることにしたのは正解だった。
目に見えて移動するのが楽に成ったし、村人たちだけでは無理な事なので、彼らの見る目が大幅に違って見える。

「よし、ここからは土砂や流木をいったん別の場所に置くぞ」
「道を拡げるために伐り出した木を乾燥させて再利用する」
「同じように流木を集めるから、段階的に処理するぞ」
「別の場所に置くのも段階的に処理するのも、ホムンクルスには理解できないからだ。命令は一つ一つやってくれ。前や後ろに注意するのを忘れるな、ホムンクルスは人がいることを理解できないぞ」
 ホムンクルスは剛力なので、二体居れば大きな樹でも運べる。
小さな木や折れた樹ならば一体でも抱えて持って行ける位だ。しかし『この場所へ、指示した物を運べ』と地形・モノを指定するだけで良いように見えて、間をまるで考慮しないのである。

気を抜いたら村人が押し潰されていたとか普通にあり得るので、タイミングには注意が必要だ。

「ええと……乾燥している木を確認する時はどうしたら?」
「それは数日ごとに置き場所を変えれば良い。初日はこの辺り、二日したらあの辺りとかな。面倒くさいだろうが命令は徹底してくれ。前の日の木が邪魔だから、どうせその隣に置くだろうとか、ホムンクルスは考えないからな」
 村人が再利用する木について尋ねて来る。
当たり前だが枝などはそのまま薪に出来るし、森に取りに行かなくても持って行き放題なので気になるのだろう。今ならば寄合とか領主の指示がないから、税もかからないしな。

だが、くどいほど繰り返すがホムンクルスは気が利かない。大丈夫だ、この位は常識だと思っていても愚直に同じことを繰り返すのだ。

「提案なんだが、木を置く場所の周囲にロープを張らないか? 縄張りという方法で本来は別の使い道なんだが、その中に入れるんだ」
「良いんじゃないか? できるだけその端から置けばいいだろ」
 ジャンの提案で流木を置く場所にロープを張る。
砂漠では目安になる物はない時があるので、ロープを張ってテントを設営したりする時の目安を作るらしい。なんでも端から幾つの結び目にテントを立てれば、次の結び目までが敷地になるとか判るんだと。

ともあれその方法を使って敷地を作る。
初日はその枠の中、次の日はロープを外してまた張り直すって感じだな。

「しかしロープか……。同じロープを使うと問題が起きそうだが、川の掘る場所とかの目安にも良いかもな」
「その場合は色を変えれば良い。私達は縦と横で色を変えるが、今回は流木の置き場所と、川底を掘る場所の特定しかないからな」
 こんな感じで上手く行った場所も結構あった。
ホムンクルスの長所を活かしつつ、欠点を埋める感じで浮けば大抵はなんとかなった。この辺りは予め判ってる部分をどうにかするだけの話だからな。

もちろん上手く行かない場合も同じくらいある。
すれ違ったり折り目で行違う時に、どっちが優先とか言う考えがないからだ。人間の場合は最悪の場合止まればいいし、先に移動し始めた方を優先することが多いからだ。しかしホムンクルスの指示がそこまで及ばないことがあり、そうなるとぶつかりあって荷物を散らしたり、運が悪ければホムンクルスが損傷する。

「まあ人間が怪我したわけじゃないからな」
「最悪のケースは避けられたと言っても良い」
「幸いにして時間は前倒しで進んでるし、ペースも判って来た」
「問題なのは……この場所だけじゃあどうにもならん事だな。馬鹿馬鹿しいがお伺いを立てにゃならん部分と、現実的に何とかせにゃならん部分がある」
 新たな問題と言うか、想像できたが放置してた部分だ。
お互いの領主が介入して来たというか、やり口が違うだけでほぼ同時。おそらくは背後に向こうの貴族が居るのか、そうでないならば何処かで繋がったのだろう。近いんだから血縁を結ぶ可能性はあるし、領地の抗争をしてた時に仲直りした可能性はあるしな(エレオノーラ失脚を狙って)。

仕方がないのでエレオノーラにお伺いを立てつつ、現場判断で実行できることはやってしまうことにする。

「だからさあ、そんな事も出来ないワケ? 無能だなあ」
「出来ないのではなく、しないのです。貴方は雇い主ではありません。基本的には『新当主』様に確認を取ってからになりますね。もちろん獣程度なら、その場で対処は致しますが」
 どうみても見込みなさそうなボンボンが討伐要請をしてきた。
おそらく婿候補の中では最底辺で、父親の格が上に居るだけの奴だろう。もしかしたら親族衆の中でも従兄弟とかで血が濃いのかな? ともあれ命令系統が違う事を前提に断りつつ、同時に対処しない訳ではない事を説明する。

面倒くさいがその辺りも説明しておこう。でないと馬鹿な事をしでかすからな。判り易い話だと、使えもしないのにホムンクルスを接収し、大怪我するとかだ。

「我々が独自に動くと専用の対処料金が発生しますが……」
「新当主様からの命令変更ならば修正範囲内です」
「この地を治められる卿が依頼料を払われるのでなければ、現在の契約の範疇内で対処するべきでしょう。むしろここは積極的に動くよりも、獣の害が起き難くすることを前提に計画するつもりです」
 やんわりとお前の話を聞く気はないが、大人しく下がれば何とかしてやる。
そのくらいのニュアンスで伝えたつもりだったのだが、まるで通じていないようだった。あからさまに馬鹿にしたような表情で、俺に対して『当初の言葉』を叩きつけて来る。おそらくはアドリブでナニカするとか、考えを修正できないのだろう。

「君さあ。子供の使いじゃないんでしょ? そのくらいはしても当然なの! パパっと獣くらい始末して見せなきゃ。それともできないワケ?」
「貴方が他の領地の兵士に命令したら罰せられるように、私もそこは同様です。ご領主のご子息ならばお友達も多いのでしょうけれど。私が預かっている戦力は盗賊やゴブリンなら目付けた瞬間に処分できます。小さな騎士団に匹敵しますが、それだけに制約も多いのですよ。御父上の許可なしにあちらの騎士団がうろついたら、当然貴方も罰するでしょう?」
 子供であるとか盆暗扱いして来たので、そのまま言い返した。
オブラートに包んではいるが、子供を使いにしても言う事は聞けない。正規料金を払う気も無く、エレオノーラに雇われてる以上は自分に雇われているも同じことだとしか考えられない馬鹿には従えないと言ってやった。全部は理解できないだろうが、半分くらいは通じると信じたいものだ。

それはそれとして、この馬鹿は『馬鹿役』ではないかと思う。あまりにも馬鹿過ぎて、印象を集めてその間に何かしてるのではないかと思うのだ。判り易く言うと、向こうの兵士が何かやってるとかな。

いずれにせよその日は馬鹿の対処で潰れたので、細かい指示はジャンに任せておくしかなかった。次からこういう時の為の指示書も作って置こう。
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