江ノ島の小さな人形師

sohko3

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いつか静寂だった島

開店準備

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「見て見て、葉織くん! 
ちょっと高かったけど、奮発して買っちゃった~!」

 羽香奈がご機嫌で取り出したのは、額縁だった。

 L版サイズの写真が四枚まで並べて飾れる正方形の額と、賞状サイズの額の二種類だ。

 潮崎家にはカメラがなく、知り合いに撮って贈られた数限られたいくつかの写真しか手持ちにない。

 だからこそそのほんの数枚が、羽香奈にとっては宝物のようだった。

 もう十年以上も前になるが、押入れの奥深くにしまわれていた葉織の幼少期の写真を、半蔵に出してもらった。

 現像した写真屋のサービスで貰える、紙表紙にぺらぺらのビニールで区分けした薄いアルバムに収まっていた。

 二十四枚しか入らないアルバムだというのに全ページ埋まってすらいない。

「成人の時に撮ってもらったおばあちゃん達との写真も飾りたいけど、せっかく綺麗に台紙に入ってるんだし、そのままの方が良いと思って。
小さい写真だけ入るのを買ってきたの」

 ハツは昨年亡くなっていた。

 成人の写真撮影の時も、もう長時間歩くことは難しく、写真屋の店主が江ノ島大橋までは車で迎えに来てくれた。

 体の無理を押しても最後に思い出作りに協力してくれたハツに、葉織も羽香奈も深く感謝している。

 中学入学の時に芭苗の父に撮ってもらった入学式の写真と、幼い頃の葉織の写真の中から羽香奈が厳選に厳選して、お気に入りを三枚。

 赤ちゃんの葉織の顔だけを撮ったもの。

 それよりやや成長して、波雪や半蔵、ハツと一緒に写っているもの。

 その四枚に決めて無事に額縁に納めたところで。

「ねえ葉織くん、せっかくだからこれもお店に飾ってもいい?」

「ええ~……
自分達の写真飾るなんて、ちょっと恥ずかしくない? 
そんなの飾ってるお店あるかなぁ」

「そんなことないよ。
前の店主さんとか自分の子供の写真飾ってるお店なんて、けっこうあると思う。
ねえ、おじいちゃん!」

「そうだなぁ。
先祖代々の写真を天井に飾ってる店なんて珍しいもんでもない。
よく見るよ」

 部屋の隅で彼らを見守っていた半蔵に同意まで求めておきながら、「でも葉織くんが嫌ならこれは私達の部屋に飾るね」と羽香奈はあっさり引き下がってしまった。

「でもね、こっちは絶対お店に飾ろうと思って、大きい額を買ってきたんだ~」

 賞状サイズの額に羽香奈が飾ったのは、小学六年生の自由研究で葉織と羽香奈が共同で描いた、江ノ島の絵だった。

「そうだね。こっちは店に飾ってもいいかも」

「やったぁ。どこに飾ろうかな~」
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