ダンジョンのコンサルタント【完】

流水斎

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最終計画

警戒網の手直し

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 前と作業量も人数も違うが、ほぼ同じ具合に辿り着いた。
やはり慣れと言う物は重要で、同じことを繰り返すと人は慣れて効率良く行く。もちろん悪い意味でも慣れてしまい、するべき警戒をすっ飛ばしてしまうのが玉に瑕であるが……。

それはそれとして、第三者に頼めば違和感を洗い出してくれるものだ。

「どうだデボラ? 一緒に歩いてみて」
「幾らか違和感はあるな。『普通』ならば放っておく場合もある。相手が相手で無ければの話だが」
 せっかくなので新加入のデボラにデータ取りを頼んだ。
俺達が慣れで進んでしまっている部分のチェックを頼み、それもレポートにしてもらった。俺達と一緒に周辺を警戒するんじゃなくて、ひとまず単独で探ってもらった感じだな。イエスマンの集団が同時に間違えるように、慣れで進む者も同じことでミスをするものだ。なので別行動で調査してもらったわけだ。

普通ならばそこまでの警戒は不要ではある。だが敵が洞穴《ケイブ》エルフであり、姿隠しを多用する相手であるという認識が、この警戒網を作らせたと言っても良かった。

「これが道中までのレポートだな」
「あんがとよ。しっかし結構穴が多いな」
「こっちが呪文型ホムンクルス使う場合のレポートになる」
「それだと時間が掛かるな。あるいは同じタイプを複数扱う必要があるか。まあ呪文型が役立てる分には良いんだが……上層部を進む時に少し試してみるか」
 やはり第三者は俺達と視点が違う。
もちろん『もう少し警戒すべきだ』というレベルの警戒心の薄さを指摘するレベルの記述もありはした。だが、同じことをする場合でも警戒方法が違ったりする。例えば人影や音を聞く代わりに、銅の鏡を曲がり角で下の方に突き出して除くとかな。俺達なら鏡を使うとしても、普通に顔がある高さで使うのだが、デボラの場合は相手が見ている事を警戒して足元な訳だ。

そういった報告書に加えて、上層部で二種類の呪文型ホムンクルスを使うとしたら、どんな場合に使うべきかを提案してあった。もちろんそのままは採用できないので、何処かで妥協案を必要とするわけだが。

「確認するが中層で調査してみるべきだと思うか?」
「断言はできないが不要だろう。一時しのぎに隠れて何ができる程でもない。むしろ本拠を手薄にするし、ちゃんとした警備を行うならばお前たちにとっても望む展開だな。一族全員で外に脱出する気ならば、それはそれで警戒が必要だが、急場はしのげる」
 当たり前だが中層で警戒しないという手はない。
だが時間を掛けてまで、グルっと一周して来るような必要はないと思う。姿隠しの呪文には時間限界があるので、何時までも隠れておくことはできない。ゴブリンに匿てもらって一人二人が奇襲してくる可能性はあるが、こちらが重要人物であるエレオノーラとフィリッパを連れて行かないので、大きな問題はないのだ。極論を言えば、優秀な暗殺者を防衛に使っても有能ではないからといって、本拠地から引き離せばさらに意味は無くなるだけの話である。

もちろん野に放たれて一族の復讐をするという可能性はある。だが、連中は外の世界で随分と長い間暮らしたことはないのだ、余程の事が無ければ舞戻って来ることはないだろう。

「なら後は予定通りに展開して警備体制を敷き、その間にウイザード・アイと降伏勧告の手紙だな」
「それでいいと思うぞ。砂は私もやってるし、悪くない手だ」
 中層から下層の入り口二か所に陣を敷く。
その周囲に砂やロープで警戒網を作り、手紙を連中の元に放り込むことになっていた。それに前後してウイザードアイの呪文をホムンクルスに使わせ、地図にある情報を元に連中の住処を見て回る。移動するのは視線だけであり、幻覚の呪文は手元に残っているホムンクルスが使うので問題はなかった。

あとはブーが賦活で魔力を供給し、その減った魔力をブーがポーションを飲んで同じことを繰り返せば、それほど時間を掛けずに入り口付近は視覚情報に限り調べられるだろう。

「……しかし、この足跡を見る限り連中には期待が出来なさそうだな」
「封鎖したホムンクルスを見に行った跡はある。だが、それだけだ」
「そこから突破して中層に回ろうとした形跡がないし、足元を誤魔化しても居ない」
「おそらくは外と没交渉過ぎて、ばらまかれた砂に捜索担当者が気が付かいのだろう。それとゴブリンを戦力として引き入れに行っても居ないという事だ。単純に思いつかないだけなのか、気位が高くて招き入れたくないのは、それとも裏切りが怖いだけの人数しか残って居ないのか……」
 油断は禁物だが、敵は軽く見て来た程度の索敵しかしていない。
姿を隠して身に行ったら、封鎖用に置いていたホムンクルスたちを見て、おしつらが警戒を始めたので帰還したという所だろう。それならそれで精鋭を集めて突破すれば良いのだろうが、多分……そこも含めて策略である事でも警戒したと思われる。

この見解については良い事も悪い事もある。
良い面では敵が以前の推測通りに経験不足であるという事、悪い面に関しては思い詰めて暴走し易くなっているとも言えた。

「文面に関しては聞いた通りの事で書いたのか?」
「ああ。連中が文字までは失って居ないとは思うが、それでも連中の常識内で油断しないし、同時に条件を鵜呑みにもしないだろう。場合によっては罠だと思ってその場で諸ブルンする可能性もあるが……まあ、それはウイザードアイで判る話だな」
 デボラとエレオノーラで相談して手紙を書いている。
連中の文字は読めないが、内容を聞いているのでまあ問題ないだろう。デボラが連中と……いや他所の貴族と以前から知り合いで俺達を騙していたとしても、こちらが油断して突っ込まない限りは全滅と言う事はない。全滅するとしたらあちら側であり、部隊全てが全滅するとも思えなかったのだ。まあ貴族のスパイである場合はダンジョンが重要なので、暴走させないだろうしな。

「よし、こいつを元に警戒網を少し考えとくから、ブーとリシャールを呼んでくれ。上層で試したら一気に行くぞ」
「了解した。連中に時間を与えて良い事はないからな」
 こうして俺たちは今回も順調にダンジョンの中を進んでいったのである。違いと言えばいつもの二人が居ないこと位だ。
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