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ラストバトル編
最後の工作
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対抗呪文役を兼ねたデボラが下がって来た。
暫くは一進一退の攻防にはならないというところで、攻勢に出る前に一休みと言った所で。ブーがやってる地図製作も後少しというところで、こっちの主要メンバーが一気に出る前の帳尻合わせである。
ここで例の件で話したのだが、やはり反応はよろしくない。
「そんな都合の良い話があるわけないだろ。いい加減にしな」
「だよなあ。何らかの隠し技はあるんだろうが、その手の……」
「そう言う事じゃないよ。時間を置いてならともかく、この状況で騙し討ち以外に話を持って行く奴なんかいないよ。降伏勧告だって心を攻める手段と思われているはずさ」
デボラは隠形出来ないとは言わなかった。
代わりに話を持って行っても、絶対に取り合わないと言わんばかりだ。まあ、それについては俺も同感だ。今更になって友誼を結ぼう、主戦派よりもこっちを信じてね……なんて話を信じられるわけがない。俺も駄目もとて言っているから、親族衆の騎士領主たちを説得する材料なんて用意してないしな。
さて、それはそれとして建設的な話に入ろう。
「話を切り替えるが、眠り薬の調合を変えるとか、痺れ薬やなんかと入れる替えるのは可能か? 駄目ならダメで良いし、お前さんを危険地帯に放置込むほど切羽詰まっちゃいない」
「可能じゃあるけどね。報酬と言うか……待遇次第さね」
「待遇? 金じゃなくて士官でも要求すんのか?」
「いいや? むしろ助けた連中のだね。あたしが士官とか笑い話だよ」
結局、洞穴エルフを皆殺しにするのは気分が悪いだけだ。
俺もデボラも可能な範囲の努力はするが、自分に従う気のない連中の為に何かしてやる気はない。仮に助けてやっても、何かの拍子に牙をむくだろう。いや、自分達を滅ぼした相手を信じられるはずがない。仮に雇われたデボラが温情を示して、奴隷を買い上げて助けたという事にしても、裏切者とでもいうだろう。そんな状態で助けたいものか。
では何故かというと、気分が悪いということに尽きる。
出来るだけの努力をした、その為に頑張った。全滅するはずの連中が、僅かばかりなりと生き残っている……そんな言い訳をしたいからこそ、俺たちはこんな馬鹿な話をしているのだ。
「なら連中の足を引っ張る工作をしてくれ」
「先言った通り、眠り薬だろうが痺れ薬だろうが構わねえ」
「逆に薬を処分することで、連中がやってることの回転を悪くでもいい」
「細かい内容に関しては任せるが、このまま消耗戦をしても上手くないからな。その上で降伏しなくても、終わった時に戦えない状態の連中には温情を掛ける。最初は従属の魔法を一人ずつ掛けることになりそうだがな」
なんのかんのといって、工作を頼むのも消耗戦対策だ。
それが洞穴エルフを助命することに成れば良いという程度であって、別に無理して助けたいわけじゃない。そして助けるとしたら、顔見知りになった騎士たちであり、金で雇ったとはいえ縁が出来たデボラである。呪文型ホムンクルスの可能性に目を向けた相手ともあって、仲良くすることに意味はあるからな。
だから要求はシンプルにまとめておいた分けた。
「要するに延々と魔力回復をされたくないってことだね? 任せときな。連中の来てた皮鎧はあるし、他ならぬ材料は向こう持ちで行けるだろうね。念のためにこっちでも見繕ってくけど、そんなに期待しないどくれ」
「任せるが最終局面までには戻って来いよ? 巻き込まれっぞ」
「当たり前さね」
洞穴エルフは地下で得られる薬物に長けている。
それは戦っている連中もそうだし、デボラもまたそうだ。全力では戦えない状態にしてしまえるならば、特に問題はないだろう。それで消耗戦でも力攻めでも勝てるようになるし、その結果で連中を捕虜に出来るならば殺さないようにするだけのことだ。従属の呪文を使うまでは自殺しないようにしとく必要はあるけどな。
こもまで話が整って来ると、後はタイミングか……。
「ひとまず次の攻勢時に俺達も全力を出すとして、その時に潜入。お前さんが仕掛けるのは二つ先かその次くらいでいいか?」
「そんなところか。急かされると何もできないからね」
「じゃあ休憩が終わったら軽鎧を見繕ってくれ」
「あいよ。成果の方はあんまり期待しないどくれ。やらないよりマシくらいさね」
地形は前情報で判ってるし、連中の配置も判りつつある。
おかげで細工が出来るタイミングも予想は出来るが、そうそう都合の良い『間』と言うのも無い。俺たち遊撃チームも参加することで相手の守勢を崩し、連中の余裕を奪いつつ、取り返そうと躍起になって集中力が削がれた所を利用するって寸法だな。残るエリアもそう多くないので、こちらが攻勢をかけた後か、さもなければ向こうが躍起になっている時くらいしか工作するタイミングがないとも言う。
それさえなければ、飲み水とか武器を減らすだけでも意味があるんだけどな。
「リシャール、聞いての通りだ。ブーの所で何か薬が無いか聞いといてくれ。丁度良いのがあればデボラに持たせる。連中を無理に殺す気はないから、効き易いが効果は保証できない程度で良い」
「判りました! 直ぐにお伝えしますね!」
うちでその手の薬を扱ってるのはブーになる。
呪文だけならばエレオノーラが使えると思うがこの場には居ない。デボラも断言はしていないが、手持ちでは持っていないだろう。あったとしても、気絶するか死ぬか分からない劇薬くらいのはずだ。まかり間違ってもそんなものを使用する気はない。真偽の問題もあるが、その薬が入った水なり酒を俺たちが口にする可能性もあるからな。
こうして戦いは第三段階に向けて走り出す。
いやに第二段階が長くなったが、これば不測の事態があったので仕方がない。ひとまずはこちらの首脳陣が死なない事態は避けたわけだし、味方の騎士や兵長が死なず、出来る限り連中も生き残る未来を目指してみようじゃないか。
対抗呪文役を兼ねたデボラが下がって来た。
暫くは一進一退の攻防にはならないというところで、攻勢に出る前に一休みと言った所で。ブーがやってる地図製作も後少しというところで、こっちの主要メンバーが一気に出る前の帳尻合わせである。
ここで例の件で話したのだが、やはり反応はよろしくない。
「そんな都合の良い話があるわけないだろ。いい加減にしな」
「だよなあ。何らかの隠し技はあるんだろうが、その手の……」
「そう言う事じゃないよ。時間を置いてならともかく、この状況で騙し討ち以外に話を持って行く奴なんかいないよ。降伏勧告だって心を攻める手段と思われているはずさ」
デボラは隠形出来ないとは言わなかった。
代わりに話を持って行っても、絶対に取り合わないと言わんばかりだ。まあ、それについては俺も同感だ。今更になって友誼を結ぼう、主戦派よりもこっちを信じてね……なんて話を信じられるわけがない。俺も駄目もとて言っているから、親族衆の騎士領主たちを説得する材料なんて用意してないしな。
さて、それはそれとして建設的な話に入ろう。
「話を切り替えるが、眠り薬の調合を変えるとか、痺れ薬やなんかと入れる替えるのは可能か? 駄目ならダメで良いし、お前さんを危険地帯に放置込むほど切羽詰まっちゃいない」
「可能じゃあるけどね。報酬と言うか……待遇次第さね」
「待遇? 金じゃなくて士官でも要求すんのか?」
「いいや? むしろ助けた連中のだね。あたしが士官とか笑い話だよ」
結局、洞穴エルフを皆殺しにするのは気分が悪いだけだ。
俺もデボラも可能な範囲の努力はするが、自分に従う気のない連中の為に何かしてやる気はない。仮に助けてやっても、何かの拍子に牙をむくだろう。いや、自分達を滅ぼした相手を信じられるはずがない。仮に雇われたデボラが温情を示して、奴隷を買い上げて助けたという事にしても、裏切者とでもいうだろう。そんな状態で助けたいものか。
では何故かというと、気分が悪いということに尽きる。
出来るだけの努力をした、その為に頑張った。全滅するはずの連中が、僅かばかりなりと生き残っている……そんな言い訳をしたいからこそ、俺たちはこんな馬鹿な話をしているのだ。
「なら連中の足を引っ張る工作をしてくれ」
「先言った通り、眠り薬だろうが痺れ薬だろうが構わねえ」
「逆に薬を処分することで、連中がやってることの回転を悪くでもいい」
「細かい内容に関しては任せるが、このまま消耗戦をしても上手くないからな。その上で降伏しなくても、終わった時に戦えない状態の連中には温情を掛ける。最初は従属の魔法を一人ずつ掛けることになりそうだがな」
なんのかんのといって、工作を頼むのも消耗戦対策だ。
それが洞穴エルフを助命することに成れば良いという程度であって、別に無理して助けたいわけじゃない。そして助けるとしたら、顔見知りになった騎士たちであり、金で雇ったとはいえ縁が出来たデボラである。呪文型ホムンクルスの可能性に目を向けた相手ともあって、仲良くすることに意味はあるからな。
だから要求はシンプルにまとめておいた分けた。
「要するに延々と魔力回復をされたくないってことだね? 任せときな。連中の来てた皮鎧はあるし、他ならぬ材料は向こう持ちで行けるだろうね。念のためにこっちでも見繕ってくけど、そんなに期待しないどくれ」
「任せるが最終局面までには戻って来いよ? 巻き込まれっぞ」
「当たり前さね」
洞穴エルフは地下で得られる薬物に長けている。
それは戦っている連中もそうだし、デボラもまたそうだ。全力では戦えない状態にしてしまえるならば、特に問題はないだろう。それで消耗戦でも力攻めでも勝てるようになるし、その結果で連中を捕虜に出来るならば殺さないようにするだけのことだ。従属の呪文を使うまでは自殺しないようにしとく必要はあるけどな。
こもまで話が整って来ると、後はタイミングか……。
「ひとまず次の攻勢時に俺達も全力を出すとして、その時に潜入。お前さんが仕掛けるのは二つ先かその次くらいでいいか?」
「そんなところか。急かされると何もできないからね」
「じゃあ休憩が終わったら軽鎧を見繕ってくれ」
「あいよ。成果の方はあんまり期待しないどくれ。やらないよりマシくらいさね」
地形は前情報で判ってるし、連中の配置も判りつつある。
おかげで細工が出来るタイミングも予想は出来るが、そうそう都合の良い『間』と言うのも無い。俺たち遊撃チームも参加することで相手の守勢を崩し、連中の余裕を奪いつつ、取り返そうと躍起になって集中力が削がれた所を利用するって寸法だな。残るエリアもそう多くないので、こちらが攻勢をかけた後か、さもなければ向こうが躍起になっている時くらいしか工作するタイミングがないとも言う。
それさえなければ、飲み水とか武器を減らすだけでも意味があるんだけどな。
「リシャール、聞いての通りだ。ブーの所で何か薬が無いか聞いといてくれ。丁度良いのがあればデボラに持たせる。連中を無理に殺す気はないから、効き易いが効果は保証できない程度で良い」
「判りました! 直ぐにお伝えしますね!」
うちでその手の薬を扱ってるのはブーになる。
呪文だけならばエレオノーラが使えると思うがこの場には居ない。デボラも断言はしていないが、手持ちでは持っていないだろう。あったとしても、気絶するか死ぬか分からない劇薬くらいのはずだ。まかり間違ってもそんなものを使用する気はない。真偽の問題もあるが、その薬が入った水なり酒を俺たちが口にする可能性もあるからな。
こうして戦いは第三段階に向けて走り出す。
いやに第二段階が長くなったが、これば不測の事態があったので仕方がない。ひとまずはこちらの首脳陣が死なない事態は避けたわけだし、味方の騎士や兵長が死なず、出来る限り連中も生き残る未来を目指してみようじゃないか。
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