ポンコツ女子は異世界で甘やかされる

三ツ矢美咲

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第24章

彩芽、船に乗る2

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 ようやく吐ききり、違和感を感じながらも復活した彩芽は、二人に質問した。

「ねぇ、今この船ってどの辺まで来てるの?」
 彩芽は塩水で口をゆすぎ、海にペッと吐く。

「うん? ああ、大体半分ってところだろ」

「半分って、モルブスから半分? アフティラから?」

「アフティラ? ……いや、モルブスからだろ」

「そっか、まだ全然進んでないんだね」

「そうか? やっと半分って感じだけどな」

「そう、ですよ、アヤメさん、いつも、みたいに、前向きに!」
 ルカラは甲板の上で、剣を持たずにエドワルドに習った型のステップを踏みながら、楽しそうに言った。

「ルカラの言う通りだ。のんびり行こうぜ」
 ストラディゴスはルカラに同意し、彩芽の頭を撫でた。
 彩芽は、別に後ろ向きな事を言ったつもりはなく、微妙に釈然としない。



「そうだ、イラグニエフと、タンブル侯爵達は?」

「誰だ? 船で友達でも作ったのか?」

「え? ストラディゴス何言ってるの? 魔法使いの卵のイラグニエフと、バトラさんと、その旦那さんの」

「うん? そのイラなんたら何て奴も侯爵も、俺は知らないぞ。ルカラは知ってるのか?」

「いえ……私も船にはお二人以外に知ってる人はいませんよ」

「アヤメ、まだ寝ぼけているのか?」



 彩芽が、いよいよ狐につままれた様な顔をしていると、甲板の上の船員達がガヤガヤと騒ぎ出した。

「アフティラの港が見えたぞ!」

 彩芽は、デジャヴと言う表現では表し切れない強烈な既視感に、船酔いでは無い眩暈を覚えた。

「アヤメ……よくこんな小さな港町の名前知ってたな」
 ストラディゴスが、彩芽に感心している一方、彩芽は夢でも見ているのかと自分の頬を強めにつねった。

「ストラディゴス、船って引き返したりした?」

「え? いや、してないと思うが、どうした?」

「う~ん……夢でも、見てるのかな?」

「どうしたんですか?」

「アヤメ、顔色が悪いぞ」

「私、多分、すごいデジャヴの中にいるんだけど、二人は?」

「デジャヴ?」
「アヤメさん、デジャヴって何ですか?」

 ストラディゴスとルカラが彩芽に言葉が分からずに聞き返す。

「前にも似た事があったみたいな、そんな感覚って言うのかな……」



 * * *



 アフティラに到着した三人は、上陸すると揺れない足元を嬉しそうに踏みしめた。

「着いた~」

「さて、どうするかな。こんな町に、海以外何かある様にも見えないし、とりあえず……」

「とりあえず……お腹に何か入れよ」

「あんまり食い過ぎるなよ。また、すぐ船に乗るんだ」

「う、うん……」
 彩芽は、船が出る事を祈りながら言った。

「アヤメさんは、なんであんな無茶な事をしたんですか?」

「私の国では、刺身とかカルパッチョって普通だったからさ。この国にもあるよ」

「へぇ、食べ物の事となると詳しいな……でも腹壊したって事は、きっと食べられる種類の魚じゃなかったか、傷んでたんだろうな。気を付けてくれよ」

「うん、分かってる」



 三人は、島に唯一ある寂れた酒場に足を踏み入れる。

 相変わらずメニューは日替わり料理しか無く、ストラディゴスが頼むと三人ともバラバラの焼き魚が出て来た。
 食べる魚肉量は魚の匹数で調節されているが、明らかに魚の種類が違う。

「どうしますか……」

 ルカラが二人に聞いた。

「ルカラのお皿と、交換しても良い?」

「交換ですか? 良いですけど、どうぞ」

「ありがと。ルカラも、欲しいのがあったら言ってね」
 彩芽の言葉に、既に魚を食べ始めているストラディゴスは、うんうんと頷いている。

「わかりました」とルカラも魚を食べ始める。

 ルカラの皿にあった魚を食べると、彩芽の皿の魚とは、当たり前だが味が違った。
 彩芽の皿の魚よりも、美味い魚が一匹混じっている。

「ルカラ、はい、あ~ん」

 ルカラは彩芽に魚のほぐし身を口に入れられ、美味しそうに食べる。

「アヤメ、俺にも」

 ストラディゴスが自分にも「あ~ん」してくれと口を開ける。

「はい、あ~ん」

 ストラディゴスの口にほぐし身を入れると、巨人は大事そうに少量の魚を噛み締め始めた。
 それから、三人は結局それぞれ魚を口に入れ合い、三枚の皿に乗っていた全部の魚の味を楽しむ事となった。



 三人が取り分けて不味くも美味くも無い魚料理を味比べと「あ~ん」で楽しみ腹を満たし終えた頃、酒場の外でガヤガヤと声が聞こえた。

「船がマグノーリャに向かわない!?」
「どういう事だ!」

 聞き捨てならない言葉が聞こえてきて、ストラディゴスが席を立つと、ルカラも慌てて共に酒場を出る。

 彩芽は、再び襲ってくるデジャヴを感じながら、この後何があったか思い出そうと勤め始めた。



 外では共に乗ってきた乗客達が船の方へと向かい、皆で騒ぎ始めていた。
 ストラディゴスとルカラが船へと向かうのを彩芽も追い始める。
 すると、乗ってきた船の船長が、船着き場で乗客達に詰め寄られていた。

「……だから、何度も言ってるだろ。もうすぐ時化(海が荒れる事)が来る。どうしても急ぎたいなら、陸路で行くんだな」



 船長と乗客達の、平行線の言い争いを聞いて三人は足止めに遭った事を知る。

「海が時化るってよ、どうする?」

「馬車でマグノーリャまで行けるんですか?」

「行けない事は無いが、船が出るまで待った方が早く着くかもしれない微妙な距離だぞ」

 彩芽は、ずっとデジャヴの中にいる様な気持ち悪さを抱えたまま、二人の会話の始まりを聞いてこの後の事を思い出し始めた。

「アヤメ、どうするよ? 陸路か海路か」

「えっと……」

 彩芽は、ここで海路を選ばなければイラグニエフ、タンブル侯爵、バトラと出会う事も無く、そうなるとバトラとお腹の子がどうなるのか分からない事を考えた。
 バトラを助けた後でなければ、陸路を選ぶ事は出来ない。

「待とう」

「わかった。そうだな。まあ、別に待ち合わせしてる訳でも無いし、急がないなら待ってた方が楽だしな。金も、もう払っちまってるしよ」

「私も、それが良いと思います」

「うん」

「待つなら、船長に話し付けて、宿をとらないとな。さすがに、この町にブルローネは無いだろ」

「そうだ……宿……私、宿をとりに行くから、ストラディゴスは船長さんをお願い」

「わかった、頼むぞ」



 * * *



 三人は、酒場の二階にある四人相部屋の安宿を貸し切りでとると、これから船が出るまでどうするかを話し合う事にした。
 彩芽は、ストラディゴスには言わず、イラグニエフの為に一つ他の相部屋のベッドも予約しておく。

「せっかくの足止めだ。何するかな」

「そう、だね……」

「ああ、どうせならこういう時にしか出来ない事をしようぜ」

「例えば何ですか?」

「そうだな。疲れてるなら休んでも良いけどよ、装備の手入れでも良いし、何か作っても良い。そうだルカラ、マリアベールに貰った剣は使いやすいか?」

「ええ、軽いですし、切れ味も」

「腰に下げてるけどよ。その位置で抜き辛く無いか? 剣は抜刀、納刀、両方しやすい所に差さないと、咄嗟に使えないぜ。身体に合った専用のストラップでも作ってやろうか?」

「そんな、良いんですか!?」

 彩芽は、記憶にある会話が正確に再現されているのを見ながら、変な感覚に陥る。
 デジャヴを超えて、知っている映画でも見ている様な感覚だ。

「良いに決まってるだろ。アヤメにも、何か作ってやるよ。何か足りない物あるか?」

「あ、え、えっと……すぐには思い浮かばない、かなぁ……」

「あの、私、ストラップ作るの一緒にやっても良いですか?」

「作るっつっても、革でベルト作って、調整金具つけたり縫うだけだぞ?」

「お邪魔はしませんので、教えて下さい」

「わかった。それじゃあ、アヤメはどうする? 一緒にやるか?」

「う、うん……前よりは上手く出来そうだし」

「前より?」
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