ポンコツ女子は異世界で甘やかされる

三ツ矢美咲

文字の大きさ
10 / 121
第2章

彩芽、巨人に乗る

しおりを挟む
「ねぇ、そう言えば火ある?」
 彩芽の唐突な言葉に、ストラディゴスは我に帰る。

「火ぃ? 何するんだ?」
「タバコ」
「その辺のランタンので、いいか?」
「なんでもいいよ」

 そんなやり取りをすると、彩芽を一度地面に下ろし、ストラディゴスは密かに目を腕で拭ってから、その辺の建物の玄関を上から照らしていたランタンを一つ、勝手に持ってくる。
 ランタンの蓋を開け、彩芽はようやくタバコに火をつける事が出来た。

「ふぅ」

 独特の煙の臭いが周囲を包み込む。
 ストラディゴスがランタンを元に戻すのを見ながら、彩芽はこんな事を言う。

「ねぇ、背高いと、どんなふうに見えるの?」
「ん? 肩にでも乗ってみるか?」
「いいの?」
「いいから、ほら」

 ストラディゴスが姿勢を低くして大きな手に乗れと差し出す。

 彩芽はサンダルを脱ぐと、サンダルを片手で持って、裸足になってから手の上にフラフラと乗った。
 ストラディゴスは、彩芽を片手で軽々と持ち上げ、自分の肩に乗せる。

「立つぞ」
 彩芽はグラリとバランスを崩しかけるが、ストラディゴスの手で支えられる。

「頭につかまれ」
「待って、体勢を変えるからさ、一度肩の上に立つよ?」
 彩芽は、思っていたより座り心地があまり良くないと、フラフラの足で肩の上に立ち上がる。

「変えるって、おいそんなところで立つと危ないぞ」
 ストラディゴスが落とすまいと手で支えるが、彩芽はお構いなしに勝手に動く。

「平気平気」
 そう言って、ストラディゴスに肩車をされる形に座りなおした。

 彩芽の足をストラディゴスの太い首の横に放り出し、大きな頭を抱え込む。
 後ろで縛っているストラディゴスの髪の毛がくすぐったくて彩芽は髪の毛のポジションを横にそらし、頭髪の編み上げを持ちての様にして掴んだ。
 当然、ストラディゴスの頭の上には、柔らかい豊満な胸がたぷんと二つ乗っている。

「あはははは、高い高い!」

 そう言って彩芽はストラディゴスの後頭部に抱き着いている。
 例のごとく、完全に酔っぱらいの悪ふざけ。
 だが、ストラディゴスの方はと言うとすっかり酔いが醒め、視界の端をブラブラとちらつく足を大きな手でやさしく押さえた。

 その時、独特な匂いがした。
 鼻の奥、脳を直接刺激する甘い蜜の様に感じる何か。
 恐らく、彩芽の体臭だろう。
 一度、その匂いに気付くと、頭の奥が痺れ、くらくらしてくる。

 落とすまいとする以外の意味で、ストラディゴスは、段々と前傾姿勢になりつつあった。
 理性で本能を押さえつけ、紳士であろうと努めるのだが、昼間に何度も発散したというのに見た事も無い程に大きく育った欲望が解き放たれるのをうかがっているのが分かり、ストラディゴスはヤバいと呼吸を整える。

「ふぅ、ふぅ、ふぅ、って、おい、あまり暴れるな!」

 頭部を後ろから包み込む柔らかい感触と匂いに、すぐにでも彩芽の事を部屋に連れ込んで獣の様に襲いたい衝動に駆られる。
 だが、そんな事は絶対にしたくないと、自分の中に強力な抵抗感がある事も同時に分かった。

「タバコ」
 そんなストラディゴスの気持ちなんて知った事ではない酔っぱらいは、ポツリとつぶやく。

「ふぅ、ふぅ……な、なんだ?」
「ストラディゴスさんさ、タバコ、吸う?」
「……まあ、時々は」
「ち~が~う。このタバコ、吸ってみる?」

「……なんだ、いいのか?」
「だって、私以外に味を知ってる人いないとさ、この国で似たタバコ手に入らないじゃない」
「なんだそれ」

 彩芽は自分の口に咥えていたタバコを、ストラディゴスの口に咥えさせた。

 ストラディゴスは、吸い口のフィルターの僅かな湿り気にドキドキしている自分に気付く。
 唇を重ねる事が叶うのなら、こんな味なのでは無いかと想像してストラディゴスが震える唇で軽く煙を口内に吸い込むと、タバコが一瞬で灰になった。

「なんだこれ?」

 タバコの葉の中に、何か香りのする別の草が入っているような、混ぜ物を感じた。
 ストラディゴスが普段吸う事がある煙草は、どちらかと言えば葉巻に近い口内で味を楽しむものだった。
 さらに、煙草の葉をブレンドする文化も無い為、まるで新しい感覚であった。

 その混ぜてある草の香りのせいか、肺に吸い込んでしまった煙によって少し気管が広がって感じ、呼吸が楽になる気がした。

「返して~ああぁ、燃え尽きてるぅ」

 彩芽は灰になったタバコをストラディゴスの口から奪い取ると、律義にポケットにあった携帯灰皿に入れ、すぐにまた灰皿をポケットに突っ込んだ。

「んもぅ、吸い過ぎだって」
「すまん」
「えへへ、許す。で、どう? 似たの知ってる?」
「いや。だが、市場で手に入る煙草や薬草を混ぜれば近くなると思う」

 ストラディゴスは、普段吸っている葉煙草の種類を変えようと静かに決めた。

「あははは、ねえねえ、足早い?」
「なに? なんだって? 市場にでも行くのか? もう閉じてるぞ」
「ちがうってぇ、お城まで競争だよ! ほら、走って! 早くぅ!」

 ストラディゴスは頭を痛くない強さでポンポン叩かれ、いよいよ訳も分からないまま言われるままに城に向かって走り出した。

 城は、ベルゼルの酒場から高台の方にのぼり、高級娼館ブルローネよりも高い場所、商業都市ネヴェルで最も高い丘の上にある。
 酒場を出てからずっと向かっている場所で間違いないのだが、彩芽がノリだけで城をゴールに指定した事はストラディゴスにも、もう分かっていた。
 何と競争させられているのかは分からないが、ストラディゴスは彩芽に言われるままに道を進む。

 本当になんだかよく分からないが、とにかく楽しくなってきた。

 深夜にバカ騒ぎをする謎のテンションで、ストラディゴスの走るスピードが、緩い上り坂なのに段々と早くなる。
 彩芽のナビが適当なので度々道が無くなるが、低い柵や塀ならば肩車したまま軽々と飛び越え、ぐんぐんと城が近づいてくる。

「すごいすごい!」
 彩芽は、目まぐるしく変わる景色を見て嬉しそうにはしゃいでいる。
 街には東京の様な光害が殆ど無いせいか、空を見上げると満天の星空が広がっていた。

「ははははは!」

 楽しむ声を聞いていると、もっと何かをしたくなる。
 とにかく肩車で乗せている酔っぱらいの、色々な反応を、表情を見たい。

「ストラディゴス! あそこ!」

 彩芽が指さした先は、城の外れにある現役の見張り塔だった。
 気が付けば呼び捨てになっている事に気付くと、ストラディゴスは完全に逆らい方と言う物を忘れていた。

「あのてっぺんがゴール!」

 だと思ったとストラディゴスは、見張り塔に向かって走る。
 馬鹿らしいが、ゴールと言われたらしょうがない。
 この時間だと、誰かが当直で見張りをしている筈だが、今のテンションでそんな事は関係無い。

 監視の兵士が上官であるストラディゴスが肩に女を乗せて走ってくる姿を見て、何事かと慌てるが、ストラディゴスは入り口にいた兵士達の横を「ごくろう」の一言ですり抜け、彩芽を肩車したまま塔の内壁に張り付く螺旋階段を猛スピードで頂上まで一気に駆け上がった。

 頂上の監視室のさらに上、屋上、と言うよりは普段誰もあがらない屋根の上にまで出ていくと、屋根の先端まで駆け上がり、最も高い場所、尖塔にタッチした。



「「ゴール!」」

 二人同時に、ゴールを宣言し、二人共にぜえぜえと息を切らす。

 頭につかまっていただけの彩芽だが、手足と背中の筋肉が悲鳴を上げて疲れ切り、痺れているのを感じた。
 二人とも全身に滝の様な汗をかき、バカバカしいが謎の達成感があった。

 塔の頂上は、強い風が吹いていて、寒いぐらいで、今の体には丁度良く気持ちいい。

「競争は、ぜぇぜぇ、勝ったのか?」
「これは、ぜぇぜぇ、勝ちでしょ!」

 二人とも全然意味が分からなかった。

「ぜぇぜぇ、あっ……」
「ぜぇ、どうした!?」
「猫缶落とした」

 途中まで持っていた猫缶だが、いつの間にか手の中に無い。

「……それ、ぜぇ、拾った方が、ぜぇ、良い物なのか?」
「ううん、ぜぇ、もう、ぜぇ、いらない」
「ぜぇぜぇ、そうか……」
「ぜぇぜぇ、うん」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。 時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま! 「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」 ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは―― 公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!? おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。 「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」 精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”

どたぬき
ファンタジー
 ある日乗っていた飛行機が事故にあり、死んだはずの井原は名もない世界に神によって召喚された。現代を生きていた井原は、そこで神に”ダンジョンマスター”になって欲しいと懇願された。自身も建物を建てたい思いもあり、二つ返事で頷いた…。そんなダンジョンマスターの”はじまお”本編とは全くテイストの違う”普通のダンジョンマスター物”です。タグは書いていくうちに足していきます。  なろうさんに、これの本編である”はじまりのまおう”があります。そちらも一緒にご覧ください。こちらもあちらも、一日一話を目標に書いています。

処理中です...