エンゲージ・マジック、約束の魔法【第一部完】

流水斎

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プロローグは、稀に良くある始まり

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「俺は死んだのか……?」

 ある時、俺は死亡した。事故だったような気もするが、災害だったかも?

ただそれを問う意味はなく、重要なのはここからだ。死んだ人間がこれからどうなるのか……。そう思った時のことだ。

『ええ。貴方は死にました。これから輪廻転生しますが、妾を助けてはくれませんか?』

「え? ……どなた様でしょう? 神さま……それとも妖怪」

『かつては神と呼ばれておりましたが、今ではどちらでもありますね』

 その時、何者かから声が掛かった。その姿は鳥にも獣にも見えた。

だが、はっきりと人の姿をしていると理解はできる。おそらくは鳥なり獣に自分の意思を伝えさせているのではないだろうか?

『妾の信仰は失われ、今では零落して妖怪と混同されております。そこで信仰を取り戻し、神としての力を取り戻したいと思うのですが……この世界では混同してしまっているがゆえに不可能。そこで、妾が関わる別の世界に赴き、妾の信仰を広めて欲しいのです』

 その存在の話を要約すると、こんな感じである。

実際にはもっと仰々しかった気はするし、もしかしたらテレパシーみたいなもので焼きつけられたのかもしれない。だが、重要なのはそこではない。

「女神さまが関与されている他の世界に赴いて布教する……と」

『ええ。この世界では失われて久しい信仰ですが、あちらではまだ残っております。川原譲二さん』

 俺は死んだのだが、異世界転生して見ないかと女神さまから依頼されたという事になる。

このまま死んでしまうよりも、異世界で暮らした方が良いのは確かだ。小さいころからの願いをこの世界で果たせないのは残念だが、死んでしまってはどうしようもないし、自分以上の存在が居ては活躍し難い業界だったのもある。昔の願いを明確に思い出した今となっては、なんで活躍にこだわったのか判らないほどだが。

「でも、なんで俺なんですか?」

他にも死んだ者が沢山いる中で、なぜ俺が選ばれたのかが疑問だった。

現地の技術レベルにも寄るが、確かに有用な技能を持ち合わせていないこともない。また勇者や賢者というような才能を持ち合わせているとも思えないのだ。それに対する回答は、実に悲しい現実であった。

『一言で言えば総合的な相性です。零落してしまった私の力では、協力者を送れる時間は限られます。その間に死んでいた人の中で、あちらの世界に近いルールを知って居おり、かつ発想が柔軟だったのが貴方だったという訳ですね』

「要するにゲームの知識があるとか、追加ルールを思いつくような?」

『そうなりますね』

 それは所要エネルギーの問題というお寒い内容で、援助も期待できまい

自分が身に着けた技術に着目された訳ではないと知って、実にガックリ来たのは覚えて居る。大人になってからは薄れてしまっていたが、『誰かに役に立ちたい』『困っている人を助けたい』という願いを子供の頃には持っていたのを思い出したからだ。悲しい話だが、神の視座からみれば俺の技術も意思も小さな事なのだろう。いや、それだけこの女神さまには余裕が無いという事か。

「残り時間が少ないとの事ですが、せめて特殊な内容があれば教えてください。ゲーム的なクラスとかスキルでは無く……」

『その世界には、たった一人と深く結びつく契約の魔法があります』

 余裕が無いらしいので、重要な事だけ聞いてことにした。

特に魔王とかが居る訳ではなく、零落した女神さまの信仰を広めに行けとの事だ。そこで『よくあるMMOゲームである』との仮定をした上で、大きな差異を聞いておくことにした。それを知って居るか居ないかで大きく考えが変わるからだ。特にこれから就くクラスや、得られるスキル・魔法なども大きく影響するだろう。

「結婚みたいなものですか? ゲームでも稀にある?」

『近いですが、対等な存在として扱うというべきですね』

 MMOゲームで偶に見る婚姻は、アイテムの共有だったりする。

それに近いが、対等な存在として扱うという事は何か? つまりアイテム管理権とは別に、『自分と同じようにパートナーに呪文を行使できる』という事ではないだろうか? ステータスバーをクリックしたら自分が回復したり、パートナーが回復するという訳だ。混戦でも間違えることはないし、場合によっては射程制限もパートナーに限っては存在しないかもしれない。タンク役に耐火魔法を掛けて足止めしている間に、ファイヤーボールとか悪戯も出来るだろう。

「もしかして……」

『ほぼ当たって居るとだけ。それと予想している様に特典などはありません。あなたの経験に応じたクラスに就く権利と、あちらのスキルや呪文を得られるだけですね』

 女神さまは俺の発想を観て、嬉しそうに笑ったような気がした。

自分の眼鏡が間違っていないという感じであり、それだけ追い詰められているのだろう。たかが人間ごときに感心するというよりは、己の判断が間違っていないという点を再確認したに等しい。それに関しては俺がガックリ来るが他に思う事はない。何しろ死んだ人間を他所の世界に送って新しい人生を送らせてくれるんだからな。ああ、そう考えるならば、他に候補者がいてもちゃんと言う事を聞く人間を選んだ……そこも含めて相性が良かったという事なのかもしれない。


(既存クラスとスキル・呪文だけか……。まあ、仕方ないな)

 転生作業に入っている中で俺は思案を始めた。

もう直ぐクラスや呪文・スキルなどを選べるようになるかもしれない。あるいは、転生先で神殿にでも行けば、最初だけは覚え易いのかもしれない。ただ『単に向こうで数十年生きて来た人間に変換されるだけ』かもしれないので、その辺は諦めて『こんなスキルや呪文が欲しい』と自分の将来設計を思い描いておくとしよう。

(必要なのは翻訳呪文と現地の常識スキル。次に現在持っている知識のスキルへの置き換え。そうだな……必要な機材も存在しないだろうし、そこも呪文で補えるようにすべきか。できればパートナーに合わせた呪文も欲しいが……)

 ゲームに近いようだが、ルールが分からないので簡単に分類。

転生先で一から言語を覚えるのは面倒だし、常識もそうだ。言語を呪文にしたのは膨大な知識になりそうなので、必要になった段階で翻訳呪文を地道に使う方が良いと判断した。常識はそれほど消費などは少ないと思うが、仮に鑑定呪文や叡智系知識呪文になるなら俺でも構わない。翻訳呪文と検索呪文があれば、それだけで世の中は渡れるだろう。そして俺が身に着けた技術も惜しいと言えば惜しい。攻撃魔法とかに興味が無いのもあるけどな。

(透視呪文、探知呪文。できれば遠視もあると良いか。それらを幻覚呪文・幻術呪文でパートナーと共有できれば大きいだろう。最低でもレンジャーに近い事が出来るし、戦争してなくとも軍隊なり文官務めで役に立つ可能性がある。紋章官は無理でも、読み書きや書写とか出来るだけでも大きいからな。

 ひとまず覚えるべき内容を、死ぬ前に就いていた職業を基準に考えた。

それが無理でも、中世で可能そうな職業を想起して代入してみる。剣や魔法で活躍など出来るとは思えないし、今思い描いている事ができれば、それだけでも十分に人の役には立てるからだ。

(おっ来た来た! クラスは八分類、メインスキルが五レベル以上で上級職。そこから上位クラスで、パートナーとの契約が重要になると……よし、自分が自分で居られる間にさっさとやってしまおう)

 俺は先に計画を描き、その通りに何度も考察することで対処して来た。

所詮は秀才止りで、どちらかと言えば器用貧乏。それが俺の評判であり、上に行って活躍できるような腕前は持っていないとされた。だが、今回みたいに雲を掴むような状況では向いていると確信している。青写真を描いてその通りに行動しつつ、現地で得られた情報に沿ってアドリブすれば良いからな。

(クラスは神官というか学者になるのか? 上級職でエージェントっと。呪文はトランスランゲージにテレスコープに……よし、行けそうだな。余ったら補助呪文を取るなりアイテムボックスでも目指せばいい)

 女神さまから残り時間のアナウンスが入る中、俺は淡々と決めた。

どうやら習熟系で繰り返して経験を積み上げ、より上位のスキルや呪文を得ていくタイプらしい。実際に神様がいる世界だからか、神聖魔法という者が存在せず、既存の魔法の中にそれっぽいのが含まれているというのも幸いした。何しろ『女神さまの使い』という証明するスキル・呪文が無いという事だからな。どうせ信じてもらえないならばと、知識系呪文が揃って居る呪文体形を必要レベルまで、上位スキルを取得してから幻覚系や探知系とか残りを埋めていったのである。

(しかし……どう考えても冒険者とか勇者とかじゃないよな)

 もう直ぐ転生と言うタイミングで改めて見返してみる。

スキルを含めて目標通りのビルドに成功した。だが、どう見てもゲームでよく見る様な能力ではないのだ。NPCならば依頼者として居るかもしれない。そんな感じの能力であった。後はせめて、現地で詐欺師やスパイと疑われない様に行動しよう。この時ばかりは、本当にそう思っていたのだ。

前世での生活が必要だからと流されていったように、現地での冒険の日々で、やはり流されていくことになる。だが、それでもしたいことがあるからこそ、俺は転生したのだ。頑張って可能な範囲でやり遂げようじゃないか。
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