魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第十二章

『魔物の司令官とその部隊』

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 魔物の砦を接収しているからか、いつもとイメージが違う。
諸侯はまるで敗北後に不利な条件で外交調停を受けている様であり、むしろ不敵に笑うヨセフ伯が魔物たちを束ねる魔将のようだ。もっとも魔物たちは外交など結ぼうとせずに皆殺しするだろうし、ここまで精巧に人間へ化けられる魔物が居たら既に大変なことになっていただろう。

それが意気消沈する諸侯と、強がるヨセフ伯という構図であった。

「遅かったな」
「大陸での新案件を片付けて来ましたので」
 おおよその期日には間に合っているのだが様式美である。
なのでそんな指摘はせず、ちょっとした大問題が発生したけれど、サクサクっと片付けて来たから安心してね……という返答をしておいた。ヨセフ伯としても焦りを見せたくないだろうし、『そうか』みたいな返事で特に気に明日様子を見せていない。特に芸がないタイプではあるが、新しい案件と聞いてビクっと震えた諸侯よりはマシであろう。

まあ、マッチョ主義者の暴君でも魔族討伐の盟主である。精々盛り立てていくとしよう。

「ゴルビー伯! 本国で何か……」
「問題が無いのであれば良い。で、勝てるな?」
「勝ちましょう。何でも使って良いならば問題はありません」
「ならば好きに使え」
 余計な質問をしようとした貴族をスルーして次の話題へ。
当然ながらヨセフ伯の問いは『今回襲って来た魔物たちに勝利し、その後も勝ち続けられるか?』という問いだったので、『次に勝つだけなら勝てるし、フリーハンドなら今後も勝てるよ』と返答して置いた。それに対する答えは『オールオッケー』であり、実に気持ちの良い答えである。良い貴族としての資質は高くないが、覇王としての才能は高いのだろう。とりあえず虎に翼を与えないようにはしておこう。

それはそれとして、諸侯のダウナー気質が問題だな。

「ここに来るまでにおおよそを把握しました。おそらく、敵は『人間の強さを学んだ魔族』です。魔族を構成する亜人種の中でも、弱小種族出身者でしょうね。強いというより小賢しく動いている印象があります。その証拠に『目の前が何もかも消失した』などという、かつてよく見た光景が一軒も報告されておりません」
「なっ!? あれで強くないだと!?」
「いや、言われてみれば思い当たる」
 ここはハッタリを聞かせて『何とでもなる』と言い切って置こう。
驚く貴族も居るが、騎士団長の中には納得する者も居た。クレメンス団長ではないのでウッラール騎士団ではない、ヤコブ騎士団なり他の騎士団の団長だろう。俺のハッタリに頷く賛同者が居たのは心強いが、実際に目撃しての事か、それともハッタリに気が付いて士気高揚のために協力してくれたのか分からないので、そのまま話は進行させてしまおう。

今は士気を回復し、勝てるように作戦を組み為さなければならない。

「魔族は人間と違って複数の加護を所持しています。大概は鱗が生えていたり怪力だったりと小さな加護に過ぎませんが、同じ方向に複数の加護を持ったり、強大な加護を授かった者がいると魔人や魔将へとランクアップしていきます。彼らが本気ならば一人で一隊は壊滅できるでしょう。魔王との大戦時であれば、二人ほどが競うようにイル・カナン軍を皆殺しにして、間に合わなかった一人が我が軍で遊びに来たでしょう。もちろん、中途半端に帰還などしません」
「馬鹿なそれほどまでに……そこまで強いというのか!?」
「もうそれほどの魔族は残って居らぬよ。だから出てきたのだ」
「然り。将来に禍根の種を残さぬためにな。今ならば居らぬのだ」
 先ほどの貴族が話が違うと唸り、騎士団長へクレメンス団長が同意する。
これはこれで申し合わせているくさいが、いまはありがたいのでこのまま話を進めてしまう。相手の予測が出来ており、そいつに対応して戦えば勝てるというならば人は安心できる。仮に自分が被害担当で死ぬと判れば嫌だろうが、それでも全体で肯定してしまい、役目を割り振れば嫌とは言えないのだからまずは全体を整えねばならない。

そして、そのためには手段を説明し、被害担当をゴーレムにやらせるのが良いだろう。

「おそらくという前書きが付きますが、弱いと見なされて置いて行かれた弱小部族であるか、まだ年若い子供たちを中心に構成しているのでしょう。率いる者には熟練の冴えを感じますので、おそらくは『小賢しい』と不況を買って送り返された魔人だと思われます。この島に残った者たちにもメンツや縄張り争いがあるでしょうし、それらを勘案すれば、彼らが最大の勢力で功績稼ぎに役目を買って出た者と思われます」
「理解はする。では、どのように対処する? 人として見れば手ごわいぞ」
「ゴルビー伯を疑う訳ではないが、あれほどの騎士や魔術師はそう居らん」
 貴族は既に話について行けないので、騎士団長たちが主な相手だ。
彼らとしては部下を無碍に殺したくはないし、役目として必要ならばそれを命令せねばならない立場にある。あやふやであろうと、具体的な根拠を聞かせてもらって、そのために確実に推敲する心算であろう。仮にそこまでの覚悟が決まって居なくとも、後に四大国の争いになる話を聞けば自然と決断すると思われた。

簡単な作戦としては一人一殺で死に番を決めて、足止めしつつ敵だけは確実に殺していく方法なのだが、それを進める訳にもいくまい。

「魔族側の長所は、かなり鍛えた人間に少し鍛えた魔族が互角な事です」
「彼らの短所は、その総数が多くない事と話を聞かないことにありますね」
「生き残りの魔族全体で数十名として、敵指揮官に従うのは多くて十数名」
「三名から五名を討ち取るだけでその戦力は低下しますし、発言力はもっと低下するでしょう。留守居役の魔性に言われて仕方なく従っている者は離反しますし、援護に回っている部隊も協力しなくなります。まずは落ち着いてその三名から五名を目指し、『一人ずつ』討ち取って行きましょう。もちろんゴーレムを盾であり囮役にします。怖したいでしょうから、奇襲で派手に破壊させてあげましょう」
 まずは予測できる全体構造について説明しておく。最大で騎士団くらいだ。
この数字はあくまで推測に過ぎないのだが、相手の出方で大分絞れている。この場合の魔族とはダークエルフの他にオーガの上位種とかトロルの希少種などが良く言る連中を主力に考えている訳だが、獣人やらケンタウルスみたいな亜人種も当然ながら計算に入れている。実際に女獣人は見かけられているし、意外と素早い巨漢もオーガの上位種だと思えば概ね想像があっていたということになるだろう。

それらを明示した上で、具体的に数を絞る作戦に入るとしよう。

「破壊させるとは言うが、残っているのは上位の個体で切り札だろう!?」
「それも含めての話ですが……既に破壊されたゴーレムも作り直せますよ。お忘れかもしれませんが、俺はゴーレム創造魔法の使い手です。砦修復用の建材にしていない限りは早い段階で復帰させられますし、強くなくても良いならその辺の土くれでも構いません。囮と言う意味ならば、別に問題ないくらいです。まずは彼らに徒労を味わってもらいましょうか」
 戦闘用ゴーレムは戦闘の序盤に破壊され、作業用は砦の補強に使っている。
だから囮作戦で破壊させるのはジュガス2やソブレメンヌイだという考えも判らなくもない。もちろんソレも否定しないのだが、別にゴーレムとはパーツ作成の段階から製造して最後に組み上げる必要など無いのだ。関節がありガワを覆う装甲があった方が強いだけの話であり、土くれで構成されたクレイゴーレムでも閾値くらいまでは戦闘力を発揮するからな。逆に言えば関節やガワで覆わないと、騎士隊長と互角程度の能力しかないし頭も悪いのだが。

ともあれ、ここで重要なのは別にゴーレムを直せるという事ではない。

「敵部隊が強いとしても、全てを行えるほどではありません。今は一つの目標に見えますが、『オロシャ軍を撃破する』という目標と『魔族側の重要拠点を守る』という目標があります。連中だって物を食いますし、眠りもするでしょう。赤子だって守らなければならない。今はそういう後方拠点は見えませんが、こちらが翼を広げるように動けば相手もそれを邪魔しないと行けなくなります。その上で、彼らには『目先の目標』が必要なのです」
「おいおい、こちらも守りながら戦えるほどでは……いや、だから目先、か」
「判り易い目標を用意して、罠を仕掛けると? 出て来る必要性は……ふむ」
 敵指揮官にとって、手の中にある十数名というのは失ってはいけない駒だ。
戦闘力を維持するためにも、発言力を維持するためにも失う事は出来ない。魔将から付けられた者も居るだろう、弱小部族から預けられた強者も居るだろう。それらが一丸となって、この島を維持するために『一時的に協力している』だけに過ぎないのだ。それが人間よりも遊億手も、個人の集団である魔族側の欠点である。

そして、その発言力を維持し、自分のやり方が間違って居ないと思わせていくためには、敵も人間の様に目的をはっきりとしてから『俺はこの様に作戦を成功させた。だから従え』と言うほかないのである。

「仮に私が人間側の作戦を練るとしよう。一隊を率いて敵の食料補給地を焼き払いに行くとするが。そうすればどう出るかね?」
「儂が魔族か? まあ良いが、その場合は途中で迎撃するか、ここを叩きに出るな。できれば足止めは適当にして、ここを全力で落としたいものだ。しかし……そうだな、それはきっと叶わないだろうよ」
 クレメンス団長が俺の想定に乗ると、人間側の作戦を代弁してくれた。
当然だが今の士気で諸侯の中に、敵の本拠地を叩きに行きたいという者はいないだろう。ならば叩くとしたら相手が食料を採っている畑なり、それがないなら獣を森ごと焼き払うことになるだろう。仮に本拠地に十分な食料があるとしても、次の食料が無くなれば種族の意地など出来ないのだ。場合によってはオーガがゴブリンを食料とし、それから身を守るためにダークエルフ辺りの奴隷になるとかいう地獄が出来上がるだろう。

もう一人の団長が口にしたのは、そんな未来が見えた場合の魔族側の思考である。

「そうなるでしょうね。敵部隊の指揮官には『罠だと思うから迎撃はそこそこで良い。むしろ、人間側の砦や、できれば船を焼き払いたい』とは言えない筈です。言えば臆病者扱いされ、そして発言力はさらに低下します。本拠地の食料なら輸送できても、その策源地を焼き払われては困るという主張も嘘ではありませんから猶更です。判っていてもそうせざるを得ない、そこに限界があり、だからこそ小賢しい止りなのです」
「やれやれ。どうやら倒せると判ったのは良いが、逃がすと大変そうだ」
「それもあるが、有力者が死んでそいつだけが残った場合も同様だな」
 想定通りの人材である場合、やる事は人間と変わりがない。
部下を育てるのが得意な騎士団長が、政治力も長けていて有力な騎士や魔術師を引っ張って来れるようなものだ。部隊としては強いだろう、だがそれが出来るコネがあるということは、同時にしがらみにも縛られるということである。考えて動ける思考力が人間と同じならば、やらなければならない義務もまた人間と同じなのである。

だからこそ、想定される『魔族の指揮官』にはフリーハンドを与えるべきではないと思われた。

「問題なければこの方向で作戦を組みたいが?」
「意義はない。おそらく他の諸侯も同様だろうな」
(後方に回された指揮官じゃなくて、魔王の息子とかいうオチもないではないが……いや、その時は明確な戦略目標が出来て助かるだけだな。今は目の前の状況を良くしていくとしようか)
 騎士団長たちの会話をみながら俺はそれ以外の未来を想定しておく。
魔王の息子で魔王子とかお姫様が居たとしても、居残り組を指揮して突撃してこれはするだろう。だが、その場合は魔族としてはあまり強くない状態で、無理やりに血統と戦術眼で従わせている形になる。こちらが丁寧に罠にかけ、比較的に忠誠心のある部下たちが討ち取られれば後は同じである。ならば俺が考えることは、確実に今ある流れを維持する事であろう。

そしてこの後はイル・カナンの生き残りが頼んでも居ないのに合流して、食料や医療を求めるだけではなく、分け前を要求するという頭の痛い事態に襲われるのであった(もちろん俺が対応させられる)。
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