魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第三章

『予定以上の戦果』

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 実の所、準備を終えた段階でワーム退治は難しくもなんともない。
堅い殻で覆われたサンドワームの方が倒し難い分だけ、後の利益が大きかっただろう。素材の価値としてもそうだが、おそらく遊牧民の関心も高かったはずだからだ。

では残る問題が何かと言うと、ケイブワームとの決戦に持ち込む為の経緯が何もかも問題だった。見つける部分に関してが前半分、後は処理の問題である。

「こことそこ。あの辺りに小さな水たまりがあるね。いちばん大きなのはあそこさ。全部繋がっているんじゃないかねぇ」
「それだけ判れば問題ない。助かった」
 かつて水の巫女と呼ばれたらしい老婆に水源探知を使ってもらった。
井戸を掘ったりする時のモノで、おおまかな水の量と流れが判るそうだ。あくまでイメージ的な……本来は広大な荒野で使う物なので、近距離で詳しく探知するのには向いていないらしい。

俺はそれらの情報に大昔の地図や目撃情報を加えて地下水路を割り出した。

「セシリア。上の穴に移動して石鹸人形を投下するぞ」
「師匠。でも向こうの穴の方が近くありませんか? それに上は埋めてますよね?」
 先生から師匠にランクUPしているのは正式に師と弟子になったからだ。
それほど真髄とはいえないが詳しい話が出来るので、今までみたいなもどかしいことはない。今回は石鹸で作ったゴーレムに関する詳細だが、もっともな疑問なので移動しながら解説できる感じだな。

ちなみに移動するのは、初期に得られた情報で試しに埋めた場所であり、現在は軽く沈んでいる所だ。

「理由は二つある。液体でもゴーレムに出来るとはいえ、元に無い能力を行使させると消耗が激しい。上流から下流に流れるのも、土に染み込むのも水の特性だ。だから少々の穴は問題ではないし、漂って移動する間も情報収集させながら確認が出来る。人間の形をさせるとかは無駄でしかないが、怪しい魔物ではないと証明するとか真髄を誤魔化すための、ダミー情報には成るからな」
「言われてみればそうですね。……もう一つは何でしょうか?」
 近い位置から移動させるよりも、自然に移動させた方が楽だ。
もちろんかなりの魔力を注ぎ込み、巨大なゴーレムと同じくらいの『常に所持し続けるゴーレム』にすれば話は変わって来る。だが、こんな用途が限定される上に、詳細を暴かれたら真髄が漏れる様なゴーレムを倉庫に放置したくはないのだ。盗まれたら自壊する命令とか、そんな特殊な条件設定なんか無駄でしかないからな。

その上でセシリアはもう一つの条件を考えてみたが、判らないので問うたらしい。これも師と弟子だから出来る気安さだな。以前ならば黙って考え続けただろう(弟子にするのは、方々に聞いて回らない様にするというのも良くある話だ)。

「その後を考えれば単純だよ。今回の討伐だけで領地に穴を空け、場合によっては埋めて地下水路を潰すんだぞ? その後の生活を活かすには、構造を把握して利用法を考えるべきだ」
「あっ! それもそうですね。大きな魔物も通れる穴でしたっけ」
 セシリアは『目線は高いが足元が暗い』の典型的な例だ。
高尚な学問やら世の役に立つ事に憧れているが、では実際にその為に何かやるとしたら……という事を特に志向していない。魔物退治のコストに天然の地下水路ごとき、無くなっても良いと言えばまあそうだ。もし魔王軍が森の中に待ち構えて居たら、勇者軍だって森ごと焼き払うだろう。なんだったら相手のエルフと敵対している、こちらのエルフが率先してやったりするくらいなのだから。

とはいえ、その辺りを導くのが師としての役目だろう。
妹のアンナが天然な分だけ、ダイレクトに『儲ける=世の為』と直結しているが、天然ボケな分だけ完全に視野が狭い。大して姉のセシリアは、好奇心旺盛だし努力を惜しまない性格をしているからな。教え甲斐があるのもセシリアといえた。

「ここか、確かに沈んでいるな。石鹸人形を準備してくれ」
「はい。少々お待ちください!」
 待てと言われても、呪文を唱える時間が惜しいので待たない。
感覚共有の呪文を詠唱し、石鹸ゴーレムに付与して置く。そして地下水路へ移動する事を認識させる為、俺は脳裏に水が砂に吸い込まれていくイメージを描いた。以前に老人の歩行を真似させてもらった事があるが、ゴーレムが人間の姿をしているのは動きをフルコピーすれば良いからだ。特殊な行動をさせるには、特殊なイメージを専門に与えてやらねばならないのだ。

いずれにせよ、塞いだ地面に染み込んでいく過程で魔法知覚と同期し始める。

「……到達した。思ったよりゆっくりとしているな。これなら歩いて同調し続けられる。俺は棒でやるから、板と木炭を頼む」
「水路の地図を描くんですね」
 木の棒で地面をひっかき、木の板へ木炭をチョーク代わりに線を描く。
右に左に歩くことで石鹸ゴーレムを操り、地下水路の幅を簡単に把握した。そして分岐路があればひとまず老婆が告げた多めにある方向に移動し、大まかな地図を描き切ったのだ。セシリアに任せた方は縮図なので、少し間違っている可能性はあった。だが、もう二・三周すれば問題ないだろう。

今度は先ほどセシリアが示した一番近い場所を目指して、這って移動するスライムのイメージを描く。俺は魔王軍でスライムなんか敵にした事は無いが、前世のゲーム知識で何とか保管した感じだな。

「もう少ししたら人形が登って来る。そしたら分岐路まで戻るぞ。逆回りで簡単に位置を把握しよう。おそらくもう片方の水たまりに繋がって、最終的に一番大きい所に繋がっているんじゃないかと思う」
「判りました。そういえば、ワーム? は居ましたか」
「ああ。『見た』訳じゃないから、おそらく……だけどな」
 ゴーレムに蛇やカタツムリが斜面を昇るイメージを送り穴から回収する。
あともうちょっとで地図が出来上がると思うが、この時点で考えることはあまりない。どちらかといえば、これだけ広い領域を掘ってしまった場合、その後で何をするか迷うくらいだ。セシリアに大きな口を叩いたが、俺にだって良いアイデアがある訳じゃないからな。

それはそれとして、ゴーレムの魔法知覚は微妙な物だ。
暗闇などは関係ない反面、詳細を把握できるわけではない。大きさや速度などと位置を簡単に掴めるくらいである。顔なんか判らないし、もし体格が同じ相手が腕を組んでグルグルまわったらどちらがどちらか判別できないだろう。

「みんな下流域へと集まって来てやがる。おそらく急激な水量の増加でどこかが崩落したのと、集まった連中自身の体が水を堰き止めて居るんだ。一体がそれなりの大きさだし、ちょっと前までは快適だったんだろうが……」
「今では干上がってますからねって、そんなに大きいんですか!?」
 驚くほどの大きさかは別にして、地下水路に比したら大きい。
元からそう大きくない地下の穴を、堅い先端部分で掘り進めながら移動する訳だ。それでもサンドワームと違って水路は掘り易いし移動し易いから、サンドワーム程苦労してないので全身が堅くしないし太くもない。どちらかといえば、長さの方が問題なんじゃないかと思う。

なお、水路の一部が崩落する理由は判っている。
増水して狭い場所の上面が削られ、その土や砂が途中に溜まる。ワームの移動で流されたり、溜まった水で押し流されて行くうちに、途中の曲がりくねった場所で溜まってしまうのだ。そこをワームが崩さないかと言われると、下流域に留まっている間は崩さないだろう。

「これで地形は把握したな。両端を崩して退路を断って、連中を白日の下に晒して駆逐するぞ。基本的にはそれで解決する」
「はい。ただ……他の場所に生き残りが居ないかが不安ですけど」
 地面に簡単な地図を描き、分岐が無い場所を落して封鎖する。
前部分のみを締めると、以上の水が供給されなくなるので連中は干上がるのだが、代わりに下流へ下流へと移動し、最悪の場合は穴を掘って移動してしまう。だが、後ろ部分も絞めてしまうと溜まった水の中でそのまま居ついてしまうのだ。そこを強襲してまとめて倒す感じだな。

俺はそこまで説明した後でゴーレムの事を簡単に説明する。

「いい機会だからゴーレムの種類を説明するな」
「まず人形サイズのパペット。これは偵察などに使う」
「次に作業用や戦闘用の通常サイズと発展形の大型がある」
「ここまでは基本形なんだが、特殊型にも有用だからこそ繰り返されるパターンがあるんだ。彫像に化けて護衛を行うガーゴイル、その亜流で宝箱に化けるミミック、生物の骨を流用したボーンゴーレム。その発展形である肉を持つフレッシュゴーレムだな。そして今回、めでたくワームの死体を手に入れるので、ワームを使ったゴーレムなら地下水道を難なく移動できるだろう。感覚共有は俺しか扱えんが、移動を繰り返して同族が生き残っている場所を突き止めるだけなら問題ないよ」
 基本的には秘密でもないので、最後の部分だけ声を潜める。
モンスターの死体を使ったフレッシュゴーレムなんて、秘儀の秘匿どころか外聞が悪すぎるのであまりやるべきではない。その上で、ワームならゴーレムにしても地下でしか活動しないしあまり問題は無いだろう。サイズ的にも大きいから、エネルギー収集の能力を高めにしておけばまず何処かで動かなくなって腐乱死体に成ったりはしないだろう。後は定期的に顔を出すように指示をするくらいか?

ともあれ、これらでこちらの準備は終わった。
後はゴーレムで水たまりの前後を落し、その後で地面を掘り進んで行くだけである。

「この区画はせっかくだからタメ池と畑にしてしまう。だから構わずに掘り起こしてしまえ。土は日に向かって積み上げて壁にする他、砂のある場所に混ぜてしまうから気にするな」
「はい! 第一の段階を始めます!」
 俺が作業概要を説明すると、ゴーレムが前部分を掘り始める。
無遠慮に掘ったおかげで、水路はその位置で崩落。ちょっとずつ穴を掘り拡げ、掘った土は太陽のある側に置いて置く感じだ。続いて後の位置に移動して同じように掘って行くと、今度はそちらの水路が埋まってしまった。前の部分が水があまり見えなかったのに対し、こちらはある程度の水が見えているのが特徴的である。

そしてガワにあたる水たまりの端にある場所から少しずつ堀り、少し移動して土を積み上げる場所を変えた。

「いいか。そろそろ出て来るぞ。まずは土壁とゴーレムを盾にして石投げや弓を放て! 白兵戦は向かって来るか、水路の後ろに穴を開けようとする奴を食い止めるんだ!」
「了解です!」
「……命令に従う理由はない。無視する気もないがな」
 部下は素直に従うが、遊牧民の若者はそれなりに頷いた。
命令系統が違うものの、さずがに矢を放ち石を投げると判っている所に飛び込む気もないのだろう。それと彼らが弓矢での戦いを主力にしている軽弓騎兵というのもあると思われる。まずは弓で戦い、倒せなければ切り込むというスタイルのはずだ。俺が知っている遊牧民も、楯の乙女を覗いて基本的にそんな感じだった(楯の乙女は加護の種類に寄るので白兵戦や呪文型もいるので参考にならない)。

やがて穴が少しずつ空いて行って、水が見え始めた段階でゴボリと何かが浮き上がった。こちらの行動を末より先に、落ちて来る土や砂に反応したのだろう。

「あれか、射撃するぞ!」
「撃て撃て!」
「待て、まだ早い……って聞いてないな」
 先に言っておかなかった俺が悪いと言うべきか。
その場に居た者たちは躊躇せずに攻撃を始める。石は後で拾えば良いが、矢は地面に突き刺さって無駄になる物が出るだろう。だが、これもまた戦い慣れない者たちだから仕方がないのだろう。あえて言うならば、土が残っている間は、あまり効かないという事を説明し忘れた俺のミスである。

やがて落盤する槌を跳ねのけ、数匹のワームが現れた!
先ほど把握した総数には合致してないので、おそらくは大きめの土に埋まって動けないでいるのだろう。暫くすれば脱出して動き出すはずだった。

「作戦開始! ゴーレムを前に出せ、動かなくなってもまだ居るから注意しろよ!」
「はい? あ……はい! 判りました」
「臆したか! 我らが有利なのだぞ!」
 俺は改めて攻撃開始の言葉を投げかけた。
部下たちはまだ明確な指示が出てないことに今更ながらに気が付いたが、最初から待っても居ない遊牧民たちは意気揚々と矢を放っている。彼らの気分からすれば、邪魔な土がなくなって矢を使い易くなった程度だろう。このまま行くとさいしょの個体にトドメを刺しに行くために接近し、出てきてない奴らに絡まれる感じだな。

仕方がないので俺は予定を早め、連弩に対して呪文を使った。
ゴーレムにしてある連弩はターゲットなどロックはしないが、定められた場所に対して猛然と射撃を敢行する!

「そろそろ気絶している奴が動き出すぞ! 第一陣にトドメを! そのまま第二陣に備える!」
「はい! 射撃を続けろ!」
「なんだと? 切り込んだ方が早い……なんだあの速度は!?」
 俺は連発式のクロスボウである連弩で何度も射撃した。
機構をゴーレムにしてあるので、魔術師の非力さでも問題なく稼働する。それと弾詰まりを起こし易い部分にも調整機構を割いているので、全弾とはいかないが連続で射撃が出来たのだ。合計八発が入る様に棚が作られているが、機構上の欠陥で五発目あたりで調整が入るのが惜しい所である。

おそらくこの連弩をくれた夏王朝のお偉いさんも、俺の関心を買いたいのもあっただろうが、この欠陥が頭にあった物と思われる。

「うわっ!? 本当に次の連中が……」
「怯むな! 撃て撃て! 最初から奴らはバケモノなんだ!」
(予め伝えてあるのに驚くのか……。まあ、この辺は最初から攻撃し続ける気の連中の方が怯まないよな。オーバーキルする相手ではないし、放っておくか)
 うちの部下は情けない事に、第二グループが割りと近い場所に出現してパニックを起こした。大して遊牧民の若者の方は、連弩の連射性にビビった以外は特に怯んだ様子はない。どちらかといえばタフネスなワームの戦い方にヘキヘキしている感じだ。MMOでタンクに守られている敵陣営を見るとイライラするアタッカーの様にも見えた。

ともあれ、相手の棲み家を掘り起こして一方的に射撃しているのだ。こちらが負ける筈は最初からないし、後は時間との戦いであった。

「なあ。さっきのアレは増やせるのか? ……ですか?」
「夏王朝製だから怪しいが、単純にして五発までにすれば行ける気もするな」
「だとしたら増やしても良いのでは? なんだったら三発で二丁持てばいい。馬の上で使えるならそれで問題はない」
 戦い終われば若者たちは連弩に群がっていた。
勝手に持ち去らないので問題ないと思うが、領主である俺に平然と言葉を掛けて来るのはいただけない。言い直そうとする奴はまだマシな方で、首根っこを掴んで議論したがる奴までいた。

その間にも部下たちはワームの死体を引き揚げ、堅い部分を剥ぎ取ったり、二体ほどサンプルに荷車に載せたりと作業を続けていた。あとでボーナスでも出すとしようか。

「領主さま。ただいま帰任いたしました。どうも御暑い事を為されていたようですね」
「おかえりアレクセイ。ただの魔物退治さ。オルバの奴には妹さんを押し付けられたがね。こんな流れはもう二度と繰り返したくねえ。妾とか夫人はもうコリゴリだ」
 全て終わった頃に、ようやく戻って来たアレクセイが何か言いたげだった。
どうも言いたいことがすれ違っているように思えるが、彼が渡してくれた着任を示す書状は想定通りである。旧アンドラ領にあるアンドラサスの町の代官であり、暫くの間、俺への与力として力を貸し、代わりにこちらがゴーレムなどを貸し出す契約に成っている。最初に予定した流れのままなのだが……。

そう思っていたのはどうやら俺だけの様で、ここに至って俺はようやくミスを教えてもらえたのだ。

「留まるだけで痛みを伴う彼らがずっと残っているのは不自然だと思いませんでしたか? 彼らの文化では妻は五名まで、族長などの押し付けられる立場の者は最大で十名とされております。それを途中で打ち切り、『お前で最後にする』というのは熱烈なプロポーズなのですよ」
「なんだって!?」
 どうやら俺はワームを退治したり連弩の実戦投入をしただけではなく、傍目からは恋愛ロマンスのようなプロポーズで嫁さんを釣り上げた形になるらしい。なんとも思わぬ大戦果であった。
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