88 / 111
あなたとの時間は、全てが宝物のようでした。
グランティスの宝
しおりを挟む
「へい、らっしゃーっせー! おう、シホりんじゃねえの……おおう!?」
「どうしたんよ、お父ちゃん……あっらー!? レナ様じゃねえの!」
「えっ、なになに? わぁー、ほんとだぁ!」
あの部屋の窓からは、広場を囲む何軒もの飲食店が見えます。その内の一軒のお店の味と接客の雰囲気をシホはとても気に入っていて、特に事情もなければ毎食でもそちらでいただいていたのだそうです。
わたくしは顔を隠してシホの部屋に通っていましたし、食事も王宮で済ませた夜分のことでした。お話はうかがっていましたが、ふたりで共にそのお店を訪れたのは今夜が初めてで……そしてこれが、最後になってしまうのでした。
今夜はわたくしは平服で、顔を隠さずにシホと腕を組んでお店に入りました。最初に気付いた店主の男性とその奥方、店内のお客様がわたくしを見て驚愕の声を上げています。わたくしとシホの密着具合に気付くと、ひゅーひゅーと店内のあちらこちらから口笛を吹いて囃し立てる音が聞こえてきます。
「なんだよシホり~ん、いつの間にやらレナ様と仲良しになっちまって。隅に置けねえじゃんかぁ~」
「レナ様も今となっては、剣闘場の戦士ですもんねぇ。お姫様といったって、現役剣闘士とお近づきになることもあるでしょうよ」
「ねえねえ、レナさまぁ。だっこしてぇ」
「これ、おやめなさい! あつかましい!」
後で、店主夫妻のお孫さんであると紹介されました。四歳くらいの女の子がわたくしの足にぎゅっと抱きついて、甘えてきました。とてもかわいらしくて、このように接していただけて嬉しかったのですが。
「ごめんなさい。わたくしのお腹の中にはね、シホの子供が育っているところなの。だから今は、重たいものを持ち上げられなくて」
「そうなの? あたいのかあちゃんのなかにもね、さいきん、あかちゃんがすむようになったんだって。レナさまとおそろいなんてすごいね~」
えっへん! と胸を張る女の子の頭を撫でてあげたら、お返しとばかりに彼女はわたくしのお腹を小さな手のひらで撫でました。
「まあ……レナ様、そうなんですか? 良かったねえ、シホりん」
「あ……ああ、まあ。オレの故郷じゃあ、王族が庶民の男となんて、とんでもねえ話なんだが。この国じゃあよくあることなんだってな?」
「そりゃあそうさ! 強い人間は、グランティスの宝だからな!」
「そうですよ。わたくしは、自分で決めて、シホとの子を残したいと決めたのです。絶対に絶対に、無事に生まれますように。皆様もきっと、シホのためにお祈りしてくださいますよ」
「どうしたんよ、お父ちゃん……あっらー!? レナ様じゃねえの!」
「えっ、なになに? わぁー、ほんとだぁ!」
あの部屋の窓からは、広場を囲む何軒もの飲食店が見えます。その内の一軒のお店の味と接客の雰囲気をシホはとても気に入っていて、特に事情もなければ毎食でもそちらでいただいていたのだそうです。
わたくしは顔を隠してシホの部屋に通っていましたし、食事も王宮で済ませた夜分のことでした。お話はうかがっていましたが、ふたりで共にそのお店を訪れたのは今夜が初めてで……そしてこれが、最後になってしまうのでした。
今夜はわたくしは平服で、顔を隠さずにシホと腕を組んでお店に入りました。最初に気付いた店主の男性とその奥方、店内のお客様がわたくしを見て驚愕の声を上げています。わたくしとシホの密着具合に気付くと、ひゅーひゅーと店内のあちらこちらから口笛を吹いて囃し立てる音が聞こえてきます。
「なんだよシホり~ん、いつの間にやらレナ様と仲良しになっちまって。隅に置けねえじゃんかぁ~」
「レナ様も今となっては、剣闘場の戦士ですもんねぇ。お姫様といったって、現役剣闘士とお近づきになることもあるでしょうよ」
「ねえねえ、レナさまぁ。だっこしてぇ」
「これ、おやめなさい! あつかましい!」
後で、店主夫妻のお孫さんであると紹介されました。四歳くらいの女の子がわたくしの足にぎゅっと抱きついて、甘えてきました。とてもかわいらしくて、このように接していただけて嬉しかったのですが。
「ごめんなさい。わたくしのお腹の中にはね、シホの子供が育っているところなの。だから今は、重たいものを持ち上げられなくて」
「そうなの? あたいのかあちゃんのなかにもね、さいきん、あかちゃんがすむようになったんだって。レナさまとおそろいなんてすごいね~」
えっへん! と胸を張る女の子の頭を撫でてあげたら、お返しとばかりに彼女はわたくしのお腹を小さな手のひらで撫でました。
「まあ……レナ様、そうなんですか? 良かったねえ、シホりん」
「あ……ああ、まあ。オレの故郷じゃあ、王族が庶民の男となんて、とんでもねえ話なんだが。この国じゃあよくあることなんだってな?」
「そりゃあそうさ! 強い人間は、グランティスの宝だからな!」
「そうですよ。わたくしは、自分で決めて、シホとの子を残したいと決めたのです。絶対に絶対に、無事に生まれますように。皆様もきっと、シホのためにお祈りしてくださいますよ」
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる