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史上初の女性剣闘士を目指して、頑張ります!

特別な一戦

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 予選会での対戦の組み合わせは、開催当日にくじ引きで決定します。そのため、予選会の選手は開催日には全員が剣闘場に集結しなければなりません。くじ引きで自分が選ばれなかった場合は、その日一日が徒労になってしまうこともしばしば。

 わたくしは王宮から係員と共に剣闘場へ向かいますので、他のどの選手より先に到着しています。開場前ですからね。不思議なことに、熱心な観客の皆様はそのわたくし共よりも早くから玄関前に集まって開場を待っていたりします。

「よっ。お早いじゃねぇの、お姉さん!」

 自分が年下だと知ったからと、さっそくこのような声掛けを、それも人前であてつけのようにしてくるのです。本当にシホって意地悪で、どうしてわたくしはこのような人に恋してしまったのでしょうね?

「今日は本戦の試合はないというのに、あなたは剣闘場に何のご用事?」

「んなもん、将来の好敵手の皆さんの研究のために観戦してるに決まってんだろ。知らなかったか? オレが毎回、こうやって観戦してるの」

「……そうね。知らなかったわ」

 試合場はとても広く、観客席までは遠い上にお客さんもたくさんいらっしゃいます。どんなに視力が良くたって特定の個人がいるのを見つけるのは難しいです。それに、試合の際のわたくしには、そのようなことを気にしている余裕は全くありませんでした。

「レナが試合に出るようになって、もう一年経つのか。あっという間だよなぁ」

 その一年の間に、わたくしは一度も勝利していません。シホが、予選会……剣闘場の試合を元気に観戦出来るのは、あと二年間という限りがあります。

「一度だけでもいい。あなたがこうしていられる間に、いつか。わたくしが勝つ姿をあなたに見せたい」

「いつかと言わず今日見せてもらえたら話が早えし、一度と言わず何度でも見たいところだけどな」

「もしも、わたくしが今日の試合で勝てたなら。あなたは惚れ直してくれる?」



「そりゃあな。試合に出る以前にくじ引きっつう『勝負運』にも勝たなきゃいけねえわけだから。その上試合でも勝つなんて運命に愛され過ぎてて、さすがにオレも白旗をあげるしかねえってもんだよな」


 今までのわたくしにとっては「その日、自分の出番があるか否か」以外の意味のなかったくじ引きが、今日に限っては運命を決める大事なものになってしまいました。必死でお祈りした結果、どうにかその関門を通り抜けることは出来たのですが……。


「アハハハ、やぁっとこの日が巡ってきたかぁ。いつかあんたと戦える日を楽しみにしてたんだぜ? レナ・グランティス様よぉ!」

 よりにもよって、この人……ポーラ・メイディッチ。予選会参加者の中で、最も卑劣な性根の男が、本日のわたくしの対戦相手でした。
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