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第6章
彩芽、帰還する
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テレティに着替えを渡され、彩芽が着替えると、アスミィ達と同じデザインの服である事に気が付く。
囚人服を渡されるよりはマシだが、敵のおそろいの制服を着せるのもどうかと思った。
ニーソックスにホットパンツにチューブトップ。
その上にジャケットと、この上なくカジュアルな軽装で、この世界の服の中では、一番性に合っている。
監禁されて数日、食事は一日二食出るし、アスミィが頻繁に遊びに来るので、そこまで大きな不自由は無い。
ただ、本当に帰してもらえるのか不安になるが、脱出の手立ては相変わらず思い浮かばない。
この様な状況になると、元の世界に戻りたい以前に、元いた街に戻りたい衝動の方が強くなる。
二日しかいなかった街でも、知り合いが出来れば第二の故郷になるのかと、彩芽は妙に納得する。
コッコッと、扉がノックされた。
「はい、どうぞ」
部屋にやって来たのは、アスミィでもハルコスでも無く、竜人のフィリシスであった。
「なぁ、散歩に行かないか?」
「え? 外に出ても良いんですか?」
「船の上だぞ。逃げられないだろ?」
「まあ、そうですけど」
「その服、似合ってんじゃん。行くぞ」
フィリシスとの気まずい散歩。
ストラディゴスの話では、元カノであり、浮気がバレた時にストラディゴスを本気で殺そうとした相手の一人である。
その筈だが、少し会話をして分かったのは、男言葉、と言うよりはヤンチャな少年の様な喋りで、壁を感じずに喋りやすい事だ。
「あの、急にどうして散歩を?」
「あんな所にずっといたら身体がなまるだろ。それに、ハルから聞いたけどよ、お前、領主とディーのお気に入りらしいじゃんか」
「ただの友達です」
「ディーに女友達なんて一人もいねぇよ。それより、お前さ、私達の仲間になる気は無いか?」
「無いです」
「即答かよ。ネヴェルに肩入れしてるからか?」
「いいえ。友達がいるからです」
「へぇ、でもよ、そのお友達のいるネヴェルは、もうすぐ落ちるぜ」
「戦争、するんですか」
「戦争? すぐに始まるだろうな。でも、ネヴェルを落とすのは、お前だよ。それからな、戦争はすぐに終わる」
「それは、どういう事ですか」
* * *
「アヤメ殿、あの時助けられなかった事をお詫びしたい」
「ストラディゴスさん、頭をあげて下さい。ほら、私は大丈夫ですから」
ネヴェルの城の中庭、無事に戻った彩芽を前に、ストラディゴスは膝をつき、首を垂れた。
エルムの話では、脅迫状の場所へ行くと、そこには一人オルデンを待つ彩芽の姿があったと言う。
オルデンが手紙の指示通り一人で近づくと、周囲に潜んでいた傀儡人形の兵士が二人を取り囲み、オルデンを拘束しようとした。
すぐに、エルムと、ネヴェル騎士団の騎兵隊が駆け付け、二人を確保する事に成功する。
すると、傀儡人形を操っていたらしき人影がアスミィの時と同じ様に、高圧縮ガスで一気に膨らむ風船を使って空に逃げ延び、それ以上追う事は出来なかった。
人質になっていた彩芽を助け出した騎士団は、無理な深追いはせず、今朝方、城に凱旋したと言う事である。
無事に戻った彩芽によって、誘拐事件の首謀者がカトラス王国のズヴェズダー国王と判明し、ネヴェル城内は、今までの戦争は東で行われている事と言う、どこか対岸の火事だった雰囲気が、一気に戦争推進のムードで染まっていく。
わざと宣戦布告と開戦時期を指定して、油断した隙をついてのネヴェル領主誘拐計画。
卑怯な敵国へのヘイトは高まり、温和なオルデンでさえ彩芽を誘拐した事への報復が必要だと考え始めていた。
* * *
ストラディゴスは鎧で身を包むと、最後になるかもと思いながら、見張り塔へと向かった。
その場所は、ストラディゴスにとっては、洗礼を受けた教会の様に、特別な場所と化していた。
それは一つのゴールであり、同時に新たな始まりの場所でもあった。
見張り塔の頂上で、彩芽と共に見た景色を思い出す。
フィリシス達がカトラスの手先となって敵対するなら、戦わなければならない。
戦いの末、殺さなければならない様な事になるとしても、手を下すのは自分の手でやるべきだ。
その先は、罪を背負って生きなければならないが、どんなに重くても一人で背負うべき物。
幸せになる権利は、無自覚にも自分で捨てたのだ。
ストラディゴスも戦う覚悟を決めていた。
しかし、その覚悟は他の者達とは違う物であった。
アスミィは、あの時の続きだと言っていた。
切り捨ててしまいたい過去だが、過去は今更変えられないし、消す事も出来ない。
ストラディゴスが憎くて四人が敵国についたのなら、その責任を負うべきはストラディゴス以外にありえまい。
同時に、責任を果たせる者も、ストラディゴス以外にいる筈がないのだ。
* * *
彩芽と、最後に一度で良いから、話をしたいと思った。
どこまでも意志の弱い奴めと自分に思いながらも、ストラディゴスは彩芽の部屋を訪ねる。
しかし、部屋には誰もおらず、返事が無い。
オルデンの所にいるのかと思い、足を運ぶ。
すると、彩芽がオルデンの部屋から、丁度出て来た。
「アヤメ殿」
「どうしたのストラディゴスさん」
何を話せば良いのか、わからない。
ただ、声を聞きたかった。
何か話題は無いかと考え、あの日の夜を思い出す。
「時間は……ありますか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「約束を、果たさせて欲しい」
「約束?」
「あなたに、煙草を送りたい」
囚人服を渡されるよりはマシだが、敵のおそろいの制服を着せるのもどうかと思った。
ニーソックスにホットパンツにチューブトップ。
その上にジャケットと、この上なくカジュアルな軽装で、この世界の服の中では、一番性に合っている。
監禁されて数日、食事は一日二食出るし、アスミィが頻繁に遊びに来るので、そこまで大きな不自由は無い。
ただ、本当に帰してもらえるのか不安になるが、脱出の手立ては相変わらず思い浮かばない。
この様な状況になると、元の世界に戻りたい以前に、元いた街に戻りたい衝動の方が強くなる。
二日しかいなかった街でも、知り合いが出来れば第二の故郷になるのかと、彩芽は妙に納得する。
コッコッと、扉がノックされた。
「はい、どうぞ」
部屋にやって来たのは、アスミィでもハルコスでも無く、竜人のフィリシスであった。
「なぁ、散歩に行かないか?」
「え? 外に出ても良いんですか?」
「船の上だぞ。逃げられないだろ?」
「まあ、そうですけど」
「その服、似合ってんじゃん。行くぞ」
フィリシスとの気まずい散歩。
ストラディゴスの話では、元カノであり、浮気がバレた時にストラディゴスを本気で殺そうとした相手の一人である。
その筈だが、少し会話をして分かったのは、男言葉、と言うよりはヤンチャな少年の様な喋りで、壁を感じずに喋りやすい事だ。
「あの、急にどうして散歩を?」
「あんな所にずっといたら身体がなまるだろ。それに、ハルから聞いたけどよ、お前、領主とディーのお気に入りらしいじゃんか」
「ただの友達です」
「ディーに女友達なんて一人もいねぇよ。それより、お前さ、私達の仲間になる気は無いか?」
「無いです」
「即答かよ。ネヴェルに肩入れしてるからか?」
「いいえ。友達がいるからです」
「へぇ、でもよ、そのお友達のいるネヴェルは、もうすぐ落ちるぜ」
「戦争、するんですか」
「戦争? すぐに始まるだろうな。でも、ネヴェルを落とすのは、お前だよ。それからな、戦争はすぐに終わる」
「それは、どういう事ですか」
* * *
「アヤメ殿、あの時助けられなかった事をお詫びしたい」
「ストラディゴスさん、頭をあげて下さい。ほら、私は大丈夫ですから」
ネヴェルの城の中庭、無事に戻った彩芽を前に、ストラディゴスは膝をつき、首を垂れた。
エルムの話では、脅迫状の場所へ行くと、そこには一人オルデンを待つ彩芽の姿があったと言う。
オルデンが手紙の指示通り一人で近づくと、周囲に潜んでいた傀儡人形の兵士が二人を取り囲み、オルデンを拘束しようとした。
すぐに、エルムと、ネヴェル騎士団の騎兵隊が駆け付け、二人を確保する事に成功する。
すると、傀儡人形を操っていたらしき人影がアスミィの時と同じ様に、高圧縮ガスで一気に膨らむ風船を使って空に逃げ延び、それ以上追う事は出来なかった。
人質になっていた彩芽を助け出した騎士団は、無理な深追いはせず、今朝方、城に凱旋したと言う事である。
無事に戻った彩芽によって、誘拐事件の首謀者がカトラス王国のズヴェズダー国王と判明し、ネヴェル城内は、今までの戦争は東で行われている事と言う、どこか対岸の火事だった雰囲気が、一気に戦争推進のムードで染まっていく。
わざと宣戦布告と開戦時期を指定して、油断した隙をついてのネヴェル領主誘拐計画。
卑怯な敵国へのヘイトは高まり、温和なオルデンでさえ彩芽を誘拐した事への報復が必要だと考え始めていた。
* * *
ストラディゴスは鎧で身を包むと、最後になるかもと思いながら、見張り塔へと向かった。
その場所は、ストラディゴスにとっては、洗礼を受けた教会の様に、特別な場所と化していた。
それは一つのゴールであり、同時に新たな始まりの場所でもあった。
見張り塔の頂上で、彩芽と共に見た景色を思い出す。
フィリシス達がカトラスの手先となって敵対するなら、戦わなければならない。
戦いの末、殺さなければならない様な事になるとしても、手を下すのは自分の手でやるべきだ。
その先は、罪を背負って生きなければならないが、どんなに重くても一人で背負うべき物。
幸せになる権利は、無自覚にも自分で捨てたのだ。
ストラディゴスも戦う覚悟を決めていた。
しかし、その覚悟は他の者達とは違う物であった。
アスミィは、あの時の続きだと言っていた。
切り捨ててしまいたい過去だが、過去は今更変えられないし、消す事も出来ない。
ストラディゴスが憎くて四人が敵国についたのなら、その責任を負うべきはストラディゴス以外にありえまい。
同時に、責任を果たせる者も、ストラディゴス以外にいる筈がないのだ。
* * *
彩芽と、最後に一度で良いから、話をしたいと思った。
どこまでも意志の弱い奴めと自分に思いながらも、ストラディゴスは彩芽の部屋を訪ねる。
しかし、部屋には誰もおらず、返事が無い。
オルデンの所にいるのかと思い、足を運ぶ。
すると、彩芽がオルデンの部屋から、丁度出て来た。
「アヤメ殿」
「どうしたのストラディゴスさん」
何を話せば良いのか、わからない。
ただ、声を聞きたかった。
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