ダンジョンのコンサルタント【完】

流水斎

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ラストバトル編

硬直状態の裏で

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 作戦の第一段階は問題なく終了した。
下層の入り口付近を抑え、こちらの増援を降ろし、同時に敵の増援を食い止める。言葉にすれば単純な事だが、戦力比と言う意味では段違いだ。こちらは後退して休憩することはできるが、敵は戦って追い返さねば済む場所が無くなるのである。もちろん油断は禁物だが、今のところは調査も含めて問題無く進んでいた。

俺も下層に居りて精霊を解呪する為に待機、リシャール達が周辺を念のために確認している所だ。

「今のところ、罠とかはないと思います。心配なのは少し下っている場所なので、水が心配ですけど」
「お、よく気が付いたな。俺は対策を忘れてたくらいだ」
 リシャールの提案で思い出したが、水は怖い。
水攻めを使うとしたら俺たちの方が有利な筈だが、こちらの増援がまとまった所だけ、この入り口付近のみを水没させるというのはあり得る話だった。制御に失敗すると大変であるが、敗北前提で戦うよりも確実な作業かも知れない。地下の生活を知らぬ者の言葉だと切り捨てることはできない、俺たちが心配しているのは連中が自暴自棄になって自爆する事なのだから。

とはいえ、せっかく気を付けてくれたならば注意しておくことにしよう。

「そうだな。その辺の話をもう少し詰めてから、ブーの所に行ってくれ。この場合で気にするべきは、呪文で再現できる城攻め……というか拠点事潰せるような攻撃のことだ。リシャールが懸念した水攻めの他に、煙で燻すとか穴を掘って出て来た土を崩すとかだな」
「はい。他の皆さんと相談してみようと思います」
 リシャールは素直な子なので、見知った者と相談し始めた。
自分の独断で考えずにみんなと話すことは良い事だ。年を経た賢者ならばともかく、人間ならばまだ子供くらいの年齢なので、この方が良いだろう。水攻めに関しては杞憂な気もしたが、この手の見分は勉強込みでやっておいて損はないからな。

その上で、第二段階の侵攻に付いて思案する。

「精霊があまり顔を出さないな。やっぱり警戒されているのか」
「そりゃそうだろう。前回虎の子を潰されて被害を出したばかりだ。洞穴ケイブエルフ全体の名誉の為に言わせてもらうが、連中は物を知らないだけで愚かな訳じゃない。自分たちが思う範囲が狭いが、その中で最適解を考えるだろう」
 対抗呪文の為に待機しているデボラに声を掛けてみる。
返答としては見たまま聞いたままだが、少しばかり嬉しそうだ。流石に同族が愚かでは立つ瀬はないし、強い方が倒す意味も価値もあるからな。となると、俺が待機する意味はあまりない。連中は解呪される危険を恐れて、こちらから見えない位置で呪文を撃たせるだけだからだ。それで十分に強いから、判断を変えないというのもある。

逆説的に言えば、それが有効だからこそ、連中は判断を変えないのだ。おそらくはこのまま進行する限りはずっとそのまま。

「なら後は任せる。俺はマーカーを設置してリンクと入れ替えることにする。しばらくしたら魔力はガンガン使っていいぞ」
 俺は予定通り、循環器を用意することにした。
ここに新しい拠点を作り、マーカーを設置してリンクと入れ替える。すると周辺で飛び交う魔力がダンジョンに還元されるほか、俺たちは経営に使う魔力を戦闘用に使えるのだ。経営用だから大した使い道は変わらないが、魔力を融通したり、消耗品を召喚できるのは単純に便利だ。

そして相手の様子を見ながら少しずつ戦況を良くしていく。敵は膠着状態を作り出すのが精いっぱい、こちらは時間を掛けるだけで有利に進んでいくという訳だ。

「景気の良い事だ。まあ、被害も考えれば理解できるがな」
「当たり前だろ。ホムンクルスが持つ欠点の一つだな」
 何というかコンストラクト系の中では安価で便利だ。
ゴーレムほど素材が大量に必要な訳でもないし、魔法をかけて製造するのもやり易い。強さは人間と同レベルでしかないが、筋力やら体力は狙って高く設定できる。特に今使ってるフィリッパ印の個体のように、敏捷力やら色々と切り捨てたタイプはコストも安く製造時間も短いのだ。

だが、安いと言っても安価と言う訳でもない。
攻防で一から製造する時間が掛かり、それに有能な魔法使いが付きっきりになる。そして大量の魔力を消費して製造され、素材だって効率が良い訳で揃え易いわけではないのだ。そして何より……有能と評価されたタイプは、市場で高く売れる。将来の売り物で戦闘していると言えなくもないのである。対抗呪文やポーションで守るなど安いものだ。

「ふう。ひとまずこれで第二段階も無事に終了だな。後は……」
「師匠、次の絵をお持ちしました。広き部屋ですので続き絵になります」
「お、丁度良かった」
 やがてリンクを設置し、戦闘が僅かに押し始めた頃に状況が変化した。
戦いそのものは大して変わっていない、精霊一体を倒して代わりにまた一体が来て入れ替わっただけで、洞穴ケイブエルフは怪我人こそ多いもののまだ一人しか倒せていない。連中も消耗戦で味方が減るのを嫌ったのか、あるいは一族が減るのを嫌がったのか。まあこの場合は同じ意味か。

ただ、劇的な変化があったのは、洞穴ケイブエルフが籠る大広間の様相がハッキリした事である。戦い自体はまるで変わらずとも、情報を抜き出せているのが非常に大きい。

「よし! これで総数がおおよそ判るぞ! 第三段階の為に会議をするとすっか! ブーの奴も魔力切れの辺りで、こっちに呼んでくれ」
「了解しました! 他の皆さんもお呼びしますね」
 大広間は城と同じで一族の大半が籠っている。
一番奥の部屋は不便だし、祈祷所なり族長が住む形式的な場所だろう。それに対して大広間は遺跡の時代から兵士やら何やらみんなで集っていた場所だ。洞穴ケイブエルフたちもそこに集って負傷者の手当てだったり、励ましあったりしていると思われた。イザとなれば老人子供にも槍を満たせればいいし、戦況が分かればみんなも団結するだろうからな。

そう思っていたのだが……少し様相が違ったのだ。

「これは……みなで手を握り合って何をしておるのでしょうかな?」
「勝利を祈願して歌でも歌っておるのか? 蛮族共はよくそうするであろう」
「いや、これは儀式魔法の一種だな。だけど、なんで爺さんやら子供まで? 女どもはまだ判るんだが……」
 会議の話題となったのは、連中が手を握り合っている輪だ。
アカデミーなどでは既に知識でしかない産物だが、古い時代の儀式魔法の掛け方の一種である。だが、儀式魔法と言う物は人数が増えれば良いわけではないのだ、女はともかく老人や子供を入れる意味は薄い。つまり、術力の向上のために使っているわけではないということである。

そして絵を何枚かスライドさせ、タイミングが異なる時点で見た事象に対し、注釈された言葉を見ると……人数が減ってそいつらは眠っているとあった。

「疲れた者が眠っておる? やはり士気を高揚させようと祈っておるのでは?」
「そうじゃない。つーかヤベエ。こいつは消耗戦でも有利に成らねえぞ。多分、こいつらは俺らと同じことをガキや老人まで動員して薬を使ってやってやがる。魔力を抜き出して、呪術の長が召喚を繰り返してやがるんだ」
 術の精度が低くても、単に魔力を融通させるならば問題ない。
そして眠っている連中は魔力を回復させる為だろう。手を繋いで儀式魔法の応用で術者……一番術が上手い奴に魔力を回せば良い。仮に精霊召喚が上手い奴や回復呪文に盾か奴がいるならば、そいつに回して召喚や回復を繰り返せば良いという事である。

連中はこちらに消耗戦を、儀式魔法と安眠用の薬草か何かで代用していると思われたのだ。それはこのまま消耗戦を挑んでも、精霊を延々と呼べる分だけ向こうの方が有利かも知れないという事であった。
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