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第九章
『微妙な成果への評価』
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飛行型ゴーレムの実験は成功裏に終わったが、微妙であった。
決して悪くはないというのに、発展性において決定打がない結果となった。上手く行ったから良いだろうと言えばそうなのだが、これからどうしたものかという意味で躊躇わざるを得ない。
ついでに言うと、タイムスケージュールの曲がり角なのは同じなので、他に何もできないというのもあるだろう。
「面倒がなくて良かったじゃねえか」
「いつもの師匠なら、作業用に出来るから良い。とか言ってますよね?」
「そりゃそうなんだがな。『じゃあ、何に使うんだ?』と言われたら答えようがないだろ。本館もそうだが高い場所に何かを据える時は予め対処してるしな。ここでも上層と往復して何かするなら、別にエレベーターや飛行呪文で良いって事になる」
忙しいからかガブリールとセシリアの反応が悪い。
酒とスイーツを片手に、俺の愚痴を聞き流している感じだ。ちなみに今日は水棲種族から手に入れたコーヒーを使って、カクテルの『ブラック・ルシアン』とカフェオレ系のかき氷である。焙煎が上手く行ったかを試す程度の出来なので量産性はないが……ユーリ姫あたりがしればこちらも喜びそうな気がする。
とりあえず、韜晦していても仕方が無いので次の考察に行こう。
「当初の予定だと暴走するが高速で動くと思ってたんだ」
「そうなら地面に足を付けずに走る様に低空を飛べば良いと思ってた」
「足元を無視して移動できるだけでも十分だ。戦闘用でも作業用でも役に立つ」
「それがノロノロと飛ぶだけだからな。それも山を越える程の飛行時間が保てないんだ。これじゃあ、移動力を延ばすという意味も無い。飛行呪文だと思ってた呪文が、浮遊した物を移動させるって呪文だったから仕方が無いんだが……。ここからどうするか悩んでな」
俺は某ロボットアニメのホバーで動く重装甲マシンを想定していた。
転生して記憶がだんだん曖昧になって行く中でも、空中で爆発する機体をホバーレベルに抑え、地面を滑るように走る程度に妥協したら希代の新兵器になったという下りをよく覚えていたのもある。だから同じような感じだと想定していたら、まるで違った様子だったので面食らったのである。
ここでのポイントは、移動形式がそもそも違っていたという事なのだ。
「元が違うなら改良しようもねえもんなあ。問い合わせて……駄目か」
「ああ、何を悩んでるのかと思ったら、呪文の開発なんですね」
「そういうわけだ。この呪文がホーセンスのオリジナルなのか、それとも学院でも同じ形式なのかでかなり違う。だが、馬鹿正直に『ゴーレムを飛ばしたいんですけど、この呪文は学院の物と同じですか?』なんて尋ねてみろ。馬鹿にされるどころか、『空飛ぶゴーレムは既に開発されてますよ。お気の毒に』と言われてアイデアだけパクられるに決まってるからな。物がヤバ過ぎてエリーとも相談できねえ」
飛行呪文と言うものは、術者が高速移動する物だと思っていた。
もし、その認識が正しい場合は、術者という括りは重量や大きさでは変動せずに、人間でもゴーレムでも高速移動する筈なのだ。そして変動するのは、移動速度なり継続時間である筈だろう。基本となる要素は変動したいというのが呪文であり、冷却の呪文が指定した区域から広がらないのと同じような物の筈なのだ。つまり、ホーセンスが覚え飛行試験型ゴーレムに掛かっていた呪文は、浮遊しつつその対象を力技で移動させる呪文(変動するのは重量と時間)ということになる。
これはホーセンスの覚えている呪文が飛行呪文では無かったとして、決して悪いという訳ではない。例えば高い場所で作業するならこの方が制御し易いからだ。だが、高速飛行の呪文が他にあるならば、迂闊に組み込んだまま置いておくと、後にライバル機が普通に高速移動していた場合に苦労することになるだろう。
「一から呪文を開発しようにも俺たちの中に風系統の使い手はホーセンスだけだし、奴は遺跡探索というか、古代王朝の類を観察するのが好きみたいだからな。空飛ぶ絨毯で満足して、そういうアイテムを貸してくれるなら付与だけ協力するってスタンスになるだろう。悪い意味で水棲種族が例になってる。とりあえず他の使い手を探しつつ、現状でも有効な使い方を探るとするよ」
「そいつが良いな。こういっちゃなんだが風は独特過ぎらあ」
「そういえばそうですね。無理に覚えたいとは思わないような気がします」
最終的にホーセンスに関する人物評は、意識高い系の探検家だ。
探検自体が研究対象なのではなく、遺跡を探検し見分している自分が格好良いと思うタイプである。本人の人生だし好きにすれば良いとは思うし、今後に古代王朝の遺跡から何か有益な物でも発掘されたら食っていけるだろう。秘境を探検する魔術師と言うのはレアだし、飛行まで出来る奴は更に稀だからな。
それというのも風系統は特化系な上、火系統が攻撃に偏っているのとは違って独特な物が多い。必要になることは稀だが、その稀な状況に成ったら有用と言う独自性が問題なのだろう。
「師匠。参考までに、こういう時はどんな成果が出て、何を次の目標にするんでしょうか? 付与呪文を習得して霧吹き呪文の開発が終わったら、どうするか迷ってまして」
「霧の壁を覚えたんだな? ならご褒美って訳じゃないが講義といこう」
どうやらセシリアは6レベルに達し、霧の壁に失敗しなくなったらしい。
こうなれば導師として認められるためのテストになり、本来ならばこの段階でそれぞれの門派の特徴を調べて弟子入りを志願することになる。もちろん名門の家は物心ついたころから呪文を覚え始め、効率的に呪文を段階的に覚え、自分の家が所属することになるから、めちゃくちゃ進路に都合が良いんだよな。地方出の魔術師はそんな奴らに並んで行かなくちゃならない。
という訳で、微妙な成果だったが可愛い弟子の為に講釈して行くとしよう。
「まず、大前提として高速飛行の呪文があると仮定して、明確に区分する。その上で、この『ホーセンス家の飛行呪文』を詳細に分解して、利用方法を見極めていく」
「ええと、別の呪文であると認識するところからですね? 判りました」
使い手を探すとかはセシリアの質問には関係ないので割愛する。
意図していた飛行呪文は『高速飛行用の呪文』とした上で、ホーセンスが覚えていた飛行呪文は別物として判断する。良い点があるならば良い点を抜き出して利用すれば良い筈だ。やってはいけないのは混同することと、『高速飛行は存在するはずだ』と勝手に思い込む事だろう。
無ければ新しい呪文を作れば良いだけだし、勝手な思い込みはどんな方向でも不要どころか有害だろう。
「この呪文を機能的に分類すると、浮遊・対象の移動・対象固定による簡略化によって構成されている。対象固定による簡略化ってのは、巨大な魚の魔物対策に使ったやつに似てるな。アレは広い空間を指定した上で、その中の巨大な魔物以外に機能できないという制限で無理やり成立化させている。対してこちらは、『唱えた者にしか機能できない』という理屈で呪文全体の負担を簡略化しているんだ」
「呪文が長くなると制御の負担も増しま……かなり余計じゃないです?」
「そこだけ見ればな」
要するに、超能力で無理やり飛ばしているのと変わりない呪文なのだ。
浮遊した物を動かすという呪文二つ分に加えて、長くなってしまった呪文の反動を三つ目の機能で無理やり抑えている力技だと言えた。負担面では軽くなっているが、呪文構文事態は長くなっているので、もし高速飛行の呪文が本当にあるとしたらかなり余計な部分が存在するということになる。
刻印することでも呪文を覚えて来たセシリアからすれば、無駄が目に付くのも仕方ない。だが、その無駄をセシリアはこれまでやって来たのだ。
「お前さんも最初にやったろ? 水移動の呪文を元に水を抜く呪文を作った時。アレはそもそも存在しなかったが、もしかしたらホーセンスの先祖も高速飛行の呪文を知らなかったのかもな」
「そういえばそうですね。私も浮遊だけを覚えて居たら作ったかもです」
この方法ならば、高速飛行の呪文を知らなくとも空を飛べる。
また、浮遊の呪文を覚えて居たら、その発展形の呪文なので覚えるのは難しくない。仮に簡略の補助呪文による裏技を知っていたのならば、手っ取り早く呪文を用意するために有用であったかもしれない。それこそ高速飛行の呪文が別に存在しているならば、弟子の才能や呪文の覚え方次第でベットに用意する手もあるだろう。
そういう意味でも、やはり地方出の魔術師と言う印象が補強されたという形になるのだろうか? 工夫自体は良い事だけどな。
「そう判断した時、『浮遊』と『指定移動』の組み合わせに戻した時、『簡略化』とは異なる補助呪文を用意すれば、まったく別の使い道が出来るということになる。元を知っていると補助呪文を二つ並べるのは馬鹿馬鹿しくなるが、この呪文からすると一段階に過ぎない。何より、この効果にマッチした存在を飛ばせる必要があるならば、長大であろうとも重要だからだ」
「制御が難しそうですけど……魔法陣としてならアリなんでしょうかね」
必要があって簡略化しているわけだが、必要なく成れば削れば良い。
ゴーレムを飛ばすだけなら今のままで良いのだが、荷物など適当な物を浮かばせて移動させるだけならば、『自分だけ』という指定は無い方が良い。そして、重要なのは削る部分は別に簡略化だけではないのである。
俺は酒を飲み干したりカキ氷を喰い切って、空いた三つの器を組み合わせを入れ替えていく。
「船を飛行させて城にしまうとか、荷車を運ぶとかを同じ術者がやるなら簡略化しない方が良いな。逆に荷車だけに固定するならば、『浮遊』と『簡略化』だけを残して、『指定移動』の呪文を削る手がある。浮遊の呪文をかけ続けるとかナンセンスだが、簡略化で魔力消費や、時間継続を掛け易くできるならば、簡略の補助呪文自体は無駄じゃないんだ。もちろん『指定移動』と『簡略化』を残して、既に浮いている船を指定した場所に移動させるだけの自動運転もアリといえばアリだ」
「ああ……確かに、ゴーレムが飛ぶなら列車を浮かせるのは簡単ですね」
二つ目を抜いたり、今度は一つ目を抜いたり、実にエポックな作業である。
船を移動させるのは船乗りも載せる以上はあまり意味が無いし、魔物の存在を考えると船の上で全員が寝る訳にもいかない。だが、水中用ゴーレムのルサールカに、ヒレでバタ足で動く以外の移動方法が作れるならば有用だろう。
もし、才能と時間が無限にあるならば、こういった呪文そのものを研究するのも良いだろう。現段階でも組み込んだ呪文が暴走する方向性を絞るくらいはできるからな(限定で拡大方向を減らすだけだが)。
「と、まあこの辺はあくまで研究可能であり、俺が研究するならそうするというだけだな。ゴルビーの領主としては念のために再建しておき、軽い素材が手に入って新しい考えが浮かぶか、イザ必要となったら使う。もちろん水棲種族だったり王都の宮廷魔術師とか、高速飛行の呪文の使い手を常に探して置く。って結論になるんだけどな。何しろ忙し過ぎるから余裕がない」
「今ある注文分を作ったら素材の研究、終わった頃にまた作成だぜ」
「確かに」
ワイバーンやグリフォンの骨でも手に入ったら次の段階に進むだろう。
だが、現時点でノロノロとだが飛べるゴーレムになってしまった以上は、特に改良するアイデアが無い以上はすることが無いのだ。術を組み込むだけならホーセンスに金を積んで付与してしまえば良いわけだが、現時点で軽い素材もないし、呪文の研究をあいつがしそうにないけどな(ゴルビーに仕えるなら間違いなく研究三昧なので、なおさら仕えなさそうではある)。
偵察の必要があればグライダーでも作るかと思ったが、空飛ぶ絨毯で良いかと思う様な状況ではどうしようもない。このアイデアは『次』が浮かぶまでは凍結ということになるだろう。
そして最大稼働実験のためにエネルギーを使い果たし、ゴーレムではなくなった機体を再建。その後は水中用のルサールカをどうするかという検討に入ったのである。
飛行型ゴーレムの実験は成功裏に終わったが、微妙であった。
決して悪くはないというのに、発展性において決定打がない結果となった。上手く行ったから良いだろうと言えばそうなのだが、これからどうしたものかという意味で躊躇わざるを得ない。
ついでに言うと、タイムスケージュールの曲がり角なのは同じなので、他に何もできないというのもあるだろう。
「面倒がなくて良かったじゃねえか」
「いつもの師匠なら、作業用に出来るから良い。とか言ってますよね?」
「そりゃそうなんだがな。『じゃあ、何に使うんだ?』と言われたら答えようがないだろ。本館もそうだが高い場所に何かを据える時は予め対処してるしな。ここでも上層と往復して何かするなら、別にエレベーターや飛行呪文で良いって事になる」
忙しいからかガブリールとセシリアの反応が悪い。
酒とスイーツを片手に、俺の愚痴を聞き流している感じだ。ちなみに今日は水棲種族から手に入れたコーヒーを使って、カクテルの『ブラック・ルシアン』とカフェオレ系のかき氷である。焙煎が上手く行ったかを試す程度の出来なので量産性はないが……ユーリ姫あたりがしればこちらも喜びそうな気がする。
とりあえず、韜晦していても仕方が無いので次の考察に行こう。
「当初の予定だと暴走するが高速で動くと思ってたんだ」
「そうなら地面に足を付けずに走る様に低空を飛べば良いと思ってた」
「足元を無視して移動できるだけでも十分だ。戦闘用でも作業用でも役に立つ」
「それがノロノロと飛ぶだけだからな。それも山を越える程の飛行時間が保てないんだ。これじゃあ、移動力を延ばすという意味も無い。飛行呪文だと思ってた呪文が、浮遊した物を移動させるって呪文だったから仕方が無いんだが……。ここからどうするか悩んでな」
俺は某ロボットアニメのホバーで動く重装甲マシンを想定していた。
転生して記憶がだんだん曖昧になって行く中でも、空中で爆発する機体をホバーレベルに抑え、地面を滑るように走る程度に妥協したら希代の新兵器になったという下りをよく覚えていたのもある。だから同じような感じだと想定していたら、まるで違った様子だったので面食らったのである。
ここでのポイントは、移動形式がそもそも違っていたという事なのだ。
「元が違うなら改良しようもねえもんなあ。問い合わせて……駄目か」
「ああ、何を悩んでるのかと思ったら、呪文の開発なんですね」
「そういうわけだ。この呪文がホーセンスのオリジナルなのか、それとも学院でも同じ形式なのかでかなり違う。だが、馬鹿正直に『ゴーレムを飛ばしたいんですけど、この呪文は学院の物と同じですか?』なんて尋ねてみろ。馬鹿にされるどころか、『空飛ぶゴーレムは既に開発されてますよ。お気の毒に』と言われてアイデアだけパクられるに決まってるからな。物がヤバ過ぎてエリーとも相談できねえ」
飛行呪文と言うものは、術者が高速移動する物だと思っていた。
もし、その認識が正しい場合は、術者という括りは重量や大きさでは変動せずに、人間でもゴーレムでも高速移動する筈なのだ。そして変動するのは、移動速度なり継続時間である筈だろう。基本となる要素は変動したいというのが呪文であり、冷却の呪文が指定した区域から広がらないのと同じような物の筈なのだ。つまり、ホーセンスが覚え飛行試験型ゴーレムに掛かっていた呪文は、浮遊しつつその対象を力技で移動させる呪文(変動するのは重量と時間)ということになる。
これはホーセンスの覚えている呪文が飛行呪文では無かったとして、決して悪いという訳ではない。例えば高い場所で作業するならこの方が制御し易いからだ。だが、高速飛行の呪文が他にあるならば、迂闊に組み込んだまま置いておくと、後にライバル機が普通に高速移動していた場合に苦労することになるだろう。
「一から呪文を開発しようにも俺たちの中に風系統の使い手はホーセンスだけだし、奴は遺跡探索というか、古代王朝の類を観察するのが好きみたいだからな。空飛ぶ絨毯で満足して、そういうアイテムを貸してくれるなら付与だけ協力するってスタンスになるだろう。悪い意味で水棲種族が例になってる。とりあえず他の使い手を探しつつ、現状でも有効な使い方を探るとするよ」
「そいつが良いな。こういっちゃなんだが風は独特過ぎらあ」
「そういえばそうですね。無理に覚えたいとは思わないような気がします」
最終的にホーセンスに関する人物評は、意識高い系の探検家だ。
探検自体が研究対象なのではなく、遺跡を探検し見分している自分が格好良いと思うタイプである。本人の人生だし好きにすれば良いとは思うし、今後に古代王朝の遺跡から何か有益な物でも発掘されたら食っていけるだろう。秘境を探検する魔術師と言うのはレアだし、飛行まで出来る奴は更に稀だからな。
それというのも風系統は特化系な上、火系統が攻撃に偏っているのとは違って独特な物が多い。必要になることは稀だが、その稀な状況に成ったら有用と言う独自性が問題なのだろう。
「師匠。参考までに、こういう時はどんな成果が出て、何を次の目標にするんでしょうか? 付与呪文を習得して霧吹き呪文の開発が終わったら、どうするか迷ってまして」
「霧の壁を覚えたんだな? ならご褒美って訳じゃないが講義といこう」
どうやらセシリアは6レベルに達し、霧の壁に失敗しなくなったらしい。
こうなれば導師として認められるためのテストになり、本来ならばこの段階でそれぞれの門派の特徴を調べて弟子入りを志願することになる。もちろん名門の家は物心ついたころから呪文を覚え始め、効率的に呪文を段階的に覚え、自分の家が所属することになるから、めちゃくちゃ進路に都合が良いんだよな。地方出の魔術師はそんな奴らに並んで行かなくちゃならない。
という訳で、微妙な成果だったが可愛い弟子の為に講釈して行くとしよう。
「まず、大前提として高速飛行の呪文があると仮定して、明確に区分する。その上で、この『ホーセンス家の飛行呪文』を詳細に分解して、利用方法を見極めていく」
「ええと、別の呪文であると認識するところからですね? 判りました」
使い手を探すとかはセシリアの質問には関係ないので割愛する。
意図していた飛行呪文は『高速飛行用の呪文』とした上で、ホーセンスが覚えていた飛行呪文は別物として判断する。良い点があるならば良い点を抜き出して利用すれば良い筈だ。やってはいけないのは混同することと、『高速飛行は存在するはずだ』と勝手に思い込む事だろう。
無ければ新しい呪文を作れば良いだけだし、勝手な思い込みはどんな方向でも不要どころか有害だろう。
「この呪文を機能的に分類すると、浮遊・対象の移動・対象固定による簡略化によって構成されている。対象固定による簡略化ってのは、巨大な魚の魔物対策に使ったやつに似てるな。アレは広い空間を指定した上で、その中の巨大な魔物以外に機能できないという制限で無理やり成立化させている。対してこちらは、『唱えた者にしか機能できない』という理屈で呪文全体の負担を簡略化しているんだ」
「呪文が長くなると制御の負担も増しま……かなり余計じゃないです?」
「そこだけ見ればな」
要するに、超能力で無理やり飛ばしているのと変わりない呪文なのだ。
浮遊した物を動かすという呪文二つ分に加えて、長くなってしまった呪文の反動を三つ目の機能で無理やり抑えている力技だと言えた。負担面では軽くなっているが、呪文構文事態は長くなっているので、もし高速飛行の呪文が本当にあるとしたらかなり余計な部分が存在するということになる。
刻印することでも呪文を覚えて来たセシリアからすれば、無駄が目に付くのも仕方ない。だが、その無駄をセシリアはこれまでやって来たのだ。
「お前さんも最初にやったろ? 水移動の呪文を元に水を抜く呪文を作った時。アレはそもそも存在しなかったが、もしかしたらホーセンスの先祖も高速飛行の呪文を知らなかったのかもな」
「そういえばそうですね。私も浮遊だけを覚えて居たら作ったかもです」
この方法ならば、高速飛行の呪文を知らなくとも空を飛べる。
また、浮遊の呪文を覚えて居たら、その発展形の呪文なので覚えるのは難しくない。仮に簡略の補助呪文による裏技を知っていたのならば、手っ取り早く呪文を用意するために有用であったかもしれない。それこそ高速飛行の呪文が別に存在しているならば、弟子の才能や呪文の覚え方次第でベットに用意する手もあるだろう。
そういう意味でも、やはり地方出の魔術師と言う印象が補強されたという形になるのだろうか? 工夫自体は良い事だけどな。
「そう判断した時、『浮遊』と『指定移動』の組み合わせに戻した時、『簡略化』とは異なる補助呪文を用意すれば、まったく別の使い道が出来るということになる。元を知っていると補助呪文を二つ並べるのは馬鹿馬鹿しくなるが、この呪文からすると一段階に過ぎない。何より、この効果にマッチした存在を飛ばせる必要があるならば、長大であろうとも重要だからだ」
「制御が難しそうですけど……魔法陣としてならアリなんでしょうかね」
必要があって簡略化しているわけだが、必要なく成れば削れば良い。
ゴーレムを飛ばすだけなら今のままで良いのだが、荷物など適当な物を浮かばせて移動させるだけならば、『自分だけ』という指定は無い方が良い。そして、重要なのは削る部分は別に簡略化だけではないのである。
俺は酒を飲み干したりカキ氷を喰い切って、空いた三つの器を組み合わせを入れ替えていく。
「船を飛行させて城にしまうとか、荷車を運ぶとかを同じ術者がやるなら簡略化しない方が良いな。逆に荷車だけに固定するならば、『浮遊』と『簡略化』だけを残して、『指定移動』の呪文を削る手がある。浮遊の呪文をかけ続けるとかナンセンスだが、簡略化で魔力消費や、時間継続を掛け易くできるならば、簡略の補助呪文自体は無駄じゃないんだ。もちろん『指定移動』と『簡略化』を残して、既に浮いている船を指定した場所に移動させるだけの自動運転もアリといえばアリだ」
「ああ……確かに、ゴーレムが飛ぶなら列車を浮かせるのは簡単ですね」
二つ目を抜いたり、今度は一つ目を抜いたり、実にエポックな作業である。
船を移動させるのは船乗りも載せる以上はあまり意味が無いし、魔物の存在を考えると船の上で全員が寝る訳にもいかない。だが、水中用ゴーレムのルサールカに、ヒレでバタ足で動く以外の移動方法が作れるならば有用だろう。
もし、才能と時間が無限にあるならば、こういった呪文そのものを研究するのも良いだろう。現段階でも組み込んだ呪文が暴走する方向性を絞るくらいはできるからな(限定で拡大方向を減らすだけだが)。
「と、まあこの辺はあくまで研究可能であり、俺が研究するならそうするというだけだな。ゴルビーの領主としては念のために再建しておき、軽い素材が手に入って新しい考えが浮かぶか、イザ必要となったら使う。もちろん水棲種族だったり王都の宮廷魔術師とか、高速飛行の呪文の使い手を常に探して置く。って結論になるんだけどな。何しろ忙し過ぎるから余裕がない」
「今ある注文分を作ったら素材の研究、終わった頃にまた作成だぜ」
「確かに」
ワイバーンやグリフォンの骨でも手に入ったら次の段階に進むだろう。
だが、現時点でノロノロとだが飛べるゴーレムになってしまった以上は、特に改良するアイデアが無い以上はすることが無いのだ。術を組み込むだけならホーセンスに金を積んで付与してしまえば良いわけだが、現時点で軽い素材もないし、呪文の研究をあいつがしそうにないけどな(ゴルビーに仕えるなら間違いなく研究三昧なので、なおさら仕えなさそうではある)。
偵察の必要があればグライダーでも作るかと思ったが、空飛ぶ絨毯で良いかと思う様な状況ではどうしようもない。このアイデアは『次』が浮かぶまでは凍結ということになるだろう。
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